目次
年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、社員が取得することができる休暇のうち、その名のとおり「有給」で休むことができる日のことです。一般的には、「有給休暇」や「有給」「有休」などと略した名称でよく知られています。
年次有給休暇は、日々の会社勤務に追われる社員に心身をリフレッシュさせる目的で定められている国の制度です。しかし、実際は通院や育児など、取得の理由は問わず、会社で勤務する社員に一定要件をもとに算出された日数分が付与されます。
なお、付与された日数分については、社員側に取得する「権利」があるため、原則として会社側は社員の有給休暇取得希望を拒んではいけません。
年5日は取得させる義務がある
年次有給休暇は勤続年数に応じて付与されます。原則として、入社半年後の社員には10日が、その後1年が経過するごとに1~2日ずつ増加した日数分が付与され、最終的には毎年20日が与えられることになります。
なお、2019年に働き方改革関連法が施行されたことで、年間で10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者には、そのうち5日分については、会社側が取得させることが義務づけられています。
日本の有給取得率
令和2年度の年次有給休暇の取得率は56.6%で、国が提唱するワーク・ライフ・バランスや働き方改革などの流れもあり、1984年以降過去最高の数値となっています。
参考:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」(2021年11月9日)
しかし、世界と比較すると依然として低水準であり、政府が打ち出している「年次有給休暇の取得率70%」までにはまだ発展途上であることがわかります。
欧米諸国ではバカンスの習慣などが根付いており、取得率100%の国がある一方で、日本では自身が休んだ場合の同僚への影響や仕事の負担、取得を言い出せない職場環境などを憂慮し、取得をためらうケースが少なくないようです。
有給休暇が発生する条件とタイミング
年次有給休暇は、正社員やパートタイマー・アルバイト、契約社員、嘱託社員などの雇用形態を問わず、一定要件を満たした労働者に対し、一定のタイミングごとに付与されます。
発生する条件
年次有給休暇は、以下の2つの要素の条件をともに満たした場合に発生します。
1)雇用開始より半年が経過する
2)期間内すべての労働日のうち、8割以上を出勤する
この要件からも、年次有給休暇が入社後一定期間を経過し、その間にきちんと就労している者に与えられるものであることが分かると思います。
タイミング
年次有給休暇が社員に初めて付与されるタイミングは、前述の要件1)の「雇用開始より半年が経過した」時点になります。ここで与えられる日数は「10日」です。
その後は、勤続期間に応じて以下のタイミングで一定日数が付与されることになります。詳しくは次項目で説明をしましょう。
有給休暇の付与日数の計算方法
この項目では、先ほど説明した年次有給休暇の発生要件とタイミングに応じて、実際に社員の年次有給休暇を算出する方法を解説します。
正社員の場合
正社員の場合、付与日数とタイミングは以下のとおりです。
なお、この場合の正社員とは、「1週間あたりの所定労働時間が30時間以上で、所定労働日数が5日以上また1年間あたりの所定労働日数が217日以上である労働者」をいいます。
たとえば、2020年4月1日付で入社した正社員の場合、2022年10月の時点では継続勤務期間がちょうど2年6カ月となります。上記の数値と照らし合わせると、付与日数は12日です。つまり、2022年10月を迎えた時点で、この正社員は12日分の年次有給休暇の取得権利を得ることになります。
パート・アルバイトの場合
パート・アルバイトは、一般的に正社員より短い所定労働日数や所定労働時間で就労をする者を指します。具体的には、「1週間あたりの所定労働日数が4日以下で、かつ1週間あたりの所定労働時間が30時間未満の労働者」のことです。したがって、年次有給休暇の付与日数は、正社員のケースとは異なり「比例付与」という制度を用いて算出されます。
たとえば、2020年4月1日付で、週に3日勤務として入社したパートタイマーの場合、2022年10月の時点では先ほどの正社員のケースと同じく継続勤務期間が2年6カ月となります。この場合の数値を比例付与用の数値と照らし合わせると、付与日数は6日です。つまり、2022年10月を迎えた時点で、このパートタイマーは6日分の年次有給休暇の取得権利を得ることになります。
半日休暇(半休)や時間単位の年休取得の対応方法
年次有給休暇は、社員の心身回復を目的としていることもあり、原則として一日単位での取得として扱われています。しかし、社員自身が希望し、会社側が認めた場合は、半日単位での休暇(半休)が認められます。午前中のみ通院のため休むケースや、午後から介護のため早く帰る必要があるケースなど、時間に柔軟性をもたせた働き方が可能になります。なお、半日単位の年次有給休暇については、労使協定の締結は必要なく、労使協定なしで取得をすることができる制度です。
一方、時間単位での年次有給休暇については、依然として休暇の取得率が伸び悩んでいるという状況を受け、誕生した制度です。社員の心身回復という本来の年次有給休暇取得の目的とは乖離しているものの、家庭生活と仕事生活の両立を図るための一環として設けられた制度であるともいえるでしょう。
なお、時間単位の年次有給休暇制度を導入するためには、半日単位の場合とは異なり、労使協定の締結が必要である点にも注意が必要です。
※労使協定に関しては、以下の記事をご参照ください
労使協定とは?届け出が必要な書類と違反しないための対策について解説
有給休暇分の給与の計算方法
社員の年次有給休暇取得日における給与は、「平均賃金」「時間給や日給など、通常どおり就労した際に受け取ることができる賃金」「標準報酬日額」のいずれかの方法により算出された金額が支払われます。支払形態ごとの給与計算方法は、以下のとおりです。
①平均賃金
3カ月間の賃金総額÷3カ月間の総日数(土日を含む歴日数)
②時間給や日給など、通常どおり就労した際に受け取ることができる賃金
月給制の場合:月給賃金÷当月の所定労働日数
日給制の場合:日給賃金
時給制の場合:時給単価×所定労働時間
週給制の場合:週給賃金÷その週の所定労働日数
③標準報酬日額
標準報酬月額÷30日
標準報酬月額とは、健康保険料の金額を容易に計算するために、実際の給与額を当てはめた表により算出される金額のことです。
有給休暇を取得させる方法
社員に年次有給休暇を取得してもらうためには、取得しやすい環境づくりが大切です。以下にその例をご紹介します。
年次有給休暇制度の整備
労使協定を交わし時間単位での年次有給休暇を取得できる制度を導入することで、社員がより気軽に短時間の休暇を取ることが可能となり、年次有給休暇取得の選択肢が増加します。
休暇取得をしやすい環境づくり
社員が安心して休めるようにするには、経営者、社員がともに年次有給休暇制度に関する正しい理解を進めることが必要です。なぜ年次有給休暇制度が国から義務づけられているのか、有給休暇を取得しなかった場合はどうなるか、リフレッシュがないまま働き続けることにはどのような危険性が潜んでいるのかを研修や会議などで話し合い、互いに理解し合うことが重要です。
業務フローの整備
社員が年次有給休暇を取得した場合、その社員が休んでいる期間の業務については、出社している人たちでカバーすることになります。つまり「特定の人以外には進めることができない」仕事が存在する場合、その特定業務に従事する社員は休暇を取得することに躊躇いを感じる可能性があるでしょう。
このような状況を防ぐため、業務内容を洗い出した上で、誰かが休みを取った場合でも周りの者でカバーできるような体制を築きあげる必要があります。
ジョブローテーションや他部署間での連携など、部署を超えた社員の交流が頻繁に行われていれば、いざというときには連携を取ることができるため、業務フロー、マニュアルの整備や公開も含めて対応を検討する余地があるでしょう。
有給休暇の管理方法
2019年に労働基準法施行規則が改正され、各企業では「年次有給休暇管理簿」を作成し、社員ごとの年次有給休暇の状況を管理することが義務づけられました。
この管理簿では、次の3種類の内容を社員ごとに記載する必要があります。
① 社員に年次有給休暇を付与した日
② 基準日から1年間のうち、社員が消化した年次有給休暇日数
③ 年次有給休暇の取得日
なお、法律で定められている記載が必要な年次有給休暇の取得日については、全日、半日単位の年次有給休暇が対象となり、時間単位での年次有給休暇取得状況は対象外となります。また、作成した年次有給休暇管理簿は、3年間の保存が義務づけられている点についてもあわせて覚えておきましょう。
有給休暇を管理する上での注意点
年次有給休暇の管理において重要となるのは、「基準日をいつにするのか」という点です。基準日とは、会社が社員に年次有給休暇を与える日のことで、社員に与えられた年次有給休暇は基準日以降から2年間の間に取得権利が生じます。経験入社社員が多い会社の場合、社員の入社日ごとに基準日を設定すると、社員ごとに基準日が異なるという事態が生じ、管理に時間と労力を要することになります。
ここで有効となるのが、「基準日を一定期日で統一すること」です。基準日を全社員で統一すれば、基準日ごとに新たに社員の勤続年数に応じた年次有給休暇を付与すれば足りることになるため、管理が容易になります。ただし、基準日はあくまでも「前倒し」で付与しなければならないものであり、後にずらすことは法律違反となりますので注意しましょう。
年次有給休暇は社員の勤続年数や雇用形態によって異なるため、きちんとした管理が必須です。まずは社内体制を洗い出し、勤怠管理システムなどの導入も含めて管理体制を整えてみてはいかがでしょうか。
※勤怠管理などの人事システムに関しては、以下の記事をご参照ください
人事システムとは?機能や種類など基礎情報をわかりやすく紹介