目次
OKRとは
OKRとは、挑戦的な目的を達成するために用いる、目標設定・目標管理のフレームワークです。また、OKRはObjectives and Key Resultsの頭文字を取った言葉であり、Objectives(目的)とKey Results(主要な結果)を設定することで、組織や個人が目指したいゴールや達成度合いの測定を明確にしています。
OKRの特徴
OKRの特徴は、その開発原点に戻るとよく理解できると思います。
1970年代後半、英国インテルコーポレーションがシェア挽回をかけ、従業員の半数を動員する「クラッシュ作戦」を展開しました。製品を改良するのでなく、主力製品の性能の優位性を示す指標を開発して公表するというマーケティングに特化し、数年後には市場を制することができました。このとき開発・活用されたのがOKRといわれています。
参考:ジョン・ドーア「Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR」(日本経済新聞出版)
OKRが他の管理方法と明確に違うところは、「ストレッチ」な目標に挑戦するところにあります。ストレッチな目標とは、つまり、少し努力すれば達成可能な目標でなく、大胆な挑戦をしないと達成できないような目標を設定することです。
変化の激しいビジネス環境において、従来の延長線上の活動に留まらず、各個人がよりチャレンジする場を設け、各個人のパフォーマンスをいかんなく発揮させるというところに、OKRの大きな特徴があるといえると思います。
OKRの基本
OKRは、ひとつのObjectivesに対して3~5つ程度のKey Resultsを設定するという構造をしています。また、企業全体のOKR、部署・チームのOKR、個人のOKR…と同じフレームで組織内のすべての単位の目標を設定・管理しており、企業全体で目指す方向性から個人の目標まで一貫性を持たせやすいのも特徴です。
OKRの基本構造を図1に示します。
Objectives
OKRの特徴で説明したように、Objectivesには、野心的・挑戦的な目標を掲げます。会社や事業・サービス全体のObjectivesであれば、「○○な世の中を実現する」「○○で人々の暮らしを便利にする」といったミッション・ビジョンに近い目標でも良いでしょう。後述するKey Resultsが補ってくれるため、Objectivesは抽象度の高い言葉で表現された目標でも問題ありません。シンプル・明確かつ高い目標を設定することは、組織で働く人たちの共感性を高めモチベーションを向上させる効果もあります。
Key Results
Key Resultsは、Objectivesを達成するための計測指標と捉えると分かりやすいです。たとえば「商品のファンを拡大する」というObjectivesを設定した場合、「新規ユーザー数を○○○人獲得する」、「リピート数を○倍にする」、「ブランド認知度を○○ポイント上げる」といったKey Resultsを設け、この達成度合いを計測することでObjectivesが実現できたかどうかを評価することができます。従って、Key Resultsは数値で測れる定量的なものに落とし込む必要があります。OKRを導入してもKey Resultsが定量化されていなければ、経験を学びに変えることができず、次のステップへとつながりません。
進捗度
Key Resultsに対する進捗を定量的に確認します。それによって、自分たちが目標に対しどれほど進んだのかを把握することができます。活動を活性化させるためには重要な指標となります。
進捗とそれまでに得られた経験を連携させ考察することで、経験が学びに変わります。そしてその学びの質を高めることこそが、ストレッチ目標により近づくためのキーとなります。
また状況をチーム内で共有できればメンバー同士による協力が活発化し、成果も出やすくなるでしょう。
ストレッチ目標に対し、進捗度60~70%という結果が出る程度が良いとされています(その理由については後述します)。
自信度
設定したKey Resultsを達成する自信度のことで、自己申告指標となります。実現が不可能と思われれば自信度0ですし、完全に達成できる自信のある場合は自信度10となります。
自信度0では達成が不可能な目標なので、閉塞感を感じモチベーションが上がりませんし、自信度10ではたやすく到達できてしまい成長が期待できません。
かなりの努力や発想の転換が必要とされる程度の自信度5~6程度が良いとされます。
自信度はある程度、感覚的なものとなってしまうため、定期的にチーム全員で自信度を確認し、適宜調整することも大切です。自信度が低くなりすぎれば真因を分析し、働き方やKey Resultsの再検討を行います。また自信度が高くなりすぎればKey Resultsを引き上げ、目標が上司(経営層)の都合をメンバーに押し付ける形にならないように注意します。
OKR以外のKPIやMBOとの違い
OKRは目標の設定・管理・運用に用いられるフレームワークであり、同じように活用されているKPIやMBOと混同されることも多いです。しかし、それぞれには明確な違いがあり、目的・用途に応じて導入するのが適切でしょう。
KPIは、目標達成のための中間指標
KPIとは、Key Performance Indicatorの略語です。たとえばある営業組織が売上を上げたいとき、顧客の訪問件数や商談件数を増やすことが売上に直結するとすれば、メンバーの訪問件数や商談件数に注目してマネジメントすることが効果的です。このように、KPIはある最終目標(KGI)を実現させるために追いかける中間指標です。KPIを達成することはあくまでもプロセスでありゴールではありません。
※KPI・KGIについては、下記の記事をご参照ください。
・採用成功にはKPIが重要!立て方・目標設定・運用方法を紹介
クローズドになりやすいMBOと、オープンに共有されるOKR
MBO(Management By Objectives)は経営学者として有名なピーター・ドラッカーによって提唱されたマネジメントの手法であり、OKRよりも歴史があります。MBOの目的は、業務管理や生産性向上。そして、人事評価のフレームとして長く用いられてきました。そのため、特にMBOが個人の目標設定・管理に活用される場合、設定される中身は人事情報として扱われる場合が多く、本人と上司および人事にしか共有されないことがほとんどでした。
こうしたMBOの特徴を踏まえて誕生したのがOKRです。OKRの主目的は業務管理や生産性向上よりも、会社と従業員が同じ目標を共有しモチベーション高くチャレンジしていくことにあり、人事評価とは切り離して運用することが推奨されています。そのため、企業全体で設定しているOKRの内容に社内の誰もがアクセスできることはもちろん、オープンに共有しやすいことがMBOとの大きな違いです。
参考までにKPI、OKR、MBO、の特徴を表に示しました。
OKRのメリット・効果
個人の仕事と企業が目指す目標との連動性を持たせやすい
企業全体のOKRを実現するために部門のOKRがあり、部門のOKRに連動する形で個人のOKRが設定される、というのがOKRの運用の特徴です。そのように設定された全体像が社内でオープンにされるため、自分が日々取り組んでいる仕事が、組織や企業全体にとってどのような意味があるのかを理解しやすくなります。従業員のエンゲージメントが向上し、モチベーション高く仕事に向き合える効果があります。
社内コミュニケーションが濃密になる
会社全体でそれぞれのOKRがオープンになることで、どの部署・どのプロジェクト・誰がどのような仕事をしているのか、どれくらい成果が出ているか・頑張っているかが見えやすくなります。それぞれの動きが分かるからこそお互い刺激し合うことにも繋がり、従業員同士で連携するようなコミュニケーションも活発になりやすいといわれています。
挑戦的な目標を掲げやすい
OKRは人事評価を主な目的とはしていません。人事評価と切り離して運用することを前提に誕生した手法であり、失敗して評価が下がることを恐れることなく野心的な目標にチャレンジしやすいという特徴があります。また、OKRの達成基準は100%ではなく60~70%で達成とみなすのも特徴です。そのため、掲げる目標には「簡単には達成できないけれど、頑張れば実現も夢ではない」ものを設定することになり、この絶妙なバランスが従業員の意欲を高めてくれます。
OKRの導入事例
近年、国内でもOKRの導入が活発化しています。歴史の古い大企業でも積極的に導入する事例が出てきています。
事例①花王株式会社
比較的最近、全社でOKRを導入した大企業の事例として花王があります。
人事評価と直決させないと言われているOKRを人事評価と関連させ導入したことが大きな特徴と言えるでしょう。2020年12月にスタートした中期経営計画の方針に「①持続的社会に欠かせない企業になる」、「②投資して強くなる事業への変革」、「③社員活力の最大化」を掲げ、2021年1月に社員と組織を活性化するための代表的な取り組みとして導入したのが、OKRでした。
花王グループOKRのポイントは
1.夢は大きく、大胆にチャレンジ
・頑張れば6~7割達成できるような、ワクワクする高く挑戦的な目標を社員自ら設定
・目標は、「事業貢献」 「ESG」 「One team & My Dream」の3つの観点からそれぞれ考える
2.想いがつながり、大きなちからになる
・自身が掲げた挑戦的な目標とそれに向けた取り組みについて、上司や同僚と共有・対話し、チャレンジをたたえ合うことを大切にする
・社員個々のOKRは社内公開されており、所属する部署や担当する職種の枠を超えて、同じ夢や目標を持つ社員同士がつながることができる
とされています。
事例②freee株式会社
会社設立10年のfreeeでは、社内の自律的なムーブメントでOKRの活用を推進してきました。
過去には、社内チーム横断で生まれた「OKR進め隊」という有志の集まりも推進に一役買い、今では全社で活用されています。
OKRを使って方向性を揃え、「なぜ取り組むのか」という目的を共有し、そして重要な点にフォーカスすることで、エネルギーを集中でき、メンバーの自律的な動きを加速できているのは大きなメリットとなっています。
参考:金融事業の代表が、全社規模のOKRスキル向上に本気で取り組むワケ~freee finance lab特集 vol.3~
OKRの導入方法
OKRを導入する際のステップの一例をご紹介します。
ステップ1:会社のミッションとビジョンをはっきりさせる
ステップ2:会社のOKRを設定する
ステップ3:チームのOKRを設定する
ステップ4:個人OKRを設定する
ステップ5:OKRを共有する
ステップ6:フィードバックの実施
ステップ7:振り返りを行い、改善する
ステップ1:会社のミッションとビジョンをはっきりさせる
ミッションとは、「会社が成し遂げたい目標」や「会社が果たすべき使命」、「社会における会社の存在意義」などを指します。そしてビジョンとは、将来在りたい会社の姿を意味します。
経営陣だけがわかる言葉ではなく、従業員のだれが見ても理解できるものが望ましく、従業員がワクワクできるようなミッション、ビジョンが良いとされています。
ステップ2:会社のOKRを設定する
ミッションとビジョンに基づいて、会社全体の四半期のOKRを決めます。
次の四半期で会社全体がどのような姿・状態になりたいかをObjective(定性目標)として設定します。
Objectiveの設定が出来たら、その定性目標を達成できるために必要な主要な成果(定量目標)を3~5個程度に絞ってKey Resultsとして設定します。
ステップ3:チームのOKRを設定する
ステップ2と同様に、チームのOKRを設定していきます。他のチームの協力を得ないと達成が難しい目標がある場合は、他のチームと連携、相談して定量目標を設定します。
ステップ4:個人OKRを設定する
ステップ2、ステップ3と同様に、個人のOKRを設定します。企業によっては、チームOKRまでの設定にとどめる場合もあります。
経営陣が意志をもって目標を決め、率先して行動することで、従業員の理解も進み、大きな組織をも動かす力になります。
ステップ5:OKRを共有する
社内または組織全体にOKRを共有します。情報をガラス張りにし、相談や助け合いがしやすい環境を作ります。ITをうまく活用するのもよいでしょう。
ステップ6:フィードバックの実施
進捗度を共有し、フィードバックを行います。その場合にはミーティングの場などで一緒に改善案を検討するなど、単に結果のフィードバックだけで終わらないことが大切です。
ステップ7:振り返りを行い、改善する
最後に必ず振り返りを行います。目標が高すぎなかったか、逆に低すぎなかったか、どう改善すればより目標に近づけられるかなど、次の目標に向けチャレンジするための方策を検討します。
OKRを導入するときのポイント
OKRを導入する際に留意したいポイントとして、ここでは3つ取り上げてご紹介します。
1.ミッション・ビジョンに基づいたOKRを設定する
前述したように、OKRではミッションとビジョンを明確にすることが大切です。ミッション、ビジョンは理解しやすい明確な表現で、従業員が希望を感じられるワクワクするようなものであることが必要です。
2.トップダウンだけでなく、ボトムアップの意見も取り入れる
OKRは企業全体の目標から個人目標までを連動させるものですが、トップダウンで決められた目標を降ろしていくだけでは、本来の目的である「意欲・モチベーションの向上」が実現しづらくなってしまいます。
そのため、従業員個人の意思やアイデアを取り入れつつ設定をしていくことが効果的です。たとえば企業全体のOKRは経営層が設定したとしても、各組織・個人のOKR設定はそれぞれに委ね、企業全体のOKRが実現するために自分(自組織)は何をすべきかと考えてもらうようにしましょう。
3.OKRを評価制度と結びつける場合は、OKRのプロセスを評価する
OKRは評価指標と直結しないようにすることが推奨されていますが、評価制度として導入している企業では、OKRの結果ではなく、OKRに取り組んだプロセスを評価対象にするという工夫をしています。
もしOKRの結果そのものを評価対象にしてしまうと、目標はストレッチした目標ですから、目標達成することが難しくなりモチベーションの維持が難しくなることや、成功体験を積めず成長が阻害されるというデメリットが発生する可能性があります。
OKRの運用方法
進捗状況の迅速な共有&フィードバック
Key Resultsがいつの間にかObjectives化していないか
運用上注意をしなければならないのは、いわゆる「手段が目的化する」状態です。Key ResultsはあくまでもObjectivesの実現度合いを測るための指標であり、目標を実現しようと動いた結果として積み上げられた実績です。定量的な数値を追いかけるあまり進むべき方向を見失わないように、定期的な振り返りの中でObjectivesとのズレがないかを確認するようにしましょう。
OKRを効果的に運用するポイント
失敗しないための運用方法のポイントとして、ここでは以下の3点を挙げたいと思います。
1.OKR導入の目的をはっきりさせる、経営者だけで決定しない
2.高めのチャレンジングな目標を設定した上で、コミュニケーションを透明化させる
3.習慣化させる(継続的に改善する)
1.OKR導入の目的をはっきりさせる、経営者だけで決定しない
会社としてのビジョンや目標を決めるのは経営陣です。しかし、会社は「一人ひとりの社員」によって成り立っています。個人個人の意見を無視してしまえば、ベクトルが一方向に定まらず、反発すら起こることもあるでしょう。
そのため、OKRを決める際は「従業員」の視点でも検討しておくことが大切です。
2.高めのチャレンジングな目標を設定した上で、コミュニケーションを透明化させる
高めでチャレンジングな目標を設定することで、社員・会社の成長スピードも早くなるでしょう。会社として大きくなるためにも、「達成できるかできないかわからない。でも頑張れが達成できるかも」といった高いストレッチな目標を設定することが大切です。
また、高い目標に取り組むわけですから、個人個人が孤立してしまうことなく、プロセスを透明化し共有して、単に個人としてだけでなく、チームとして目標に向かってチャレンジできる環境を整えることも大切です。
3.習慣化させる(継続的に改善する)
継続的にチャレンジ、フォローすることで、体験を学びに変え、より高い目標にチャレンジし続けることが出来るように習慣化することも大切なポイントです。そのために、全社で単一ルール化するのではなく組織やチームによって裁量を持たせて、継続しやすい制度としたり、情報システムによるフォローで進捗率の把握を簡易化したり、より密にコミュニケーションしやすい環境を構築したりといった工夫をしている企業もあるようです。
従業員一人一人がストレッチした目標に向かって挑戦し続けられる環境を作るには、従来のように目標設定やその運用手法を工夫するだけでは難しい部分も出てきており、そのためOKRの導入に挑戦する企業も増えてきていると考えられます。
従業員の能力やマインドを刺激して、ストレッチした目標に挑戦し、できるだけ高い創造性を発揮してもらうには、理解しやすい明確な表現で従業員が希望を感じられワクワクするような「ミッション」や「ビジョン」は不可欠です。
OKR導入に当たって、まず自社のミッション、ビジョンを見直してみるところから始めてみるのもよいかもしれません。