「自社が初めて採用を行うことになり、担当者になった」「会社から新卒採用・中途採用を任された」という人にとって採用活動は手探りです。応募者と面接などでやり取りをする前にも、説明会を実施したり、リクナビなどの求人媒体で自社のメリットや求める人物像をアピールしたりと、実施すべきことは多岐に渡ります。そこでこの記事では、社員採用の第一歩として、活動全体を設計する方法を解説。新任の担当者がぶつかりがちな課題についてもご紹介します。

採用の流れ

採用の成否は、事前準備にかかっている

はじめに、採用活動の基本的な流れを大まかに把握しておきましょう。応募の受付や書類選考、面接などの実務に目が行きがちですが、大切なのは募集を始める前に採用活動全体を設計する事前準備です。

「採用背景・目的の把握」、「求人情報の収集・整理」など採用活動全体の設計ができていないと「人材要件の定義が曖昧」「選考プロセスが不透明」といった状態のまま走り出すことになり、実際に募集をかけても「応募がこない」「せっかくぴったりの人材に出会えたのに辞退された」といった結果になりかねません。

人材サービスの選定や選考プロセスの改善など、さまざまな意思決定を行うための指針となりますので、まずは採用活動の全体像を明確にすることからはじめましょう。

採用活動全体を設計するときのコツ

ゴール(目的)を明確にする

採用活動を設計する上での大前提は、採用の目的を明確にすることです。ゴールが示されていなければ、採用担当者自身はもちろん、社内の関係者も社外のパートナーもどこに向かって走って良いのか分かりません。

ただし、ここで言うゴールとは、「半年以内に営業を10名採用する」といった採用目標とは意味が異なります。「人を採用した先に会社や事業が実現したいこと」が本来の採用の目的。「今」と「目指す姿」のギャップを埋めるための手段の一つとして採用があるはずです。

求人情報はできるだけ詳細に

次に必要なことは、活動全体を設計するための情報収集です。ゴールを達成する上で必要な人材要件の仕事内容、職場環境、提示可能な給与・福利厚生などの雇用条件、求職者に求める経験・スキルなどを把握しましょう。

この段階で求人情報を集める目的は、求人広告や求人票を作成するためというよりも、採用難易度を把握し、適切な採用手法を検討するためです。社内の情報だけでなく、採用競合となりえる企業の動きや学生・転職希望者の動向など、今の採用環境についてもインプットしておきましょう。

人材要件を定義するときの3つのポイント

人材要件は、求人メッセージを作成する際や選考基準の柱となるものです。ただし、配属部門や経営が提示した条件をそのまま提示すれば良いとは限りません。

対象者の希少性、マーケットの環境、自社の採用力、採用の温度感などを勘案して、総合的に整理していくことも採用担当者の腕の見せ所。その際には以下の3つを意識すると良いでしょう。

Point1 人材要件を満たす人物像を具体化する

条件を整理し、「どこの企業で、どんな仕事を、どれくらい経験した人」なのかをイメージしてみましょう。同業・同職種(もしくは、特定の業種・職種)にしか当てはまらないなら対象者は少なく、異業種・異職種にもいるのであれば、それだけマッチングの可能性が広がります。 

※具体的なコツについては、後ほどご紹介します。

また、新卒採用の場合は、経験やスキルを軸に人材要件を設定しづらいため、学生の志向性や価値観を重視して設計します。

Point2  相場観を考慮する

対象者が少なくても、自社の採用力や募集職種の人気度が高ければ、採用はしやすくなります。求人情報とマーケットの相場観を照らし合わせて、要件の妥当性を判断しましょう。

参考になるのは、競合の求人件数。求人媒体(求人メディア)などで自社の採用と同じ条件でヒットする求人件数を調べてみると、大まかな相場観が掴めます。また、人材サービス会社によっては、対象の条件に当てはまる人材がマーケットや登録会員にどれくらいいるのか規模感を知らせてくれるところもありますので、マーケットの相場を掴む意味で早めに声を掛けておくのも有効です。

Point3 応募を喚起できるか判断する

自社の求人を採用対象者の目線で見て、働きたいと思える魅力があるかどうか、客観的に捉える視点も大切です。対象者の人数規模が十分でも、手を挙げてもらえなければ意味がありません。応募を喚起するのが困難な場合は、振り向いてもらえそうな相手に採用要件を見直すのも一つの手段です。

求める人物像を具体化するコツ

知識・スキル・人物タイプごとに整理する

では、ここからは人材要件定義で大切なポイントの一つ、人材要件=求める人物像を具体的にイメージするコツを紹介していきます。

まずは、下図のようなフレームを用いて、採用対象者の要件を整理してみましょう。採用において個人を評価する観点は、知識・スキル・人物タイプの3つに分類できます。業務知識や業務スキルは実務経験によって養われていくものですが、基礎知識や対人スキルは勉学や生活の中でも習得可能。新卒採用においても同様のフレームで整理することが可能です。

出典:リクルートエージェント「採用成功虎の巻」より

要件に優先順位をつけMUST/WANTに振り分ける

洗い出した要件は、MUST(絶対に譲れない)要件とWANT(あったら嬉しい)要件で再整理してみましょう。選考の際、応募者を評価する基準になり、採用難易度が高い場合に、要件を再整理する指針にもすることができます。

優先順位をつける一つの判断基準は、「入社後に習得できるかどうか」です。例えば、応募者の働く事への考え方、入社後に実現したい事といった志向性と自社のカルチャーや事業の目指すべきゴールにフィットするかどうかは事前に見極めておくと良いでしょう。

一方、特に中途採用では業務知識を重視する傾向にありますが、入社後に学ぶことも不可能ではありません。教育体制を充実させることで、敢えて入社時点では業務知識を求めず応募の間口を広げている企業もあります。もちろん、即戦力採用の場合はMUST要件となりますので、採用の目的に合わせた判断が必要でしょう。

仕事内容を分解して、必要な能力を細かくとらえる

業務知識やスキルを求めようとすると、対象者は同業・同職種に絞られてしまいがちですが、そのスキルを持っている人材は他にも存在する場合もあります。例えば、営業職に必要な能力は営業経験者だけが身に付けているものでもありません。

新規開拓営業であれば、顧客と接点をつくることや、粘り強く顧客に向き合う姿勢が重要です。コールセンターでアウトバウンドを担当していたスタッフとの親和性も高い仕事です。

また、リピーターの多い店舗の接客スタッフは顧客管理を徹底して顧客に合わせたサービス提供を心掛けているため、既存顧客へのフォロー・提案が中心の営業に向いています。

このように、募集職種を業務ごとに分解して把握してみると、求める人物像がより具体的になっていきます。

選考プロセスの設計方法

「いつまでに、何人」から逆算して考える

人材要件が固まった後は、求人媒体・人材エージェント・スカウトサービスなどの手段を活用し、応募者を書類や面接で選考していきます。この選考プロセスを設計していくときのセオリーは、採用目標から逆算して考えていくことです。

例えば、4月から1年間でエンジニアを20名採用するとします。内定を出しても5人に1人は辞退するのが今の相場だとすれば、最低でも25名に内定が出せる状態を目指す必要があります。3月までに採用計画を達成するには、2月中には選考が終了しており、そのためには何人面接をして…、と組み立てていきます。

書類・面接合格率や選考途中の辞退率も考慮しながらプロセスをさかのぼっていくと、何人の応募を集めねばならないかが見えてきます。この人数を把握して、改めて人材要件を見直し、募集の手段を変更・追加することも有効です。

「見極める」「口説く」の2軸で選考プロセスを検討する

目標数を起点に全体を設計していく定量的な観点に加えて、採用の質を上げるためにプロセスを検討していくことも重要です。

選考フェーズで重要な要素は、「見極める」と「口説く」。選考中の接点は、求職者が採用ポジションにマッチするかどうかを判断する場でもあり、自社で働く魅力を直接伝えられる機会です。例えば、入社後のミスマッチが多いことが課題の企業であれば、選考の中で見極められていない可能性もあり、人材要件も含めて見直す必要があります。

一方、選考中や内定後に辞退をされることが多いのであれば、口説きの要素が足りないことが考えられます。新卒採用なら先輩社員との座談会や懇親会、キャリア相談会などを設けてより深く自社を理解してもらうことも珍しくありません。もちろん、新卒・中途によってプロセスの手厚さや規模感は異なりますが、選考は企業が一方的にジャッジする場ではなく、相互に理解を深められる場であることを念頭に設計するのが大前提です。

選考プロセスを考えるときのポイント

選考スピードも採用を左右する

より良い採用を実現するためにも、ある程度の面接を重ねることやさまざまな機会を提供することは有効です。しかし、選考回数が増えて時間がかかるほど、求職者の辞退率が上がっていくことには注意しましょう。

学生も転職希望者も、複数の企業に並行して応募していることが一般的です。自社がじっくり選考をしているうちに、他社で内定が出れば、そちらに行く決断をされてしまうことは十分に考えられます。また、「面接後の結果連絡が遅い」、「連絡をすると言われたのに連絡がない(事情の説明もない)」といった対応では、求職者の気持ちが離れてしまいます。

社内外で協力者を集め、無理のない選考プロセスを

適切な人が面接官を務めていないことや人事のマンパワー不足は、選考過程に不具合が生じる原因にもなりえます。例えば、書類選考の担当者が多忙で合否のジャッジが滞留しているケース。また、選考に配属現場が関与していないと、求職者は働く具体的なイメージが掴めず、内定辞退のリスクも高まります。

だからこそ、選考プロセスも採用担当者だけで完結せず、社内の関係者の協力を仰ぎながら役割を担ってもらえないか検討しましょう。また、応募の受付や面接調整、選考結果の連絡が滞りがちな場合は、求職者との間に入ってやりとりしてもらえる人材エージェントを活用するのも解決策の一つです。特に新卒採用や大規模な中途採用では、外部の採用事務サポート会社を活用しているケースもあります。

社内のリソースや外部コストも考慮したうえで無理のない選考プロセスを設計していきましょう。

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