「アサーティブコミュニケーション」という言葉をご存じでしょうか。働き方改革が進められるなか、さまざまな価値観をもった相手との良好なコミュニケーションを築くために注目されているコミュニケーションスキルです。この記事では、アサーティブコミュニケーションをビジネスで活かす方法、実践のポイントなどをご紹介します。

アサーティブコミュニケーションとは?

アサーティブコミュニケーション(assertive communication)とは、もともとアメリカで開発されたコミュニケーションスキルです。
1950年代、精神科医のジョセフ・ウォルピ(Joseph Wolpe)らが、対人関係が思うようにいかない人や自己表現を苦手とする人のための訓練方法としてアサーティブトレーニングを開発しました。
現在ではビジネスなどで良好な人間関係を作るスキルとしても注目されています。

アサーティブとは?

「アサーティブ」とは英語であり、「assertive」と書きます。その意味は「断言的な」「言い張る」「独断的な」「断定的な」などです。
さらに「アサーティブ」は「アサーティブネス(assertiveness)」という単語からきており、その本来の意味は「自己主張」です。しかし一方的な自己主張とは異なり、自分と相手を同じように尊重しながら、自分の意見を正当に主張する表現方法として認識されています。

アサーティブコミュニケーションとは

コミュニケーションとは「人が言語や非言語を伝達手段として行う意思表示や意思疎通」という意味です。
アサーティブコミュニケーションとは、前述のように相手も尊重しながら自分の意見を主張する意思疎通のスキルのことを表します。

アサーティブコミュニケーションでは一方的に自分の意見を主張するのではなく、相手が意見を主張することも大切にしています。そして、相手との意見に相違があった場合には、お互いに意見を出しあって納得のいく結論となるように譲ったり、譲られたりして話を進めていきます。
発信者自身、自分にとっても相手にとっても不満が残らず、自身の意見や気持ちを適切に表現する方法です。

アサーティブコミュニケーションがビジネスで重視される理由

ビジネスの場では、社員同士が協力し成果を上げるという場面が少なくありません。トップダウンやボトムアップといった一方向型のコミュニケーションに頼るだけではなく、異なる部署同士や上司や部下、同僚などお互いが尊重しあって円満な人間関係を築き、プロジェクトを成功に導くことが理想的です。
また、雇用形態、勤務形態、働く人々の価値観の多様化に対応するべく経済産業省もダイバーシティ経営を推進しています。多様な人材がそれぞれの特性を活かし、活き活きと働くことができる環境を整えることで、自由な発想が生まれ、生産性が向上し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応ができるようになると考えられます。
このような背景から、自社の競争力強化につながるという好循環を生み出すためにも、円満な人間関係構築に役立つアサーティブコミュニケーションが重視されてきています。

※参考:経済産業省:「ダイバーシティ経営の推進」(2021年9月)

※ダイバーシティについては、下記の記事をご参照ください。
ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介

アサーティブではない3つの自己主張の種類

アサーティブを実践する方法をご紹介する前に、まずはアサーティブではない自己主張の種類を3つご紹介します。

1.攻撃的タイプ

自分の意見を主張するばかりの不適切な自己主張をするタイプで、相手の気持ちを汲み取らず、出された意見を尊重しないといった自己中心的なコミュニケーションをとることが特徴です。ひとりよがりな主張が中心となるため、意思疎通することが困難となり、結果として自身の主張を通すことができず、主張を通せたとしても相手との良好な関係性を維持することができないので、将来にわたって関わることが難しいタイプです。

2.受け身的タイプ

自己主張が行えていないタイプのことで、自分の感情表現を抑制して意見が言えなかったり、自分よりも相手のことを優先しようとしたりするところが特徴です。相手の立場を考えて気持ちを汲み取ることはできるのですが、自己主張をすることで関係性が悪くなることを怖れて、自分の気持ちを思うように伝えることができない傾向にあります。「嫌われたらどうしよう」「もめたらどうしよう」「ひとりぼっちになりたくない」という不安をもち、気を遣いすぎてストレスをためこんでしまう人もいます。

3.作為的タイプ

このタイプも自己主張が行えていないタイプですが、自分の気持ちを言語化して相手に伝えるというよりは、自分の態度や雰囲気などを相手に察してもらうことで自己主張しようとするところが特徴です。自分の気持ちを言葉にして表さないので嫌みっぽかったり、第三者を介することで自分の主張を伝えたりすることもあります。たとえば、タバコを吸っている人の前でせき込んでみたり、人を使って煙たいことを伝えたり、換気をしてもらうよう促したりする人です。たとえ不満があったとしても、本人には希望を伝えず言葉ではなく態度で伝えようとする人もいます。

アサーティブコミュニケーションを実践する上での4つのポイント

アサーティブコミュニケーションを実践するためには、それを支えている「誠実」「率直」「対等」「自己責任」という4つのポイントを理解しておくことが大切です。

1.誠実

自分自身に対して素直になることで、相手に対しても素直になれる自分となる

2.率直

婉曲な表現をせず、直接相手に届く言葉でストレートに伝えることを心がける

3.対等

上から目線の発言はしない。必要以上にへりくだらない。心も態度も対等の関係を目指す

4.自己責任

言ったことと言わなかったことに対する責任は自分がとるようにする

これらのポイントを理解することでお互いに対する思いやりが深まり、気持ちいい人間関係が自然と築かれていくことになるでしょう。

アサーティブコミュニケーションを実現する4つの方法

アサーティブコミュニケーションを実現するためにはDESC法(段階的主張法)があります。DESC法とはアメリカの心理学者ゴードン・H・バウアーらによって提唱された主張法で、自己主張を弱い主張から始めて、解決しないときにはだんだん強い主張にしていくという方法です。DESC法では、自己主張の段階を4つに分けることにより、ときには柔らかく主張したり、強く主張したりと状況に応じた使い分けができるようになると考えられています。

01.Describe(描写)

まず、今の状態を客観的に描写し表現します。事実だけに焦点を当て、できるだけ具体的に表現することに努めます。このとき、自分の感情や思い込みを入れたり、推測で話したりすることがないよう注意しましょう。

02.Explain(説明)

客観的事実である描写について感じている主観的な気持ちを、「私はつらいです」「私は苦しいです」のように主語を「私」とした表現方法(アイメッセージ)で主張します。たとえ不快な状態であったとしても言葉を荒げたり、責めたりせず、相手を尊重する気持ちをもって接するとよいでしょう。

03.Specify(提案)

自分が相手にしてほしいことを提案します。この提案は解決策や妥協案の提示となるのですが、相手にとって優しく、受け入れやすい表現となるよう心がけましょう。提案する際の解決策や妥協案はできるだけ具体的な内容であることが望ましいです。こちら側の主張を一方的に押しつけたりせず、提案や依頼というかたちで伝えるとよいでしょう。

04.Choose(選択)

アサーティブコミュニケーションは相手が意見することも大切にしています。このことから相手にも選択権があると考えており、自分が提案したことに対する相手からの返答が「YES」であった場合と「NO」であった場合のそれぞれに適した回答を伝えます。場合によっては強い主張となることもありますが、どうするかを選んでもらうことで対等に話すことを意識できるでしょう。

アサーティブコミュニケーションの具体例

ではアサーティブコミュニケーションとは具体的にどのようなものか、4つのパターンに分けて解説します。

01.上司から部下へ

3つの自己主張タイプのうち「攻撃的タイプ」、いわゆる上から目線の上司だと、自分中心で仕事を進めてしまうため、思うように動かない部下や言われたことしかやらない部下に対して強く叱責してしまうことがあります。このようなプレッシャーを与えるような言動をしていては、部下との良好な関係を築くことが難しくなります。

しかし上司がアサーティブコミュニケーションを身につければ、部下の気持ちや意見を尊重しながら自分の意見を主張することができるようになります。自分の意見に対してだけ尊重を求めるのではなく、部下に対しても尊重の意思を伝えることで良好な人間関係が築けるようになる可能性が高まります。

02.部下から上司へ

3つの自己主張タイプで「受け身的タイプ」の部下だと、上司から言われたことに対して何の疑問も持たないで「ハイハイ」と従ってしまうイエスマンとなってしまったり、苦しいときでも周りに助けを求めることができなくなってしまったりする可能性があります。このような状態が続くとひとりで抱え込む傾向が強くなり、やがてメンタルヘルスの不調につながってしまう可能性も出てきます。

部下がアサーティブコミュニケーションを身につけ、自分の意見を言えるようになれば、上司に対して素直な自分の気持ちを言えるようになり不調に陥らずに済む可能性があります。

03.職場の人間関係をよくする

テレワークの推進や働き方改革、働く人の価値観の変化、イベントの自粛などを経て職場環境が変化した方もいるでしょう。これまで業務時間外に行っていた交流会などは人間関係をよくするための時間とするところも多かったように思われます。しかし、先行きが不透明で将来の予測が困難なVUCA時代を迎え、個人を取り巻く環境が複雑化していることもあり、実施が難しくなってしまいました。
オンラインを使った新しいコミュニケーションツールも出現し、伝え方にも工夫が必要となった時代を迎えたからこそ、アサーティブコミュニケーションを職場全体で身につければ、お互いが相手を気遣いながら自分の意見を言えるようになり、人間関係への不満が解消する可能性は高まるでしょう。

※VUCAについては、下記の記事をご参照ください。
VUCA(ブーカ)とは?予測困難な時代に必要な4つのスキルと、リーダーの資質

04.ハラスメント対策として活用する

2022年4月1日から中小企業にもパワーハラスメントの防止を義務付けた法律が適用され、個人の発言に対する責任が問われるようになってきました。企業においてはリスク管理が重視されるようになり、パワーハラスメントにおける境界線がどこにあるのかを理解し、周知するような研修等も行われています。
アサーティブコミュニケーションを身につけると具体的にどのようなコミュニケーションが攻撃的となるのかを理解できるので、職場のハラスメント対策としても有効でしょう。

アサーティブコミュニケーションは、自分が意見するだけではなく、相手が出す意見も重んじる、お互いを尊重した自己主張の方法です。言いたいことが言えなくて、ストレスを抱えてしまう人が出ないよう、職場の活性化に利用されてはいかがでしょうか。

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