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OJTとは? OFF-JTの違い
OJTとは「On The Job Training」の略称で、職場での実務を通じて行う従業員の教育訓練のひとつです。一方、OFF-JTとは「Off The Job Training」の略称で、職場から離れて行う職業指導手法のひとつです。
OJTは実務を通じて学習するものですが、OFF-JTでは単に知識を習得するだけの場合もあるようです。また、OJTでは上司が部下に仕事を教えるのが一般的ですが、OFF-JTは多くの場合仕事を離れて行われるため、一般的には指導者は上司以外の者が行うことが多くなる傾向があります。
ただし専門的なOJTでは、直接の上司や熟練者が講師となり、OJTとOFF-JTが連動するかたちで実施されているケースもあるとされています。
OJTのメリット・デメリット
OJTの大きなメリットのひとつは、教育を受けた人の仕事や職場に対する満足度を向上できる点です。これはOJTに限らず、職場での教育すべてに共通するメリットであるともいえますが、著者の経験上、なかでもOJTは、直接上司や先輩と被教育者が接するため、満足度向上への寄与度が高いと考えられます。
メリット
OJTの代表的なメリットは以下の5つがあると考えられます。業務の難易度をステップアップしながら指導できる、状況に応じた指導ができる、コストが抑えられるなどです。
業務の難易度をステップアップしながら指導ができる
OJTでは、やさしい仕事から徐々に難しい仕事へステップアップしつつ、関連の深いさまざまな仕事を通じた技能形成を、長い時間をかけ効率的に実現する可能性が高まります。
仕事や学習者の状況に合わせて指導ができる
OJTではそのときどきの仕事の状況に即した指導を、その場で学習者に提供できます。また、教えられる側である学習者一人ひとりの理解度や習熟度を見ながら、その人の個性に合った指導ができるのもOJTのメリットです。
コストが抑えられる
指導者が従業員であれば、特別な教育費用をかける必要がありません。いわゆる教材も実務で使っているものを流用できるため、手間やコストを抑えられます。
指導したことをすぐに仕事へ活かすことができる
実践の場から生まれたことを指導することで、仕事に対する責任感を醸成し、目標達成に向けて努力してもらうことができます。
信頼関係の基盤となる
指導者と学習者のコミュニケーションやチームワークを醸成することができ、人間関係の構築に役立ちます。
OJTのデメリット
OJTは多くのメリットがある反面、デメリットも存在します。主なデメリットは以下の3つだと考えられます。
指導者の状況によって、成果が左右される
OJTは指導の内容を平均化するのが難しい育成方法だといえます。指導者の状況によって、学習者の成長に差が出てしまうのはデメリットです。
たとえば、指導者の能力やスキルが不十分で、熟練した指導者が職場に育っていない場合、積極的な実施が困難となることもあります。さらに指導者の能力が十分であっても、抱えている業務が多すぎる場合にも、やはりOJTの継続に支障が出ることがあります。
学習者の状況によって、成果が左右される
OJTの成果を左右するのは、指導者の状況だけではありません。学習者の仕事に対する意欲の高さによっても、成果が変わってしまいます。
指導者と学習者の関係性によって成果が変わる
指導者と学習者との間の「信頼関係」がどれだけできているかによって、成果が変わってしまうのもOJTのデメリットです。関係性がよければ指導もはかどり、学習者の成長も早くなりますが、その逆もしばしば起こります。
OJTを活用する目的
手間も時間もかかるOJTは、一時的には指導者となる職場の中核人材の生産性を下げてしまうこともあります。また、指導者と学習者の能力によっては、必ずしも高い成果を出せるとは限りません。それでもOJTを活用するべき理由や目的はどこにあるのでしょうか。大きな目的と身近な目的があると考えられます。
企業の成長・日本経済の成長につながる
OJTの大きな目的の一つは、企業の成長と、ひいては日本経済の拡大につながっていくことにあると考えられます。
教育を通じて学習者がスキルアップすると、個人の生産性が上がります。その結果、企業の生産性が上がります。そのような企業が増えることで日本経済全体が拡大していき、ひいてはわたしたち一人ひとりの生活が豊かになっていきます。
その意味で企業での教育投資とは、わたしたちの未来を豊かにしていくための投資の一種と捉えることができます。
仕事のより深い理解を促す機会を提供する
OJTのより身近な目的は、従業員にさまざまな角度から仕事を学ぶ機会を提供することにあるといえるでしょう。OJTでは、ふだんの仕事をしながら上司や同僚から指導やアドバイスを受けたり、後輩に対して自分が指導やアドバイスをしたり、上司や同僚の仕事のやり方を見て学んだりと、さまざまな角度から実際の仕事について学んでいきます。
そのことでより深く仕事を理解し、学習者の職業能力を上げることが可能です。その繰り返しによって、担当する仕事の範囲や幅を広げたり、より権限の大きな仕事を任される訓練をしたり、異なる部署間での異動など、新しい仕事や想定外の出来事のなかでも、適切に判断して職務を遂行できるような力を養っていくという目的があります。
OJT研修とは?
「OJT」も「OJT研修」も呼び方が違うだけで、元は同じ「On The Job Training」の略称で、職場での実務を通じて行う職業指導手法のひとつに変わりはありません。ただ、新人・若手教育のための実践的な指導として、「OJT研修」と呼ぶ場合があります。
この場合、指導者(OJTトレーナーやチューター、ブラザー、シスターなどと呼ばれる)がデモンストレーションを行なってから、受講者(トレーニーやチューティーなどと呼ばれる)に実際にやってもらい、その結果に具体的なフィードバックをするといった、「実践をメインとした研修」を意味する場合があります。
公開型研修サービスのリクルートマネジメントスクールでは、主に「新人・若手」の育成を目的としたOJTリーダー研修を行っており、「仕事」「職場」「新人・若手」それぞれの変化を理解して、最近の新人・若手育成に関する知識を身につけることが可能です。
参考:リクルートマネジメントスクール「OJTリーダー研修」
OJTがうまく機能しない理由
OJTがうまく機能しないときには、指導者側と学習者側双方に問題がないかチェックするとよいでしょう。双方から見ることによって、一方だけでは解決できなかった問題を解消できる場合があります。
指導者側のチェック
指導者側に関してチェックすべき項目は以下の4つです。それぞれの注意点について説明していきましょう。
・指導者が学習者に過度な期待をもっていないか
・できていることを承認しているか
・学習者の話をしっかりと受けとめ、聞こうとしているか
・OJTによる育成計画が学習者にも共有されているか
指導者が学習者に過度な期待をもっていないか
指導者がOJTを受けている部下や後輩(以下、学習者)に対して、期待するあまり「がんばれ」や「期待しているよ」などと声をかけすぎてしまうと、プレッシャーになってしまう場合があります。大声で励ましたり、奮い立たせたりすることに力を注ぐのではなく、学習者が困難を乗り越えようという「勇気」を持てるように働きかけましょう。
できていることを承認しているか
指導者にとっては当たり前にできることであっても、学習者にとっては初めて実践することもあります。初歩的なことであっても承認されると自信につながります。できているという事実を肯定的な言葉で承認しましょう。
学習者の話をしっかりと受けとめ、聞こうとしているか
指導者が下を向きながら応答したり、何か作業をしたりしながら聞かれると、学習者としては「受容」されている気持ちを持ちづらくなります。本来は、学習者の質問や話はいつでも手を止めて聞くのが望ましいといえますが、状況によってはそれが難しいこともあるでしょう。少なくとも顔をあげ、学習者のほうを向いて話を聞くようにしましょう。指導者が真剣に受けとめようとする姿勢は、学習者との信頼関係の構築につながります。
OJTによる育成計画が学習者にも共有されているか
OJTの全体像が指導者と学習者の両方に共有されていれば、学習者もどこまでやればゴールとなるのかがハッキリするので安心できます。何がゴールかわからない先の見えないOJTほど学習者にとって怖いものはないと心に留めておきましょう。
学習者側へのチェック
学習者側に関してチェックしたほうがよい項目の例として、以下の2つがあります。それぞれの注意点について説明していきましょう。
・学習者が自分のことを過小評価していないか
・学習者が他者を否定していないか
学習者が自分のことを過小評価していないか
「できない」や「自信がない」と二言目には繰り返してしまうような学習者は、自身を過小評価している可能性があります。このように過小評価する傾向のある学習者には「小さな成功体験」を積み重ねられるよう働きかけましょう。ただし、やってもらうことを必要以上に細分化して量を増やすことは賢明ではありません。まずは、一つひとつ丁寧にスモールステップを踏めるようサポートし、仕事を抱え込むことなく進めていけるように働きかけましょう。指導者は学習者の対応可能な業務量を考慮し、適切な業務量を超えないよう注意が必要です。
学習者が他者を否定していないか
問題を周りのせいにして責任を取らない学習者には、まずは冷静に話を聞いてあげましょう。たとえ、話を聞くうちに「それは違うよ」と否定したくなったとしても指導者が肯定的かつ冷静に聴く努力をすることで、学習者は自分のことを客観視するようになり、やがては変わっていくと考えられます。そのときがくるまで辛抱強く話を聴くことがポイントです。
OJTの成果を高める方法
感染症の流行や戦争の勃発など、以前のように対策マニュアル通りにしていれば問題が解決するようなときは終わり、将来の予測が困難な時代がやってきました。このような時代にあって、OJTを受ける学習者の資質もかつてとは大きく変化しています。
そのなかでOJTの成果を高めるためには、①指導者と学習者が協力して知恵を出し合える体制づくり、②原因追及型ではなく「これからどうするか」を考える未来志向、の2つが重要になるといえるでしょう。
指導者と学習者が知恵を出し合える体制づくり
学習者だからといってすべての能力が高いわけではありません。ふだんから、指導者だからと無理をせず、学習者の知恵を借り、言いにくいことも言えるような「心理的安全性」の確保された職場づくりに努めることが大切です。これにより、学習者の能力は従来よりも大きく引き出され、より大きな成長を期待することができるでしょう。さらにそれが、いざというときに全員が団結して立ち向かえるフラットな組織づくりにつながっていきます。
原因追及型ではなく「これからどうするか」を考える未来志向
学習者が失敗したり、何か悪いことが起こったりした場合には、「なぜそうなったのか」と原因を追究するのではなく、「これからどうするか」について考えるようにしましょう。学習者に失敗の責任を取らせるのではなく、学びとして今後に活かそうとする姿勢は、将来的なチームビルディングにも役立ちます。
また、予期せぬ事態が起きたときに、原因の究明に気を取られ対処が遅れれば、被害は大きくなる一方です。指導者と学習者が一緒に対処していく姿勢は、問題の早期解決とお互いの信頼関係の構築にもつながります。
OJTで注意すべきポイント
OJTは多くの場合、職場内で上司や先輩が部下や後輩に対して行います。「親しき中にも礼儀あり」という言葉にもあるように、行き過ぎた言動はハラスメントとなる可能性があります。対等な関係を意識して指導が行えるよう努めることが大切です。参考として、職場のパワーハラスメントの類型を提示します。以下のような状況が生み出されていないか、指導者、部門長ともに、確認していきましょう。
<パワハラの6類型>
・精神的な攻撃
同僚の目の前で叱責される。他の職員も宛先に含めメールで罵倒される。必要以上に長時間、繰返し執拗に叱る。
・過大な要求
新人で仕事のやり方もわからないのに他の人の仕事までおしつけられ、同僚は皆先に帰ってしまった。
・身体的な攻撃
叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。丸めたポスターで頭を叩く。
・過小な要求
運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられた。事務職なのに倉庫業務だけを命じられた。
・人間関係からの切り離し
1人だけ別室に席をうつされる。性的指向・性自認などを理由に、職場で無視するなどコミュニケーションをとらない。送別会に出席させない。
・個の侵害
交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。
引用:厚生労働省『NOパワハラ 事業主のみなさまへ』
さらに詳しくパワハラについて学びたい場合には、厚生労働省が提供している無料のe-learning講座もあります。活用してみてください。
※パワハラに関しては、以下の記事をご参照ください
パワハラとは?定義と種類や相談されたときのチェック方法と進め方を解説
まとめ
能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は76.4%となり、その理由として、「指導する人材が不足している」(60.5%)が最も高く、次いで「人材育成を行う時間がない」(48.2%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(44.0%)となっています。
引用:厚生労働省「令和3年度「能力開発基本調査」の結果を公表します 調査結果の概要」(2022年6月24日)
上記のグラフが示すように、企業の教育現場では指導者が不足しています。ところが、人手不足から目の前の仕事にかかりきりとなり、教育内容の見直しや教育ツールの改善が行われていない企業も多く見受けられます。このような状態のままOJTを進めてしまうと、技術革新の進んだ現代では、顧客ニーズの変化の速さに教育のスピードがついていけないこともあるので注意が必要です。
それを防ぐためには、定型的な業務はRPA(Robotic Process Automation)のような一連の流れを自動化するツールを用いて効率化をはかったり、対面での業務をオンライン化したりといった技術革新を通じて効率化しつつ、指導者が時代にあった教育内容と同時に育成についても学び、OJTを強化していくことが必要だと考えられます。本記事の内容を参考にしていただき、貴社のOJTの向上に役立ていただくとよいでしょう。