目次
採用とは
採用とは、「組織として活動するために必要な人材を、外部から調達する」ことです。自社の要件を満たす人材を必要な人数確保するための活動だといえるでしょう。
従来は、ハローワークや求人広告などによって応募者を募ったり、人材紹介会社を通じて候補者を紹介してもらうなどしたのち、面接や試験を実施して自社の要件を満たす人材を選抜し、入社に至るのが一般的でした。近年ではこうした手法以外にも、従業員の紹介を活用するリファラル採用や、求職者に直接アプローチするダイレクトリクルーティング、SNSを活用した採用活動など、従来の枠にとらわれない採用手法も普及してきています。
今後、人口の減少にともなう労働力不足によって、採用に関する企業間競争が活発になることが確実視されています。こうした背景から、採用に関して「ターゲットを明確にして効果的なアプローチを行い、確実に入社してもらうための道筋を設定する」といった、戦略的な対応が求められるようになると想定されます。
採用する意味とは
採用を行うにあたっては、いくつか企業として考えておくべきことがあります。
以下で、精査することで企業の採用力の向上につながる項目の例を紹介します。
採用する目的の明確化
採用には、たとえば以下のような目的があります。
退職者の補充を行う
業務の一部に欠員(退職者)が生じ、残った人員でのカバーが困難な場合、必要な人材の補充を目的に新たな人材を採用します。
恒常的な人員不足を解消し生産性を向上させる
特に中小企業などでは、恒常的な人員不足によって働き方改革が進まないといった場合があります。こうした状況は従業員のモチベーションを低下させ、最終的に企業全体の生産性を低下させる恐れがあります。こうした恒常的な人員不足を解消するため採用を行います。
会社や組織が直面する課題を解消する
営業力が弱い、社内のマネジメント体制が脆弱であるといった課題は、企業にとって経営上の阻害要因となっている場合があります。こうした課題を解決するため、課題に対処できるスキルのある人材の採用を行い、経営の改善につなげていきます。
新しい事業や業務の遂行体制を整える
企業は環境変化に対応するためにも、新しい事業や新しい業務に取り組みます。こういった場合、新しい事業や業務の遂行体制を整える必要があります。
企業は、こうした新しい体制に対応できる人材を必要に応じて採用します。
求めている人材の明確化
採用を行う前に、求める人材の要件を明確化しておくことが重要です。
求める人材と実際に採用した人材にミスマッチがあると、「採用を行ったが、目的が実現されない」といった事態を招きます。また再度採用を行う場合には余分な手間やコストが発生してしまいます。
たとえば以下のような要件を明確化するとよいでしょう。
スキルや能力、業務経験
スキルや能力、業務経験は、人材を判断する客観的な基準になります。具体的には、こうした項目を基にその人材に対して「必要な業務において求めている成果を出せるだろう」という期待を持つことができます。
そのため、現時点で自社が必要としているスキルや能力、業務経験といった要件を明確にすることは、適切な人材の採用につながり、採用後に必要な成果を実現する可能性を高めることができます。
業務における考え方や価値観
自社の社風に合う業務における考え方や価値観を明確化し、その要件に見合った人材を採用することによって、採用した人材が組織に溶け込みやすくなり、定着する可能性が高まります。
人材の適性
業務の内容によっては、慎重さ、正確さ、社交性などといった特定の適性を求められることがあります。
そうした業務に関する採用を行う際には、配置する人材が持つ適性として望ましい要件を明確にすることが大切です。
採用する前に検討することの列挙
採用を行うということは、新しく人を社内に迎え入れ業務に配置するということです。
そのため、採用によって社内の雰囲気が変化し、人間関係などに関する新たな課題が生じることがあります。また、従業員数が増えることで、企業が負担する人件費コストも増加します。
そのため、最終的な採用決定を行う前に、以下のような点ついて検討することが望ましいといえます。
このタイミングで採用を行うべきなのか
新たな人材の確保が必要だという結論に至った場合であっても、最適なタイミングで採用を行う必要があります。
雇用形態が適切か
雇用形態には、正社員、パートタイマーなどの非正社員、派遣社員、業務委託などのさまざまなものがあります。雇用に対するコストやリスクについて検討しながら、適切な雇用形態を検討することが大切です。
新卒採用と中途採用の違い
新卒採用と中途採用では、「採用の対象」「採用の時期」「採用の基準」「入社の時期」「給与の決め方」といった要件に関して相違点がある場合があります。
採用の対象
新卒採用は、社会人経験のない人材を対象としています。
一方、中途採用は、社会人経験のある人材を対象としたものです。
社会人経験とは、企業への勤務や事業の経営などにより仕事に従事することが本業である生活を過ごした経験を指します。
採用の時期
新卒採用は、学校の卒業に合わせた特定の時期に一括採用することが一般的です。
一方、中途採用は、人員の確保が必要となったときに都度必要な人数だけを確保する、不定期採用の形で行われることが一般的です。
採用の基準
新卒採用は入社後の育成を前提に、将来的な戦力として期待できることを採用の基準とすることが一般的です。
一方、中途採用においては一般的に、すでに得ているスキルや業務経験を活かして即戦力となる期待を持てることが採用の基準となります。
入社の時期
新卒採用は、学校卒業直後の時期に入社することが一般的です。そのため、採用を決定してから入社するまでの期間が長くなります。
一方、中途採用は、採用決定後、比較的短期間の間に入社することが一般的です。
入社時の給与の決め方
新卒採用は、自社の初任給基準に合わせて一律同額で入社時の給与を決定することが一般的です。
初任給の基準は、世間相場を勘案して決定されることが通常です。
一方、中途採用は、採用する人のスキルや業務経験に応じて柔軟に入社時の給与を決定します。
そのため、既存の従業員に支給している給与額との間で整合性が保てなくなるリスクが生じる可能性があります。
新卒採用・中途採用のメリット・デメリット
新卒採用・中途採用には、それぞれ以下のようなメリット・デメリットがあります。
新卒採用のメリット
新卒採用には、例として以下のようなメリットが挙げられます。
自社の社風になじませやすい
新卒採用者は社会人経験がないため、働くことに関する価値観が確立されていない場合が多く、自社の社風になじませやすくなります。
時間をかけて育成できる
新卒採用者は育成することを前提に採用するため、時間をかけながら着実に育てることができます。
従業員の多様性を保ちやすくなる
定期的に新卒採用を行うことで従業員の多様性を保ちやすくなり、そうした多様性を活かした経営も行いやすくなります。
新卒採用のデメリット
新卒採用には、例として以下のようなデメリットもあります。
採用にかける時間が長くなる
新卒採用を行う場合、会社説明会や内定式、入社前研修といった採用に関するイベントに加えて、応募者が多いことで面談回数も増えるため、採用にかける時間が長くなります。
基礎から教える必要がある
新卒採用者は社会人経験がないため、社会人としてのマナーなど、働くことに関する基礎から教える必要があります。
採用後のミスマッチが発生するリスクが高い
本人の持つポテンシャルが未知数であるため、採用後のミスマッチが発生するリスクが高くなります。
中途採用のメリット
中途採用には、例として以下のようなメリットがあります。
即戦力を期待できる
中途採用は企業が求めるスキルや業務経験を有する人材を採用することが前提であるため、入社後短期間で戦力化することが期待できます。
入社後の教育コストが少なく済む
中途採用者には社会人経験があり、社会人としてのマナーなどの基礎的なことを教育する必要がなく、その分入社後の教育コストが少なく済みます。
採用にかける時間が短くて済む
中途採用は都度の対応であるため説明会や式典などの合同的なイベントを行う必要がない場合が多く、応募者の数も限定的であり面接に要する時間も少ないため、採用にかける時間が短く済みます。
中途採用のデメリット
中途採用には、例として以下のようなデメリットもあります。
自社の社風になじめない場合がある
中途採用者は一定の社会人経験があるため、働くことに関する独自のやり方やこだわりを持っている人もおり、自社の社風になじめない場合があります。
採用後のミスマッチが発生した場合のダメージが大きい
中途採用者は即戦力を前提として採用するため、採用後のミスマッチが発生した場合リカバリーすることが難しく、一般的に新卒採用者よりも高い給与で採用することも相まって、企業に大きなダメージを与えてしまいます。
転職されてしまうリスクがある
中途採用者には転職することへの抵抗感が少ない人もいるため、採用後すぐに転職されてしまうリスクがあります。
新卒採用で大事なこと
新卒採用で大事なことの例として、「採用基準を明確にすること」「就職差別をしないこと」があげられます。この2点について以下で解説します。
採用基準を明確にすること
新卒採用の場合、将来性を感じさせるポテンシャルがあるかどうかで自社にとって必要な人材なのかを判断することになります。
そのことを、面接や試験などを通じて行う必要がありますが、その際に採用基準を明確にすることが重要です。
たとえば、主体性の有無に関しての採用基準を設ける場合、「自らの考えで自発的に行動し、周囲に対して自らの意思を表した」といった経験についての説明を求めます。
そして、「自信をもって理路整然と説明できるか」を基準に判断するといったものです。
就職差別をしないこと
本籍・出生地、生活環境、宗教、支持政党、思想、購読新聞や雑誌などについて応募用紙に記入させたり面接で質問したりすることは、就職差別につながる恐れがあるとして法律で禁じられています。
本人の適性や能力を基準にした採用を行う必要があります。
中途採用で大事なこと
中途採用で大事なことの例として、「求めるスキルや業務経験を具体化すること」「入社後の労働条件等を具体的に説明すること」があげられます。この2点について以下で解説します。
求めるスキルや業務経験を具体化すること
中途採用には、即戦力となる人材の確保が求められます。そのため、求めるスキルや業務経験を具体化する必要があります。
「○○業務に必要なスキルや○○業務の経験を有している」などといった抽象的な基準を設定するのではなく、「○○業務に関して□□ができる程度のスキルや、□□レベルまでの経験を有している」という具体的な基準を設定するとよいでしょう。
入社後の労働条件等を具体的に説明すること
労働条件などに関する認識の相違によるトラブルを防止するために、採用前に、入社後の労働条件等を具体的に説明する必要があります。
説明すべき労働条件等とは、以下の13の項目になります。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(6)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
(7)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
(8)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(9)安全及び衛生に関する事項
(10)職業訓練に関する事項
(11)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(12)表彰及び制裁に関する事項
(13)休職に関する事項
引用:厚生労働省 労働基準 よくある質問「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」
採用は、自社の経営方針に基づいて行うことが望ましいです。
短期的に戦力を拡大することで成果を得たいという方針なら中途採用に力を入れ、中長期的に組織力を強化していきたいという方針なら新卒採用にも挑戦するというような対応です。
採用は、企業が成長を実現するための基盤となるものなのです。