働き方改革も進み従業員の意識も高まる一方で、未払残業代やハラスメントなどにより労働問題に発展するケースもいまだ少なくありません。今回は、労務に関して困ったときに会社はどうしたら良いのか、よくある労務相談についてトラブル事例と合わせてご紹介します。

労務相談とは

「労務」とは、社会保険手続や給与計算の他、勤怠管理や福利厚生、安全衛生に関することなど、従業員が入社から退職までの間、安心して働くことができるよう幅広くサポートする業務をいいます。「ヒト」に関する業務であることから答えが一つではないことも多くあり、困ったときにはどこかに相談したくなることもあるでしょう。
会社が弁護士や社会保険労務士と契約していれば、直接相談することも可能ですが、もしそのような相談先がない場合は、労働局や労働基準監督署などの総合労働相談センターなどのほか、弁護士会や社会保険労務士会の相談センターなどで対応している場合もあります。

※労務に関しては、以下の記事をご参照ください。

労務の仕事とは?人事との違いや役割など必要なスキルをわかりやすく解説

今回はそのような相談事例の中から、よくある労務相談内容についてトラブル事例と合わせてご紹介します。

雇用に関する相談

雇用に関する相談としては、やはり解雇や雇止めに関するものが多いようです。さすがに「明日からもう来なくていい!」などと感情的になる経営者は少なくなっていますが、それでも解雇することに躊躇しない経営者も存在しているようです。
ただし、労働契約法第16条において、

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」

とされているので注意が必要です。

トラブルの具体例

たとえば、何度もミスを繰り返す従業員は残念ながら存在します。指導する側としては悩ましいところですが、だからといって簡単に解雇してしまうのは危険です。退職後に「解雇は無効」と主張され、場合によっては慰謝料や損害賠償請求までされてしまうケースもあります。

またコロナ禍においては、会社も雇用維持が難しくなり、いわゆる「整理解雇」を考えざるを得ない場合もあるでしょう。ただ過去の裁判では、本当に解雇しか選べなかったのか(人員整理の必要性)、雇用調整助成金などの利用はできないか(解雇回避努力義務の履行)、なぜその人なのか(被解雇者選定の合理性)、状況の説明など話し合いは尽くしたのか(解雇手続の妥当性)、などの状況をみて判断がなされています。苦しい経営状況であったとしても、安易に解雇を選択することのないようにしましょう。

※解雇に関しては、以下の記事をご参照ください

【弁護士監修】試用期間中に解雇できる?認められた判例と手順をわかりやすく解説
【弁護士監修】無断欠勤で解雇できた判例とは?対応方法や注意点を解説

賃金に関する相談

従業員にとって働くことで得られるものは「賃金」です。それによって生活が成り立つわけですから、もしそれが得られなかったら従業員にとっては重要な問題です。

トラブルの具体例

いわゆる「残業代」に関する相談があります。残業代が全く支払われないといったケースは論外ですが、「固定」で支払っている場合は注意が必要です。「固定」で支払うことそのものは問題とはされませんが、実際の残業時間に対して支払うべき金額に足りていない場合は、追加で支払う必要があります。

労働時間に関する相談

いわゆる「働き方改革」により時間外労働の上限規制が設けられるなど、労働時間に関する意識は高まっていますが、それゆえトラブルになることが多いともいえます。

トラブルの具体例

長時間労働に関する相談があります。長時間労働については、未払残業代の問題や36協定等にも関連しますが、中でも問題が大きくなるのはメンタルヘルスや過労死・過労自殺に繋がってしまった場合です。労働時間の管理は、会社として最低限必要なものと考えましょう。

ハラスメントに関する相談

2020年6月1日に施行された「改正労働施策総合推進法」により、2022年4月1日からは大企業だけでなく中小企業もパワーハラスメントの防止措置が義務化されました。それだけハラスメントに関しては、昨今大きな問題となっており、労務相談の現場でも、最近は相談件数が最も多いものとなっています。

トラブルの具体例

ハラスメントが特に問題になるのは、メンタルヘルスに影響が出た場合です。特にハラスメントの行為者は、自分の行為がハラスメントとは思っていないことが多いようです。

会社としては、何がハラスメントになるのか、ハラスメントがあった場合にはどのような処分を行うのかなどを従業員に明確に示すといった対策をし、まずはハラスメントを防ぐ努力が必要です。そして、もしメンタルヘルスに不調が生じた従業員がいる場合、その症状に応じて適切な対応をとることも重要です。万が一、命が失われてしまった場合、残された家族はもちろん会社の担当者も精神的に大きなダメージを受けます。

なお、万が一メンタルヘルスの不調により休職せざるを得なくなってしまったとき、健康保険に加入している場合は「傷病手当金」の受給が考えられます。特に2022年1月1日からは、同一のケガや病気に関して通算で1年6か月分の受給が可能となりましたので、休職と復職を繰り返した場合でも、受給期限切れとなる場合が少なくなることが見込まれます。

※パワハラに関しては、以下の記事をご参照ください
パワハラとは?定義と種類や相談されたときのチェック方法と進め方を解説

待遇に関する相談

従業員ひとりひとりについて、職務内容や賃金などが異なるのは当然のことです。しかし、全く同じ仕事をしているのに賃金などの待遇が異なるとしたらどうでしょうか。現在はいわゆるパートタイム・有期雇用労働法等により均等・均衡待遇が定められていますが、まだまだ浸透しているとはいえないこともありトラブルになることも多いようです。

トラブルの具体例

筆者の経験上、特によくご相談があるのが、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者の問題です。一般的に、正規雇用労働者は定年までは期間の定めがなく、非正規雇用労働者は有期雇用の場合が多いと思いますが、全く同じ仕事で責任の度合いも全く同じなのに、賃金に大きな差があったとしたら納得できるでしょうか。そうすると不満の声が上がり始めます。特に、法制化されたことによって、これまでは「こんなものかな」と曖昧に思っていたことについて違和感を覚える人が増えているように感じます。
待遇に違いがある場合は、その違いを明確にした上で、きちんとその理由を説明できるようにすることが大切といえます。

就業規則や労働条件に関する相談

「就業規則」が会社のルールブックだとすると、そのルールの範囲内において示された条件が「労働条件通知書」といえるでしょう。いずれも労働基準法において定めるべき内容が決められています。記載すべき内容が足りないなどの場合は論外ですが、そこに示された内容と異なる条件で仕事をしていた場合や、会社が一方的にその内容を悪く変更してしまった場合は、トラブルになることが多いです。

トラブルの具体例

従業員を雇い入れる際は、労働条件について原則として明示しなければなりません。しかし残念ながら、その明示がないケースが少なくありません。そうすると「実際に働いてはみたものの受け取る賃金が思っていたものと違う」「労働時間や休日などが聞いていた内容と違う」などのトラブルが発生します。
また就業規則については、労働契約法第9条により「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」とされています。それにもかかわらず、いつのまにか就業規則が変更されていた、などの場合は、争いとなったときにその部分は無効と判断されますので注意してください。

人事・労務として準備するべきこと

「ヒト」が集まる以上、トラブルが全く起きない、ということは難しいかもしれません。しかしながら、そこに明確なルールや決まりがあれば、ある程度は防ぐことができるでしょう。

トラブルを防ぐために

まずは就業規則や社内ルールを明確にすることが大切です。そしてルールを明確にしたら、それを必ず周知しましょう。

特にハラスメントやメンタルヘルスに関しては、社内研修の実施や従業員ミーティングの開催などを行い、従業員全員が常に意識できるように心掛けましょう。気軽に相談ができる環境を整えることも効果的といえます。

人事・労務として気をつけるべきこと

在宅勤務やテレワークの普及、男性の育児休業の促進やハラスメント対策の義務化など、急激に世の中が変わってきています。人事・労務担当者としては、時代に即した臨機応変な対応ができるよう普段から最新の情報を得ておかなければなりません。
その上で、従業員に対してさまざまな場面において「説明」することや「相談」に対応(窓口設置)することが求められています。「労務」がヒトに関する仕事である以上、必ずしも決まった答えがあるとは限りません。人事・労務担当者がメンタルヘルス不調とならないためにも、困ったときには、前述したような労務相談の利用を考えても良いでしょう。

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