目次
アセスメント採用とは
アセスメントとは、「調査に基づいた客観的な評価・査定・分析」という意味の言葉です。アセスメントにはさまざまな種類がありますが、本項目では採用活動に用いられる「アセスメント採用」について、下記3つの項目に分けて解説します。
- アセスメント採用とは何か
- なぜアセスメント採用が注目されているのか
- アセスメント採用をおすすめする企業の特徴
アセスメント採用とは何か
アセスメント採用とは、人材アセスメントを利用して応募者の適性を客観的に評価する採用手法です(本稿では人材アセスメントを利用した採用活動および採用に利用するアセスメント自体を「アセスメント採用」と呼称します)。面接や応募書類では見えない特徴や能力を数値化して客観的に評価することで、採用ミスマッチを防ぐことを目的としています。
採用ミスマッチについては、こちらもご覧ください。
なぜアセスメント採用が注目されているのか
アセスメント採用が注目される背景としては、以下の2つの要因があると考えられます。
●理由その1:中途採用の難度の高まり
株式会社リクルートの「企業の人材マネジメントに関する調査 2023 人材採用(中途採用・キャリア採用)編」(※)によると、直近1~2年で「採用が難しくなっている」と回答した企業は66.6%にものぼっています。
実際の状況については、「人手(必要な人数)が採用できているか」という質問には、「採用ができている」と回答したのは33.0%、反対にできていないが39.9%という結果になりました。全体の4割で、必要なだけの人材を採用できていないということになります。
採用には、人手(人数)の観点に加え、人材(スキル・経験)の観点も必要になります。人材の観点ではどうでしょうか。
「人材(必要なスキルや経験を持った人)が採用できているか」という質問には、「採用できている」25.9%、「採用できていない」は45.7%という結果になりました。採用できていない、が約半数に迫っており、人数以上に採用できていない実態が明らかになっています。
しかし、たとえ人材採用が難しくなっている環境下でも、企業では必要な採用人数の確保と、自社にマッチした人材を採用することの両方が求められます。そのため、採用活動をより効率的、かつ的確に行っていくことが大切となります。この観点において有効な手法として、人材の多面的・客観的な評価を行うことで、採用選考の効率化や精度を高めることのできるアセスメント採用が注目されてきているのです。
●理由その2:潜在的成長力や伸びしろを重視する中途採用の動向
アセスメント採用が注目されるもうひとつの理由として、中途採用において、これまでのスキルや経験だけではなく、「潜在的成長力や伸びしろ」を重視する取り組みが有効という結果が示唆されていることが挙げられます。
人材採用の難易度により、これまでとは人材採用のやり方や制度を変える必要性を感じはじめている企業は少なくないようです。同調査では、57.5%の企業が、「人材採用のやり方や制度を変える必要性を感じている」と回答しています。
また、見直しが必要な理由を尋ねたところ、最も多い回答は「これまでの方法では必要な人材を確保できないため」でした。
すでに採用の見直しに着手している企業に対して、すでに実施している項目を聞いたところ、最も実施率が高かったのは、「採用にあたっては、本人の潜在的成長力や伸びしろを重視している」という項目でした。
中途採用では、一般的に業務の経験・習熟度や即戦力という観点が重視されがちですが、社会も事業も変化のスピードが速い時代にあって、中途採用の人材に対しても、これまで重視してきた観点に加え、その人材が持つ潜在的な成長力に注目することで、採用の精度を高めていきたいと考える採用担当者が増えていることの現れともいえるでしょう。
一方で、潜在的成長力を面接担当者が見極めるのは、よほど熟練した担当者でも容易なことではありません。担当者が複数いる場合は、なおさら難しくなることでしょう。そこで、さまざまなアセスメントツールを活用することによって、潜在的な成長性や伸びしろについて、同じ基準で情報を得て、選考に役立てることよって、採用の精度を高め、より精緻に自社にあった人材の採用につなげることができると考えられるのです。
このような「潜在的成長力や伸びしろ」を判断する材料のひとつとして、面接や書類選考に加えて、アセスメント採用に注目が集まってきていると考えられます。
出典:株式会社リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査2023 人材採用(中途採用・キャリア採用)編」(2023年)
アセスメント採用の導入が有効な企業の特徴
アセスメント採用を導入することで効果が得られると考えられる企業の特徴としては、次の2つの特徴が挙げられます。
- 早期離職率が高い企業
- 採用ミスマッチが多い企業
早期離職率が高い企業は、新入社員の適性に合わない業務を任せたり、部署に配置したりしている可能性が高いと考えられます。そこで、アセスメント採用を導入することで新入社員の適性にマッチした配置を実現できるでしょう。また自分の能力を活かせる現場に配属されれば、やりがいを感じられたり、仕事への満足度が向上したりもするでしょう。結果的に「仕事が合わなかった」「イメージ通りの活躍ができなかった」といった理由での早期離職を防止できるでしょう。
また、採用ミスマッチが多い企業も、アセスメント採用を導入することで主観的な採否の決定からデータに基づいた客観的な採否の判断ができるようになるでしょう。これまで「面接での話し方の様子から営業に向いている」「前職でも高い成果を残しているため、自社でも活躍してくれるだろう」といった主観や思い込みだけで採用していたとしたら、採用ミスマッチが発生する可能性を減らすことは難しいかもしれません。
そこで、アセスメント採用を実施しデータを用いた客観的な評価を用いることで、面接担当者の主観に寄らない採用を実現できるでしょう。結果的に、採用ミスマッチも低減できると期待できます。
アセスメント採用 4つのメリット
ここでは、アセスメント採用に取り組む4つのメリットを解説します。
- 採用ミスマッチの低減が期待できる
- 隠れた人材を発見できる場合がある
- 職場への定着率向上が期待できる
- キャリア形成に役立つ
メリット1:採用ミスマッチの低減が期待できる
アセスメントを通して応募者の能力や資質を数値化することで、面接や応募書類だけでは分からない項目に関して客観的に評価することが可能になるため、採用ミスマッチの低減が期待できます。
メリット2:隠れた人材を発見できる場合がある
アセスメントを通して、スキルや経験ではなく応募者の特徴や潜在的な能力を数値化するため、従来の評価基準では見つけることのできなかった人材を発見できる可能性があります。
メリット3:職場への定着率向上が期待できる
アセスメントを通して、応募者の特徴や潜在的な能力を数値化して評価することで、応募者ぞれぞれの適性に合わせた人材配置をすることが可能になると考えられます。適切な人材配置によって、応募者に「仕事が合わない」といった不満が生まれにくくなり、職場への定着率の向上が期待できる可能性があります。
アセスメント採用 2つの注意点
アセスメント採用に取り組む場合、次の2つの注意点に留意しましょう。
- 追加の採用コストが発生する
- 採用担当者の負担が増大する可能性がある
注意点1:追加の採用コストが発生する
アセスメント採用に取り組む場合、アセスメントツールの導入費や外部機関への委託費など、新たな採用コストが発生する場合があります。1人あたりにかかる採用費がこれまでより高くなる可能性があります。
注意点2:採用担当者の負担が増大する可能性がある
採用担当者の負担が増大する可能性がある点にも注意が必要です。
アセスメント採用を導入するにあたっては、測定項目を検討した上で、その項目にふさわしいアセスメントツールを選定しなければなりません。採用担当者が取り組まなければならない業務が増えるため、採用担当者の負担も増大する可能性があります。
また外部に委託する場合でも、委託先の窓口となり、同時に社内の先導役を務める採用担当者には、相応の負担がかかることが想定されます。
特に採用担当者のマンパワーが不足している場合は、アセスメント採用を導入することで他の採用施策・戦略に注力できなくなってしまう懸念もあります。場合によっては、採用活動全体に影響を及ぼす懸念も否めません。採用担当者の負担やリソースも考慮することも大切です。
アセスメント採用導入の費用相場と導入事例
ここでは、中途採用のアセスメント採用で利用されることの多い、適性検査やスキル測定のシステム利用料と受検費用の相場例を紹介します。
サービスよってさまざまですが、これまで担当してきた事例から、アセスメント採用で用いられるシステム利用料や受検費用のおおよその相場は、次の例の通りと考えられます。
- システム利用料:無料~200万円/1年間
- 受検費用:1000円~5000円/1人
システム利用料は無料のサービスもあれば、年間(もしくは一定期間)ごとに費用が発生するサービスもあります。また受検費用は、検査項目や受検スタイル(Web媒体・紙媒体・試験センター受検)などによって異なります。中には、受け放題プランを用意していたり、受検人数によって割引になったりするサービスもあります。
予算や検査項目、データ活用支援の有無などを考慮し、自社に合うサービスを選びましょう。また、サービスによって費用のかかり方が異なるため、費用を考える時は、支出実額だけでなく、1人あたりにかかる採用単価を考慮することも大事です。
なお、下記で紹介している導入事例では、1人あたりの採用単価についてもふれているため、ぜひ参考にしてみてください。
【導入事例1】
※年間システム利用料:10万円/年間、受検料:3000円/1人のサービスを利用
※年間50人の受検、5名の採用に成功した場合
アセスメント費用:10万円+3000円×50人=25万円/年間(約2万円/1ヶ月)
1人あたりの採用単価:25万円÷5名=5万円
【導入事例2】
・年間システム利用料:無料、受け放題プラン:160万円/年間、分析費用:30万円/年間のサービスを利用
・年間250人の受検、30名の採用に成功した場合
アセスメント費用:160万円+30万円=190万円/年間(約16万円/1ヶ月)
1人あたりの採用単価:190万円÷30名=6.3万円
アセスメント採用を行う流れ 7STEP
アセスメント採用を行うにあたっては、次の7つのSTEPを踏むことになります。
- 採用課題を明確化する
- アセスメント採用を導入する目的を言語化する
- アセスメント採用向けサービスを探す
- アセスメント採用サービス会社と契約する
- アセスメントの項目・基準を決める
- アセスメント採用を実行する
- アセスメント採用の振り返りをする
ここでは、アセスメント採用実行までの流れをSTEPごとに解説します。
STEP1:採用課題を明確化する
まずは自社の採用課題を明確にしましょう。
採用課題を明確にする際は、現場が抱いている不満をヒアリングしたり、事業計画と照らし合わせたりすることがポイントです。
STEP2:アセスメント採用を導入する目的を言語化する
続いて、アセスメント採用を導入する目的を言語化しましょう。
例えば、「採用ミスマッチが多いため、ミスマッチを低減したい」「早期離職が多いため、社員の定着率を向上したい」など、アセスメント採用を導入する目的を言語化し、採用メンバーで共有しましょう。
STEP3:アセスメント採用向けサービスを探す
次に、自社の採用活動スタイルや採用課題にマッチするアセスメント採用サービスを探します。
ミスマッチを低減したいと考えるのであれば、客観的に適性を測れる適性検査や能力検査を提供するサービスの利用を検討してみましょう。また社員の定着率を向上したいと考えるのであれば、最適な人材配置が実現するようデータ活用まで担当者がサポートしてくれるサービスを選ぶのも1つです。
STEP4:アセスメント採用サービス会社と契約する
利用サービスを絞り込んだ後は、アセスメント採用サービス会社との契約を進めましょう。契約時には、次の項目についても確認しておくと安心です。
- サポート体制
- 利用コスト
- 受検可能人数
- 追加受検の可否
- データ分析サービスの有無 など
STEP5:アセスメントの項目・基準を決める
STEP1やSTEP2で明確化した採用課題やアセスメント採用を導入する目的に沿って、得たい情報(アセスメント項目)を決めましょう。すでに項目が決まっているサービスを用いる場合は、どの項目を重視するのか、既存社員や過去に採用した人材のデータから採否を判断する基準を決めましょう。
STEP6:アセスメント採用を実行する
設定したアセスメント項目・基準に沿って、応募者を評価します。
書類選考時の採否の参考にしたい場合は、エントリー時に受検してもらいましょう。またコストを抑えたい場合は、1次選考時や最終選考前に実施するケースもあります。
STEP7:アセスメント採用の振り返りをする
最後にアセスメント採用の振り返りを実施します。
STEP1やSTEP2で明確にした採用課題やアセスメント採用を導入する目的に対する成果や効果を分析しましょう。
もし採用課題が改善されていたり、アセスメント採用導入時に掲げた目的が達成できていたりするようであれば、アセスメント採用は高い効果を期待できる採用手法といえるでしょう。
アセスメント採用のサービスの選び方 3選
自社に合ったアセスメント採用のサービスを選ぶ方法としては、次の3点を意識してみましょう。
- 採用予算に合うサービスを選ぶ
- データ化したい測定領域や測定項目を提供するサービスを選ぶ
- 導入・運用負担が大きくならないサービスを選ぶ
選び方1:採用予算に合うサービスを選ぶ
アセスメント採用のサービスを選ぶ際は、予算に見合うサービスを選びましょう。前述の通り、アセスメント採用に取り組むにあたっては、サービスの利用費や受検料がかかります。受検人数が増えるとその分受検にかかるコストもかさむ恐れがあることから、想定される受検人数も加味した上でサービスを選ぶことが大切です。
応募者全員の受検を考えている場合は、受け放題プランを提供しているサービスや1人あたりの受検費用が安価なサービスを選びましょう。なるべく費用を抑えたいと考えている企業は、1人あたりの受検費用が安いサービスや年間システム利用料が無料のサービスを探してみてください。
選び方2:データ化したい測定領域や測定項目を提供するサービスを選ぶ
自社の採用課題に合った測定領域や測定項目を提供するサービスを選ぶことも大切です。料金ばかりにこだわってしまい、必要なデータを収集できなければ期待する成果は得られないでしょう。
適性検査には、専門的な知識や一般常識を問うテストや思考力や判断力といった能力を問うテスト、さらに意欲など性格などを評価するテストなど、測定領域や測定項目はさまざまです。
最低限の基礎能力を図りたいと考える企業は、一般常識を問う項目があるサービスを用いてみましょう。また、早期離職率の低減を求めているのであれば、ストレス耐性を図れるテストや性格検査、適性検査などの導入を検討してみましょう。
選び方3:導入・運用負担が大きくならないサービスを選ぶ
導入・運用負担が大きくならないサービスを選ぶことも、サービスを選ぶ際に意識したいポイントです。先述の通り、アセスメント採用を導入・運用する際は、採用担当者に新しい負担が発生する懸念があります。
特に採用担当者のリソースが不足している企業では、導入支援サービスやデータ分析支援など、採用担当者の負担を最小限に留めてくれるサポートを提供するサービスを探してみるのも1つです。
採用以外に企業で使われるアセスメント2種
本章では、採用以外に企業で使われる2種のアセスメントについて解説します。
- 人材アセスメント
- 組織アセスメント
人材アセスメント
人材アセスメントとは、社員の能力・適性をデータ化し、より最適な人材配置や能力開発などに役立てることを目的に実施する人材戦略です。なお評価は上長ではなく、先入観を持たない外部機関や評価サービスを用いる方法が一般的であり、適性検査や研修、面談などの方法があります。
人材アセスメントは、実施することで、社員の潜在的な能力を発見でき、より生産性を高められる配置が可能になると考えられます。社員も自分の能力を活かせる環境に配置されるため、仕事へのモチベーションが高まるでしょう。
またデータに基づいた客観的な評価により、社員は自分の能力をより的確に把握できるようになります。その結果、自分の思い描くキャリアを実現するには、どのような勉強やスキル習得が必要になるのかが明確になるため、スキルアップにも積極的になれるなどの副次的な効果も期待できるでしょう。
組織アセスメント
組織アセスメントは、データに応じた人材戦略を実施し、あるべき状態に組織を変化させることを目的にした人材戦略の1つです。自社の社員に対して幅広くサーベイ(調査)を実施し、自社の社員の適性や傾向、スキル情報、職場のコミュニケーションの活性度合いなど、数字を以て自社の状態を可視化します。
例えば、社員への適性検査の結果、イノベーションを起こせるような人材が少ない場合、自社には革新力や斬新なアイディアを創造する力が不足していると考えられます。新規事業の立ち上げや競合との差別化が求められる状況では、期待する成果の創出は現状厳しいでしょう。
そこで、これまでの社員とは違う傾向や適性の持つ人材の採用に注力すればイノベーションを起こせるような人材が社内に増えるかもしれません。このように、自社の組織傾向と事業方針を照らし合わせ、最適な人材戦略を取れるようにすることで、組織力を高めていきます。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。