ビジネスモデルの転換を求められる企業も出てきた現代。環境の変化と共に人事の役割も着実に変化しています。現在、人事に求められ始めているのは「戦略人事」としての動きです。では、戦略人事とは具体的に何をすれば良いのでしょうか。そこで今回は、人事戦略との違いや人事部に求められる役割、経営戦略とのつながりなどを解説していきます。

戦略人事とは

戦略人事とは、「戦略的人的資源管理」と同義の言葉です。端的にいえば、従来の人事よりも経営に踏み込む状態を指しています。旧来の人事の役割は、あくまでも経営から降りてきた戦略・目標に基づいて人材や組織環境の最適化を行うことでした。それに対して、戦略人事は経営戦略や事業戦略に人的資源の視点で関与していくこと。また、これまでよりも経営戦略の実現に積極的に貢献していくことが求められます。
たとえば、CEO、COO、CFOなどと同様にCHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)を置いて、人的資源の活用を統括する立場の人が経営に参画するケースがあり、これも戦略人事を企業に配した姿の一つです。

※「戦略人事」は株式会社リンクアンドモチベーションの登録商標です。(商標登録5921227号)

※CHROについては、下記の記事もご参照ください。
CHRO/CHO(最高人事責任者)とは?人事部長との違いや求められる役割を紹介

人事戦略との違い

戦略人事と人事戦略は、言葉は類似しますが意味合いや位置づけが異なります。人事戦略は、あくまでも経営戦略や事業戦略を推進・実現していくための戦略。言い換えるならば、人事戦略は人事部に降りてきたミッションをいかに最適な形で達成するかを描いたものです。それに対して、戦略人事は経営が人事部の目標を決めるまで待つのではなく、人事が持つ知見を活かして経営に提言し、企業全体の戦略の策定に関与すること。そこから人事部の目標も導き出すような動き方をします。

※人事戦略については、下記の記事もご参照ください。

人事戦略の立て方とは?進め方やメリットなど成功させる方法を解説

戦略人事に求められる4つの機能・役割

米国の大学教授デイビッド・ウルリッチ氏は、著書「MBAの人材戦略」の中で戦略人事に必要な機能を4つ提唱しています。ここでは、それぞれについて解説します。

1.ビジネスパートナー(経営への提言、または経営ボードへの参画)

戦略人事の最大の特徴は経営の意思決定にまで関与・貢献することです。そのため、人材や組織に関する専門家としての視点から経営戦略や事業戦略の内容に提言していくような機能が求められます。

2.センター・オブ・エクセレンス(難易度の高い人的課題を解決できる専門性)

経営の意思決定に関わるような提言を行うには、経営ボードメンバーである取締役や役員よりも人事領域に精通した深い専門性が必要です。

3.OD&TD(企業ビジョン・ミッションの実現に向けた組織開発・人材開発)

ODはOrganization Development=組織開発、TDはTalent Development=人材開発の略です。経営や事業のビジョン・ミッション実現に向けて戦略人事も未来に向けた中長期の組織開発・人材開発計画を立て、推進していく機能が求められます。

4.オペレーションズ(迅速かつ精度の高いオペレーション実務の遂行)

精度を高くより緻密な計画を立てるためには、日々のオペレーションを疎かにはできません。オペレーティション業務の効率性や品質を高めることも重要な視点です。
参考文献:デイビッド・ウルリッチ著「MBAの人材戦略(日本語)」日本能率協会マネジメントセンター、1997年出版

戦略人事のポイント

外部環境を正しく把握できる力

戦略人事が経営と一体となって戦略を考える役割である以上、人事も経営と同じ視界で自社を捉える力が求められます。それは、採用・育成・配置のような、人・組織のことだけにとどまりません。自社商品のマーケット環境やカスタマーニーズの変化などを冷静に把握する力が必要です。「事業競合はどのような戦略で、自社が優位性を発揮するには人材をどう育成すべきか」、「5年後10年後のマーケット変化を見据え、人材採用はどうあるべきか」といった視点で戦略を練る力が求められます。

データやテクノロジーに対する親和性

難易度の高い組織課題を解決したり、より精度の高い戦略を立案したりするために、現在では人事領域にも積極的にテクノロジーが活用されています。たとえば、従来であれば目的別に各所に点在していた人事情報を一元管理できるツールの導入により、採用時のデータや入社後の人事評価履歴などを簡単に集約・分析できるようになります。自社で活躍しやすい人材の条件を割り出すことも可能になりました。こうしたHRTechと呼ばれるテクノロジーにより、人事が保有する情報から従来は見えづらかった事実や傾向が判明し、経営の意思決定にも活用されはじめています。人事ならではの立場で高度な戦略を立案するには、データやテクノロジーを柔軟に取り入れていく姿勢も必要だといえるでしょう。

※HRTechについては、下記の記事もご参照ください。
HRテックとは?活用できる領域・サービスや今後のトレンドを紹介

経営や事業に提言できる、高いコミュニケーションスキル

戦略人事がいかに経営戦略を立案できる力を保有できたとしても、実際の経営会議などでその意見が受け入れられなければ意味がありません。そのため提言内容の良し悪し以前に、「言いたいことが言える」関係性や調整・交渉力が必須です。人事は経営の“イエスマン”になるべきではありませんが、かといって他の事情を考慮しない一方的な提案では受け入れられません。専門家としての意見と事業の実態のバランスを取り、建設的に議論が進められるような動きも大切です。

戦略人事を行うための手法

人事組織の体制を見直し、必要に応じてアウトソースする

戦略人事は従来の人事にはなかった役割を担うこともあるため、人事にこの機能を求めるのであれば、単純に業務負荷は上がります。増員など、人事組織体制の見直しは検討した方が良いでしょう。場合によって、戦略を企画・立案する戦略人事組織と戦略の実行を担うオペレーション人事組織に再編し、役割を明確化することも有効です。

また、自組織内で担うべき役割と、外部のエキスパートに力を借りる部分を決め、RPOなどのサービスを利用して適宜アウトソースをしても良いでしょう。オペレーション業務を外部に委託することだけでなく、戦略立案の部分を外部のコンサルタントと協業することも選択肢のひとつです。

※RPOについては、下記の記事もご参照ください。
RPO(採用アウトソーシング)とは?メリットや依頼のポイントなど事例も紹介

守りの人事から、攻めの人事へ。主体的に経営や事業に働きかける

繰り返しご紹介しているように、戦略人事は与えられたミッションを遂行するというよりも、企業全体のミッションそのものに影響するような役割であり、人事部自らのミッションも主体的に決めていくような役割です。そのため、上位レイヤーからの指示を待つのではなく、経営や事業に主体的に働きかけていくことが、戦略人事を成功させる最も重要なアプローチです。一方の経営サイドも、人事に経営と一体となる動きを求めるのであれば、フラットに議論ができる場を設けることも必要でしょう。その意味で、人事責任者をCHROとして経営に参画させることは大きな意義があります。

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