形骸化した社内制度を改善するためには、どのようにすれば良いのか。そもそも形骸化した制度とは「制度はあっても期待される機能を果たしていない」ということ。では、なぜそのようなことが起きるのか。どのように対処すべきなのか。その対処法を探っていきましょう。

形骸化とは

形骸化とは、「内容や意義を失って、形だけが残った状態」を指します。一般には何らかのルール(決まりごと)を作った後、本来の目的が見失われて、ただルールを維持することが目的になってしまうような状態が当てはまります。

ビジネスにおける形骸化の使い方と例文

ビジネスでは、定例化した業務に対して形骸化という言葉が使われることがあります。たとえば「定例ミーティングが形骸化している」「株主総会が形骸化している」「報告業務が形骸化している」「データ入力業務が形骸化している」などです。

社内制度が形骸化した状態とは

会社にはさまざまなルールがあり、それらの多くは、各種の社内制度として反映されています。法令で決められている制度以外にも、社内FA(フリーエージェント。社内で人材募集する)制度や1on1ミーティング(定期的な上司と部下による面談)、表彰制度や長期休暇制度など、社内には多種多様な制度があります。


形骸化の一例として、筆者の経験を挙げます。入社した企業では、改善事項を提案カードに書いて提出する「改善提案制度」がありました。提案には毎月のノルマがあったのですが、職場の改善事項などそうそうあるものではありません。だんだん提案数が少なくなっていき、そのうち「何でもいいから出せ」というような雰囲気になり、思いつきで数を稼ぐようになりました。
これなどまさに、形骸化を絵に描いたような状況です。提案制度の当初の目的は恐らく「社員一人一人が事業への参加意欲を持ち、かつ生産性向上への意識を高め、利益貢献につなげる」ことだったのでしょう。それがいつの間にか「制度だからやる」になってしまった結果、数年後に制度は廃止されてしまいました。

このように、立派な目的があっても、仕組みがわかりやすいものであっても、その制度に参加する人が意欲を失い、制度を運用する者が仕組みの維持に汲々とする状態になっていれば、その制度は形骸化しているといえるでしょう。

社内制度が形骸化する理由

なぜ制度は形骸化してしまうのでしょうか。社内制度が形骸化する理由を以下に整理してみました。

制度の目的を終えている

制度の目的を達成しているのに、仕組みだけが運用されているケースです。
私が相談を受けた企業の例では、毎年の人事評価をポイントに換算していました。ポイントにすることで評価結果を累積的に昇格に反映させようとしたのです。制度の導入時こそ昇格審査に使われていましたが、その後は別の方法で昇格が行われるようになり、ポイントが使われなくなっていたにもかかわらず、計算だけは続けられていた事例があります。

制度の目的が理解されていない

制度の目的が社員に理解されておらず、言われるがままに仕組みに取り込まれているケースです。
目標管理制度は形骸化の例として挙げられることの多い制度です。目標管理制度には、組織と社員のベクトルを一致させる、職務に応じた責任範囲を明確化するといった目的があります。ところが、多くの会社では社員が「ノルマの数値化」だと思っていて、そのために達成しやすい目標を設定したり無理に数値化したりといった問題が起きています。このように、制度の目的が社員に正しく伝わっていないために形骸化することもあります。

制度の運用が恣意的になっている

目的も仕組みも社員に理解されていたとしても、制度の運用において実質的に一部の社員にしか恩恵がないような制度は、社員の支持を失います。
一例として、人事評価とは別に、社員の士気を高める目的で優秀な社員を表彰し、賞状と金一封を授与する表彰制度について考えてみましょう。もしも、表彰される人が毎回売り上げトップの社員で、顔ぶれもあまり変わらないとしたらどうでしょう?士気が上がるのは当然一部の人に限られます。その他の社員には陽が当たらず、制度の目論見とは逆に組織全体の士気が下がってしまうかもしれません。

制度の運用が硬直化している

上司と部下のコミュニケーションを増やそうと1on1ミーティングを導入したとします。毎週1回、1時間を面談の時間として充てる制度だと仮定します。運用を担保するためには、面談の記録を管理する必要があります。始めのうちは時間をやりくりしていた上司と部下も、お互いの仕事の都合が合わなくなる時もあり、定期的な面談だったものが不定期になっていくことは、よくあることです。
ここで面談記録を盾に、型通りの決まった方法を押しつけていけば、上司も部下も「押しつけられたからやる」状態になります。まさに形骸化です。

社内制度が形骸化したら、どうすれば良いのか?

図らずも当初の意図に反して社内制度が形骸化している場合、どのように対処したら良いでしょう。上述のように原因がわかっていれば、自ずと対策も見えてきます。

制度の目的を終えている場合の対策

制度の目的を達成しているのに、仕組みだけが運用されているケースです。一番簡単な対策は、制度を廃止することです。
しかし、実際は正面切って廃止することが難しい場合もあるかもしれません。そのような場合は、制度の目的をリニューアルし、旧制度を新しい制度に一新する方法があります。
前述したポイント制の例のように、過去の累積を反映していた制度を、時代に合わせて直近の業績だけを反映するような人事制度に改め、ポイント制に代わる仕組みを構築します。そうすることで結果的に旧制度を終わらせることができます。

制度の目的が理解されていない場合の対策

制度の目的が社員に理解されないまま仕組みが運用されているケース。制度の目的を社員に浸透させるほかはありません。

目標管理制度の例ですが、ある会社では改めて全社員を対象に目標管理研修を行った結果、受講した社員から「自分で目標を設定することで、与えられた職務の意味が理解できるようになった」との声が聞かれるようになりました。

制度の運用が恣意的になっている場合の対策

会社の制度は多くの場合、社員全体を対象としているので、その影響範囲も必然的に全社員に及びます。従って先に述べたように一部の社員にしか恩恵がないような制度は、むしろ社員全体にはマイナスに働くリスクをはらんでいます。

表彰制度であれば、表彰の対象を「業績」だけに絞らず「縁の下の力持ち」や「業務の改善」といった領域にも拡げ、社員全体が表彰され得るような運用に変えていけば、形骸化を避けることができます。

制度の運用が硬直化している場合の対策

「制度として導入したものは、決まった通りに行う」。会社員としてはごく当たり前の行動です。しかし、決まったことであっても状況に合わせて修正していくこともまた当たり前のことです。

1on1ミーティングの例を挙げましたが、導入の目的はコミュニケーションを増やすことでした。であれば、頻度や時間に変更があっても、双方のコミュニケーションの満足度や納得度が上がれば良いことになります。
先に制度は全社員に影響があると述べましたが、社員の業務内容や働き方は千差万別です。社内制度と社員の実情とのバランスを取ることは、手間のかかることではありますが、制度を形骸化させないために必要なことです。運用の硬直化を避け、柔軟に対処する方法については、次節の後半で補足解説します。

社内制度を形骸化させないための2つのポイント

社内制度を形骸化させないためのポイントは、大きく2つあります。

第一は、やはり最初の制度設計です。どのような制度も形骸化する恐れがあります。そのため、制度を設計する段階から「きっと形骸化する」と考えながら仕組みを構築することが重要です。制度設計における5つの注意点を以下にまとめておきます。

1.目的を明確にする

最初に制度を創るときは、達成すべき目的があるはずです。それをできるだけシンプルに明確化することが重要です。
気をつけたいのは「あれもこれも」盛り込まないことです。社内FA制度を導入する際「配属先と本人のミスマッチを防ぐ」だけなら良いのですが、そこに「社内の人的資源の活用」を加えると「多少のミスマッチよりも人的資源活用のメリットの方が大きい」となって、いつの間にか「人が足りない部署への配置転換」制度になってしまう懸念があります。このように目的を幅広くすればするほど、社員には制度の目的がわかりづらくなり、形骸化の危険が増していきます。

2.運用期限を決める

制度にもよりますが、いつかは目的が達成されて、制度が廃止されることを想定して、あらかじめ期限を設けておくのも形骸化を防ぐ一つの方法です。

たとえば制度の期限をいったん3~5年程度に定めて、その期限が来た時点で延長の可否を判断すれば良いでしょう。

3.見直しの手続きを決めておく

運用期限の話と重なるところもありますが、制度を導入して運用が開始された後、必要な見直しを誰がどのような手続きで行うかが決められていないことが多いようです。
どのような制度も、社会環境の変化や社内の組織の変化にさらされます。その過程で、当初の設計のままでは運用に差支えが出ることも想定されます。制度を見直すタイミング(1年に一度など)や修正を決定できる機関(人事部など)あるいは責任者(人事部長など)を決めておくと、時宜にかなう改定を行うことができ、形骸化を予防できます。

4.運用開始時に効果的なアナウンスをする

制度が形骸化する原因の一つに、社員の理解不足があります。制度を導入する時に充分な説明が必要なのはいうまでもありませんが、導入後に中途や新卒で入社してくる社員にも説明を忘れないようにしましょう。また説明だけでなく、手元に残る資料として、紙やデータで保管する(または保管場所がわかる)ことも大切です。

5.実績評価の方法を決めておく

制度の形骸化の話ばかりしてきましたが、逆に制度が形骸化していないとは、どのような状態でしょうか。それは、制度が定着した状態です。社員が制度の意義をよく理解し、制度の活用に積極的であるのが理想の状態です。
実績評価とは制度の定着状態を測ることです。もっとも簡単な方法はWebを活用したアンケートを行うことです。アンケートの内容や実施方法を制度設計時に組み込んでおけば、制度を廃止・改善・維持するタイミングやぜひの見極めがしやすくなります。

社内制度を形骸化させないための第二のポイントは、運用の柔軟性です。

制度の運用が始まると、予期していなかった問題が出てくることが少なくありません。筆者の経験で述べた改善提案制度も、始めのうちは大きな改善につながるアイデアがたくさん出てくるものですが、時が経つにつれてアイデアが小粒になっていくのが通例です。制度の問題に気づきながら、せっかく良い制度ができたのだからと問題に目をつぶってしまえば、形骸化は免れません。
制度に問題が起きても改善されない原因の一つは、運用が1名の担当者に任されてしまうことにあります。多くの場合、運用の担当者は運用方法を変える権限を持っていません。ここに根本的な問題があります。
運用の責任を1名の担当者に負わせるのでは、制度の改善は難しいでしょう。運用の柔軟性を担保するには、制度に関する不満を持つ社員の意見を幅広く集めることが必要です。そこで、さまざまな立場の社員を代表できる複数部署の管理職からなる「制度管理委員会」のような組織を設け、そこに意思決定を委ねる方が、運用の改善に柔軟に対処できる可能性があります。
これまで見てきたように、どんなに良い制度であっても形骸化するリスクがあります。もちろん、目的に沿って定着している制度もあるでしょう。一方で、社員の声を拾ってみたら、制度に問題が見つかることがあるかもしれません。そのような時は制度を見直すチャンスです。形骸化している制度を目的に沿って甦らせたら、思いがけず会社に新風が吹き込んでくるかもしれません。

設計次第、運用次第で社内制度が社員を活き活きさせることもできますし、形骸化によって社員の負担にしかならないこともあり得ます。
社内制度を形骸化させることなく、制度を考えた人、運用する人、そして社員全員に実りをもたらす制度にしていきましょう。

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