ニュースなどで「R&D」という言葉がよくでてきます。R&Dとは研究開発を担う部署や組織のことを指します。
最近は特にDX(デジタルトランスフォーメーション)とR&Dを同じ記事で目にする機会も増え、R&Dの重要性がますます高まっているようです。この記事ではR&Dの意味や種類、R&Dをつくるときのステップや注意点などについてご紹介します。

R&Dとは

R&Dとは、Research(研究)and Development(開発)の略です。研究や開発などの業務、またはその業務を担う部署や組織のことを指します。
主に製造業や通信会社、IT企業などテクノロジーを扱う業界における製品開発部門や研究所などがこれにあたりますが、最近では流通業やサービス業においてもR&D部門への関心が高まっています。これはITやAI技術の急速な進化により、先進技術を自社のサービスに活用することで競合他社との差別化や新たなビジネス、サービスへの展開が期待できるからといえるでしょう。

R&Dの目的

R&Dの目的のひとつは、研究や開発に資源を投資することにより、新たなビジネスチャンスを生み出す機会を得て、競争力を獲得することです。新製品開発は当然のことですが、革新的な新技術が確立できれば、他社との差別化を図れるだけでなく、技術や製品の特許を取得することで他社の追随を防ぐことや、使用許諾による特許使用料を得られるようになります。これは、厳しい競争環境の中では大きなビジネス上のアドバンテージになるといえるでしょう。

R&Dの歴史

科学の知識を生活に利用することは古代文明の時代から確認されていますが、研究所を設け多くの研究者を雇用して研究開発を行うようになったのは、19世紀後半のドイツからです。第一次世界大戦後にはほぼすべての先進国の大企業が独自の研究所を開設して研究開発を行うようになりました。第二次世界大戦後にはそれまで主だった軍事分野だけでなく、民事分野での研究開発も進みます。特に冷戦期以後のアメリカでは、軍事、航空、コンピュータ、宇宙の分野で技術力が大幅に向上しました。
日本では、1980年代の高度経済成長期に日本企業の産業競争力が際立つようになりましたが、貿易摩擦が大きな問題となり、日本に対して「基礎研究にただ乗りしている」という批判が向けられることになります。その後日本でも研究開発費の比率が伸び、基礎研究所などが多数設立されましたが、一方で研究の内向き志向や閉鎖性が強くなったことで、技術提携が減ったとの指摘もあるようです。
最近は研究所として独立するのではなく、企業の一部門としてオープンイノベーションの取り組みを拡大することで、自前主義からの脱却を進めようとする企業が増え始めています。

※イノベーションに関しては、以下の記事をご参照ください
イノベーションとは?意味・種類、成功企業の特徴や実現するための課題を解説

R&Dの種類

一概にR&Dといっても、大きく分けて基礎、応用、開発と3段階に分かれます。

基礎研究

基礎研究は新たな科学的事実を発見し立証する研究で、すべての研究の基となる研究です。しかし、企業のサービス開発に直結するものではありません。研究分野によっては成果が出せるまで長い時間がかかる場合もあります。そのため優先順位が下げられがちですが、最近は基礎研究がイノベーションを起こすのに必要であるという認識が定着しつつあります。

応用研究

応用研究は、基礎研究により見つかった事実などに基づき、特定の目標に対して実用化の可能性を探る研究です。また既に実用化されているものについて、新たな利用方法がないか探すことも含まれます。

開発研究

開発研究は、基礎・応用研究から得られた知識を利用して、新しい製品、または既存の製品やプロセスの改良に向けて、新たな知識を生み出す体系的な研究です。新たな知見や技術を活かして商品化やサービス化につなげる研究のことで、実用化の研究といえます。

R&Dのメリット・デメリット

R&Dのメリット

R&Dに取り組むメリットには大きく3つのメリットがあります。

1. 技術資産が増える

R&Dをもつことで、研究分野に関する技術や知見が深まり、企業には技術資産が増えていくことになります。知的財産や特許として厳重に保護する必要はありますが、技術面で他社に対するアドバンテージが強まります。

2. 製品開発のスピードアップ

専門分野に関する高い知識や技術をもったスタッフが集まって研究を行うことにより、技術資産が蓄積され、新商品の開発や既存製品の改良などを早めることができるようになります。
ただし、研究開発の現場においては、売り上げや利益などの経営成果につながる目標と、未来を見据えて進めるべき研究目標の2つのバランスを取ることも重要となります。

3. 企業競争力の向上

他社にはない技術を得ることで、企業競争力を高めることができます。なぜなら自社にしかない技術資産があることで、他社が簡単に真似できない商品やサービスを作りだすことが可能になるからです。
また、欧米など先進技術が集まっている地域に拠点があれば、いち早く情報を得ることが可能となり、技術提携などの面でも高度なイノベーション推進のメリットが生まれます。

R&Dのデメリット

R&Dにはメリットがある一方で、デメリットや課題もあります。

コストがかかる

大きな障壁となると推測されるのはコストです。研究開発には膨大な時間と金額がかかります。コストをかけて取り組んでも、大きな成果を得られず、利益には結びつかないこともあり得ます。かといって、コスト削減を進めすぎると、開発効率が下がるなどのマイナス面もあります。

技術を模倣されるリスク

自社で新たな技術や製品を開発したとしても、他社に模倣されるリスクがあるということも大きな課題です。多大なコストや人的リソースを投じて開発した技術や商品も、後発の企業による模倣品や類似サービスによって商品価値が貶められるということもあり得ます。
このようなリスクを回避するために、特許を申請するなどの対策が必要です。また、研究開発中の情報漏洩も大きなリスクとなりますので、内部からの情報漏洩やサイバー攻撃への十分な対策を行っておく必要があるでしょう。

人材の確保と流出の防止

デジタルスキル人材の不足は日本企業にとって深刻な問題です。研究開発を行えるだけの知識やスキルをもつ優秀な人材は希少です。人材確保は非常に難しいといえるでしょう。また、せっかく確保できたとしても、定着せずに流出してしまうリスクもあります。優秀な人材を獲得し、なおかつ定着させるためには、研究開発を行う人材にとって魅力的な条件や環境を整える必要があるでしょう。

※人材確保に関しては、以下の記事をご参照ください
企業が人材確保に失敗しないためには?優秀な人材の採用と定着を実現する方法を解説

R&Dをもつ企業

コニカミノルタ株式会社

技術の融合を実現するためイノベーションに取り組んでいるというコニカミノルタ株式会社。

代表的なBIC(Business Innovation Center)は、日本だけでなく、世界の主な拠点に設立されています。

BICとは、革新的なアイディアをサービスへと進化させ、人々の生活やビジネスに役立つ新しい事業を創造し続けることを目的とした専門チームで、“Giving Shape to Ideas”というスローガンのもとに、よりよい社会づくりに貢献するための活動をしています。
出典:コニカミノルタ「BIC Japan」

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車は、基本理念のひとつに「様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する」と掲げています。

日本国内だけではなく、北米や欧州、アジアと世界各地にさまざまなR&D拠点が設けられています。日本では本社テクニカルセンターや株式会社豊田中央研究所を中心に開発を進め、海外でも各地域にもテクニカルセンターを設置することでグローバルな研究開発体制を構築しています。

出典:トヨタ自動車株式会社

武田薬品工業株式会社

タケダは「優れた医薬品の創出を通じて、人々の健康と医療の未来に貢献する」というミッションを実現するために、研究開発活動を通じて革新的な医薬品の創出を加速し、世界中の患者さんに貢献することを目指しています。

米国ボストンをはじめ、サンディエゴおよび日本の神奈川県藤沢市(湘南アイパーク内)など、世界3カ所にグローバル研究拠点があります。連携の機会を効果的に見出すためにパートナーシップを促進する専門部門を設けており、アカデミア、バイオテクノロジー企業や製薬企業との提携を積極的に推進しています。グローバルスケールの研究開発パートナーとの提携や連携、自社による研究活動を通してイノベーション創出のエコシステム醸成を加速しています。
出典:武田薬品工業株式会社「革新ディスカバリーVol.01 多様性を力に創薬に挑む ニューロサイエンスチーム」

R&Dをつくるステップ

自社にR&Dを設けようとする場合、前述した基礎、応用、開発の3つの研究のうち、どの段階に比重を置くのか、バランスをどうするのかを検討するとよいでしょう。なぜなら、自社にすでに蓄積された知見があるのか、人材や資金、設備などのリソースがあるのかなどによって変わってくるからです。
リソースが不足している場合は、人材の獲得や外部リソースの活用、M&Aの検討など資金的な手当てまで含んだ経営戦略の検討が必要となります。また、公的機関や大学などと共同で開発することで思いがけないアイディアが生まれたり、外部の研究施設の利用などが可能となり、助成金なども含めた資金的メリットもありますので、産学連携・産官学連携なども検討するとよいでしょう。
まずは、自社の知見や人材を含めたリソースを把握するところからです。それをどのように活用し、不足しているリソースをどのようにカバーするのか、タイムスケジュールや予算も含めて経営戦略を検討することになります。

R&Dをつくるときの注意

R&Dには膨大な時間と費用がかかりますし、失敗は研究開発においては珍しくはありません。計画とおり進むことはほとんどないといえるでしょう。それだけの時間とコストをかけられるかどうかは、取り組む前に十分検討しておく必要があります。

また、R&Dができても、そこがゴールではありません。あくまでスタート地点に立ったというだけです。スピードが重要であることも認識しておく必要があるでしょう。最終的にある程度の成果を出すことができれば、その分野における研究開発は成功したといえるでしょう。しかし、何も得られないまま予算が尽き、計画の期日を迎えることも十分考えられます。失敗が続けば周囲の理解を得られず、途中で頓挫せざるをえない状況も考えられます。時間とお金を無駄にしたということがないようにするためにも、ROI(Return on Investment:費用対効果)管理が重要であり、事業視点、経営視点でのR&D運営は欠かせません。
また、R&Dを成功させるためには、特に以下の5つの課題をクリアする必要があるでしょう。

1.人材の確保

最初から課題となるのが「人材」です。研究開発をする分野に精通した人材が必要な要素の一つです。しかし、こうした人材は希少であるため人材の確保が難しいという課題があります。優秀な人材の確保のためには、職場環境や雇用条件などが十分魅力的である必要があるので、職場であるR&D拠点の環境整備に加え、ジョブ型雇用やフレックス制度、リモートワークへの環境整備のための補助制度など人事制度面でも魅力あるものが求められるでしょう。

2.コスト管理とROI管理

必要なコストが研究にかけられなければ結果を出すのは難しくなります。特に基礎研究のような利益に直結しないものには予算が十分に確保できないケースが少なくありません。コスト不足だけでなく、ROIを適切に管理できなければ、経営判断も難しくなります。それぞれの研究開発分野にどれだけのコストがかかり、成果がどれくらい見込めるのかといったROI管理は非常に重要となります。

3.自前主義からの脱却

1980年代以降多くの日本企業は、自社での研究結果や自社での生産を重視し、他社との連携などを積極的には行いませんでした。日本企業が国際競争力を失った一因といえるでしょう。
今となっては、多くの企業で、世界中の知識や情報を集めて社内で獲得すること競争の優位性を高めることが当たり前の戦略となっています。
他者との協働によって新たなイノベーションが引き起こされており、もはや、自社内で完結するクローズドイノベーションでは世界の市場で勝ち目がなくなると考えられます。
イノベーションの能力と成功による世界のランキング「グローバル・イノベーション・インデックス2021年」(※)では日本は13位となっており、韓国、シンガポール、中国より下に位置します。これは、日本のR&D投資の非効率性が現れた数字といえるでしょう。

※出典:World Intellectual Property Organization 「Global Innovation Index 2021 rankings」


これらの数字から見ても、他者の活用や協働によるオープンイノベーションが求められていることは間違いありません。日本企業にとってグローバル化やオープン化が加速することはイノベーション創出の良い機会になるでしょう。
また、日本企業の場合、自社の施設や不動産などをR&D拠点に使用する企業が多いのですが、修繕費用など不動産管理費用の負担も無視できません。投下資本利益率(ROIC)で見れば、直接利益を生まないR&D拠点は、不動産所有と経営の分離が進んでいるアメリカ企業のように自社所有よりも賃貸を選択する企業も増えてくるでしょう。

4.知的財産管理

自前主義ではなく他者も活用してのR&Dは、情報の流出など知的財産に関するリスクが高まります。R&D拠点のグローバル化が進んでいくと、社外や遠方の拠点などが関係してくるため、ガバナンスが効かなくなるリスクがあります。
コスト面や開発環境の最適化、開発効率などトータルでの効率を最適化しつつ、サイバーセキュリティの強化や内部からの情報流出を避けるための教育も含めたセキュリティ対策を実施することで、知的財産流出のリスクを最小化する必要があります。また、知的財産に関する管理を集約するなど、情報流出のリスクを最小化するための仕組みづくりを行うことも重要な課題です。

2009年に発表された独立行政法人経済産業研究所による調査(※)によると、アジアでの展開には低コストR&Dの実現などのメリットもありますが、特に知的財産の保護に関するリスクがあり、現地スタッフの転職などによる人材とナレッジの流出が懸念点となっています。知的財産について、将来的に問題が生じないよう、あらかじめ対策を準備しておく必要があります。

※出典:独立行政法人経済産業研究所「日本企業の R&D 国際化における現状と課題」(2010年1月)

5. R&D拠点の立地

従来は社内の特定の部門だけで行っていた研究開発も、オープンイノベーションが浸透するようになると、R&D拠点は本社など自社の他部門、またクライアント企業や大学などとの連携が取りやすい立地が求められます。また人材確保といった点からも、通勤や生活環境などといった立地条件にも気を配るといいでしょう。

R&Dを進めることで、企業に技術的な資産が蓄積され、企業競争力の長期的な向上につなげることが可能となります。社会環境や競争環境が急激に変化する中で、R&Dは企業の存続と将来に不可欠といえるでしょう。
R&Dは常に時代の最先端を見据えていかなければなりませんので、その意味で、スピード感はとても重要です。日本企業は遅れを取ってはいますが、見方を変えればイノベーション創出のチャンスであり、大きく飛躍できる可能性があるので、R&Dのグローバル化、オープン化の加速は日本企業にとって変革と飛躍への絶好の機会ともいえます。
自前主義からグローバルでオープンなイノベーションにシフトするのは難しいと思うかもしれませんが、今回紹介したR&Dをもつ企業の例を見れば、大企業であってもドラスティックな方向転換が十分可能であることがわかるでしょう。

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