食品業界を志望する際、「志望動機に何を書けばいいのかわからない」と悩んでしまう人もいるでしょう。
しかし、食品業界の中途採用は、志望動機も重視される傾向があります。
今回は、リクルートエージェントで食品業界への転職支援を手掛けるキャリアアドバイザー、蓑島歩佳さんが、食品業界の志望動機をアピールするコツを紹介します。多様な職種ややりがいなども紹介するので、ぜひ志望動機を書く際の参考にしていきましょう。
食品業界の職種や仕事内容は?
食品業界の職種や仕事内容について紹介します。食品業界の業種と構造を理解し、仕事内容を把握していきましょう。
食品業界の業種と構造
食品業界全体の構造は、大きくは4つの業種に分かれます。業種によって、顧客や仕入先も変化します。営業職の場合は、これらによって仕事内容が変化するので注意しましょう。
原料メーカー
油、砂糖、小麦粉、添加物、その他調味料など、原料となるものを生産します。商社・食品卸を主な顧客としていますが、食品加工メーカーと直接取引きするケースもあります。
食品加工メーカー
原料を使って商品に加工するメーカー。原料メーカーや商社・食品卸から仕入を行い、乳製品や製菓、冷凍食品をはじめ、世の中で販売されているような製品を企画・製造します。外食・小売業界などが顧客となります。
OEM食品加工メーカー
他社ブランドの製品を製造するメーカーです。原料メーカーや商社・食品卸から仕入を行います。食品加工メーカーなどを主な顧客としますが、外食・小売業界などの依頼を受けるケースもあります。
商社・食品卸
原料メーカーなどから商品を仕入れ、食品加工メーカーやOEM食品加工メーカーへの卸売を行います。また、食品加工メーカーやOEM食品加工メーカーから製品を仕入れ、外食・小売業界に向けて卸売りを行うケースもあります。
営業職の仕事とは?
顧客先の仕入担当者に向けて、自社で取り扱う商品を継続的に発注してもらうための営業活動を行います。どの業種がどんな仕事をするのか、営業先別に紹介します。
商社・食品卸への営業
原料メーカーの営業職がこれに当たります。生産計画に合わせて長期的な受注を確保することが必要なので、顧客との長期的な関係構築と維持が大事です。また、顧客である商社・食品卸には、加工食品メーカーに向けた販売を担ってもらうので、物流コストを抑える体制構築をするなど、自社商品を扱うメリットを感じてもらうことも必要です。また、販売サポートとして、営業トークの例を伝えたり、商品説明に使えるパンフレットを提供したり、商品情報の提供にも注力します。
加工食品メーカーへの営業
原料メーカーや商社・食品卸、製品開発の受託をするOEM加工食品メーカーの営業職がこれに当たります。原料メーカーの場合は、自社製品を活用したサンプルの提案や、販促に役立つ企画提案を行い、自社商品をいかに活用してもらうのかを提案します。商社・食品卸では、多くの原料メーカーの商品を取り扱っているので、その中からニーズに応じた商品の提案を行ったり、仕入れ先の原料メーカーとの価格交渉をしたり、物流などを最適化してコストを抑える提案なども行います。
一方、OEM加工食品メーカーでは、商品を売り込むのではなく、開発・製造の受託案件を発注してもらうことが仕事です。加工食品メーカーのニーズを正しく理解し、商品企画として落とし込む提案をする必要があり、求められる品質とコストのバランスを考え、実現可能なラインに落とし込む交渉なども行います。
外食・小売業界への営業
加工食品メーカーの営業職がこれに当たります。スーパーなどの量販店や本部のバイヤー、外食産業の本部や店舗に向けて、自社の商品を扱ってもらえるように営業します。顧客の店舗で売りやすいように消費者やユーザーに向けた販促施策を企画・提案し、自社商品を目立たせる店頭POPなどを置いてもらうよう働きかけることもします。顧客に自社製品を買ってもらう際には、「その商品を店舗に置くことで、いかに顧客先全体の売り上げをアップできるか」が重視されます。そのため、顧客に合わせた販促企画や棚作りなどの提案をする力が重要です。
開発・生産部門の仕事とは?
メーカー系の職種となります。大きくは、「商品開発」「品質管理/品質保証」「生産管理」の仕事に分かれます。
商品開発
新商品の企画や既存商品のリニューアル案に合わせたレシピの作成を主に担当し、工場での大量生産などにも対応できるレシピの作成なども行います。
品質管理/品質保証
安心・安全な商品を届けるために商品の品質を管理する仕事で、取り扱う原料や最終製品の調査・分析を行います。食品の安全性を評価し、食品表示の法規制への対応や工場への衛生指導なども担当します。
生産管理
販売計画や顧客の受注量に基づいて生産量・生産スケジュールの計画を立て、適正な製造を行えるように生産工程を管理します。食品には消費期限があるため、納期管理とロスを最小限に抑えた在庫管理のスキルが重視されます。
商品企画部門の仕事とは?
OEMを含む加工食品メーカーの仕事です。消費者の求めるニーズを先取りし、新商品の企画や既存商品のリニューアルを行います。マーケティングリサーチを行い、市場動向や世間のトレンドなどを分析して商品を企画していく仕事です。レシピ開発については、開発部門と共同で行うケースも多いため、原材料や添加物の知識、安全性の知識があることが重視されます。
管理部門の仕事とは?
一般的な企業と変わらず、人事、広報、経理、総務などの部門があります。中途採用では、異業界から採用するケースもありますが、同じ職種を経験している人を求める傾向が強いです。
食品業界の魅力とは?競争倍率はどれくらい?
ここでは、食品業界で働くことの魅力や採用の傾向などを紹介します。
食品業界で働く魅力とは?
食品業界の仕事の魅力は、「身近な商品に携われること」にあります。原料メーカーや商社・食品卸の場合でも、「自分の仕事が、あの商品の製造を支えている」「家族や友人も知っている商品に携わっている」というやりがいを感じることができるでしょう。加工食品メーカーの場合は、人の生活に密着した商品を製造しているため、ライフスタイルや食育、食の安全など、いろんな角度から消費者に向けた提案をすることができます。また、海外展開を行っている企業もあり、海外事業に携われるスケール感を味わえたり、日本の食文化を広めていく喜びを感じたりすることもできるでしょう。
食品業界の競争倍率はどれくらい?採用の傾向は?
食品業界は、中途採用市場でも人気が高く、特に加工食品メーカーは、身近な商品を扱えるために競争倍率も高いでしょう。また、営業職と管理部門以外の仕事は、それぞれ専門知識が重要となるため、基本的に即戦力採用を行います。食品業界での経験・実績が重視されるので、未経験者の場合は「大学で食品・微生物・衛生などを専門に研究をしていた」などのケースがほとんどでしょう。
一方、間口が広く、文理にかかわらず採用を行う営業職なら、業界未経験者を採用するケースも少なくはありません。異業界での営業経験を、応募先の企業の仕事にどう活かせるのかしっかりと伝えることが重要です。
食品業界は「志望動機を重視する」傾向が強い
食品業界の企業は、「人の生活に根ざした商品」に携わると同時に、消費者の口に直接入るものを扱うため、社会に対する使命感や責任感を強く持っているケースが非常に多く、働く社員にも同様のことがいえます。そのため、採用においても志望動機を重視する傾向があり、「仕事を通じて、社会にどのような貢献をしていきたいか」を自分の言葉で語れることが重要となるでしょう。漠然とした内容では、「憧れやイメージのみで志望している」「食を扱う仕事への思いや熱量が感じられない」と判断されかねません。自分なりに意味や意義を持った志望動機を語れることが重要だと考えましょう。
食品業界の志望動機を書く際のポイント
食品業界の志望動機について、押さえておきたいポイントを紹介します。
ポイント1「なぜ食品業界に興味を持ったのか」
「なぜ食品業界でなくてはいけないのか」という、確たる理由を語れることが大事です。企業は「食を通して社会にどんな影響を与え、どう貢献していきたいのか」を重視しますが、その理由・きっかけ・背景もしっかり確認した上で、食品業界に対する熱意の高さを判断するケースが多いのです。先に紹介した食品業界の魅力をベースに、説得力を持って語れる理由を掘り下げていきましょう。
ポイント2「その企業・仕事で何を実現したいのか」
その企業や志望する職種で、「どんなことを実現したいのか」「それを通じて、どんな社会を実現していきたいのか」を明確にしましょう。評価されるために崇高な目標を掲げる必要はなく、むしろ、そこに自分なりの考えがきちんとあることが重要です。
また、食品業界は、同じ領域の商品を手掛ける競合企業が多いため、「その企業でないと実現できないこと」を探しにくいともいえます。しかし、面接では、「なぜうちの商品なのか?」「なぜうちの会社なのか?」「ほかの企業でもできることではないか?」という質問をされるものです。企業研究をしっかりと行った上で、商品や企業への思いと自分の思いをマッチさせることが大事です。企業理念や扱う商品に対する責任感・使命感などを理解し、「この会社なら、自分のやりたいことを実現できる」という思いを伝えましょう。
ポイント3「前職の経験を活かし、入社後にどんな貢献ができるのか」
前職での経験を、その職種にどう活かせるのかを具体的に伝えましょう。また、業界未経験で営業職への転職を目指す場合は、未経験から知識を身に付けていく意欲の高さを示すことが大事です。「前職では、専門知識を身に付けるためにこのように取り組んだ」など、自ら学んだ経験や姿勢を具体的に伝え、入社後も積極的に専門知識を吸収していける人材であることを伝えましょう。
専門スキルが必要な職種は、そこにマッチする前職の経験・実績を書くことは大前提です。また、開発や品質保証などの職種は、他部門と連携することが多いため、協調性を発揮して成果を挙げた経験などを伝え、その力を活かしてどんな貢献をしていきたいのかを伝えましょう。理系出身で未経験者採用を目指す人は、大学時代に学んだことや研究内容も伝え、業務に活かせることまで伝えましょう。
志望動機の例文
□IT業界の営業職から加工食品メーカーを志望
<食品業界に興味を持った理由・背景>
現職では業務用ツールの営業として、主に食品業界の顧客を担当しております。顧客先の業務分析などで食品業界のことを知るうちに、「食」の重要性や、「食」を扱うことに誇りと責任を持つさまざまな企業の姿勢に魅力を感じるようになりました。これまでITを通じて食品業界に貢献をしてきましたが、「食」そのものを扱いたいと考えるようになりました。
<企業・仕事に対する志望動機>貴社は数ある食品メーカーの中でも、○○領域の国内シェアトップでありながら、海外売上比率も全体の20%を占めており、新たな事業展開にも積極的で今後も成長を続けていく企業であると考えております。また、地域の特産品とコラボするプロジェクトによる産業活性の取り組みや、環境保全や食育などにおけるさまざまな活動の継続など、食を通じて社会に貢献し続けていく企業姿勢に共感しました。私は営業職として販促提案を行う際に、消費者に向けたさまざまな啓蒙活動も展開していきたいと考えており、貴社はそれを実現できる企業だと感じております。
現職では既存顧客に向けて複数の部署と連携し、顧客先に応じた戦略的な提案を継続しております。扱う商材が食品となっても、この経験を活かし、長期的な戦略提案で顧客満足度を上げつつ、売上向上に貢献していきたいと考えております。
こんな志望動機はNG
曖昧で具体性がない志望動機は評価につながらないでしょう。社会に貢献したいことについても、「食を通じて多くの人々を笑顔にしていきたい」など、漠然とした言葉で語れば、「自分の考えを持っていないのでは?」と判断されてしまうでしょう。また、食品業界の志望動機に多いのが、「この商品が好きだから広めていきたい」「幼い頃にこの商品を食べていた思い出がある」というケースです。しかし、商品が好きで思い入れがある、というだけでは、「単なる商品のファン=消費者目線しか持っていない」と判断されてしまいます。企業が求めているのは、消費者ではなく、「消費者に商品を届けていく人材」だと理解しましょう。
志望動機で悩んだら
食品業界の志望動機では、その人の思いや熱量が重視されます。過去の経験をしっかりと振り返り、その時、どんな思いがあったのか、それが食品業界を志望する理由にどうつながっているのかまで整理することが大事です。とはいえ、自分のことを客観的に見つめることは難しいものでしょう。悩んだ時には転職エージェントに相談することをお勧めします。
キャリアアドバイザーと一緒に過去の経験を棚卸しすれば、自分の思いを再認識できますし、自分が目指すキャリアや実現したいことを明確にできます。また、食品業界の仕事内容は複雑なため、自分1人ではなかなか把握しにくいという面もあります。キャリアアドバイザーに聞けばそれぞれの業種で何ができるのかを理解しやすくなりますし、自分のイメージにマッチする企業を一緒に探してもらうこともできます。
食品業界は人気が高く、採用のハードルも高いですが、思いのある人は受け入れてくれる業界です。商品に対する愛を持ち、仕事への思いを持っている人たちが働いているので、彼らに負けないくらい熱い思いを持って挑戦すれば、チャンスをつかむことができるでしょう。
リクルート(旧:リクルートキャリア)の転職エージェントサービス「リクルートエージェント」のキャリアアドバイザーとして、主に食品業界への転職支援を担当。
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