近年、ES(従業員満足度)を重視する企業が増えているといわれています。ESを向上させることによって、さまざまな面で企業と従業員の双方にメリットをもたらすと考えられているためです。ここでは、ESの定義、ESを高めることのメリットや具体的な方法などを解説します。

ES(従業員満足度)とは

ESとは、「Employee Satisfaction」の略称で日本語では「従業員満足度」と訳されます。職務内容、労働環境や待遇、人間関係、福利厚生など、従業員の仕事や職場に対する満足度を表す指標です。
人材流動性の高まりや労働力人口の減少など人材にまつわる環境変化が進むなか、比較的上位の経営課題として認識されるようになってきています。

ES(従業員満足度)を高めることで得られるメリット

ESを高めることは、従業員にメリットがあるのはもちろんですが、企業側にもさまざまなメリットがあるといわれています。相互に関係するメリットとして、以下の3つを例に挙げてご紹介します。

1.生産性の向上

労働条件、職場環境への不満解消や、仕事に対するやりがいの創出などによってESを高めることができれば、従業員のモチベーションや意欲も高まって能動的、自律的に仕事に取り組むようになることが期待できます。意欲的な従業員が増えれば、組織内でのコミュニケーションの活性化やイノベーションにつながる可能性もあり、その結果として生産性の向上が期待できます。生産性の向上は、最終的な企業業績の向上につながることもあり得るでしょう。

2.CS(顧客満足度)の向上

ESを高めることができれば、それに合わせて従業員の会社に対する愛着や貢献意識であるエンゲージメントも高まります。それによって従業員の提案や改善への積極的な取り組みが増えることにつながり、顧客ニーズに合った商品やサービスが提供されるようになるなど、それら一連の行動がCS(顧客満足度)の向上につながることが期待できます。
いくつかの調査によれば、ESとCSの間には相関があるとの結果があり、このことからも、大きなメリットのひとつとして認識することができるでしょう。

※CSに関しては、以下の記事をご参照ください
CS(カスタマーサティスファクション)とは?意味と向上させるポイントを解説

3.従業員の定着率が高まる

一般的にESが高い企業では従業員が転職にメリットを感じることが少なくなるため、人材の定着率は高まる傾向になると考えられます。定着率が高ければ、採用や人材育成に関するコストを削減しやすくなります。
さらに自社の従業員から友人や知人などを紹介してもらう「リファラル採用」などを展開することができれば、採用コストは抑えられるでしょう。
人材確保のためのコストが削減できることと合わせて、成果を生み出せる従業員の定着によって、会社全体の業績向上につながることも期待できるでしょう。

※リファラル採用については、下記の記事をご参照ください
リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説

ES(従業員満足度)を調べる方法

ESを調べる方法はいくつかありますが、一般的に行われるのは、アンケートやインタビューを通じた「ES調査(従業員満足度調査)」を利用するものです。調査することによって、自社が抱えている課題の状況やその原因など、多くの情報を可視化することができます。
近年は、ES調査に関するさまざまなサービスが提供されており、これらのサービスのなかから自社のニーズにあったものを選んで利用してもよいでしょう。

自社独自で調査を実施する際は、一般的には次のような手順となります。

1.調査目的の明確化

ES調査では、従業員に時間を割いてもらう必要があるので、調査を行う目的を明確にしてその内容を社内に周知します。

2.設問の策定

調査目的に合わせて設問を策定します。管理職と一般社員など、従業員の属性によって設問構成を変える場合もあります。多すぎる設問は回答者の負担になるので、設問数には配慮しましょう。

3.調査の実施

調査目的によっては、社内の人間関係やプライベートな内容が含まれることがあるため、結果の共有範囲や利用方法などはあらかじめ明確にしておきましょう。回答内容の守秘のため、外部機関や第三者機関に実施を委託するといった方法も考えられます。

4.結果の分析

結果の分析においては、項目ごとの合計や平均値を出す単純集計、条件を設定してそれぞれの傾向の違いを見るクロス集計、設問間の相関や因果関係を導き出す構造分析といった方法があります。これらを適切に組み合わせて、上辺だけに捉われない本質的な課題やその原因などを見極めることが必要です。

5.結果をもとにした対策立案

可視化された課題について、解決のための対策や施策を検討します。課題の内容によって対策や施策は異なりますが、一般的には「賃金や労働時間、その他処遇条件の見直し」「人事制度や勤務体系などの仕組み・運用の見直し」「成長機会やキャリアビジョンの提示」「福利厚生の見直し」といったものが挙げられます。
いずれの場合も関係各所の協力が不可欠となるため、周りを巻き込んで解決にあたることが必要になると考えられます。

ES(従業員満足度)を高める具体的な方法

ESを高めるためには、企業が掲げる目標に対する一体感や、モチベーションの向上、待遇の改善などがポイントとなります。ESを高めるための方法の例として、以下の5つの項目でご紹介します。

1.企業理念やビジョンの浸透と共有

企業理念は、その会社の「価値観」や「行動指針」といった基本を示します。ビジョンは、企業としてどのような価値提供をするのか、どのような社会貢献をするのかといった全体的な方向性をいいます。この企業理念やビジョンに従業員が共感することができれば、会社と従業員のエンゲージメントが高まることや、帰属意識や一体感が増すことが期待できます。

具体的な方法としては、日々のマネジメントを通じて企業理念やビジョンを従業員個人の目標まで落とし込むことが重要です。それぞれが担当業務に取り組んで目標を達成することが企業理念につながり、社会貢献にもつながっているという実感を持たせることができれば、仕事へのやりがいを見出してESを高めることにつながる効果が期待できます。
ミーティングなどを通じて、定期的に企業理念やビジョンを確認する機会を設定することもよいでしょう。

※エンゲージメントについては、下記の記事をご参照ください。
エンゲージメントとは?高めるポイント、調査方法、向上させる施策を紹介

2.希望や適性に配慮した業務への配置、異動

従業員が自分の適性に合う仕事や、能力を活かした仕事ができていると感じられれば、ESは高まっていくと考えられます。
部署配置や仕事内容について、本人の希望にかかわらず会社だけの判断で決めるケースもあるかもしれません。しかしESを高めるためには、個々の希望に配慮しながら性格や能力、適性を考えてその状況に見合った配置や異動を行うことが必要になるでしょう。

企業によっては、従業員が自身の経験やスキルを社内にアピールして異動につなげる「社内FA(フリー・エージェント)制度」や、社内で各部署が人材を募集して異動を望む人材に応募してもらう「社内公募制度」など、従業員本人と異動先の部門責任者との合意のみで異動が成立する制度もあります。
本人の希望に沿うことができる制度を取り入れることで、仕事のミスマッチが起きにくくESも高まりやすくなることが期待できます。

3.業務効率化など職場環境の整備、改善

職場環境を整えることも、ES向上につながる取り組みのひとつです。
業務の効率化が進んで残業時間の短縮につながれば、働きやすさが増してESの向上につながり、それが生産性の向上や採用強化、定着率の向上などにも寄与することが期待できます。

職場環境の重要な要素である勤務形態も注目すべき点です。テレワークや時短勤務、フレックスタイム制などの多様な勤務形態の提供は、育児や介護、従業員自身の健康問題など、各個人の事情に合わせた細やかな対応を行うことができワークライフバランスの向上に寄与するため、ESの向上につながる可能性があります。
ワークライフバランスを高める取り組みは、従業員の生活にゆとりを生み出すことにつながり、ESを含めたさまざまな面でプラスに働くことが期待できます。

また社内のコミュニケーションを活性化することができれば、人間関係作りがおこないやすくなり、業務を進めるうえでも良い影響をもたらすことが考えられます。
他にも情報共有に関する施策などが挙げられますが、いずれもESを高めるうえでは効果をもたらすことが期待できるでしょう。

4.評価制度の見直し

従業員自身への評価に対する不満が積み重なると、当然ですがESは低下していきます。評価への不満が起こる原因のひとつとして、「評価に対する納得性の欠如」が挙げられます。
評価者が主観的な評価に陥らないように、基準を明確にして公平で客観的な評価ができる評価制度は重要です。複数の評価者が評価することで偏りを正すことや、評価者教育などの実施が必要になることもあります。また評価面談による評価結果の説明やフィードバックは、適切に行うことができれば評価に対する納得性を高める効果が期待できます。
評価制度の見直しは、ES向上のための重要な取り組みのひとつに挙げることができるでしょう。

※評価制度に関しては、以下の記事をご参照ください
人事評価制度とは?種類や基準の作り方など、コツを詳しく解説

5.福利厚生の充実

福利厚生は、給与をはじめとした基本的な労働対価に加えて会社から提供されるものですが、これらの充実もESを高めることにつながる要素です。
具体的には住宅手当や家賃補助、食事や飲み会の補助といった形での金銭支給、社宅や保養所などの設備提供、さまざまな理由で取得できる法定外の特別休暇といったものがあります。
また健康維持のためのジム通いに対する補助、昼寝時間の設定や場所の提供、個人的な記念日への休暇付与などの制度も見られます。
社内の事情によって工夫できる部分があるので、多面的に検討してみるとよいでしょう。

ES(従業員満足度)を高めるために人事ができること

ESを高めることは会社全体の課題であり、このESを構成する代表的な要素としては、主に以下の5つが挙げられます。

  • 企業理念やビジョンへの共感
  • 評価、マネジメントへの納得感
  • 仕事のやりがい、貢献度
  • 職場の人間関係
  • 快適な職場環境

前項のESを高める具体的な方法もこの要素に基づいたものとなり、これらすべての要素は、人事が直接もしくは間接的にかかわる経営課題と考えられます。

しかし、すべての取り組みは人事が単独でできるものとはいえません。
ESを高めるために人事が担う役割は、調査結果などから可視化された課題と原因に対する施策を立案し、すべての要素に対して主体的に関与して、取り組みを継続することにあります。
企業ビジョンに関することでは経営者と従業員、評価やマネジメントに関連することでは現場の管理者と一般従業員の間で、それぞれのつなぎ役が必要です。その他の要素では、全社施策と個別施策を組み合わせて実施することが想定されますが、組織上では人事が社内全体でコーディネートしやすい立場といえるでしょう。

全体の状況を見渡して適切なリーダーシップを発揮していくことが、ESの向上に向けて人事に期待される役割の一つです。

労働力人口の減少や、それに伴う人材不足が予想されるこれからの企業経営において、ESは重要な要素のひとつです。
このESを高めていくためには、自社の現状と課題、およびその原因を把握して、その内容に合致した施策に取り組んでいくことが必要です。
ESが高まることによって、人材の定着や生産性の向上など、多くのメリットが生まれることが期待できます。
あらためてESに注目し、その向上に向けた施策に取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。

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