現在、多くの企業で人材不足が慢性化しており、企業の競争力強化のため人材の多様性を重視する機運も高まってきました。また働き方改革など労働環境の改善も求められています。ここでは、働き方改革の推進となるダイバーシティをお伝えするとともに、なぜ日本企業はそれを徹底するべきなのか、インクルージョンとの違い、推進方法について解説をします。

ダイバーシティとは

ダイバーシティ(Diversity)とは、日本ではビジネス・経営・人事といった話題において「雇用する人材の多様性を確保する」という概念や指針を指す意味で用いられている言葉です。個人の様々な違いを尊重しながら組織へ受け入れ、企業の競争力を高めていこうとする考え方がこれに該当します。
日本では、長期雇用を前提とした人材管理が困難になってきたことや労働力人口が減少してきたことなどにより、人材の定着を目指し個人のキャリア形成を行うという考え方が求められるようになってきました。人材の確保による企業(組織)の存続は重要な経営課題となってきており、ダイバーシティは経営課題を解決する重要な要素の一つと考えられます。

ダイバーシティの種類

ダイバーシティには、性別、年齢、人種、国籍などの生まれ持った要素のほかにも、個人の持つ能力や経験、知識、パーソナリティ、ライフスタイルなどといった内面的な要素も含まれており、社会的少数者を含む様々な条件を持った人材の活用が不可欠と考えられています。

ダイバーシティマネジメント(ダイバーシティ経営)とは

経済産業省では、ダイバーシティマネジメント(ダイバーシティ経営)のことを
下記のように定義しています。


「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」

参考:経済産業省「ダイバーシティ経営の推進」(2021年12月9日)

「多様な人材」というと性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの要素をイメージするかもしれませんが、経済産業省の定義によると、キャリアや経験、働き方といったライフスタイルに関わるような要素も含まれるとされています。そして「能力」には、そういった個々の人材が持つ潜在的な能力や特性なども含むとされています。
多様な人材がそれぞれの特性を活かしながら働くことで、自由な発想が生まれて生産性も上がり、結果的に競争力強化につながるという流れが「ダイバーシティ経営」に期待されています。

ダイバーシティとインクルージョンの違い

ダイバーシティとは「雇用する人材の多様性を確保する」という概念や指針であり、インクルージョンとは「包括、包含」を意味します。
ビジネスの現場において、ダイバーシティは属性の異なる人が組織のなかで混在している状態を意味します。これに対してインクルージョンは、それらの多様な人材を企業組織に受け入れ、すべての人々が自己の多様性を活かしつつ最大限に自己の能力を発揮できると感じられるよう戦略的に組織変革を行い、企業の成長と個人の幸福につなげようとするマネジメント手法のことを意味します。

※インクルージョンについては、下記の記事をご参照ください。

【人事必見】インクルージョンとは?ダイバーシティとの違い、リクルートの事例を紹介

日本企業にダイバーシティが広まった理由

日本では、1986年に男女雇用機会均等法が施行されました。この法律は、募集や採用、配置、昇進に関して女性を男性と均等に扱うことを努力義務とし、教育訓練、福利厚生、定年・解雇について女性であることを理由とした差別を禁止したものです。その後、1997年の男女雇用機会均等法の改正により、女性等の労働者に係る措置としてポジティブ・アクションが規定され、1999年4月1日より施行されました。
ポジティブ・アクションとは、男女雇用機会均等法以前に作られた企業内の制度や慣行のために事実上、男女の労働者間に格差が生じていた場合、これを解消するための取り組みです。この取り組みにより、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び処遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とし、一定の措置を講じる、または講じようとする場合には、その事業主に対して国が援助できることになりました。

※ポジティブ・アクションについては、以下の記事をご参照ください。
ポジティブ・アクションとは?「女性活躍推進」で企業がやるべきことを解説

このように日本では、男女の機会均等を目指すことからダイバーシティが開始され、現在では、個人の違いを積極的に肯定・尊重し、人材として組織のなかに受け入れていくというかたちで広がっていったといえます。

ダイバーシティ経営の3つのメリット

ここではダイバーシティ経営を実現することで得られるメリットの例を3つ挙げていきます。

1.雇用形態の多様化に対応できる

テレワークなどの働き方、結婚・出産など個人のライフイベントによって、多様な働き方を希望する人も増えてきました。少子高齢化が進んだ日本での労働力人口が減少した産業構造の状況下で、労働者側と企業側のニーズのマッチングをはかるためにも、多様な価値観を持った人たちが活躍できる機会をつくることは、業績の向上につながりやすくなります。

2.ワークライフバランスを保てる

ワークライフバランスとは「仕事と私生活のバランス」が保てるような多様な働き方を意味します。企業がこれを認めて支援していくことは、個人が自らのニーズや個性にあった働き方を主体的に選択できることを可能にさせ、組織風土の確立や発展に貢献していくことが期待できます。

3.CSRを果たすことができる

CSR(Corporate Social Responsibility)は企業の社会的責任を示す略語です。企業は利益追求や法令遵守だけでなく、あらゆる利害関係者をはじめとする社会全体の多様な要求に対し適切な対応をとる義務があります。社会に対して義務を果たし、社員がその姿勢に賛同できている企業では、全社員が最大限に自分の能力や発想を発揮しながら企業の目的に貢献することができ、社会へそのメリットを提供することができると考えられます。

※CSRについては、下記の記事をご参照ください。
【事例つき】CSRとは?活動の種類や企業のメリット・デメリット、進め方を解説

ダイバーシティを推進するための人事施策

ダイバーシティを推進するためには人事施策にも注意することが必要です。ここでは例として、3つの施策をご紹介します。

1.人材育成

管理する立場であるリーダーは、制度や与えられた人的資源を活用するためにメンバー一人ひとりの状況をきちんと把握したうえで、その配置などの考えを説明し、必要な場合は上司に対しても働きかけるなど、能動的な対応ができる人材を育成することが望ましいです。メンバーは、多様性を実現するために自分が「するべきこと」や「できること」を考え、実行できる企業風土を醸成していくとよいでしょう。

2.人事評価

評価そのものを多様化することで納得感を高め、仕事のプロセスを評価する「評価プロセス」を公平かつ公正なかたちで構築していくことが大切です。可能であれば、ダイバーシティ推進担当や女性活躍推進担当、若手社員活躍推進担当など、新たに担当を設けることも有効な手段となるでしょう。

3.健康管理

メンタルヘルス不調者を出さないための一次予防研修の実施や保健師、産業医を招いた講演、衛生管理者の選定などを行い、労働災害へ発展しないようにするとよいでしょう。メンタルヘルス不調者に対する社内の理解を促し、復職者の活用を推進することも重要です。

ダイバーシティを推進するための4つのポイント

企業におけるダイバーシティの実現には「人材面」と「働き方」の両面から推進していくことが大切です。少子高齢化により労働力人口の減少が進行しているなか、多様な個性の発揮や活躍を推進し企業の成長を促していくためのポイントを4つ挙げていきます。

1.女性活躍の推進

採用選考の時点からポジティブ・アクションでの募集を行うなど積極的な採用をはかり、女性社員が少ない現場に積極的な配属をしていくとよいでしょう。こうした職域の拡大とともに女性の管理職登用も進めることで活躍できる場所を広げていくことが望ましいです。

2.継続就業の支援

入社した社員が長く働き続けられる環境を整え、勤続年数を伸ばしていくことが大切です。性別に関わらず、定年まで働けるよう退職のきっかけになりやすい育児や介護への負担をできるだけ軽減する努力をするとよいでしょう。

3.キャリア形成支援

誰もが活躍できる企業風土を醸成するために個人に対するキャリア形成への意識づけ、それを支援していく上司への意識改革を進めていくことが大切です。そのためには、「キャリア研修」や上司向けの「マネジメント研修」などでキャリアについて学ぶ機会をつくることが重要です。

4.ワークライフバランスの実現

多様な働き方を実現するためには「総労働時間の抑制」や「有給取得率の向上」が大切です。「ノー残業デー」の設定や有給休暇の取得に関する意識改革、有給取得に対する意識づけを行っていくとよいでしょう。

ダイバーシティの最新企業事例

経済産業省は、ダイバーシティ推進を経営成果に結びつけている企業の先進的な取り組みを「新・ダイバーシティ経営企業100選」として紹介しました。ここでは経済産業大臣表彰を受けた企業をご紹介していきます。

参考:経済産業省「新・ダイバーシティ経営企業100選」令和2年度100選プライム選定企業

1.BIPROGY株式会社(旧・日本ユニシス)

経営方針(2021-2023)における風土改革の一つとしてダイバーシティ&インクルージョン推進を掲げており、女性活躍推進や働き方改革、ライフイベントと仕事の両立支援施策等で成果を上げています。令和3年度「なでしこ銘柄」に初選定。

参考:BIPROGY株式会社「ダイバーシティ&インクルージョン

2.大橋運輸株式会社

障がい者、LGBTQ、外国人社員、高齢者、子育て社員など、多種多様な人材がその属性に関わらず互いに尊重し合い、持てる能力を最大限に発揮することができるようキャリアパスの整備・評価制度を見直しするなど職場環境づくりに積極的に取り組んでいます。

参考:大橋運輸株式会社「ダイバーシティ&インクルージョン」

3.株式会社熊谷組

「意欲と誇り、自信に満ちた社員に、多様な自己実現の場を提供する活力のある企業団体を目指す」という経営理念を掲げ、性別、年齢、国籍、性自認・性的指向(LGBT)障がいの有無等にかかわらず、すべての人が活き活きと働くことができる職場環境の実現を目指し、グループ会社を含めた全支店からダイバーシティ推進担当者を選任し、推進を進めています。

参考:株式会社熊谷組「熊谷組のダイバーシティ」

4.エーザイ株式会社

社員自らが多様な人々の想いや憂慮を感じ取ることでイノベーションの創出に資するダイバーシティ&インクルージョンを一層強力に推進すべく、「エーザイ ダイバーシティ&インクルージョン2021」として、2031年3月31日までを計画期間とする目標とアクションプランを設定しています。

参考:エーザイ株式会社「ダイバーシティの推進」

ダイバーシティに取り組む際の課題・注意点

企業がダイバーシティに取り組む際には、キャリア管理に注意することが大切です。人事管理制度のうち、人事が全面的に配置や異動の管理を行うことは、その後の人材育成にも関わってくることとなり、ワークライフバランスの実現を妨げる可能性も出てきます。特に企業主導で行う転勤等の環境の変化をともなうものや職種の変更について注意をしましょう。

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