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レジリエンスとは
レジリエンス(resilience)とは、跳ね返り、弾力、回復力、復元力という意味の英単語です。もともとは物理学の用語で、「外力による歪みを跳ね返す力」という意味で使われていましたが、近年では心理学の分野で「心の回復力」を意味するものとして使われるようになりました。
日本語では「弾力性」「復元力」「回復力」と訳され、現在はリスク管理や組織論の領域などでも広く使われています。
レジリエンスの心理学的な意味
レジリエンスの心理学的な意味では、「困難な状況におちいっても、それを乗り越え立ち直ろうとする心の回復力」や「変化に対応できる適応力」のことを指しています。
逆境や困難、強いストレスに直面したときに大きな精神的ダメージを負ってしまい、心が圧力で曲がったとしても、竹のように折れずにしなやかに元の姿へ戻る力ともいえるでしょう。
レジリエンスとストレスの違い
ストレスとは、日常の中で起こるさまざまな変化で刺激を受けたときに起こる緊張状態が続くことです。
ストレスの状態はよく風船に例えられます。風船を指で押さえる力(刺激)により風船が歪んだ状態になりますが、これがストレスに体が反応した状態といわれています。
一方、上記のようにストレスで風船が歪んだ状態から、元の状態に戻す力がレジリエンスです。
レジリエンスとメンタルヘルスの違いとは?
メンタルヘルスとは、心の健康を意味します。メンタルヘルスを維持するためには心理的な負担を軽減したり、職場環境を整備したりするなどの周囲のサポートなどが重要になります。
一方レジリエンスは、おきた困難(症状)に対して、どのように適応するか、あるいは、いかにうまく回復できるかに対処することを意味します。
ビジネスでレジリエンスが重要な理由
現代社会は、ITを中心に技術革新のスピードが加速しており、不確実性が高く変化が激しい状況下にあります。そのような時代においてレジリエンスが必要な理由を考えてみましょう。
ストレスに負けない力がつく
厚生労働省の調査によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者」の割合は53.3%(2020年調査)となっています。
出典:厚生労働省 令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
ストレスを感じる内容としていちばん多いのは「仕事の量」、次いで「仕事の失敗、責任の発生など」、「仕事の質」となっています。労働者の半数以上が仕事上のストレスを抱えており、最大限にパフォーマンスを発揮しきれていない可能性があります。これは従業員にとっても、企業にとっても大きな損失です。レジリエンスを備えることで精神を健康な状態に保ったり、ストレスを成長の機会に変えたりすることができる可能性もあると考えられるでしょう。
環境の変化に早く対応できる
顧客ニーズの多様化、コロナ禍による働き方の変化などが進み、さまざまな状況の変化に臨機応変に対応できる能力がより求められる傾向にあります。レジリエンスを持つ社員が増えることで、よりスピーディに環境の変化に対応し、変化をチャンスと捉え成長できる組織となるでしょう。
目標達成力が高まる
従業員がレジリエンスを身につけることで、ビジネスにおいてたとえ困難な状況が予想されても「自分なら大丈夫」と前向きに捉えられるようになります。変化の激しい環境下でも、チャレンジに対する意欲を失わず、自ら成長し続けられることでしょう。
レジリエンスの「危険因子」と「保護因子」
医療現場でもよく使われる「危険因子」と「保護因子」という言葉があります。
危険因子
レジリエンスでの危険因子とは、ストレスを引き起こす要素を意味します。
レジリエンスの危険因子には以下のものが考えられます。
- 人間関係
- 病気
- 家庭環境
- 災害
- 犯罪被害経験など
上記のような身体や心身の負担などがあげられます。
危険因子を減らすためには、次のような対策などが効果的といえるでしょう。
- 生活する上で発生するさまざまな、事象に興味や関心を持つ
- マイナス感情(悲しい、辛い、難しい、逃げたいなど)が大きくならないように、自らコントロールしていく
- 将来に対して目標、夢、ビジョンを持つなどの未来志向の発想を常に心掛けるなど
保護因子
保護(防御)因子は危険因子とは逆にストレスからの立ち直りを促す要素と考えられます。
保護因子には以下のようなものが考えられます。
- 個人の性格
- 家族や周りの支援など
上記の要素以外にも、そっと見守って「話したくなったら」話を聞いてあげることや、ゆっくりできる憩いの場を作ってあげることなどもレジリエンスの向上を後押ししてくれるでしょう。あわせてレジリエンスを高めるのも一つの方法です。高める方法については後ほどご紹介しますので、参考にしてみてください。
レジリエンスの3因子
レジリエンスは以下の3因子で構成されているといわれています。
1.新奇性追求
新奇性追求とは、新しいモノや冒険を求める気質を表す気持ちのことで、チャレンジ精神が旺盛になり、主体性にもつながっていくと考えられます。
2.感情調整
感情調整とは、ストレスなどで揺れる負の感情「悲しい」「苦手」「逃げたい」「諦めたい」などの心理的プロセスを自らコントロールし制御することを指します。
3.肯定的な未来志向
肯定的な未来志向とは、明確な目標や夢を持ち、具体的な見通しに基づく将来的なプランを思い描くことを指します。肯定的な未来志向を持つことで精神的回復を促進するでしょう。
レジリエンスが高い人の特徴とは
レジリエンスが高い人の特徴としては大きく4つが考えられます。
1.柔軟性が高い
トラブルに直面してもチャンスと捉えて、さまざまな可能性を柔軟に考え、突破口を切りひらいていきます。そのため、物事の一部分にとらわれるのではなく全体を俯瞰してゴールを設定することで、どのような状況でも最適な道を選択できるでしょう。
2.感情をコントロールできる
トラブルやストレスがかかると感情的になりがちです。レジリエンスが高い人は、ひとつひとつの出来事に一喜一憂せず、自分の思考や感情をコントロールでき、何事も冷静に対処でき、気持ちの切り替えも早い傾向にあります。
3.自尊感情が高い
自尊感情とは「ありのままの自分を受け入れ、自分は価値がある」と思えることです。他人と過度に比べることなく、自分の強み・弱み、思考の傾向を把握しています。失敗したときも過度に落ち込むのではなく、自分の行動やそのときの思考を振り返り、弱みを強みに変え次に活かそうと努力することができます。
4.自己効力感が高い
どのように困難な状況でも「私はできる」と自信を持つ力が自己効力です。レジリエンスが高い人は自己効力感も高く、困難な目標でも成長の糧にできるとポジティブに捉え、乗り越えていく力が備わっているといえるでしょう。
社員のレジリエンスを高めるメリット
社員のレジリエンスを高めることで、企業として期待できるメリットは以下などが挙げられます。
社員一人ひとりに主体性が生まれる
社員のレジリエンスを高めることで、失敗から教訓を学び、再び挑戦(チャレンジ)するという考えが組織内に定着するでしょう。社員ひとりひとりに柔軟な思考力・対応力が身につき、自ら考えて行動を行う主体性が生まれると考えます。
社員のストレスへの耐性が向上する
近年のIT化などで業務が効率化・高度化されることによって、環境に適応できなかったり、人間関係などのストレスでうつ病を発症してしまったりするケースも少なくありません。
社員一人ひとりがレジリエンスを高めることで、社員自身も自分のストレス耐性や適応力、回復力を高める意識を常に持つことができ、心の健康が維持しやすくなるでしょう。
レジリエンスを高める方法とは
レジリエンスは後天的に伸ばすことができる能力です。日々、努力することで高めていくことができます。では、レジリエンスを高めるために、どのような方法があるのでしょうか。
自分の思考の傾向を理解する
たとえば「最初がうまくいかなかったら、次も失敗する」など悪い事象を拡大して考える傾向や、「あの人は私のことが嫌いだから、うまくコミュニケーションがとれない」と根拠なく思いこむ傾向など、人にはそれぞれおちいりがちな否定的な思考のパターンがあります。自分はどのような思考のパターンにおちいりやすいのか、過去どのようなときに成功して、どのようなときに失敗しているのかを把握し、否定的な思考の傾向から抜け出すことが大切です。
自尊感情を高める
他人と比較することなく、ありのままの自分を理解し自尊感情を高めましょう。強みはもちろん、弱みも自分らしさだと捉えることがレジリエンスを高めることにつながるでしょう。また些細なことでも構いませんので、日々「この作業を何時までに終わらせる」など目標を設定しクリアする多くの成功体験を積むことも、自尊感情を高める方法の一つです。
身近なロールモデルを設定する
レジリエンスを高めるために、頭では理解できても実際にどのように考え行動するべきかなかなかイメージできない方は、身近にロールモデルとなる人を見つけましょう。まず真似をしていくことで、考え方や行動を変えていく第一歩となります。
ABCDE理論の活用
ABCDE理論とは、臨床心理の権威であるアメリカのアルバート・エリス博士が提唱した認知療法の一つです。思考パターンを否定的な捉え方から肯定的なものに変える感情コントロールの心理療法で、ABC理論ともよばれます。A(Activating Event)への、考え方や受け取り方B(Belief)により、C(Consequence)感情や行動が起こります。考え方Bが否定的であれば、落ち込んだり不安になったりします。そこで非合理的なBに反論するD(Dispute)を用い客観的な反論を行い、DによるE(Effect)効果が生まれるというもの。この理論を活用することで、思考パターンを肯定的なものに変え、自分の感情をコントロールできるようになります。
レジリエンスを高める職場づくり
最後にレジリエンスの強い組織づくりをするポイントについて、考えてみたいと思います。
個人のレジリエンスを高める
一人ひとりがレジリエンスを身につけ、高めていけば自ずと強い組織になります。組織として一人ひとりがレジリエンスを高める手助けをすれば、危機管理に強い組織として機能していくでしょう。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズをはじめレジリエンス研修を行っている企業もあるため、取り入れてみるのも一つの方法ではないでしょうか。
参考:リクルートマネジメントソリューションズ
「レジリエンス入門~ストレスと上手に付き合い、しなやかに乗り越える~」
企業文化を醸成する
レジリエンスを身につけ、自立した社員が連携を強めていくためには、企業としての方向性やマーケットに提供できる価値などを含めた企業文化を、全社員が共有することが必要となってきます。そうすることで社内に一体感が生まれ、会社全体として変化に対応し、危機に直面しても立ち直れる組織になるでしょう。
失敗を恐れず安心してチャレンジできる風土をつくる
失敗したことを責めるのではなく失敗をもとに、再チャレンジできる環境の基盤をつくり、失敗から学べるような環境づくりが必要だと考えられます。自社で働く従業員一人ひとりが気兼ねなく発言でき、自然体でいられる環境をつくっていくことも大切です。
上司に相談をしやすい環境をつくる
部下が上司に相談をしやすい環境をつくることが大切です。そのためには、部下が困ったときに相談をしやすいような工夫をしておきましょう。
たとえば次のような工夫が考えられます。
・フリーアドレスのオフィスにする
・コミュニケーションの場をつくる
レジリエンスを身につけることは、ビジネスのあらゆる場面で役立つほか、自分自身の人生を豊かに過ごすことにつながると思います。ぜひ、取り組んでみてはいかがでしょうか。