「CHRO」または「CHO」という言葉を見かける機会が増えてきました。「CHRO」または「CHO」とは、「Chief Human Resource Officer=最高人事責任者」のことで、経営者のパートナーとして経営戦略の実現のため人事戦略を描き、企業を変革し新しい企業価値を創出していく役割を担っています。人事部長との違いや、必要とされるスキル・能力についてご紹介します。

CHROとは

「CHRO」とは、「Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)」の略語で、企業にとって重要な経営資源の一つである「ヒト(人事)」について、経営幹部の一員として人事に関する戦略や施策を企画、実行する最高権限を持つ責任者をいいます。

最高経営責任者を指す「CEO(Chief Executive Officer)」など、「最高x責任者」を「CxO」と表現することがありますが、「CHRO」はその一種という位置づけになります。

CHROの役割

CHROは、経営幹部の一員として、主に経営資源の中の「ヒト」に関する戦略を立案し、具体的な施策に落とし込んで実行するなど、経営戦略と人事戦略をつなげて推進していく役割を担っています。さらに、経営戦略を現場に浸透させるとともに、現場からの意見を取り込んで経営戦略に反映していくなど、経営と現場のコミュニケーションを円滑にする橋渡し役も求められます。

また、昨今では労働環境の変化や価値観の多様化、グローバル化などによって経営を取り巻く環境の変化が激しくなっています。こうした変化に対応するため、経営戦略と一体となった人事戦略を迅速に決定し、実行していく必要があり、CHROの役割はますます重視されるようになってきました。

人事部長・人事責任者との違い

CHROと人事部長・人事責任者との最も大きな違いは、経営幹部としての立場の有無と担っている権限の大きさです。一般的な人事部長や人事責任者の場合、採用活動や人材育成および教育、評価制度をはじめとした人事諸制度の運用など、人事部門が担当するような人事管理全般を統括する実務レベルの責任者となります。一方CHROは、より経営的な視点から人事戦略を立案、実行していく位置づけの存在となります。

CHROが求められるようになった背景

近年、CHROを求める企業が増えてきたと述べましたが、これらの企業のニーズを踏まえ、CHROが求められるようになってきた主な要因を著者の視点から整理して説明しましょう。主な要因は以下の2つがあると考えられます。

人材不足によって人事戦略の重要性が増している

企業にとって、より優秀な人材を採用し育成していくことは重要な経営課題ということができます。近年日本では、少子高齢化による労働力人口の減少が始まっており、必要な人材の確保が今後一層難しくなっていくことが予想されます。

こうした事態に対応するため、女性やシニア世代、海外人材の活用、テレワークなど多様な勤務形態の整備、職場環境や労働条件の見直し、IT活用をはじめとした省人化など、さまざまな人事施策を立案し、人が働く環境の整備、各種制度の構築や運用が必要になってきています。このように企業での人事に関する重要性が増している環境下において、経営的視点で人事戦略を担う中心的な役割であるCHROは、企業にとって必要不可欠な存在として認識されるようになってきたといえます。

変化の激しさから素早い経営判断、意思決定が必須になっている

近年は、ビジネスを取り巻く環境変化が激しく、企業では迅速な意思決定と、状況変化に対応できる柔軟性が必要になってきています。これは経営戦略や人事戦略の策定・変更、実践においても同様であり、経営幹部としての権限を持ったCHROがこの役割を担うことで、より迅速で柔軟な意思決定が期待できることが、CHROが注目される背景の一つになっています。

CHROに必要なスキル

CHROに求められる能力はレベルが高く、「人事分野での幅広い知見」と「経営視点で考える力」の両方を兼ね備えていることが必要と考えられます。それまでの知識や経験とともに、必要なスキル、能力を習得するための自己啓発も必要になってきます。CHROが役割を担っていくために必要と考えられるスキル、能力としては、以下のものが挙げられます。

人事労務、組織開発ほか関連分野の高度な専門性

CHROには、人事に関する実務や業務全般の知識、経験だけでなく、人事の専門家として関連する分野での幅広い専門知識や、最新の動向についても把握しておくことが求められます。人事戦略や人事業務全般、人材開発や育成手法など、さまざまな人事施策についてはもちろんのこと、労働法をはじめとした関連法規の法改正や、人事に関連する動向やトレンドなどの最新情報を把握することも必要です。人事部門だけでなく、社内各署の人事面での課題や求めている人材の状況を把握して、人事戦略や施策に反映していくことも必要になります。人事分野での幅広い知見と経験、人事マネジメントにおける豊富な経験が求められます。

経営や戦略立案に関する知識と理解

ビジネスを取り巻く環境に対応していくために重要な要素の一つとして、経営戦略や事業戦略が挙げられます。そのため、経営幹部の一員であるCHROには、これらに関する知識と理解が求められます。

経営に関する知識と視点を持って自社の経営戦略や事業方針を十分に理解し、市場や業界動向などの周辺状況などを把握しながら、経営的視点から人事戦略を立案していくことが大切です。適切な人事戦略を策定し、各種施策を推進していくためには、自社の経営戦略、事業戦略の十分な理解が必要であり、そのうえで人事面での課題などさまざまな状況を考慮し、さらに自身の幅広い知識、経験を活かして適切な戦略を立案していくことが期待されます。関連する情報の収集や、知識のインプットは常に継続する必要がありますが、それだけでなく、より実践的なスキルも合わせて求められると考えられます。

問題発見・解決能力

CHROには、経営的な立場から人事の関連する課題を発見して分析し、適切な解決策を実施していく問題発見・解決能力が求められます。人事課題は状況変化や時間の経過などによって、対処すべき内容も随時変わっていくため、迅速で論理的に、客観性のある判断をしていくことが必要になります。

コミュニケーション能力をはじめとしたヒューマンスキル

CHROは人事に関する全社的な管理や指導をする立場であるため、現場で働く従業員からの問題提起や意見などを引き出して戦略に活かすなど、経営と現場をつなぐ調整役としての役割が求められます。この仕事を円滑に進めていくためには、関係者と良好な人間関係を構築していくヒューマンスキルが求められると考えられます。経営と現場のつなぎ役としてのコミュニケーション能力をはじめとした、対人スキルが重要であるのはもちろん、組織上の責任者という点で、従業員をまとめるマネジメント能力やリーダーシップなども求められます。

※リーダーシップに関しては、以下の記事をご参照ください

リーダーシップとは?<意味がわかる!>必要なスキル、理論をわかりやすく解説

CHRO/CHOの導入事例

CHROは具体的にどのような人事戦略を推進しているのか、以下に2社の事例をご紹介します。

キッコーマン株式会社

キッコーマンは「おいしい記憶をつくりたい。」をコーポレートスローガンに、新しい価値の創造に取り組んでいます。2017年に、常務執行役員CHO人事部長として松崎毅氏が就任。CHOとして人材面から経営に積極的に提言していくことを重要な役割とし、「定年延長」など人事制度の新しい流れを把握しながら伝統的なキッコーマンの組織に応じた施策を選択し導入しています。現在、最も重要な課題は「人財戦略の構築と実行」です。必要な人材要件やその充足度を把握し、確保・育成・配置を戦略的に展開することが求められます。
また人財戦略の一環として「経営者候補の育成」を掲げ、通常の階層別研修とは別に「グローバル×経営」の両方に対応できる人材の育成を目指した少数精鋭型の研修「未来創造塾」を実施。ステージ1、2の2つのグループがあり、ステージ1は35歳前後の社員が対象で課長クラスの管理職の育成が目標。ステージ2は45~55歳くらいの社員が対象でキッコーマングループの役員の育成が目標です。ステージ1は社長が、ステージ2は名誉会長が塾長を務め、キッコーマンのDNAを未来のリーダーに引き継いでいく機会をつくっています。

出典: リクルートワークス研究所「人事トップ30人とひもとく人事の未来」
※本事例は、公開時点の内容になります。

株式会社丸井グループ

従来の百貨店型のビジネスモデルから転換し「売らない店」などの体験型店舗の出店やデジタル化の導入など新たなチャレンジを続けている丸井グループ。石井友夫氏は2013年取締役執行役員人事部長に、2018年に取締役専務執行役員CHO、監査・総務・人事・健康推進担当に就任。人事面から新しいチャレンジを支援してきました。丸井グループはグループ本社で人材を採用し、各社に配属する方法をとっています。店舗での経験を必須として小売・カード・システム・物流などさまざまな現場をローテーションしながら成長していくキャリアプランで、職種変更はもちろん昇進・昇格も自ら手を挙げることが基本となっています。自発性を高めるため2017年に評価制度を一新し評価の軸を個人の「バリュー」としました。自発的、能動的に従業員がどれだけ自分を磨き、それが能力として顕在化したかという点で判断され360度評価で行われています。

丸井グループのように創業者系の企業は、社長の任期が長いのが特徴です。そのため経営戦略などを長期的な視点で考えることができます。トップがやりたいことを明確にし、それぞれの役員が役割分担しながら一丸となって経営に取り組むことが強みとなっています。

参考文献: リクルートワークス研究所「人事トップ30人とひもとく人事の未来」

※本事例は、公開時点の内容になります。

少子高齢化による労働力不足や採用難が想定される環境のなかで、経営資源における「ヒト」の重要性は、これまで以上に増してくることが考えられます。企業が人事に関する課題にスピード感を持って取り組んでいくことが必要であり、そのなかで、経営と人事戦略を一体化して推進するCHROの重要性は、今後ますます大きくなっていくでしょう。

CHROには高度な専門スキルが求められるため、この人材の育成や抜擢、外部人材の登用などを計画的に実施していくことが必要になります。本稿がCHRO設置を検討するきっかけや人選の参考になれば幸いです。

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