目次
トランジションとは
トランジション(transition)とは、移り変わり、変わり目、変化などの意味を持つ言葉であり、あるステージから次のステージへと変わる移行期を表します。
人事におけるトランジションとは
人事におけるトランジションとは、従業員がキャリアステージごとに必要とされる役割や行動、能力などを発揮できるよう、変化を遂げながら成長していく過程をいいます。従業員の成長過程を描き、備えることが人事に求められるようになってきているといえるでしょう。
人事におけるトランジションへの取り組み
人事におけるトランジションへの取り組みとしては主に、キャリアステージのデザイン、キャリアステージの要件定義、トランジションを機能させるための環境整備などが挙げられます。
それぞれについて以下で詳しく説明します。
キャリアステージのデザイン
入社直後の新入社員は右も左もわからない状態ですが、その後、業務の経験や教育の機会を得ることで、個人のキャリアステージが変化していきます。
人事におけるトランジションを実践していくためには、社内でのキャリアステージの全体像をデザインしたうえで、従業員との間で共有する必要があります。
(デザインされたキャリアステージの例)
第1ステージ:入社し、組織に配置された段階
第2ステージ:任された業務を単独で遂行し、実務能力を高めていく段階
第3ステージ:チーム内で、他のメンバーをけん引しながらリーダーシップを発揮する段階
第4ステージ:任された組織の計画や戦略を立案し、組織内のメンバーを動機づけながら、組織の目標を達成するためのマネジメントを発揮する段階
第5ステージ:マネジメント職を終えた後に、プロフェッショナルとして能力を発揮する段階
※リーダーシップについては、以下の記事もご参照ください。
【人事必見】リーダーシップとは?種類や高める方法、研修を紹介
キャリアステージの要件定義
従業員がそれぞれのキャリアステージで任される職務を遂行するために、どのような業務経験や実績、能力などがあることが望ましいのかを可視化します。
これは、企業が従業員の昇格や配置転換を決定することへの判断基準となり、従業員が社内でキャリアアップを図るための“道しるべ”にもなります。
トランジションを機能させるための環境整備
企業は環境の変化に合わせた経営を行う中で、人材の最適化を図るために、都度キャリアステージごとのベストな配置を決定し、必要に応じてキャリアステージのデザイン内容や要件定義を修正することが求められます。
それを実行するためには、業務の最適化やスピーディにトランジションへ取り組むための体制整備を行う必要があります。
業務の最適化
環境が変化することで、今後必要な業務の内容やプロセス、目指すべきゴールの姿なども変化します。
企業が、高い生産性を維持しながら成長していくためには、不要になった業務を手放したうえで今後必要な業務にシフトしていかなければなりません。
それを行うことで、今後の経営に必要なキャリアステージをデザインし続けることができ、ベストな人材配置を実施することができます。
スピーディにトランジションへ取り組むための体制整備
人材配置やキャリアアップの実施に時間がかかりすぎてしまうと、経営環境の変化に人事の対応が追い付かなくなり、経営の悪化へとつながってしまいます。そのようなことが起きないように、企業が従業員のキャリアを評価して、スムーズに育成し、配置した後のサポートを的確に行うことのできる体制を整備しておく必要があります。
トランジションが重要視される理由
現在の日本では、脱終身雇用による「雇用の流動化」が進展しています。さらに、人口の減少による労働力不足の課題も表面化しています。このような経営環境下において、「スピーディな人材育成の実現」「人材定着の促進」「組織活性化の実現」の観点から、人事におけるトランジションが重要視されていると考えられます。
※人材育成については、以下の記事もご参照ください。
部下育成に悩んだら!育成を成功させるポイント、失敗する4つの原因を解説
スピーディな人材育成の実現
労働力不足が進むことで、「欲しい人材をタイムリーに採用すること」が難しくなることが想定されます。そのため、採用した人材をトランジションの考えのもと、スピーディに育成し組織の中で戦力化していくことが必要になっています。
人材定着の促進
雇用の流動化と労働力不足が進展する社会においては、トランジションに取り組み「必要な人材を定着させる」という対策が重要になります。コストを費やして、採用・育成した人材が組織の中で機能する期間を長期化するということです。
組織活性化の実現
企業の存在意義のひとつは、環境変化に適応しながら存続し、成長を続けていくことです。その企業成長を担うのが人材です。戦略的に配置した人材が機能し組織が活性化し、企業成長を実現していく必要があるため、トランジションへの取り組みが重要視されるようになりました。
キャリアにおいて重要な3つのトランジション
従業員にとって、企業内ではさまざまなキャリアステージがあります。
ここでは、重要なトランジションの一例として「社会人への転換」「マネジメント職への配置」「マネジメント職を終えた後のプロフェッショナル職への配置」について詳しく見ていきましょう。
社会人への転換
社会人になることで、新たなルールのもとで行動することへの義務が生まれ、仕事への責任が生まれます。
新人を一日も早く組織の中で機能させるために、企業は、社会人としての望ましい姿勢や仕事の進め方、必要なスキルなどを修得させるための育成を行いますが、新人が自主的に立ち向かい課題を解決していくことを促すことが重要です。
そのために、上位のキャリアステージに配置されたときの役割や行動、配置されるために必要な能力や経験などを明確化し、対象者との間で共有します。
マネジメント職への配置
社内でのキャリアアップを実現する過程で、会社からマネジメントに関連する仕事を任される時期がやってきます。マネジメントとは「組織を運営する」ことであり、任された組織の成果を上げるために、目標や計画を立てたうえで、組織の中の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を効果的に活用しながら目標や計画の達成を管理していく仕事です。
マネジメント職への移行期においては、自らが担当する職務を遂行しながら組織の運営を行うことに対して適応できる能力を身につけなければなりません。
そのために、マネジメント職に配置されたときの役割や行動、組織の成果を向上させるために必要なスキルなどを明確化し、対象者との間で共有します。
マネジメント職を終えた後のプロフェッショナル職への配置
企業は、将来のマネジメント職の候補者に対して、キャリアアップが実現されたときのポストを用意したうえで、キャリアアップにつながる育成を行います。
その一方、ポストの数には限りがあります。
企業の状況や従業員のキャリアステージはさまざまですが、例えば、キャリアアップを後押しするためにポストの数を拡大し続けると、組織は機能しなくなる恐れがあります。そのため、一定のタイミングでマネジメント職の交代を促す対応が必要となります。
しかし、マネジメント職の交代はその従業員が喪失感を覚えてしまうという課題が存在します。そのリスクを回避するために、マネジメント職を終えた後のプロフェッショナルとしてのキャリアの道筋や当該キャリアで活躍しているイメージなどを明確化し、対象者との間で共有します。
人事として新人マネージャー(管理職)のトランジションに備える
初めて管理職に配置されると、必ずといってよいほど悩みを抱えます。
その中でも、「プレイヤーとマネジメントの両立」「部下への仕事の任せ方」「部下のモチベーション管理」は、管理職の共通の悩みといえるでしょう。このような悩みを抱えたままでいると管理職としての職務を的確に遂行できなくなるため、企業としての備えが必要となります。基本的な備え方は、それぞれの悩みに対する対応をノウハウ化することですが、ノウハウ化の着手に時間がかかる場合、まずは社内で成果を出している管理職の手法を人事から新人マネージャー(管理職)へ共有することから取り組むことも有効です。
プレイヤーとマネジメントの両立
管理職には、自己の担当業務で成果を上げることと組織を運営しながら組織としての成果を上げることの双方が要求されます。自分の行動だけではなく部下の行動管理も行わなければならなくなるため、仕事の進め方や時間の管理方法などを抜本的に変えていく必要があります。
管理職としての仕事の進め方やスケジュール管理などの対応を明確にしたうえで、人事から新人管理職者へ共有していきましょう。
部下への仕事の任せ方
管理職には、部下の適性を見極めて仕事を任せ、成長を管理するという仕事があります。それに対して、部下に仕事を任せることによるリスクの回避や部下とのコミュニケーションの取り方、部下の育成方法などの対応を明確にしたうえで、人事から新人管理職者へ共有していきましょう。
部下のモチベーション管理
部下に仕事を任せながら組織としての成果を上げていくためには、部下の仕事に対するモチベーションを管理しながら自主的に行動させる必要があります。部下のモチベーション管理に関する対応方法などをまとめて人事から新人管理職者へ共有していきましょう。
従業員が、経験を積みながら教育を受けることで着実に成長し、変化を遂げ、新たなキャリアステージへと移行していくことが、企業として理想的な姿のひとつです。そのような移行をデザインすることが人事における「トランジション」であり、経営者と人事の重要な役割なのです。「トランジションは経営戦略の一環である」と考えて、積極的に取り組んでいくとよいでしょう。