転職先が決まったら、次に取り組むべきは「円満退社」の準備。トラブルなく退職準備を進め新天地で活躍するためにも、これまでの人脈を維持するためにも円満に退社することは大切です。職場の人と良好な関係を築いたまま、円満に退職する方法、退職理由の伝え方を解説します。
目次
仕事を辞める理由は何が多い?
仕事を辞める理由は「人間関係」「病気などの体調不良」「介護」「仕事が合わない」「家庭の事情」など人によってさまざまです。ただし、仕事を辞める理由をそのまま伝えたり、嘘をついたりすることはトラブルの原因になりかねません。円満退社するための退職理由の伝え方は、前向きさがポイントです。今回の記事では、退職理由の伝え方やポイントをケース別やシチュエーション別で解説していきます。
円満退社するための伝え方ポイント
まずは、円満退社するための伝え方について解説します。
退職理由は「前向きな理由」に言い換える
退職を考えた「本音の理由」は、仕事や会社に対する不満だったというケースは少なくありません。ただし、ネガティブな退職理由をそのまま伝えるのはおすすめしません。転職を決心して今の会社に「辞めたい」と申し出れば、必ず理由を聞かれます。その際、たとえ本音であっても「待遇が良くない」「人間関係が悪い」など、会社に対する不満や不安を理由として伝えるのは避けましょう。対応するのは人ですから、不満をぶつけられれば心証も悪くなります。さらに「不満な点を解消するので、思いとどまってほしい」などと引き止めの理由にされる可能性もあり、希望するスケジュールで転職ができなくなる可能性があります。
本当の退職理由はネガティブだったとしても、前向きに言い換えて伝えることで会社に受け入れてもらいやすくなるでしょう。
後任への引き継ぎをしっかり行う
退職する意志を伝えた後にすべきことは、後任者への引き継ぎです。業務量によって異なりますが、退職日のおよそ1カ月前から引き継ぎを進めるのがベストです。顧客や取引先への引き継ぎの挨拶は、できるだけ後任者と一緒に行うと、スムーズにその後の業務が進められます。
後任者がなかなか決まらないという場合は、引き継ぎ準備を先に進めておきましょう。仕事内容をリストアップしてわかりやすくファイルなどにまとめておき、後任が決まったらファイルをもとに説明するとよいでしょう。
なお「有給休暇が溜まっているから」と、自分の都合を優先して休みに入るのは避けましょう。取引先や後任者に迷惑がかからないように、引き継ぎをしっかり行った上で有給も消化できるよう、早めにスケジュールを組みましょう。
嘘をつかない
新たな活躍の場を求め仕事を辞める理由は人によりさまざまですが、嘘をつくのは好ましくありません。最初に嘘の理由を伝えてしまうと、途中で話の整合性が取れなくなりつじつまが合わなくなります。前述したように退職理由はできるだけ「前向きな理由」に言い換えた方がよいですが、矛盾が生じると深く理由を尋ねられかねないため、本当の理由とは関連のない嘘の理由を伝えるのは避けましょう。
自己都合の場合は言い方に注意する
仕事を辞める理由の中には「家族の介護」「病気などの体調不良」「出産や育児」など、家庭や体調に関する都合で辞めざるを得ないケースもあります。仕方のない理由ではあるものの、伝え方によっては「自分のことしか考えていない」という印象を与えかねません。退職は、企業や残された同僚に少なからず負担を与えてしまう可能性があるため「迷惑をかけてしまって申し訳ない」という想いを伝えることが大切です。
同僚に転職活動していることはなるべく伝えない
職場の人に「転職活動している」と伝えるのは避けたほうが無難でしょう。その後の活動や会社に居づらくなる可能性があるからです。仕事を続けながら転職活動すること自体は、業務に支障をきたさなければ問題ありません。しかし転職活動していることが知られると、上司にスケジュールを細かく確認されたり、辞めるための面談を複数回設定されたりなど、転職活動が難しくなるような嫌がらせを受ける可能性がないとも言い切れません。なるべく在職中に転職活動していることを気づかれないように注意しましょう。
会社が納得する退職理由の例文【ケース別】
会社が納得する退職理由の例文を、言い換え例も合わせてケース別に紹介します。
人間関係に不満があった場合
「上司の指導方法に不満がある」「同僚とそりが合わない」など人間関係が不満という場合は、その裏に「人間関係のいい職場でイキイキ働きたい」「チームワークを重視して働きたい」などの思いが潜んでいることもあります。
<言い換え例>
- チームがばらばらで一体感がない→皆と連携を取りながらチームワーク良く仕事を進めたい、お互いにサポートし合える環境で気持ちよく働きたい
- 上司と合わない→自分が求める働き方がしたい、現場の目標や戦略に共感して働きたい
<例文>
「今の課では個人業績が重視されているため、個人で行動する機会が多いのですが、私自身はもっと周りとコミュニケーションを取り、いいナレッジを随時共有したいと思っていました。何度か上司には提案したのですが、現状では課の方針を変えるのは難しいとのこと。チームで団結し、互いに高め合いながら働ける環境が自分には向いているのではないかと考え、熟慮の末退職を決断しました」
仕事が合わないなど不満があった場合
「仕事に面白味を感じられない」「扱う商品・サービスが好きになれない」「ノルマがきつい」など、仕事内容に不満がある場合は、その裏にもっとやりがいを持てる仕事に就きたい、顧客1件1件と向き合い喜んでもらいたいなどの前向きな理由が隠れている場合もあります。ぜひ自分自身と向き合い、思いを紐解いてみましょう。
<言い換え例>
- 仕事が面白くない → やりがいのある仕事にとことん打ち込みたい、仕事で介在価値を感じたい
- 商品・サービスが好きになれない → 自信をもって自社商品・サービスを売りたい、ありがとうと感謝されたい
- ノルマがきつい → 顧客とじっくり向き合える営業がしたい、顧客と強固な信頼関係を築ける仕事がしたい
<例文>
「営業として常に高い目標数字を追いかけ続け、目標達成能力が着実に身についていると実感していますが、その一方で顧客1件1件にじっくり向き合えていないことに申し訳なさを感じていました。顧客に寄り添い、課題解決のために伴走し続けられるような営業をしてみたいという思いが強まり、退職を決意しました」
病気など体調不良の場合
「仕事のストレスで体調を崩した」「持病が悪化して勤務が難しくなった」などの体調不良の場合は、仕事環境や勤務時間が原因で発症した可能性があります。この場合は基本的に言い換える必要はなく、体調不良の事実をそのまま伝えるのがベストです。ただし、企業側だけに問題があるような言い方ではなく「自分も改善のための努力不足だった」という気持ちも伝えるとよいでしょう。
<例文>
「結果が求められる環境の中、もっと成果を上げたいという思いから、自分の健康を顧みずに仕事を優先していました。体調を崩してからはなかなか回復が見込めず、しばらくの間は治療に専念したいと思っているので退職を決意しました。」
介護など家庭の事情がある場合
「離れて住む母が急に倒れた」「義父が退院し介護をすることになった」「家族が交通事故で介護が必要になった」など家庭の事情の場合は、体調不良同様に基本的に言い換える必要はなく、事実をそのまま伝えましょう。辞めたくない場合は、事情をより具体的に伝えることで時短勤務や介護休暇・介護休業を提案してくれるケースもあります。
<例文>
「実家に住む一人暮らしの母が、病気により要介護状態になってしまったため、夫と私で介護することになりました。これからは介護の時間が必要になるため、一旦仕事を離れて余裕を持って介護に専念したいと思っています。時短勤務や介護休暇取得もチームに迷惑がかかると考え、熟慮の末退職を決断しました。」
給与や待遇に不満があった場合
「給与が安い」「ボーナスが少ない」などお金に対する不満は、「もっと正当に評価されたい」という前向きな思いの表れです。会社の評価制度と自身の働き方が合わなかったという可能性もあります。
<言い換え例>
- 給与が安い → 実績を正当に評価してほしい、成長を実感しながら働きたい、自分に合った評価制度の会社でバリバリ働きたい
<例文>
「これまで与えられた目標数字を達成し続けてきましたが、給与額にほとんど反映されないことから、なかなか自身の成長を実感できずにいました。モチベーション高く仕事に臨み、営業としてさらに成長するためにも、実力主義の厳しい環境に身を投じたいと考え、退職を選びました」
労働時間・環境に不満があった場合
「残業が多くてきつい」「シフトが不規則で身体的に辛い」など、労働環境に不満がある場合は、どういう環境であれば気持ちよく働けると思うか考えてみましょう。自分が求めているものが見えてくるはずです。
<言い換え例>
- 残業が多い → オンとオフのメリハリをもって働きたい、効率的に仕事をしてさらに成果を挙げたい
- シフトが不規則 → ワークライフバランスを重視してイキイキ働きたい
- 人手不足で労働量が多い → 自分が担当する業務に集中して働きパフォーマンスを出したい
<例文>
「残業をすること自体は決して嫌ではないのですが、今の職場は『残業が当たり前』という雰囲気なのが以前から気になっていました。もっと効率的に仕事に取り組めば、さらに成果を挙げられるのでは?との思いが徐々に強まり、オンオフのメリハリをもって業務に臨める環境で働きたいと退職を決意しました」
会社に将来性が感じられない場合
「業績が不振で将来が不安」「古い企業体質で新しいことを取り入れようとしない」などの理由で退職を選んだ場合は、安定した環境で腰を据えて働きたいという思いや、トップの理念に共感して働きたいという思いが隠れている可能性があります。
<言い換え例>
- 業績不振で将来が不安 → 腰を据えて長く働きたい、安定的な環境でとことん仕事に打ち込みたい
- ワンマン社長についていけない → 自分の目指すキャリアの方向性に合致するところで働きたい
- 会社の戦略や方向性に納得いかない → 企業理念に共感して働きたい、自分の目標に合った働き方がしたい
<例文>
「これまでリーダーシップのある社長のもと、同じ目標に向かってひたすら突き進むことができましたが、徐々に自分の意見やアイディアを活かせる環境で働いてみたいという思いが強まってきました。年齢や社歴に関係なく挑戦し続けられる環境に移ることで、自己研鑽し続けたいと考え、退職を決めました」
独立する場合
「これまでやってみたかったことがある」「新たなサービスや商品を作りたい」などの理由から独立の道を選んだ場合は、在職中にはできなかったことに挑戦したいという気持ちが強くなっているはずです。ただし、在職中の企業と競合にあたってしまいそうな場合は、伝え方に十分注意しましょう。
<例文>
「営業担当として長年勤めていく中で、お客様のニーズに答えられるサービスを新たに作りたいと感じるようになりました。長い間悩んだのですが、この会社で培った経験を活かし、新たなステージで挑戦したい思いが強まり、退職を決意しました。」
本当の理由を言いたくない場合
「本当の退職理由を言いたくない」「本音を言ったら辞めにくくなりそう」など心配になることも考えられます。退職理由を伝えなければいけないルールはないため「一身上の都合のみ」で貫き通しても、特に問題ありません。それでも円満退職したい方は、感謝の気持ちや謝意を述べ、誠意を見せることが大切です。
<例文>
「この度は異なる環境で自分の力を試したいと考え、退職させていただきたく存じます。社会人として多くの経験を積ませていただき、感謝しております。誠に勝手な話で申し訳ありませんが、何卒、ご理解いただけますようお願いいたします。」
【Q&A】こんなケースはどうしたらいい?
退職の伝え方に関して、想定外のケースについて解説します。
短期退職の場合
「面接で聞いていた話と違う」「募集要項と違う」と、入社後すぐに退職を検討することも起こり得るでしょう。この場合「聞いていた話と違うので退職したい」のように一方的に伝えるのは避けましょう。会社側に責任があるような伝え方となってしまい、お互いの関係が悪くなりかねません。円満退社するためには一方的に会社の批判をするのではなく「自分の確認不足があったかもしれない」など客観的な視点も合わせて伝えることをおすすめします。
また、直属の上司や教育担当者など直接関わった人には、しっかりと感謝の気持ちやポジティブな理由を伝えるようにしましょう。
急遽退職しなければならない場合
「高齢の父が急に病気を発症して介護が必要になった」「家庭の事情で急遽引っ越すことになった」「突然の怪我や病気で仕事の継続が難しい」など、自分の意思とは関係なく急遽退職しなければならない場合もあるでしょう。その場合は、話せる範囲で事実をそのまま話し、緊急であることを伝えましょう。
法律上、原則2週間前までに退職の意思表示を伝える必要があります。ただし上記のようなやむを得ないと認められる事由に該当する際は、会社の合意が得られれば即日退職が認められますので、会社側に相談してみましょう。
上司が忙しくて時間が取れない場合
退職の意思を伝えたくても直属の上司が出張などで会えなかったり、シフト制で時間が合わなかったりと、先延ばしになってしまうケースもあるでしょう。
その場合は「相談したいことがあるのですが、お時間いただけますでしょうか」と事前にメールを入れてアポを取りましょう。部下の相談を聞くことも上司の仕事の一つなので、あまり気を遣いすぎる必要はありませんが、それでも連絡がない場合は人事に相談しましょう。
仕事を辞める際に注意すべきポイント
実際に退職交渉を始める際には、次のようなポイントに注意してください。
1カ月半~1カ月前までに退職の意思を伝えよう
退職の意思をいつまでに会社に伝えるかは、基本的には会社の「就業規則」に従いましょう。ただし仕事の引き継ぎや有給の消化、退職手続きの時間がかかりそうな場合は、1カ月半ぐらい前に退職意思を伝えましょう。特に転職先から内定が出ており、入社日まで1カ月を切っている場合は、すぐに退職の意思を伝えることをお勧めします。
最初に話をするのは必ず「直属の上司」
退職意思を最初に告げるのは「直属の上司」です。これを間違えてその上の上長などに先に話してしまうと、「マネジメントがなっていない」と上司がとがめられてしまうことも。直属の上司との関係が悪化すると、退職手続きがスムーズに進まなくなることもあるので注意しましょう。
礼を尽くしつつ「〇月〇日」と期限を明確に
退職することは、少なからず会社に負担を掛けることになります。そのお詫びの気持ちも込め、上司に退職の話を始める際は「突然で申し訳ございません」と切り出し、「退職させていただきたく、今回お時間をいただきました」と伝えましょう。
その上で「〇月〇日に退職させていただきたいと思います」と期限をつけて、決心がついていることをしっかりと伝えます。「退職を考えている」「検討している」などあいまいな伝え方をすると、相手は「まだ退職の決心がついていない」と捉えるので注意しましょう。また転職が決まっている場合でも、転職先の会社名までは言わないようにしましょう。
退職理由を伝える際の切り出し方に関しては以下の記事も参考にしてください。
円満退職のためには適切な理由と社会人としてのマナーが必要
今回は円満退社するための退職理由の伝え方を、ケース別やシチュエーション別で紹介しました。
転職エージェントを活用すれば「企業が納得できる退職理由」についてアドバイスを受けることもできます。また、「選考にどの程度の期間を要するか」「入社時期の相談ができるか」などの情報をつかむこともできます。退職〜入社時期の見通しを立てるためにぜひ役立ててください。