目次
採用ブランディングとは?採用マーケティングとの違い
まず、「採用ブランディング」とはどのようなものかについてお伝えします。
採用ブランディングとは「採用市場において自社のブランド力を高める活動のこと」
「ブランディング」とは、自社の商品やサービスを、他の同類の商品・サービスと識別できるようにする手段を指します。例えば、シンボルマークやキャッチフレーズ、独特の色使いなどを常に使用することで、消費者が識別できるように働きかけます。消費者にとって価値のある銘柄・商標として、ブランド認知を促すのです。
一方で「採用ブランディング」とは、採用市場において自社のブランド力を高める活動を指します。「この企業で働いてみたい」「この企業で働く価値がある」と求職者に認識してもらえるよう、自社の理念やビジョン、社風、働きやすさ、入社するメリットなどの情報を発信し、戦略的にブランドを構築します。
採用ブランディングと採用マーケティングの違い
採用マーケティングとは、販促活動などで用いられるマーケティングの理論・手法を採用活動に取り入れることです。採用活動を販促活動に置き換えた場合、「企業が求人情報を公開し、求職者が応募を検討する」と言うことは「商品を店頭に並べ、来店者が購入を検討する」状態に近いと言えます。
販促活動では、店内だけで消費者にPRするのではなく、テレビCM・Web広告・キャンペーンなどさまざまな手法で商品の存在を知ってもらい、興味を持ってもらうこと、ファンになってもらうことを目指します。そして、購入検討者や購入者の声を聴き、商品の改良や新規開発、広告宣伝方法を改善していきます。
これを採用活動に当てはめると、求人情報を出して応募を待つだけでなく、その前段階から求職者・転職潜在層にアピールして関係を築くこと、選考プロセスや内定後フォローを最適化していくことが、採用マーケティングの基本活動であると言えるでしょう。
自社に魅力を感じてもらうことを目標とする点においては、採用マーケティングも採用ブランディングも同様です。しかし、採用マーケティングはより具体的な「採用ターゲット」を設定し、ターゲットとなる求職者にアプローチするための戦略を立てる一方、採用ブランディングは求職者以外、将来の入社候補者も含めた幅広い人を対象とする点に違いがあると言えます。
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採用マーケティングとは?メリットや導入方法、フレームワークを紹介 【中途採用ノウハウ】 | リクルートエージェント
採用ブランディングが求められている背景
近年、構造的な人材不足が叫ばれています。株式会社リクルートが2023年、企業の人事担当者を対象に行った調査(※)では、2022 年度の中途採用全体の難易度について、「難しくなった」「やや難しくなった」と回答した企業が4割強に達しました(43.3%)。また、過去3 カ年と比べても、採用競合が増えていると感じている割合は「非常に感じる」「やや感じる」を合わせて5割を超えました(54.2%)。
こうした求人環境下において、求職者に興味を持ってもらうためには、給与や待遇面だけでなく、企業の本質的な魅力を多角的に伝えることが重要となっています。
現在の人手不足は一時的なものではなく、労働人口減少に伴ってさらに深刻化していくと見込まれます。中長期的な視点で、自社のファンを増やしていく採用ブランディングの役割はますます大きくなっていると言えるでしょう。
※出典:株式会社リクルート「企業人事の採用に関する調査 第1弾」(2023年)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/0926_12635.html
採用ブランディングを行うメリット
採用ブランディングを行うメリットの一例を紹介します。
母集団の拡大と採用ターゲットによりマッチした人材の応募が期待できる
応募者の増加、そして自社が求める人材像にマッチする応募者の増加が期待できます。
求職者が応募を検討する際、雇用条件や企業の認知度などが重要な要素となります。他社の方が好待遇であったり、認知度が高かったりする場合でも、採用ブランディングによって、求職者に企業理念・カルチャー・働きがいなど、自社ならではの魅力が伝われば、働く価値を感じて応募が集まる可能性があります。
入社後のミスマッチを防ぎ、定着率の向上に期待できる
採用ブランディングを行うと、企業の価値観や魅力を理解したうえで入社を決意する人が増えると考えられます。そのため、入社後のミスマッチが起こりにくく、従業員満足度や定着率の向上にもつながる可能性があります。
採用コストの削減に期待できる
採用ブランディングが成功すれば、スカウトサービス、リファラル採用、自社のWebサイトやSNSを通じた応募者の獲得や入社などにつながりやすくなるでしょう。その分、転職サイトへの求人広告出稿費、転職エージェントへの成功報酬といった採用コストが削減できる可能性があります。
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リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説
採用担当者によらずブランドイメージの継承に期待できる
採用ブランディングによって培われた企業イメージや、効果があったキャッチコピーやメッセージは、企業内で継承されます。採用担当者が変わっても、一貫したメッセージを発信していくことができるでしょう。
従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上に期待できる
採用ブランディングを行う過程で、自社の考えや思いが従業員に伝わることは、従業員が企業の魅力を改めて認識するきっかけとなります。その結果、従業員一人ひとりが企業の発展に貢献する存在としての自分自身を再認識し、エンゲージメントを高め、さらには業務へのモチベーションも向上することが期待できます。
競合他社との差別化が期待できる
採用ブランディングを推進することは、他社との差別化を図ることと同義と言えます。採用ブランディングには、自社の魅力や他社に負けない強みを洗い出し、正しく理解するといったプロセスが不可欠です。その結果、採用ターゲットの定義、自社の魅力を訴求できる方法・コンテンツの選択などが適切にできるようになり、必然的に競合他社との差別化も実現できるでしょう。
採用ブランディングを行う際の懸念点
採用ブランディングに取り組むにあたっては、以下のポイントを意識しておきましょう。
全社的な施策として取り組む必要があり、推進にパワーがかかる
企業ブランドとは、部署や従業員によってぶれることがないように統一してこそ築かれるものです。例えば、人事の採用ブランディング施策が功を奏して求職者が応募に至ったとしても、採用部門の責任者と面接を行った際、「聞いていた話と違う」「抱いていたイメージとギャップがある」と感じられてしまうと、選考辞退、内定辞退につながる可能性があります。
そもそも、採用ブランディングとは「全社的施策」であり、企業全体のブランディング、いわば企業ブランドと齟齬がないことが大前提です。企業ブランドも踏まえた「採用ブランディング」を採用部門に浸透させ、人事が主体となり推進していくには、相応のパワーが必要になるでしょう。
効果・結果が出始めるまでに時間がかかる
採用に関わらず、企業ブランドの構築には長期間を要することが多いものです。すぐに成果が出ないからといって、方向転換を繰り返すと、いつまでも企業ブランドは確立できません。中長期視点で取り組む意識を持つことが大切です。
採用ブランディングの進め方
採用ブランディングを進める一般的な方法について、ステップに分けて紹介します。
STEP1. 採用ターゲットを明確にする
採用ターゲットを明確にすることが効果的な採用ブランディングの第一歩と言えます。採用ターゲットが不明確な状態では、適切なメッセージを発信することができません。
採用ターゲットを設定する際には、スキル・経験だけでなく、具体的な人物像まで設定することが重要です。採用ブランディングの手法や届けるメッセージ、デザインを設計するときに、「この人の興味関心に当てはまりそう」と言う判断基準を持って進めることができるようになるからです。
採用ターゲットの明確化には、「キャンディデイトジャーニーマップ」を活用するのも一案です。これは、キャンディデイト(採用候補者)が企業と出会い、応募し、選考を経て入社に至るまでの思考・行動・体験を可視化したものです。これは、一般的なマーケティング活動において、自社商品・サービスを求めている顧客の体験を可視化する「カスタマージャーニー」を採用活動に応用したものです。この手法を取り入れ、自社が求める人材と自社との出会いのプロセスを設計してみてはいかがでしょうか。
STEP2. 自社の立ち位置を把握し、魅力を言語化する
採用市場において自社がどのような立ち位置にあるか、採用競合と比較した場合にどのような違いがあるのかを明確に把握する必要があります。また採用市場において自社がどのように認知されているか、自社は求職者にどのような価値や機会を提供できるか、採用ターゲットは何を重視して企業を選んでいるのかを知っておくことも重要です。
自社について客観的に整理・分析したら、ターゲットに伝える自社の魅力を言語化しましょう。言語化の際には、「企業軸」「仕事軸」「人・環境軸」の3つの軸に基づいて整理してみてください。
- 企業軸…売上・利益、従業員数、事業内容、独自の商品・サービスなど、他社とは異なる自社の優位性
- 仕事軸…募集ポジションについて、ミッションや裁量、具体的な業務、協業者などについての魅力
- 人・環境軸…経営者や一緒に働く人、給与・休日休暇・福利厚生といった待遇面、研修制度、評価制度、オフィス環境、組織風土、柔軟な働き方(リモートワークやフレックスタイムなど)などの魅力
STEP3. 採用コンセプトの立案
採用コンセプトとは、採用活動に一貫性をもたらす基本方針・メッセージのことです。コンセプトをつくることで、メッセージに一貫性と継続性が生まれ、伝えたいメッセージが浸透しやすくなります。採用ターゲットにどのようなブランドイメージを持ってもらいたいかを検討して、採用コンセプトを立案していきましょう。
STEP4. 情報発信するメディアや手法の決定
「誰に(採用ターゲット)」と「何を(採用コンセプト)」が決まったら、次は「どのように(メディア・手法)」伝えるかを検討します。さまざまな発信手段がありますので、自社に合う手段を選びましょう。
STEP5. ブランドイメージを社内に浸透させる
企業の目指すブランドイメージを従業員に説明し、社内に浸透させます。ディスカッションやグループワークで「どのような人に入社してほしいか」「入社したいと思える企業の魅力は何か」などについて、従業員が考える機会を設けると良いでしょう。
STEP6. 長期的な視点を持って実行する
採用ブランディングを行う際に大切なポイントの一つとして、先述のとおり、中長期的な視点を持つことが挙げられます。例えば、自社のWebサイトや企業SNSを駆使して応募者の獲得を目指す場合、継続的な発信が必要です。短期間での効果を期待せず、年単位で運用計画を立てて実行すると良いでしょう。
採用ブランディングの発信手段
採用ブランディングを目的とした企業の情報の発信手段と、それぞれの手段の活用法の一例を紹介します。
自社ホームページ・採用サイト・ブログ
自社ホームページ・採用サイト・ブログは、最も自由度が高い発信手段です。転職サイトに掲載する求人広告とは異なり、記載項目・スペース・ボリュームに制限がなく、画像や動画も含めた多様な表現を活用できます。採用ブランディングを意識した一貫性あるメッセージを、自分たちでコントロールしながら、継続的・複層的に訴求できるでしょう。
なお、採用サイトだけよりも、採用ブログもあると、日々の最新の出来事・情報を更新していけます。人事だけで運用するのは負荷が大きいため、有志社員が分担して順番に担当するなどすれば継続しやすいでしょう。
求人広告
転職サイトに求人広告を出稿します。多くの転職顕在層に見られる可能性が高いと言う点でメリットがありますが、掲載できる情報に制限があるほか、多くの求人企業の中で埋もれてしまう可能性もあります。
そのため、募集職種の採用ターゲットに訴求できる内容を整理し、端的なメッセージやキャッチコピーを工夫して伝えることが大切です。求人広告だけで全てを伝えようとせず、まずは興味を引いて、自社サイトなどに誘導することを意識すると良いでしょう。
イベント・ミートアップ
自社で会社説明会を開催するほか、複数企業の合同説明会や「転職フェア」などのイベントに出展する方法です。「ミートアップ」とは、求職者を自社に招待し、社内見学や社員との交流を通じて応募・入社意欲の向上を図るものです。社員を交えた対話形式やワークショップ形式で行う方法などがあります。
イベントには経営陣や採用部門の社員も参加でき、職場の雰囲気や空気感をつかんでもらったり、商品・サービスの開発背景といった裏話を伝えたりすることができます。
SNS
SNSは、手軽に発信ができることに加え、多くのユーザーと接点が持てる可能性、拡散できる可能性があります。
募集情報のほか、自社ブログの更新、動画の掲載、メディアへの掲載、新サービスのローンチ、イベントの開催、社内行事の実施など、日々の最新ニュースを発信します。自社に興味を持つ人と継続的につながり、自社への興味や愛着を深めていけることが期待できます。また、求める人材の目に留まりやすいキーワードを含むハッシュタグの工夫により、出会いのチャンスを広げられる可能性があります。
動画メディア
YouTubeやTikTokなどを活用するほか、自社採用サイトやスカウトメールなどに貼り付けるショート動画などを作成します。文章を読むよりも、気軽にアクセスしてもらえる可能性があります。
社員インタビューや、1日の仕事の流れに密着するといった動画は、イメージをつかみやすく、親近感がわくなどの効果が期待できます。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。