「サバティカル休暇」とは、一定の勤続年数のある従業員を対象に与えられる長期休暇のことです。「サバティカル休暇」は、休暇の目的が特に決められておらず自由に使えるのが特徴。従業員のワークライフバランスの向上やスキルアップのため、日本でも取り入れている企業が少しずつ増えています。「サバティカル休暇」を導入することのメリット・デメリット、実際の導入事例をご紹介します。

サバティカル休暇とは?

「サバティカル休暇」とは、厚生労働省によると「従業員の行動変容のきっかけづくりとなる特別休暇」のこと。サバティカル(sabbatical)とは、「研究休暇」を意味する英語で、もともとはある一定の勤続年数がある大学教授などに与えられる「研究休暇」を指し、主に教育機関で取り入れられていました。
現在、企業で活用されている「サバティカル休暇」は、従業員が自由な目的で使うことができ、期間は1ヶ月以上というケースが多いようです。

出典:厚生労働省「特別休暇制度導入事例集2020」

平成30年3月の「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」報告書の中に、
「企業による「サバティカル休暇」等の個人の学び直しや振り返りを支援するための制度整備を促進するため、そのような制度を整備する企業に対する助成の在り方について関係省庁と連携して検討する」
とされており、リカレント教育(社会人の学び)推進のため国として今後「サバティカル休暇」の活用を促進していく方針が示されています。

※リカレント教育については、以下の記事をご参照ください。

・リカレント教育とは?学び直しの必要性と取組みのポイントを紹介

出典: 経済産業省 中小企業庁「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(人材力究会)

サバティカル休暇のメリット

従業員が自由に使える長期休暇である「サバティカル休暇」には、様々なメリットがあります。企業側、従業員側それぞれのメリットについてご紹介します。

企業側のメリット

従業員の離職防止

半年~1年くらいの「サバティカル休暇」があれば、育児休暇・介護休暇などと併せて活用することで、より長期の休暇の取得が可能となり、育児や介護による離職防止にも役立ちます。 

※リテンションについては、以下の記事をご参照ください。
【人事用語】リテンション(人材確保)の意味や目的など事例・方法も紹介

企業イメージの向上

「サバティカル休暇」を導入・活用することで、社会から「従業員の多様な働き方やキャリアアップを支援する企業」、「先進的な取り組みを行っている企業」と認知され、企業イメージの向上につながることが期待できます。

従業員側のメリット

在籍しながら新しい知識・スキルを吸収できる

現状では大学院やビジネススクールへの通学、短期留学などの場合は、通学期間や学びたい教育機関の場所などによっては退職しなくてはならないことも考えられます。「サバティカル休暇」を利用することで、在籍しながら知識やスキルを高めることができます。

短期の休暇では得られないリフレッシュ効果がある

ある程度長期間の休暇になりますので、知らない間にたまってしまった疲れやストレスも解消され、心身ともにリフレッシュできる効果があります。また趣味や旅行や家族との時間に使ったりできるなど、プライベートの充実にもつながります。

サバティカル休暇のデメリット

企業側のデメリット

離職の可能性がある

サバティカル休暇中に学んだことにより別の分野に興味を持ち、離職するケースもないとはいえません。休暇前に、復帰後に本人に期待することや、今後のキャリアプランについて話し合う時間をとりましょう。

業務に支障をきたす恐れがある

ある一定の期間勤続した従業員が対象となるため、サバティカル休暇を取得する従業員は職場でも中心的な役割を担う人材であることが考えられます。休暇中に業務に支障がでないような人員配置や業務フローの確立などの準備を行い、業務に支障なく休暇がとれる体制づくりを行う必要があります。

従業員側のデメリット

休暇中に給与が支給されないケースがある

サバティカル休暇中は給与が支給されないケースが多いため、休暇前から生活費や旅費、学費などを計画的に貯蓄して休暇を有効に使えるよう準備することが大切です。

復帰して職場に慣れるまで時間を要することがある

ある程度の間まったく仕事から離れていますので、従来のペースを取り戻すのに多少の時間がかかったり、事業環境や職場の人員配置も変わったりするなど、すぐには休暇前のようにはパフォーマンスを発揮できない可能性があります。休暇前・休暇後に人事や配属現場の管理職とコミュニケーションをとり少しずつ戻っていきましょう。

サバティカル休暇を導入している企業の事例

全日本空輸「サバティカル休暇」

全日本空輸には以前より介護や不妊治療、社業への貢献を前提とした進学や留学による休暇制度があり、例えば留学のための「わくわく休職制度」など休暇制度ごとに異なる名称となっていました。2021年4月にこれら様々な休暇制度を一本化し、理由を問わずに最大2年間休職できる「サバティカル休暇制度」を導入しました。対象は勤続1年以上のパイロットや客室乗務員、地上職の正社員約1万5,000人(年齢制限なし)。取得期間は1~5カ月のほか1年や1年半、2年のなかから選択できます。期間中は無給となりますが、1年以上の場合は留学などの補助金として20万円を支給。休業・休職期間中の社会保険料は会社負担となります。

出典:ANAグループ「働き方改革」

Yahoo! JAPAN「サバティカル休暇」

Yahoo! JAPANは、日本企業の中でも先駆けて2013年より「サバティカル休暇」を導入。勤続10年以上の正社員を対象に自らのキャリアや経験、働き方を見つめなおし、考える機会をつくることで、本人のさらなる成長につなげてもらうことを目的とした制度です。取得可能期間は最短2ヶ月からで最長3ヶ月。休暇中は「休暇支援金」として、基準給与1ヶ月分が「サバティカル休暇」の支援金として支給されます。また制度をより使いやすくするため取得者個人の有給休暇とあわせた「サバティカル制度」の利用も可能。有給休暇と一緒に取得することで、サバティカル休暇期間中に「休暇支援金」とあわせ一定額の給与が支払われることとなり利用促進につながっています。

出典:ヤフー株式会社「Yahoo! JAPAN、最長3ヶ月の長期休暇を取得できる「サバティカル制度」の導入を開始」

サバティカル休暇を導入するときの注意点

サバティカル休暇を取得できる体制づくり

まだ一般的に認知されている休暇ではないため、従業員に対して「サバティカル休暇」を導入する目的や制度を充分に説明し周知するとともに、業務に支障がでない体制を構築し「サバティカル休暇」を取得しやすい環境を整えることが必要です。

サバティカル休暇中の手当支給や給与の有無について検討

「サバティカル休暇」は、法定休暇ではないため、有給か無給かは企業の判断となります。たとえば休暇取得の目的に応じて休暇手当を支給したり、有給休暇と組み合わせたりすることで有給休暇分の給与を支給する制度にするなど、企業の状況に応じた運用方法を検討しましょう。

また「サバティカル休暇」中も、社会保険は支払いが生じるため、社会保険料の本人負担分や住民税については、企業が負担するか、従業員が負担するか決めておきましょう。従業員が負担する場合は、毎月定められた期日までに従業員から会社の口座に振りこんでもらうなど、事前に取り決めをしておくことが大切です。

スムーズに復職できる環境を整える

ある程度長い期間の休暇となるため、職場によっては休暇前と状況が変わっていることも予想されます。スムーズに復職してもらうためには企業のサポートが必要です。休暇前に本人や部署の管理職と打ち合わせを行い、復帰後のプランを作成することで、本人・職場ともに不安要素を払拭し、有意義な休暇、およびスムーズな復帰を実現できるでしょう。

「サバティカル休暇」には、休暇中の体制づくりや復帰サポートといった課題もある一方で、労働環境の改善や定着率の向上、従業員のキャリアアップなど大きなメリットがあると考えられます。自社の社員にどのようなポジティブな効果をもたらすか、シミュレーションをしてみてはいかがでしょうか。

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