目次
採用ブランディングとは
採用ブランディングという言葉は知っていても、「なんとなくしか理解できていない」「うまく取り入れられていない」といった採用担当者も多いのではないでしょうか。まずは言葉の定義から説明しましょう。
広義のブランディングとは
ブランディングとは、ある商品やサービスを、他の同類の商品やサービスから識別できるようにする手段です。たとえばシンボルマークやキャッチフレーズ、独特の色使いを常に使用することで、消費者がたやすく識別できるように働きかけます。
「ブランド」というと、いわゆるラグジュアリーブランドやハイブランドを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、消費者にとって価値のある銘柄・商標としてブランドを認知させ、よいイメージを与え続けるブランディングという活動そのものは、商品価格に関係なく、あらゆる商品、たとえばBtoBの商品・サービスなどにも応用できる考え方です。
誰にでも機能や価格にそれほど大きな差がないにもかかわらず、「なんとなく好きでつい買ってしまう、注目している」といったブランドが一つや二つはあるのではないでしょうか。このような消費者や顧客の行動こそが、各社のブランディングの成果といえるでしょう。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、採用市場において自社のブランド力を高める活動のことを指します。採用ブランディングでは、ブランディングの対象は「働く場」としての自社になります。「この企業で働いてみたい」「働くと○○な魅力がある」と求職者に認識してもらえるよう、自社の理念やビジョン、社風、働きやすさ、入社するメリットなどの情報を発信し、戦略的にブランドを構築していく採用手法です。
採用ブランディングにおいては、広義のブランディングのようなテレビCMや有名俳優などを活用してのイメージアップといった手法はなかなか使えないことが多いでしょう。そのため採用ブランディングでは、企業の思いを伝えるキャッチコピーやメッセージがより重要になってくるといえます。
採用ブランディングが求められている背景
株式会社帝国データバンクは「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」において、「人手不足の上昇に歯止めがかからない」と分析しています。調査によれば、人手不足を感じていると答えた企業の割合は、正社員で51.1%、非正社員で31.0%に上ります。新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年4月以降で最も高い数字であり、正社員では6カ月連続、非正社員では5カ月連続での上昇となりました。
このような人手不足を背景に、企業の採用活動を取り巻く状況は厳しさを増しているといえるでしょう。給与やポジションといった条件面だけではなく、企業の本質的な魅力を伝えることができなければ、優秀な人材を確保することは難しいのが実情です。著者の周囲でも、採用に苦労する採用担当者の声をしばしば耳にします。
そこで改めて重視されているのが、採用ブランディングだと考えられます。中長期的な未来を見据えて、自社のファンを増やしていく採用ブランディングの役割はますます大きくなっているといえるでしょう。
参考:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」
採用ブランディングを行うメリット
採用ブランディングを行うメリットはたくさんありますが、その中から主なものをご紹介します。
母集団の数と質の向上が期待できる
求職者が応募や入社を検討するには、まず雇用条件や企業の認知度で比較し、検討するのが一般的です。採用ブランディングができていない企業の場合、知名度がより高い他社に、これらの雇用条件や認知度で劣ってしまうことはよくあります。
しかし採用ブランディングが成功していれば、雇用条件以外で他社よりも優位に立つことが可能になります。その結果、より多くの、そして、より企業が求める人材に近い求職者を獲得することにもつながるでしょう。すぐに採用に結び付かなかったとしても、理念や社風に魅力を感じてくれる潜在的な求職者を増やすことが、母集団の数と質を向上させることにつながります。
入社後のミスマッチを防ぎ、定着率を向上する
採用ブランディングを行うことで、企業の価値観や魅力を理解したうえで入社を希望する人を増やすことが可能になるため、入社後のミスマッチが起こりにくく、従業員満足度や定着率の向上にもつながる可能性があります。
採用コストの削減
採用ブランディングが成功すれば、求人媒体や人材紹介で求める人材からの応募が増えたり、リファラル採用やダイレクト・リクルーティング、自社のWebサイトなどでも募集に成功したりする可能性が向上します。
応募が増えて適切な人材が確保できる循環がつくり出されることで、結果として採用コストを抑えることにもなるでしょう。
※リファラル採用に関しては、以下の記事をご参照ください
リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説
採用担当者によらずブランドイメージを継承できる
採用ブランディングによって培われた企業イメージや、効果があったキャッチコピーやメッセージは、企業内で継承していくことができます。採用担当者が変わっても、一貫したメッセージを発信していくことができるようになります。
従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながる
採用ブランディングを行う過程で、企業の考えや思いが従業員に伝わることは、従業員が企業の魅力を改めて認識するきっかけとなります。その結果、従業員一人ひとりが企業の発展に貢献する存在としての自分自身を再認識し、エンゲージメントを高め、さらには業務へのモチベーションも向上することが期待できます。
競合他社との差別化が期待できる
採用ブランディングを推進することは、他社との差別化を図ることと同義といえます。
採用ブランディングには、自社の魅力や他社に負けない強みを洗い出し、正しく理解するといったプロセスが不可欠です。その結果、採用ターゲットの定義、自社の魅力を訴求できる方法・コンテンツの選択などが適切にできるようになり、必然的に競合他社との差別化も実現できるでしょう。
採用ブランディングを行う手順
採用ブランディングを進める一般的な方法について、ステップに分けて紹介します。
(1)採用ターゲットを明確にする
企業が採用活動を行う目的は、欠員補充、組織力強化、新事業の拡大とさまざまです。いずれの目的においても、ターゲットとなる人材の母集団を拡大することは大切ですが、その際、採用ターゲットが不明確になり、伝えるメッセージも打ち手も絞れないといった状態に陥りがちです。
そのため、採用ターゲットを明確にすることが効果的なブランディングの第一歩といえます。採用ターゲットを設定する際には、スキル・経験だけでなく、具体的な人物像まで設定することが重要です。採用ブランディングの手法や届けるメッセージ、デザインを設計するときに、「この人の興味関心に当てはまりそう」という判断基準を持って進めることができるようになるからです。
(2)自社の立ち位置を把握し、魅力を言語化する
採用市場において自社がどのような立ち位置にあるか、採用競合と比較した場合にどのような違いがあるのかを明確に把握する必要があります。また採用市場において自社がどのように認知されているか、自社は求職者にどのような価値や機会を提供できるか、採用ターゲットは何を重視して企業を選んでいるのかを知っておくことも重要です。
自社について客観的に整理・分析したあとは、ターゲットに伝える自社の魅力を言語化していきましょう。言語化の際には、主に3つの軸から整理する方法がおすすめです。
企業軸
1つ目は、事業や商品・サービスなどの「企業軸」です。自社の売上・利益、従業員数、事業内容、独自の商品・サービスなど、他社とは異なる自社の優位性をリストアップしていきます。
仕事軸
2つ目は、「仕事軸」です。募集ポジションについて、ミッションや裁量、具体的な業務、協業者などについて競合他社と比較しながら魅力を探していきます。
人・環境軸
3つ目は、「人・環境軸」です。具体的には、経営者や一緒に働く人の魅力、給与・休日休暇・福利厚生といった待遇面の魅力、研修制度・評価制度などキャリア視点での魅力、オフィス環境や組織風土が挙げられます。昨今は特にワークライフバランスを重視する求職者が増えているため、「残業が少ない」「年間休日が多い」「有休消化率が高い」などの働きやすさについて意識してみるとよいでしょう。
自社の魅力を発見したあとは、さらに自社の採用ターゲットにとって魅力的な点を発見することも考えてみましょう。
著者が関わったある住宅インテリア関連会社では、一級建築士、インテリアコーディネーターといった資格を持った人材を募集していました。調査の結果、そういった人材は自分のスキルや感性を磨くことを強く望んでいることが分かりました。
そこで募集要項や求人情報に、「イタリアのサローネに行ける」「斬新なインテリアのホテルの視察を行っている」といった文言を入れることにしました。実際に実施している制度のなかでターゲットが魅力的に感じる事柄を見つけ出し、言語化したのです。その結果、多数の応募者を集めることに成功しました。
(3)採用コンセプトの立案
採用コンセプトとは、採用活動に一貫性をもたらす基本方針・メッセージのことです。コンセプトをつくることで、メッセージに一貫性と継続性が生まれ、伝えたいメッセージが浸透しやすくなります。採用ターゲットにどのようなブランドイメージを持ってもらいたいかを検討して、採用コンセプトを立案していきましょう。
(4)情報発信するメディアや手法の決定
「誰に(採用ターゲット)」と「何を(採用コンセプト)」が決まったら、次は「どのように(メディア・手法)」伝えるかを考えていきます。
情報を発信するためのメディアは、求人媒体などの採用メディア、企業の求職者向けWebページ、イベント、企業説明会、SNSなどがあります。特に企業が運営する求職者向けWebページやSNSは、企業の魅力を継続的に発信することができ、採用ブランディングの軸となるメディアと考えられます。口コミやアクセス数などを分析しながらPDCAを回し、改善に役立てていきましょう。情報発信する手法もさまざまあり、記事やブログ、画像のほか、動画を使う企業も珍しくなくなりました。
(5)従業員とブランドイメージを共有する
企業の目指すブランドイメージを従業員にも言葉で説明し、ディスカッションやグループワークで「どのような人に入社してほしいか」「入社したいと思える企業の魅力は何か」などについて、従業員が考える機会を設けるとよいでしょう。
(6)長期的な視点をもって実行する
採用ブランディングを行う際に大切なポイントの一つとして、中長期的な視点を持つことが挙げられます。たとえば、自社のWebサイトやSNSを駆使してターゲットからのアクセスを獲得していく場合、継続的に発信を続けていくことが必要です。短期間での効果を期待するのではなく、数年単位での運用計画を基に自社が望んだ成果を得ていくことが望ましいです。
採用ブランディングの発信手段
採用ブランディングの発信手段はさまざまなものがあります。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介します。
SNS
SNSを介した採用活動は主に新卒採用において活用されています。スマートフォン・SNSの普及にともない、SNSの利用率や利用時間は増加の一途を辿っており、決して無視できないツールの一つとなっています。また、情報の拡散力が高いのもメリットの一つといえるでしょう。
動画メディア
動画メディアでは、動画を使った情報発信やプロモーション活動を展開できます。動画メディアのメリットは「短い時間で多くの情報を届けられる」点が挙げられます。ユーザー側は自分の都合に合わせ、いつでもどこでも情報を得られるのも特長の一つです。最近では多くの企業で動画を使った情報発信をしています。
ブログ
ブログは「ウェブログ」の略称であり、21世紀に入ってから急速に普及したコミュニケーション手法です。記事へのコメント投稿やほかのブログ記事を参照するなどのコミュニティ化を促す機能が充実しているほか、特別な専門知識なくとも記事を投稿できるといった特徴があります。
SNSや動画メディアに比べると歴史の古い技術ですが、現在でも主要な情報発信方法の一つといえるでしょう。
イベント・ミートアップ
説明会、座談会など、求職者と直接的なコミュニケーションを取る手法です。一企業で開催される説明会のほかに、大規模なイベントスペースで複数の企業がブースを設置して企業説明を行う合同説明会など多岐に渡ります。採用イベントは新卒採用や中途採用など、業界を問わず各地で行われています。
近年では、就労を体験できる交流会タイプのミートアップなども注目されています。これらのイベントは直接コミュニケーションを取れることは大きなメリットですが、時間的制約が大きいデメリットもあります。
採用ブランディングに取り組む企業事例
日本マクドナルド株式会社の事例
日本マクドナルド株式会社では、店舗で働くクルーを主役と考え、経営陣や本社を「クルーを支える立場」として位置付けています。社内では本社を「ナショナル・レストラン・サポート・オフィス」と呼ぶなど、クルーを中心とした考え方の徹底に取り組んでいます。また、店舗のクルー数や売り上げ予測、働き方のパターンなどを基に柔軟なシフトを組み、クルーの働きやすい環境を整備しています。さらに応募サイト上への電話応募を案内するポップアップの表示など、安心して応募できるサイトづくりを目指しています。
日本マクドナルド株式会社は誰もが知る有名企業ですが、商品の宣伝だけでなく、クルーの募集についても情報発信をして、採用ブランディングに努めています。
参考:日本マクドナルド株式会社「McDonald’s Recruiting Site」
※本事例は、公開時点の内容になります。
自然災害、国内外の経済不安など不確実性が高まっている昨今、自社に必要な人材を確保し続けることは容易ではありません。採用ブランディングを行う際には時間をかけて準備を行う必要があり、長期的な視点に立って運用していくことが求められます。企業の成長と発展に加え、従業員が働きやすい環境を整備するためにも、自社の採用ブランディングについて考えてみる価値はありそうです。本記事が、そのような企業にとって少しでも役に立てば幸いです。