働き方改革のなか、労働時間や休憩時間に関する問題が取りざたされ、トラックドライバー、保育士、学校の先生などで「休憩時間が取れない」ことが社会問題となっています。ただこれらの職種に限らず、労働者であれば共通して適用される法律があります。今回は休憩時間に関するルール、特に企業側が休憩を付与する際のポイントを解説します。

休憩時間とは

休憩時間とは、判例上、「労働からの解放が保障された時間」と解釈されています(最判平成14年2月28日民集56巻2号326頁参照)。

つまり、使用者が休憩時間と指定したとしても、その間に何らかの仕事が発生する可能性があれば、休憩時間にはなりません。

たとえば、昼食をとりながら電話番をする場合、「お昼休憩」と呼んでいたとしても、電話がかかってきたら、電話に出る必要があります。これでは、いつ電話がかかってくるか分からず、「労働から解放された」とはいえません。このような場合、休憩時間には当たらないとされています。

行政解釈も、「単に作業に従事しない手持時間を含まず」労働者が「権利として労働から離れることを保障されている時間」としており(昭和22年9月13日発基17号)、同様の解釈を取っています。

休憩時間のルール

労働基準法34条に、休憩時間に関する定めがあります。

まず、休憩時間の長さが定められています。

34条1項は、「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合において少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」としています。

これを整理すると、以下のようになります。
・6時間を超える場合 少なくとも45分
・8時間を超える場合 少なくとも1時間
注意点は以下のとおりです。

(1)法律上は最低時間のみが定められていること

「少なくとも」45分または1時間となっています。最長時間ではないので、たとえば2時間休憩を与えることも可能です。

ただ、あまりに休憩時間が長いと、労働者が会社にいる時間も長くなってしまいます。そのため、労働の内容にもよりますが、著者の経験上、拘束時間の半分を超えるようであれば、休憩時間が長すぎると判断されるおそれがあります。

(2)拘束時間が8時間ぴったりであれば、45分で足りること

8時間「を超える」場合ですので、8時間ぴったりであれば休憩は45分で足りることになります。ただ、8時間を少しでも超えて残業するようであれば、15分をプラスして休憩時間を付与する必要が出てきます。

(3)拘束時間が6時間以下であれば、休憩は与えなくてもよいこと

拘束時間が6時間以下であれば、休憩は与えなくてもよいことになります。「与えてはならない」という意味ではないので、休憩を与えてもよい、ということになります。
また、残業により6時間を超えれば、休憩を与える必要があります。

休憩時間の3つの原則

休憩時間の長さのほかに、労働基準法34条は休憩時間に関して3つの原則を定めています。

(1)途中付与の原則

前記34条1項は、「・・・休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」としています。これを途中付与の原則と呼んでいます。休憩時間は、労働者のリフレッシュのためですから、仕事の合間に与えなければあまり意味がないと考えられているためです。

注意点は以下のとおりです。

・労働開始時に休憩時間を与えても、34条1項を満たせないこと

労働開始時に休み、それ以降ずっと業務であれば、リフレッシュすることができません。

・労働終了直前に休憩時間を与えても、34条1項を満たせないこと

同様に、終業時間の前に45分または1時間の休憩があっても、業務時間中にリフレッシュすることができません。

ただ、たとえば8時間ぴったりの拘束時間で、45分は業務時間内に休憩があった場合、もう15分を終業時間直前に与えることは、34条1項を満たすことになります。法律で定められた45分は、途中付与になっているからです。

しかし、30分を業務時間内に、30分を終業時間直前に与えるのでは、34条1項に反する恐れがあります。

(2)一斉付与の原則

34条2項は、「前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。」としています。つまり、事業場の全労働者に、一斉に休憩時間を与えなければなりません。これを一斉付与の原則と呼んでいます。

ただ、現実問題として、一斉付与ができるような業種は少ないですし、全員が一斉に休めるような環境でないことも多いでしょう。

そこで、現在は、一斉付与は多くの例外が定められており、交替制による休憩が広く行われています。

・一定のサービス業は、一斉付与をしなくてよい(運送業、物品販売業、飲食店など。労基規則31条)

・労使協定などがある場合は、一斉付与をしなくてよい(労基34条2項但書)

(3)自由利用の原則

34条3項は、「使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。」としています。これを自由利用の原則と呼んでいます。

もっとも、使用者には企業施設に対する管理権がありますから(最判昭和52年12月13日民集第31巻7号974頁参照)、使用者はこの管理権に基づいて自由利用を制限することができます。

具体的には、休憩時間中の政治活動につき、内容や手段が企業秩序を乱すようであれば、制限することができます。

販売活動なども、同様に制限することができる場合があります。

パターン別の休憩取得

業種・職種

休憩時間における法律上の基本的な規律をご説明してきました。これから、具体的な業種などについてさらに詳しくご紹介します。

(1)トラック運転手の場合

トラック運転手は、2024年問題と呼ばれる問題が生じるといわれています。働き方改革関連法により、労働時間の上限規制が行われるようになるのです。

トラック運転手は、夜通し業務に従事するなど、労働時間が長時間になってしまうことが指摘されてきました。同様に、休憩時間についても問題になることが多く、多くの裁判例があります。

特に、荷主の指示で待機している時間、すなわち荷待ち時間がよく問題となります。これも、前記のように「労働から解放されているか」が基準になります。

さらに、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が定められたことで、運転開始後4時間以内または4時間経過直後に30分以上の休憩などを確保することが義務付けられました。

なお、休憩時間のほか、休息時間(業務終了から次の業務開始までの時間)に関する制限もあります。

(2)保育士の場合

保育士も、休憩時間を取りにくく問題になりやすい職種です。

寝かしつけなどがあるため、一斉付与はしなくてよいとされています。

ただ、休憩時間の決まり(45分・1時間など)は免除されているわけではないので、やはり法令どおり休憩時間を付与する必要があります。

(3)教員の場合

教員も、休憩時間を取りにくい職種です。

昼食指導と休憩時間が重なる場合などは、実質的に休憩できていないことが多いといえます。また、授業の合間の休み時間も、授業準備などがあるため、やはり休憩時間とは呼べないことが多いでしょう。職員会議を休憩時間外に設定するなど、休憩時間を確保するための配慮が必要です。

(4)警備員の場合

警備員も、休憩時間の問題が起きやすくなっています。仮眠時間などでも、発報があれば直ちに出動しなければならない場合には、休憩時間ではないとみなされることが多いためです。

雇用形態

休憩時間の決まりは、正社員にのみ適用されるわけではありません。前記労働基準法の条文から明らかなように、パートやアルバイトなどの雇用形態によって規定が異なるわけではありません。パート・アルバイトであっても、6時間を超えて働くのであれば、所定の休憩時間を付与する必要があります。

勤務形態

フレックスタイム制の場合、勤務時間が不規則ですから、一斉付与が必要なのかという問題があります。労働基準法は、フレックスタイム制であっても適用されますから、原則として一斉付与が必要になります。コアタイムを設けるなどして一斉付与になるようにしている事業場があるのは、このためです。ただ、前記のように、一定の事業では一斉付与は不要ですし、労使協定などがあればやはり不要になります。

フレックスタイム制を導入する場合には、一斉付与をどうするかの検討をしておくことが重要です。

※フレックスタイム制に関しては、以下の記事をご参照ください

フレックスタイム制の導入方法とは?改正内容やメリット・デメリットを紹介

企業側が休憩を付与する際のポイント

以上のような休憩時間に関する制限を踏まえ、企業側はどのような点に注意すればよいでしょうか。以下、重要な点をまとめます。

(1)休憩時間の長さや途中付与の原則など、労働基準法上の制限をきちんと理解する

休憩時間は、拘束時間によって最低時間が異なってきます。たとえば、7時間労働(45分休憩)で、残業によって労働時間が8時間を超えた場合には別途15分以上の休憩を与えなければなりません。従業員にも、こうした原則を周知しておく必要があります。

また、案外やってしまうのが終業時間直前の休憩です。途中付与の原則により、終業時間からは離れた時間を休憩時間とする必要があります。

(2)休憩時間中は指示を出さない

休憩時間は、労働から解放されている必要があります。休憩時間中に指示を出してしまうと、それは休憩時間と評価されなくなり、結果として休憩時間の規定違反とされてしまうおそれがあります。休憩時間は労働者のリフレッシュのためのものであるため、労働者が休憩時間を自由に使えるように配慮する必要があります。

よく問題になるのは、いわゆる「お昼当番」です。労使協定などで交替制を導入するなど、適切な対応をしましょう。

(3)就業規則や労使協定など、事業場に応じた決まりを作っておく

交替制を導入するには、一定の事業を除き、就業規則や労使協定などで定めておく必要があります。

違反したら、どうなるのか?

以上のような休憩時間に関する定め(労働基準法34条)に反した場合、どうなるのでしょうか。

労働基準法上、刑事罰まで定められており、違反した使用者には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

さらに、民事上、「本来労働時間(=有給)だったのに休憩時間(=無給)とした」ということになりますので、支給されなかった給与を支払う必要も出てきます。

休憩時間は、労働者のリフレッシュのためのものです。

休憩時間の長さや与え方などについて、詳しく法律で定められています。たとえば「休憩時間なのに指示を出してしまう」といったことがないようにしましょう。

労働者がリフレッシュできれば、業務の効率が上がることが期待できる可能性があります。そのため、休憩時間を適切に付与することは、回りまわって使用者にとってもプラスになるといえます。休憩時間の決まりを正しく理解し、違反のないようにしましょう。

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