企業が採用を行う際、その仕事内容やポジションに応じて「求める人物像」を設定します。「求める人材」の要素として挙げられることが多い能力・スキル、企業が求める人物像を調べる方法、選考でのアピール方法などについて、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
目次
企業が求める人物像とは?
求人情報には、「求める人物像」が記載されていることがあります。募集職種・ポジションで必要とする専門スキル、会社のカルチャーにフィットするスタンスやマインドなどです。挙げられている要素のすべてを満たす必要はありませんが、より多くの要素に合致していれば採用可能性は高いといえるでしょう。
そして、企業が求める人物像に自分が当てはまっていることを応募書類や面接などでアピールすれば、選考通過率はさらに高まります。
企業が求める能力・スキル
まずは、企業が求める要素として挙げることが多い能力やスキルをご紹介しましょう。
コミュニケーション能力
コミュニケーション能力とは、「他者と意思疎通できる能力」であり、「他者との関係性を築く能力」ともいえます。
分解すると、相手の話に耳を傾けて理解する「聞く力」、自分の考えを相手に理解してもらう「伝える力」、説得・交渉によって協力をとりつける「連携する力」などがあります。
一口に「コミュニケーション能力」といっても、職種や役割によって必要とされるコミュニケーションは異なります。自分が強みとするコミュニケーション能力とはどんな場面で発揮されるのか、それは応募先企業のニーズにマッチしているのかどうかを考えた上でアピールすることが大切です。
リーダーシップ力
組織やチームのメンバーに対して方向性や目標を示し、達成に向けて指導、活動支援、育成などを行いながらけん引する力を指します。また、問題が発生した場合など、原因の究明、対応策の検討、関係者への協力要請など、率先して解決を図ります。
どのような組織においてもリーダーシップ力は欠かせませんが、どんなチームを、どんなスタイルで統率していくかにより、求められる力は企業によって異なります。
近年は、事業や組織の「変革」を課題とする企業が多いため、固定観念を打ち破って新しいチャレンジを推進できるリーダーシップ力に期待する傾向が見られます。
マネジメントスキル
チームやプロジェクトの中心に立って「メンバーの育成・指導・評価を行う」「成果を出すためのプロセスを管理する」といったスキルを指します。経験を通じてこれらのスキルを身につけていれば、「マネジャー」「課長/部長」の役職に就いた経験は問われないこともあります。
問題解決能力
「目標達成に向けて、その障害となるような問題を取り除く」「データや数値などの客観的情報をもとに、課題を発見し、解決に導く」といった能力です。情報を収集・整理する力、論理的思考力、提案力などが内包されています。
積極性
目的や課題に対し、能動的に行動する姿勢を指します。「与えられた仕事をただこなすだけ」という受け身の姿勢ではなく、自ら提案したり、行動を起こしたりすることが期待されます。
自立心
「自立心」は、上司や先輩からの指示やサポートを待つのではなく、自ら考え、判断し、行動を起こしていくマインドを指します。ビジネスが動くスピードが加速しているなか、指示される前に動ける人材が求められています。また、周囲の状況に左右されず、自分の意見を発信する力も重視されます。
向上心
「成長意欲」と表現されることもあります。新しい知識やスキルを身につけ、自らを成長させようとする姿勢が求められます。異業種・異職種への転職など、実務経験がない場合、向上心をアピールすることでプラス評価につながる可能性があります。
柔軟性
「既成の概念やルールにとらわれず、新しい発想ができる」「その場に応じて臨機応変な判断ができる」「変化を受け入れ、対応できる」といった性質・姿勢を指します。特に、昨今はビジネス環境の変化が激しいため、「変化への対応力」が求められています。
緻密性
ミスなく、抜け漏れなく、業務を遂行する能力を指します。「精度の高さ」と言い換えることもできます。特に、事務職、エンジニア職、経理・会計職、法務職では求められます。
近年、特に歓迎されるビジネススキル
近年、業種・職種問わず、持っているとプラス評価につながるビジネススキルとして「語学力」「ITスキル」が挙げられます。
語学スキル
海外マーケットの開拓や海外企業との提携・M&Aなどビジネスのグローバル化が進んでいます。海外との折衝、あるいは自社の外国人社員とのコミュニケーションの増加を背景に、語学スキルを持つ人材が望まれています。
ビジネスでの英語使用経験があれば選考で有利となりますが、「今後、英語力を磨く意欲があれば、入社時点ではメール・マニュアルの読み書きができるレベルで可」といった求人もあります。
ITスキル・ITリテラシー
ITエンジニアに限らず、多様な職種でITのスキル・リテラシーが求められるようになっています。さまざまな業務でITの導入が進むなか、ITを使いこなす力、ITを活用した業務改善などに対応できる力が歓迎されます。例えば、管理部門職やマーケティング職などでも、IT導入プロジェクトなどに携わった経験があればプラス評価されることがあります。
企業が求める人物像の調べ方とポイント
求める人物像は企業によって、あるいは同じ企業でも採用ポジションによって大きく異なります。志望する企業がどんな人物を求めているかを知る方法をお伝えします。
企業のWebサイト
企業の公式サイトには、「ミッション・ビジョン・バリュー」が記載されていることがあります。このうち「バリュー(行動指針)」に注目すると、従業員にどのような取り組み姿勢や行動を求めているかがつかめます。
採用ページには「求められる人材像」が明記されていることもあります。また、「社員インタビュー」などを読むことで、どのようなタイプの人物が活躍しているかがつかめるでしょう。
企業や経営陣のSNS
企業や経営者のSNSでは、公式サイトよりもカジュアルに、「日常」に近い情報が発信されています。経営陣のメッセージや活動などを見ていると、社風やどんなプロジェクトに取り組んでいるかなどの情報に触れることができます。
経営者のインタビュー記事/執筆した書籍など
Webサイトで企業名+経営者氏名で検索すると、経営者のインタビュー記事が見つかることがあります。創業時の思い、事業や組織づくりのこだわり、今後のビジョンなどの談話から、カルチャーに合う人物像がつかめる可能性があります。経営者が著書を出版していることもありますので、ぜひ読んでみるといいでしょう。
企業が求める人物像に合わせたアピールポイントと例文
企業が求める人物像をつかんだら、自身の経験の中から求める要素をピックアップしてアピールしましょう。以下に例文をご紹介します。
マネジメントスキルをアピールする例文
私は50名規模の組織マネジメントをし、常にチーム目標100%以上を達成してきました。個人の売上はもちろん大切ですが、チームとして継続して成果を出すことが組織にとっては大切だと考えるため、勢いがあるメンバーの目標を他より高く設定するなど、チーム内をコントロールしてきました。今後はより経営の視点を持ったマネジメント力を身につけていきたいと考えております。
向上心をアピールする例文
私は学習意欲高く仕事に取り組みます。現在、クラウド向けERPパッケージを提供していますが、時代の変化と共にアップデートされていくため、専門コミュニティに所属し隔週の勉強会へ参加し、情報収集をしています。
社内でも定期的に勉強会を開くことで社内の知識レベルの底上げを行い、ウェビナーの実施回数を増やし、新規顧客とのタッチポイント拡充に貢献してきました。最新トレンドを押さえることで、お客様によりよいサービスを提供できるため、今後も積極的に勉強して参ります。
柔軟性をアピールする例文
私は柔軟な対応力に強みがあります。インターネット広告運用を低予算で押さえたいというご要望に対し、より深くヒアリングをし、集客目標の先のねらいを共有いただき、ビジネスパートナーとして付加価値を提供できるよう、高価格帯サービスの提案をし、売上につなげて参りました。
また、既存の顧客へ継続提案をする際は、改めて課題を伺い、過去の実績と改善点を共有。さらなる目標達成のために、プラスアルファの広告プランをご提案し、売上につなげてきました。今後も顧客に合わせた柔軟な提案を実践していきたいと思います。
企業が求めている人材に自分が当てはまるかわからない場合
企業が求める人物像に対し、自分が当てはまっているのかどうかわからない場合、次の視点で考えてみましょう。
「企業が求める人物像」と「自分らしさ」との接点を見つける
自分らしい長所・経験・意欲などのアピールポイントを整理し、接点を見つけていきましょう。例えば、求める人物像が5~6項目挙げられている場合、全部に合わせようとすると一貫性がなくなり、人柄がわかりにくくなります。「装っているのではないか」と疑念を抱かれることもあります。
企業が求める要素のうち、「柔軟性には自信がないけれども、学習意欲には自信がある」といった場合、学習意欲に関するエピソードや実績を中心に語れるように整理するといいでしょう。
「自分らしさ」「自分の強み」がわからない場合は、次のステップを踏んで自己分析をしてみてください。
ステップ1:これまでの経験を洗い出す
これまでの仕事について、次の内容を整理しましょう。
- どんな業界でどのような業務を担当してきたか
- 社内外のどんな人たちと、どのように関わってきたか
- 組織の中でどんな役割を果たしてきたか
- どんな成功体験があるか。成功した要因は何か
- どんな失敗体験があるか。そこから何を学んだか
ステップ2:強みとするスキルを整理する
ステップ1の経験から、身に付いたスキル、特に長けていると思うスキルを挙げてみましょう。
「他人に関わる力」「自分に関わる力」「課題に対する力」ごとに、自分に該当するスキルを整理しましょう。
ステップ3:自分の特性、価値観を客観視する
周囲の人からどんな人物だと言われるか、どんな状況でポジティブ(またはネガティブ)な思いを感じてきたか、それぞれ整理しましょう。
- 人とどのようなスタイルでコミュニケーションをとっているか
- 仕事をする中で、どんな場面で喜びややりがいを感じてきたか
- 仕事をする中で、どんな場面で苦痛やストレスを感じてきたか
- 仕事をする中で、どんなことを大切にしているか
- どんなビジネスパーソンに憧れるか。「自分もこうなりたい」と思う人物像
ステップ4:今後目指したい目標、ビジョンを描く
ステップ1~3をもとに、今後やりたいこと、目指す将来像を考えてみましょう。
- 今後、どんなスキルを活かしていきたいか
- 今後、どんなスキルを伸ばしていきたいか
- どんなやりがいを感じながら働きたいか
- どんなことを大切に働きたいか
- 将来どんな自分になりたいか
コロナ禍・デジタル化で企業が求める人材要件に変化
近年の社会の変化の影響で、企業が求める人材要件にも変化が見られます。コロナ禍を機にテレワークを導入し、コロナ禍収束以降も継続する企業などでは、オンライン上でも円滑なコミュニケーションをとる力、チームメンバーと連携する力、自立心などが重視されるようになっています。
また、あらゆる業種・職種でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが活発化しているため、ITエンジニア以外の職種でもデジタルの知見を持つ人が評価されるようになっています。
時代に応じて求められる人物像は変化していきますので、アンテナを張っておくと同時に、求められるスキルを意識的に磨くことをおすすめします。
転職活動で企業が求める人材を知るため、転職エージェントを活用しよう
転職を成功させるためには、自分の能力・強みを求めている企業を選ぶこと、そして自分の能力・強みを適切にアピールすることが大切です。
企業研究を行い、求める人物像をつかむのは時間も手間もかかるものです。そんなとき、転職エージェントを活用するのも一つの手段です。企業が求める人物像について情報を得られ、面接でアピールすべきポイントがわかりますので、活用していきましょう。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。