新入社員を指導、育成する制度のひとつに「エルダー制度」があります。この言葉を耳にする機会はあるものの、具体的にどのような制度なのかはあまり知らないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では、エルダー制度の概要やメリット・デメリット、制度を導入する際の手順やポイントなどを解説します。

エルダー制度とは?

エルダー(elder)という言葉は年長や年上、先輩を意味しますが、企業における「エルダー制度」とは、新入社員に対するOJTの一環として、比較的年齢が近い先輩社員が教育係となって1対1で指導を行う制度をいいます。
エルダーは実務の指導だけでなく、職場での人間関係の相談に乗るなど、新入社員の精神面のサポートを担うこともあります。
一般的に新入社員を対象にすることが多いですが、早く仕事や職場に馴染むことを目的として、中途入社の社員が対象になることもあります。

エルダー制度が注目される背景

近年「エルダー制度」が注目されるようになった背景のひとつとして、若手社員の早期離職に関する問題があります。厚生労働省が発表している新卒者の就職後3年以内の離職率は、大卒者で約3割となっていますが、この早期離職は、投資した費用や要した時間などを考えると、企業にとっては非常に大きな損失となってしまいます(※1)。大卒者の求人倍率も直近3年は1.5倍から1.58倍ほどで推移しており、特に中小企業では採用人数を確保することが難しく、新入社員の欠員をすぐに補充できる状況ではないことが想像できます(※2)。

※1出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況を公表します」(2021年10月22日)
※2出典:リクルートワークス研究所「第39回 ワークス大卒求人倍率調査(2023年卒)【大卒求人倍率1.58倍】倍率は上昇、採用意欲は回復へ向かう―中小企業は採用拡大に慎重な姿勢―」(2022年4月26日)

こういった環境下で、採用した人材に寄り添って指導、サポートをするエルダー制度が、早期離職を防ぐ施策の一つとして注目されるようになっていると考えられます。

メンター制度との違い

エルダー制度と似た制度に「メンター制度」があります。メンター(mentor)は指導者や助言者を意味する言葉で、どちらも新入社員を1対1でサポートする点は同じですが、エルダー制度では直接仕事に関わる先輩社員がサポート役となるのに対し、メンター制度では直接仕事に関わる上司や先輩社員ではなく、業務ではかかわりがない他部署からサポート役が選ばれることが多くなります。
メンターはどちらかといえば新入社員のメンタル面のケアを重視しており、実務指導を含めた仕事の直接的なサポートが中心となるエルダー制度との違いがあります。

※メンターに関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見】メンターとは?OJTとの違い、導入ステップ、成功させるコツを紹介

エルダー制度の効果・目的

エルダー制度を導入する目的と期待する効果として、新入社員と年齢が近い先輩社員が実務指導や相談役を担うことによって、新入社員の業務習得と成長を促進することと、職場に早くなじんで会社に定着することが挙げられます。
また、エルダーとなる先輩社員が教育係を経験することで、エルダー自身のスキル向上や成長につなげることも目的のひとつといえるでしょう。

エルダー制度のメリット

エルダー制度のメリットとして、たとえば以下の4つのような点が挙げられます。

01.新入社員の業務と職場への適応を促進

まず期待されるのが、新入社員が実際の仕事で関わる先輩社員の直接的な指導、サポートを受けることで、比較的早く業務の要領をつかむことです。年齢が近く親近感を持ちやすい先輩社員がサポートするので、相談がしやすい環境が作られ、仕事上の不安や悩みが軽減されて職場への慣れを促進することができます。

02.新入社員の早期離職の低減

信頼ができて相談しやすい先輩社員が身近にいることは、新入社員にとって過剰なストレスがなく安心できる職場環境と感じるための重要な要素です。
初めて体験する環境の中で、仕事を覚えたり人間関係を築いたりすることには不安がつきものですが、エルダーが業務指導を直接したり、周りの社員との間を取り持ったりすることで、新入社員の不安感や孤独感を少なくすることができます。業務や職場の人間関係への慣れが早まることで、新入社員の早期離職を低減できる可能性があります。

03.先輩社員が指導経験を積みスキル向上

エルダー制度では、新入社員を指導する先輩社員も、業務指導やさまざまな相談に乗る経験を積むことができます。まだ部下がいない先輩社員にとって、実務指導や習得状況の管理、日々の業務観察などの経験は、リーダーや管理職として必要なマネジメント能力を養うことにつながります。
指導される新入社員だけでなく、エルダーの役割を担う先輩社員の成長も期待できることはメリットの一つといえるでしょう。

04.社内コミュニケーションの活性化

エルダー制度によって、新入社員と教育係の先輩社員との関係が深まることで、他の社員とのコミュニケーションも自然に促進されるようになるなど、社内コミュニケーションの活発化につなげることができます。
別部署のエルダー同士が、お互いに新入社員の指導方法を共有し合ったり、悩みを相談しあったりするなど、部署間のコミュニケーション活性化につながることもあります。

エルダー制度のデメリット

一方、エルダー制度のデメリットの例としては、以下の2つのような点が挙げられます。

01.エルダーとなる先輩社員の負担の増加

エルダーとなる先輩社員は、当然ですが自身の担当業務も持っており、これにプラスして新入社員の指導やサポートにあたらなければなりません。
そのため、場合によってはエルダーに過剰な負担がかかってしまう懸念があります。
こういった状況に陥らないように、会社はエルダーである先輩社員の業務状況に気を配り、負担がかかり過ぎないようにしっかりとサポートすることが必要です。

02.お互いの相性が悪く効果が上がらない可能性

新入社員とエルダーである先輩社員の関係は、直接の業務上でもつながりが深くなるため、お互いの相性が悪い場合はかえってストレスを高めてしまうなど、場合によっては逆効果になってしまう可能性があります。
エルダーと新入社員の組み合わせを決めるにあたっては、お互いの相性を十分に見極めることが必要です。

エルダー制度を導入するための手順

エルダー制度を実際に導入する際の代表的な手順について、以下に示します。

01.エルダー制度の社内周知

エルダー制度の導入にあたって、まずは実施することを社内に周知します。その際には、ただ制度を導入することの事務的な連絡でなく、制度の概要や趣旨、期待している効果なども明確に示します。事前にしっかりした周知を行って、制度の重要性への理解を得ておくことでスムーズな制度導入ができ、導入以降も制度の形骸化が防げるなど、効果的な運用を目指すことができます。

02.エルダーの選定と新入社員とのマッチング

エルダー制度では、エルダーとなる先輩社員と新入社員との相性が重要です。採用選考時の情報やその後のやり取りを通じて新入社員の性格や人物像を把握し、エルダー候補の先輩社員との相性を十分に考慮したうえで、信頼関係を築くことができそうな人物をマッチングします。また制度を運用した後も、十分な信頼関係が築けているかのチェックが必要でしょう。

03.制度の運用

エルダー制度の運用開始にあたっては、エルダーが新入社員を指導しやすい環境を準備しておく必要があります。お互いを近い座席に配置するなど物理的な環境を考慮し、ミーティング実施や指導の方法などは事前に決めておきましょう。
また運用をエルダー任せにせず、会社としても運用状況を把握し、何か問題が起きたときに周囲からサポートができるようにしましょう。

04.振り返りと課題整理・改善

制度を運用開始後は、その効果や課題を対象者との面談やアンケートなどを通じて検証します。会社としての環境作りの状況、エルダーと新入社員の信頼関係の状況など、課題があれば整理して、次に実施する際の改善につなげましょう。

エルダー制度の効果的な導入方法

エルダー制度の導入を効果的に行うためには、以下の2つのポイントを押さえておくことが重要だと考えられます。

01.エルダーを担う先輩社員の役割理解と教育の実施

エルダー制度には、先輩社員がエルダーとして新入社員の教育係になることで、自身のマネジメント能力をはじめとしたスキル向上につなげるという目的があります。
エルダーとなる先輩社員には、自身の能力向上につながることを、メリットとしてしっかり理解してもらうことで、モチベーションを高めて新入社員の指導に取り組むようになり、制度の効果を高めることにつながります。
また、新入社員に効果的な指導ができるかどうかは、エルダーの指導方法に左右されることも多いため、エルダー候補に研修などを実施して教育スキルやノウハウを習得させておくことも有効でしょう。

02.社内での十分な制度理解を図る

エルダー制度の趣旨や目的を多くの社員が理解していないままで導入すると、全社で新入社員を育成しようとする雰囲気が整わず、エルダーとなる先輩社員は周囲からのサポートを得られずに負担が集中してしまうなど、制度がうまく機能しない可能性が考えられます。制度運用にかかわる当事者だけでなく、全社に向けて制度の目的や期待効果を伝えておくと、周囲からの理解や協力が得やすくなり、制度の効果を高めることにつながります。
全社への説明機会を設けるなど、社内での理解を深める取り組みを行うことが望ましいでしょう。

エルダー制度を導入する際の注意点

エルダー制度を導入する際に、注意が必要なポイントを2つ挙げます。

01.お互いの相性見極めと相互理解の促進

新入社員とエルダーの間では人間関係の相性があり、この相性の良し悪しは制度の効果に大きな影響を及ぼします。
お互いの組み合わせにおいては、性格診断などのツールも利用しながら相性を十分に考慮し、はじめに相互理解の場を設けるなどして相性の見極めを行いましょう。
実際に運用していく中では会社も状況を確認し、相性が合わない様子が見受けられるときは、エルダーの変更を含めた対応も必要でしょう。

02.エルダーに任せきりにせず周囲からもサポートする

エルダー制度では、エルダーを担う先輩社員に負担がかかりがちになるデメリットがあります。これを防ぐには、新入社員の育成に対して全社員が当事者意識を持ち、教育をエルダーに任せきりにせず、周囲の社員が協力し合うことが重要になります。
上司をはじめとした周りの社員が、新入社員に積極的に声をかけるなどコミュニケーションを取り、エルダーに負担がかかりすぎないように業務分担などの配慮、サポートが必要です。
新入社員を育てるという意識を全体で共有することが重要です。

エルダー制度の導入によって、新入社員が効果的な指導を受けやすい環境を作ることができ、業務上の早期戦力化につながったり、相談がしやすい関係により問題の早期対処が可能になり、早期離職の低減につながったりするなど、さまざまなメリットがあります。
その一方、先輩社員への負担の増加やお互いの相性の悪さが逆効果となるようなケースも考えられ、運用にあたっては注意を要する制度です。
エルダー制度の趣旨を関係者に十分に周知し、運用状況の振り返りと改善を積み重ねながら制度をうまく活用していきましょう。

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