新卒採用・中途採用問わず、どのような人材採用でも採用戦略のないやみくもな採用活動は効率が悪く、失敗しがちです。しかし、いざ採用するとなれば、採用職種や求職者を集める採用手法のことなど、検討しなければならないことは多岐にわたります。企業の採用担当者は何を拠り所に考えればよいのでしょうか。そこで今回は、初めて採用を任された採用担当者が採用活動で失敗しないように採用戦略の立て方を基本から解説していきます。

採用戦略とは

採用戦略とは、企業が自社の求めている人材を効果的に採用するための戦略を指します。中長期的な視点で、人材採用に関する方向性を決めていくものといえます。

 採用戦略を立てる目的

採用市場での競争が激しくなっていることで、戦略のない場当たり的な対応では成果を上げづらくなってきました。そのため以前にも増して、採用戦略が重視されるようになってきたといえます。採用を進める手順を示す採用計画や、経営戦略と採用の整合を考え、将来を見据えた採用活動の具体的な指針の策定をするうえで、採用戦略は必要不可欠といえるでしょう。

採用戦略の重要性

採用戦略は、自社の経営戦略や事業戦略に紐づくものです。企業が成長していくためには計画的な人材採用が不可欠であり、どのようなスキルを持った人材がどのくらいの人数必要になるかなど、採用活動に求められる要件は、この経営戦略や事業戦略に大きく左右されます。自社が目指す姿と実際の採用活動を適切につなぐためにも、経営や事業の意図を理解して採用戦略を立てることが大切です。

採用戦略を立てるメリット

採用戦略を立てるメリットの一例を解説します。

効率的な採用が実現しやすい

明確な採用戦略が立てられていれば、採用活動の各プロセスにおいても一貫した方針で検討できます。もし戦略が曖昧なまま採用を進めると、「募集要件と違う応募しか来ない」「面接時にはよいと思った人が入社後に活躍できない」といったことが起きる可能性があります。採用コストや手間を効率化し、早期の入社を実現するためにも、採用活動の土台となる戦略は重要です。

関係者との意思疎通を図りやすい

どのような採用活動においても「決裁者」「面接官」「配属現場」といった社内の異なる立場の人との連携・調整が発生します。採用の規模や手法によっては、社外のパートナーも巻き込みながら進めていく必要があります。戦略がない(もしくは伝わっていない)と、「それぞれが独自の基準で動きはじめる」「関係者がマニュアルの範囲でしか動けず対応の柔軟性に欠ける」といった事態が起こり、その度に採用担当者が調整を行う必要があります。関係者が採用の目的や全体像を把握していれば、各々が主体的に推進・連携していくこともできます。その意味でも採用戦略を立て、関係者に共有することが大切です。

採用戦略を立てる5つのステップ

採用戦略を立てるステップの一例として以下の5つを解説します。

ゴール(目的)を明確にする

先述したとおり、採用戦略は企業の経営戦略や事業戦略を実現・遂行するためのものです。「いつまでに、どのような人を、何人採用するのか」といった表面的な目標にとどまらず、この採用によって自社は何を実現したいのかといった採用の目的を明確にしましょう。

求人情報をできるだけ詳細に把握する

目的を明確にしたあとは情報収集を行います。採用担当者であれば給与・待遇や福利厚生、各種制度に関しては精通していることでしょう。一方で、募集求人の仕事内容、現場の労働環境、人材のイメージなどは配属予定の部署と確認・協議する必要があります。また、採用戦略を立てる際には、求人そのものを詳細に把握するだけでなく、採用競合となりそうな企業の情報、その企業の採用活動、採用ターゲットに関する情報なども幅広く集めましょう。

情報を整理して、採用の難易度・相場観をつかむ

集めた情報をもとに、自社の求人が採用マーケットでどのような立ち位置にあるのかを理解していきましょう。この際に有効なのがマーケティングでもよく用いられる3Cフレーム(3C分析)です。
3Cフレームとは、「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」という3つの視点の分析手法です。採用活動の場合、「Customer」は求職者を指します。

上図のようにフレームに沿って集めた情報を整理して、これらを分析していきます。

Customer(求職者)

・どのような人たちなのか

・転職に際して何を重視しているのか

・転職に際してどのような希望を持っているのか

・ターゲットがいる市場はどのような市場が考えられるか

Competitor(採用競合企業)

・どのような企業なのか

・どのような特徴があるのか

・競合の採用市場はどのようになっているのか

Company(自社)

・採用においてどのような強み、弱みがあるのか

・求職者に魅力づけるポイントはどこか

・競合企業と比較した採用優位性はどこか

自社の強み・弱みをもとに具体的な戦略を立てる

3C分析をすると、採用ターゲットが魅力に思ってくれること(自社の強み)や、不安・懸念点(自社の弱み)が見えてきます。これらを踏まえながら、採用手法や採用メッセージを検討していきましょう。

また、採用優位性が出せない場合や、採用ターゲットが市場にいないなど市場難易度が高い場合は、採用ターゲットの人材要件を変更することも採用戦略の一つの手段です。

入社に至るまでの選考プロセスを設計する

人材要件やアピールする内容の方向性が決まったあとは、内定・入社に至るまでの選考プロセスを設計していきます。選考プロセスの一例として以下のようなものがあります。

1.応募者を募るツール選定

応募者を集めるツールを選定し、募集内容や募集条件を落とし込んでいきます。採用手法は近年多様化しており、募集ポジションや募集レイヤーに応じて、採用広告、人材紹介、ダイレクトリクルーティング、リファラルなどを使い分けて活用しましょう。

※リファラル採用に関しては、以下の記事をご参照ください

リファラルとは?<意味がわかる!>採用や営業での活用方法を紹介

2.応募者を絞り込んでいく選考・面接

選考内容・選考回数の設定、評価項目・評価基準・結果共有の仕組みなどを設計します。面接官が複数いる場合は評価基準がずれることを防ぐため、面接官トレーニングの導入などを検討してもよいでしょう。

3.志望意欲を高める応募者フォロー

応募者のフォロー体制を設計します(ポジションごと、評価度合いごとにフォローの方法を設計)。たとえば新卒・若手応募者の場合は、若手従業員がフォローにつくなど、パターンごとに分けておくとよいでしょう。

4.入社に向けた準備・入社前フォロー

内定受諾後のフォロー体制を構築します。特に入社まで時間が空いてしまう新卒採用などは内定者フォロー施策を設計しておくとよいでしょう。また中途採用の場合、現職で引き留めにあうなどの可能性もあるため、退職交渉の状況や入社日に変わりがないかを随時確認しておきます。

採用戦略を立てるときのポイント

採用戦略を立てるときのポイントとして、たとえば以下の5つのような点が挙げられます。

採用市場感を見極めたうえで設計する

採用市場が活況で採用難が続くなかでは、採用市場の動向(募集したいポジションのターゲットが市場にいるのか、どのような要件や条件であれば採用できるのか)を見極めたうえで募集ポジションごとに採用方法を検討していく必要があります。たとえば企業のDX化などで採用難が続くIT人材を採用するためには、IT人材の採用市場を理解したうえで、市場にあわせた採用戦略を練っていく必要があるでしょう。

※エンジニア採用に関しては、以下の記事をご参照ください

【最新】エンジニア採用を成功させるポイント、手法を詳しく解説

現場の生の情報を集め戦略に反映する

「企業が求職者を選ぶ」だけではなく、「求職者も企業を選ぶ」傾向がある昨今では、応募者は実情に即した生の情報を求めています。企業や組織のよい部分ばかりではなく、悪い部分も含めて情報を得て判断をする傾向があります。そのため、採用担当者が現場の生の情報をできるだけつかみ、仕事内容・求める経験や人材像だけではなく組織の状況やどのような人が活躍しているかなど採用戦略に反映していく必要があるでしょう。

外部のパートナーを含め「採用プロジェクト」を進める

採用活動において「採用戦略を描く担当」と「実務を担う担当」が分かれている場合、戦略は描いたものの、実務を担う担当者に採用ノウハウがないなどのケースもあります。採用の実務については採用ノウハウを持つ外部のパートナー企業(人材紹介会社、採用サポート会社など)をうまく活用していくことも重要です。

採用の成功に向けては、自社だけで完結しようと考えず、採用担当は自身を「採用プロジェクト」のマネージャーと捉えて、さまざまな関係者を巻き込みながら活動を進めていく立場と考えるとよいでしょう。

プロセス設計(KPIの設計)

プロセス設計においては、採用の各プロセスのKPIを設定しておくことで、どのプロセスが上手くいっていないのか、その原因は何かなどの分析が可能になります。各プロセスの状況を適切な数値目標に落とし込んでおくことが重要です。各プロセスの状況を分析したうえで全体を俯瞰して見直し、無理があるようであればプロセスの変更や人材要件の再定義、募集手段の変更・追加も再検討しましょう。

具体的には下記プロセスにおける数値を設計・管理するとよいでしょう。

母集団形成

・どのツールから何名くらいの応募を募るかを設計

選考

・面接数、内定数などの目標数
・書類選考通過率、面接通過率、などの目標通過率を設計

離脱率

・辞退数、辞退率、辞退の理由などをウォッチし要因を分析

PDCAを回しながら改善を図る

適切な採用戦略の運用における重要な要素の一つとして継続的に改善を図っていくことが挙げられます。年度の計画では前年度の採用実績やプロセス結果をもとに翌年度の採用戦略に活かすとよいでしょう。より細かなスパンでは月単位で各プロセス数字やKPIの達成状況を確認し、媒体戦略を見直すことや、問題のあるプロセス(応募率や選考通過率)の見直しなど、PDCAを回しながら改善を図りましょう。

採用戦略を立てるのに有効なフレームワーク

「どのような製品・サービスを、どのような市場に導入することが効果的なのか」を明らかにするマーケティング戦略のフレームワークは、「どのような人材をターゲットにして、どのようなアプローチを行うことが効果的なのか」を明らかにする採用戦略を立てる際に活用することができます。

以下に、採用戦略を立てる際に役立つ代表的なフレームワークを二つ解説します。

3C分析

3C分析とは、Customer(顧客)、Competitor(競合他社)、Company(自社)の各々の状況や立ち位置などを分析したうえで適切なマーケティング戦略を考える手法です。採用戦略に関しては、Customerを求職者と置き換え、以下の分析を行います。

・現在の採用市場において、自社の業務内容や応募条件を求めている求職者がどの程度存在し、求職者がどのようなニーズを有しているのか

・競合他社は、求人に関してどのようなニーズを有しており、どのようなアプローチを行っているのか

・求職者や競合他社の状況と照らしあわせたときに、採用に関して、どのようなことが自社の差別的ポイントになり、それに対して具体的に何ができるのか

求職者や競合他社の状況に関しては、インターネットや人材会社などへの確認を通じて情報を入手することが効果的です。

SWOT分析

SWOT分析とは、Strength(自社の強み)、Weakness(自社の弱み)、Opportunity(外部環境における機会)、Threat(外部環境における脅威)を分析したうえで適切なマーケティング戦略を考える手法です。採用戦略に活用する際には、自社の強みと外部環境における機会を活かし、自社の弱みや外部環境における脅威から生じるリスクを回避した採用ターゲットの特定と採用ターゲットに対するアプローチを明確にします。

(分析例)

自社の強み 経営側が柔軟な働き方を容認・推奨している
自社の弱み 通勤が不便な場所にある
外部環境における機会 子育てをしながら就労したいという考えを有した子育て世代の人数が増えている
外部環境における脅威 競合他社も積極的に中途採用活動を行っている

この場合、自社の求人に関わる業務内容が在宅勤務可能であるのならば、子育て世代をターゲットにした在宅勤務を全面的に認めることをアピールした求人を行う採用戦略が考えられます。

採用戦略を実行する際の注意点

採用戦略の立案が終わると採用活動の実行に入ります。

ここでは、母集団形成から選考、入社準備まで実際の採用業務を行っていくにあたってのポイントをフェーズごとに解説します。

1.母集団形成フェーズ

母集団形成フェーズでは、選定した採用ツールを使って応募者の募集を開始します。設定したKPIに沿って応募数などを確認しながら、必要に応じて活動内容の改善を図っていきます。

※母集団形成関しては、以下の記事をご参照ください

母集団形成とは?手法とポイント、注意点を解説

2.選考フェーズ

選考フェーズでは、書類選考・面接・適性検査などの選考を進めていきます。各フェーズの通過率や辞退率などを監視し、ボトルネックとなっている選考フェーズがあれば、要因の分析と改善を行っていきます。

3.入社準備

選考過程で評価の高い応募者に対しては、自社の魅力をさらにアピールすることや選考通過者へのフォロー(人材紹介業者のフォローを含む)、不安点の払拭など応募者や人材紹介会社と細やかなコミュニケーションをとっていく必要があります。また、内定受諾後の辞退も考えられるため、内定受諾後も入社までフォローをしていきましょう。

採用活動は、実行しながら活動内容の改善を図っていくことも重要になります。戦略は立てて終わりではなく、そのあとの改善も含めて考えましょう。

採用戦略を立案して関係者の間で共有し、その戦略をもとに採用広報や手法、活動内容などを検討していくことによって、自社の採用課題解決につながる効果的な採用活動を行うことが期待できます。また、採用戦略は経営にも大きな影響を与えるものであり、有効に機能させることは企業全体にとっても重要なことと考えられます。企業全体で採用戦略に取り組み、自社にとってよりよい採用につなげていくことが望ましいでしょう。

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