今回はダイバーシティと近い考えでよく使われるようになっている、「インクルージョン」を取り上げます。インクルージョンは英語で直訳すると「包括」「包含」「中に含まれるもの」という単語です。ビジネスの場で用いられる場合、どのように使われるのか、ダイバーシティとの違いなども含めて見ていきましょう。

インクルージョンとは

インクルージョンとは異なる文化や価値観を持っている人が互いに認め合い、それぞれの経験や能力が活かされている状態です。国籍、性別、年齢に捉われず、機会を広げ、個々の力を最大限に発揮することで個人、組織、社会が発展していく考え方です。特に少子高齢化が進み労働人口の減少が見込まれる日本では、外国人との協業や異なる世代・価値観を持った人が一緒に働くことは今後スタンダードになっていくでしょう。人事担当者は組織の中にさまざまな人が集まっている状態を認めるだけでなく、一人ひとりと向き合って個人の能力や個性が活かされている状態を目指すことが重要なミッションになっていくと考えられます。

ダイバーシティとの違い

「インクルージョン」と近しい考えとして「ダイバーシティ」という考えがあります。

より馴染みのある言葉かと思いますが、「ダイバーシティ」は直訳すると多様性という意味になります。ダイバーシティ=女性活躍と考える人もいますが、それは一つの側面でしかなく、国籍、性別、年齢などさまざまな違いを認め、尊重するというものです。 では、「インクルージョン」と「ダイバーシティ」は何が違うのでしょうか。これは明確に分かれているというよりも、繋がっていると考えると分かりやすいでしょう。お伝えした通り「ダイバーシティ」とは多様性で、違いを認めて尊重するという意味で使われます。しかし、単に違いを認め尊重するだけでは企業が発展や成長をしていくうえでは不十分です。そこで「インクルージョン」という考え方が必要になってきます。国籍、性別、年齢などさまざまな違いを認め、尊重したうえで、「包括」「包含」し多様な人材を組織として戦略的に活かしていくことが、「インクルージョン」なのです。

※ダイバーシティについては、以下の記事をご参照ください。
ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介

インクルージョンの実現による企業活動への効果と必要な対応

ここではインクルージョンを導入する際のメリット・デメリットを見ていきましょう。

メリット

人材の確保・定着に繋がる

「インクルージョン」の導入は人材の確保・定着という点で有益でしょう。グローバル化する社会において、多様な人材を受け入れ活用することは、さまざまな人の目に魅力的に映ります。たとえば、専門性の高いスキルを持つエンジニアが転職先を選ぶ際に、色々な知識・経験やスキルを持っているエンジニアが既に活躍していれば「最新のナレッジを共有でき、スキルを磨ける環境がある」と判断してくれる可能性が高まります。また、給与などの金銭面だけで繋ぎとめるのではなく、多様な人が活躍し働きやすい職場環境であれば「自分が成長できる」「自分が必要とされている」と感じることができ定着率もあがりやすくなります。

新しい発想やイノベーションが生まれやすい

まったく異なる視点や文化、価値観を持った人材が活発に議論を交わすことで革新的なアイデアが生まれやすくなるでしょう。さらに、多様なスキルを持った社員が集まることでそのアイデアが具現化する確率も上がることでしょう。困難な壁が立ちはだかった時にも様々な意見を出し合うことで解決策の選択肢が広くなり、最適な道筋が見つけやすくなります。

デメリット

制度やルールを見直す必要がある

多様性を受け入れ活かしていくのであれば、これまでのやり方を変えていく覚悟が必要になります。多様性があればあるほど、同一の制度やルールを適応することは難しいもので、過去の慣習に捉われない発想と制度・ルールの再設計が必要になります。たとえば、シニアの方のキャリアプランはどうする?障がいの有無にかかわらずイキイキ働くためには?ライフステージに合わせた制度設計とは?など、多様な人材の数だけ考えるべきことは多くなり、制度設計に工数が掛かることは避けられません。

リクルートグループのダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの取り組み

ここではリクルートグループの取り組みをご紹介します。リクルートグループは創業以来、ビジョン・ミッション・バリューズの根幹にある基本理念「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」を大切にしてきました。2021年からは、エクイティ(公正)の考え方を加えた「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)」の推進に取り組んでいるので、いくつかご紹介します。

Indeed:従業員が主導するインクルージョングループ

Indeedでは「We help all people get jobs(あらゆる人々の就業を支援する)」という企業ミッションに基づき、社内外でのあらゆる活動においてダイバーシティやインクルージョンの推進に取り組んでいます。社内では、従業員主導で、人種、ジェンダー、障がい、世代などの様々なトピックに基づき従業員間の相互連携や支援を行う「インクルージョングループ」を形成し、社会課題やその解決策についてオープンな議論・対話を促す場となっています。

出典:リクルートホールディングス

株式会社リクルート:ジェンダー平等の実現に向けた女性従業員のキャリア支援

キャリアや公私の両立に悩む28歳前後の若手女性従業員に向けた研修「Career Cafe 28」では、自分の強みを把握し伸ばしていくことで自らの市場価値を高め、いつライフイベントが起こっても自分らしく活躍できる選択肢を増やす方法を、外部講師から学びます。2012年から2021年にかけて国内グループ会社含む累計1,200名以上の女性が参加。「将来のキャリアに対する不安を解消できた」といった声が多く、自身のキャリアを前向きに考えるきっかけになっています。

出典:リクルート

株式会社リクルート:セクシュアル・マイノリティへの理解促進と働きやすい環境づくり

LGBTQを始めとするセクシュアル・マイノリティへの理解促進のため、全従業員を対象にeラーニングを実施しています。また、同性パートナーも配偶者として福利厚生を適用する他、相談窓口の設置など、働きやすい環境づくりにも取り組んでいます。

※企業や団体のLGBTQなどのセクシュアル・マイノリティに関する取り組みを評価する指標「PRIDE指標」において、4年連続で最高評価のゴールドを受賞

※「PRIDE指標」において、2年連続で最高評価のゴールドを受賞
出典:リクルート

インクルージョン実現のポイント

それではインクルージョン実現に向けたヒントになる3つの取り組みをご紹介します。

現状を把握する

まずは組織の現状を正しく知る必要があります。「日々の業務で特定の属性の人たちが不利に感じていることはないか」をアンケートなどから抽出するとよいでしょう。「インクルージョン」は一人ひとりの心理的な側面が大きく、特に導入前には数字で計測することが非常に難しいので「現状どのように感じているか」を把握することが最初のステップとなります。

自社のあるべき姿を決めておく

現状把握をしたうえで、いつまでにどのようになっていたいのか、ゴールを決めておく必要があります。ゴールがなければ途中での進捗確認もできません。企業として「インクルージョン」を導入することでどのようになっていたいのかを明確に伝えることで、社員にも具体的かつ測定可能なものとして「インクルージョン」を認知してもらう事が出来ます。

経営陣を巻き込む

現状を把握し、経営陣を巻き込んでありたい姿を描くと良いでしょう。「インクルージョン」の導入は企業の風土と関連しますので、経営陣の協力は欠かせません。企業経営の根幹をなすのは人材といっても過言ではないでしょう。社員一人ひとりが持つポテンシャルを最大限に引き出すためにも経営の重要事項として位置づけ、経営陣に協力を仰ぎ「インクルージョン」を推進するとよいでしょう。

インクルージョンを実践する際の注意点

「インクルージョン」を実践する際に注意しなければならない点は「チームの意思疎通の齟齬」や「社員間での摩擦」などがあげられます。「インクルージョン」の実践時には多様性がある分、統一やまとまりを見出しづらくなる可能性もあります。仕事観や人生への価値観などが異なるため、「効率を求める人」がいる一方で「時間が掛かっても協業を求める人」など仕事をする上でどうしても軋轢を生むことがあります。対策としては働きやすい柔軟な制度を導入した上で、トップやマネージャーからの方針を明確化・明文化することがよいでしょう。全社員が100%納得する制度というのは難しいものです。しかし、方針が明確化・明文化されていれば、社員に問われた時にもしっかり説明することができるので、「知らないうちに溝が大きくなっていた」という事態が防ぎやすくなります。

今回は「インクルージョン」をご紹介しました。企業によっては「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という言葉をバラバラに使うのではなく、「ダイバーシティ&インクルージョン」という一つの言葉で使っており、多様性を認め、尊重し合ったうえで、一人ひとりの能力や個性を最大限に活かすという想いが込められています。

さらに、エクイティ(公正)を加えた「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン」の実現に取り組む企業も増えてきました。社会の変化に連動して、今後も多様化は進むと考えられます。人事担当者の採用活動や人事制度の設計の際にこの「インクルージョン」の考えがヒントになれば幸いです。

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