近年、これまでの組織マネジメントの常識とは全く異なるアプローチで、大きな成果を上げる企業が登場しています。「ティール組織」とも呼ばれる次世代型組織モデルには、どのような特徴があるのでしょうか。今回は、ティール組織の企業事例なども踏まえながら、ティール組織に近づくためのヒントをお届けします。

ティール組織とは

ティール組織とは、経営者や上司がメンバーの業務を指示・管理するのではなく、フラットな関係の中で協力しあいながら、共通の目標達成に向けて成長を続ける組織のことです。フレデリック・ラルー氏の著書の和訳版『ティール組織』(英治出版)が2018年に刊行されたことで、日本でも注目されるようになりました。

「ティール組織」についてはさまざまな研究や論文があります。一般的に、組織構造がピラミッド型ではなくフラットであること、組織に属するメンバー一人ひとりの自主性・主体性によって組織が運営されていること、したがって、上司がメンバーの仕事に介入したり、部下が上位者の判断を仰いだりすることはあまり行われないことなどが、ティール組織の特徴であると認識されています。

ティール組織が注目された背景

ティール組織が注目されるようになった大きな理由は、「これまでの考え方では乗り越えられなかった組織の問題を、解決できる可能性をもった概念である」という点にあると著者は考えています。従来のマネジメントで常識とされた組織構成や考え方と大きく異なっているだけではなく、この概念を取り入れて成果をあげた事例が現れてきたことも、ビジネス界からの注目度を上げたといえるでしょう。

ティール組織とホラクラシーの関係

「ティール組織」と比較される言葉に、「ホラクラシー」があります。

ホラクラシーとは、階層が存在しない組織体制による経営手法です。上下関係によらず意思決定が行われ、各メンバーが自律的に経営に携わる点はテイール組織と共通しています。

異なる点として、ティール組織は明確なビジネスモデルを持たない組織概念であるのに対し、ホラクラシーは厳密なルールのもとでおこなわれる実践的な経営手法という位置づけになります。ティール組織の概念を実現する手法の一つとして、ホラクラシーが位置づけられると解釈することができます。

ティール組織になるまでの5つの段階

※筆者作図

「ティール組織」に至るまでの組織モデルは5つに分類されています。

5つの組織モデルはそれぞれ色の名前がついています。ちなみに、「ティール(Teal)」は、日本語で「青緑」と表現される色の意味です。

著者が関わってきた実際の組織や後発研究の成果なども踏まえて、この組織モデルについて説明しましょう。

レッド組織(オオカミの群れ)

「レッド組織」は、圧倒的な力を持った特定個人の力で支配的にマネジメントする組織で、最も原始的といってよい組織形態です。組織の決まりや制度はトップの意思に大きく影響され、メンバーはトップへの忠誠心や恐怖心といったものから、組織に従います。

個人の力に依存しているため、トップが変わった途端に、組織が崩壊したり風土が一変したりするなど、再現性に乏しい組織形態といえます。

アンバー組織(軍隊)

「アンバー組織」は、トップダウンで各メンバーの役割が明確に決められ、それを厳格に全うすることを求められる階層型統制組織です。軍隊に象徴されるような前近代的な組織形態とされますが、管理統制がなじみやすい一部業態の企業では、今でも見かけることがあります。

個人に依存せず、ルールを守りながら、同じ時期に同じ作業を同じ方法でするような仕事では安定感がありますが、組織階層のヒエラルキーに厳格であり、どのような命令にも従わなければならない硬直性から、状況変化に弱く対応できないことがあり得ます。

オレンジ組織(機械)

「オレンジ組織」は、階層構造のヒエラルキーはありますが、成果を出せば昇進できるなど、階層の入れ替わりが起こる組織形態で、現代の一般的な企業の多くが該当します。

成果を上げた者が昇進できる実力主義であり、スムーズで効率的な組織運営のため、数値による管理など科学的なマネジメントが重視されます。

実力主義という建前の一方で、変化対応と生存競争が常に求められる「機械」のような働き方に陥りがちで、過当競争や過重労働がうまれやすく、メンバーの疲弊や人間らしさの喪失が起こりやすいことが欠点として指摘されます。

グリーン組織(家族)

「グリーン組織」は、メンバーの多様性を尊重し、単なる目標達成ばかりを求めるのではなく、組織に属している個人に焦点を当てた組織形態です。

現場にも裁量権があり、組織の意思決定に現場や下位層メンバーの参画プロセスがあるなど、合意形成を重視しており、メンバー個人の主体性を尊重します。

売上や利益をはじめとした物質的な成果ばかりを追求せず、メンバーの幸福感や安心感、それぞれの感情や協調的つながり、協働といった面に重点を置いた組織運営を行います。

ボトムアップの意思決定が尊重されるものの、ヒエラルキー構造は残されているため、最終的な決定権はマネジメント側で行うこととなります。

ティール組織(生命体)

「ティール組織」は、組織の目的を実現するために、メンバー全員の信頼関係に基づいて共鳴しながら行動し、全体の総意によって運営を行うという概念の組織形態です。メンバーの一人ひとりが組織のルールや仕組みを理解しており、指示命令によらず、各メンバーが全体の目的に対して主体的に取り組みを見出し、マネジメントをしなくてもそれぞれのメンバーが独自に考えて意思決定を行っていきます。自律型組織の究極的な概念です。

明確なビジネスモデルはなく、最善の組織や経営手法を模索した結果として到達する組織形態であるとされています。ティール組織が、フレデリック・ラルーが提示するほかの組織形態よりも優れているといったものではなく、業界や企業規模、文化、理念などによって複数のモデルが混在していることもあり得えます。

ティール組織の企業事例

ティール組織の事例として2社ご紹介します。

株式会社ヤッホーブルーイング

「よなよなエール」をはじめとしたクラフトビールのメーカーである株式会社ヤッホーブルーイングは、本社を長野に構える日本企業です。90年代の「地ビールブーム」終焉後、業績低迷に苦しむ時期もありましたが、その後V字回復し増収を続けているのは、ティール組織に通じるフラットな組織文化へと改革を進めたことも一因といわれています。

ヤッホーブルーイングでは、役職や年次に関係なくニックネームで呼び合う文化があり、社長であってもメンバーからニックネームで呼ばれています。また、役職レイヤーもシンプルで「社長」「ガッホーディレクター(部門ディレクター)」「ユニットディレクター」「プレイヤー」の4つのみとなっています。従業員全員が公平で自由に議論ができる組織風土を大切にしており、業務には直接関係のない「雑談」の時間を取っているのも、お互いを理解し合い一つの共同体としてのつながりを深める取り組みといえます。

株式会社ネットプロテクションズ

2000年に創業した株式会社ネットプロテクションズは、通販向けの後払い決済サービス「NP後払い」など、「CreditTech」のパイオニア企業です。同社では、アントレプレナーシップの成長とイノベーションの創造を支援し、自己実現と社会発展を両立させるために、ティール組織を指向しています。

ティール組織の実現のために2018年度下期から全社運用されている人事制度「Natura」では、マネージャー役職を廃止しているのが大きな特徴です。特定のメンバーに権限・責任を集中させるのではなく、従業員全員が経営者視点を持って機能するような自律・分散・協調組織を目指しています。また、マネージャー制度を廃止したかわりに「カタリスト」という役割を新設しています。カタリストは一般的なマネージャーのように1部署1名ではなく、チーム人数の10%程度の体制が理想とされており、各期で流動的に交替することが可能です。こうした取り組みによって、トップダウンで動く組織から一人ひとりが主体性を発揮しながら進化を続ける組織へと変化しています。自由闊達な意見・アイデアが飛び交う組織風土を実現しています。

ティール組織に必要な3つの要素

ティール組織に必要な要素として、以下の3つの項目があげられます。

セルフマネジメント

ティール組織を実現するために必要な要素の1つ目は、「セルフマネジメント(自主経営)」を行える仕組みを整えて、進め方を工夫していくことです。主体的な組織運営を可能にするためには、経営者や上司の指示によらず、全メンバーが意思決定に関する権限や責任を持ち、各メンバーの能力を組織運営に活かすことが必要になります。
具体的な取り組みとしては、以下のようなものがあげられます。

・情報の透明化(意思決定に必要な情報が開示される)
・適切な権限委譲(個人の意思決定が尊重される)
・柔軟なチーム編成(状況に応じてメンバーの役割やチーム編成を変える)
・助言や支援の体制作り(他メンバーからの助言や支援が受けられる仕組みなどの構築)

ホールネス(全体性)

ティール組織に必要な要素の2つ目は、全メンバーが個人としての「ホールネス(全体性)」を発揮することです。メンバー一人ひとりが組織全体のために、自身の能力を最大限発揮することで、ティール組織における自主経営を効果的に行うために不可欠な要素とされています。

全体性を発揮できるようにするためには、「メンバー全員が本音を言い合える心理的安全性を担保する」「一人ひとりの個性や多様性を最大限尊重する」といった意識が必要です。

組織が個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れていくことですが、これは、近年多くの企業が推進しているダイバーシティ&インクルージョンの考え方とも共通しているため、この取り組みも確認しておくとよいでしょう。

ダイバーシティについては、以下の記事もご覧ください。

ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介

エボリューショナリーパーパス(進化する目的)

ティール組織に必要な要素の3つ目は、「エボリューショナリーパーパス(進化する目的)」の設定です。これは、組織の存在目的を従来型の組織のように固定するのではなく、ティール組織が「生命体」と称されるように、環境の変化に対応しながら進化させていくことの必要性を意味しています。

ティール組織では、組織として成し遂げたいこと、向かっていく方向性、変化のスピードといったことを常に意識したうえで、進化し続ける組織を作っていくことが必要です。

ここまで見てきた通り、「ティール組織」はメンバーが主体的に意思決定を行う自律的な組織であり、メンバーの当事者意識や過当競争によるメンバーの疲弊、組織の変化対応力など、従来型の組織が抱えている課題の解決につながる可能性を持った組織概念です。企業を取り巻く環境は変化し続けており、働き手である社員の意識も変わってきている中では、組織運営のあり方も同じく変わっていく必要があります。

これからの変化にも対応が可能であり、企業の持続的な成長が期待できる組織形態の1つとして、ティール組織を理解しておくことが大切ではないでしょうか。

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