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デザイナー採用の現状とは
2021年、日本のマスコミ4媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)の広告費の総計2兆4,538億円に対し、インターネット広告費が2兆7,052億円(前年比121.4%)となり、インターネット広告費がマスコミ4媒体の広告費を初めて上回りました。
インターネット広告関連の伸長は著しく、今後もその傾向は続くとみられています。
引用元:株式会社電通デジタル「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(2022年3月9日)
このような状況を背景に、デジタル関連の制作を担うデザイナーの注目度が高まっていると考えられます。特に企業においては、商品やWebのデザインにとどまらず、Webマーケティングを含めたユーザー体験(UE)を設計できるデザイナーに対するニーズが増加しているとの声を耳にするようになりました。
企業でのニーズが高まる一方で、優秀な人材の採用が難しいという声もしばしば聞かれます。企業が求める人材と、求人に応募してくる人材のスキルにギャップがあることが一因だと考えられます。
デザイナー採用が難しい理由
では、デザイナーの採用が年々難しくなっている要因について、もう少し詳しく考えていきましょう。主な理由は、以下の3つあると考えられます。
(1)経験とスキルのある人材が足りない
デザイナーの業務領域は年々幅広くなっており、その仕事はデザインだけにとどまりません。デザインスキルに加えて、マーケティング知識、使い勝手や興味喚起なども含むデザインを設計する力、さらにクライアントの求めるサービスを適切に把握する力などオールラウンドな能力が求められています。
しかし、こうした需要の変化に反して、これらの領域で経験を積んでいるデザイナーはまだ少ないといえます。
(2)デザイナーは自由度の高いフリーランスを選択する傾向がある
ほかの業種と比べて比較的場所や時間を選ばない職業であることから、デザイナーはもともと職業の選択に際して自由度の高さを重視する人が多いと考えられます。こうした職業としての特性から、結果的にフリーランスを選択する割合が多くなるといえそうです。
(3)従来の採用手法が通用しなくなってきている
デザイナーの需要が年々高まるなか、著者がキャリアアドバイザーとして関わったなかでも、エージェントなどを使用せずに転職に成功した人たちが出てきています。
そのため、企業側からみると、エージェントを通じた採用や求人広告の掲載といった従来の採用手法では、転職先を探しているデザイナーを見つけることが困難になっているといえるでしょう。
デザイナー採用の新卒・中途のメリット・デメリット
ここまで、デザイナー採用を取り巻く状況の変化について解説してきました。それを踏まえ、新卒採用と中途採用でデザイナーを採用する際のメリット、デメリットをそれぞれ解説します。
デザイナーの新卒採用のメリット・デメリット
新卒でデザイナーを採用するメリットは、デザイナーに限らず新卒採用全般にいえることですが、以下のようなものがあげられると考えられます。
新卒採用のメリット
・企業の規模にかかわらず人材獲得のチャンスがある
・人材育成計画次第で、専門的な人材を育てることができる
・前職経験がないため、企業の期待どおりの人材に育成できる可能性がある
新卒採用のデメリット
大きなデメリットは、育成に時間がかかることでしょう。特に新卒入社者は、社会人としてのマナーから教える必要がある可能性があるため、育成を行う上司や周囲の先輩社員に負担がかかることも、新卒採用の見落とせないデメリットです。
デザイナーの中途採用のメリット・デメリット
デザイナーを中途で採用するメリットは、以下のような点があると考えられます。
中途採用のメリット
・即戦力としての働きが期待できる
・社会人としてのマナー、デザイナーとしての経験があることから、育成コストが抑えられる
・採用した人材の持つ過去の職場との人脈など、新たな人脈を得る可能性がある
中途採用のデメリット
デメリットとしては、前職での経験や習慣があることから新しい環境になじみづらいといった可能性もある、その結果、数年で離職してしまうケースや自身のキャリアアップを目指して、再び転職していく可能性などがあげられます。
※新卒・中途採用の基本に関しては、以下の記事をご参照ください
人材採用前に人事が知っておくべき新卒・中途採用の基本とメリット・デメリット
デザイナー採用を成功させるポイント
デザイナーの採用が難しくなっているなか、採用を成功させるためにはどうすればよいのでしょうか。最初に取り組むべきは、採用計画を立て、採用したい人材の要件をはっきりさせるなど、人材採用の基本をしっかり押さえることです。
採用計画を策定する
採用は、自社の経営計画に紐づく「採用計画」を考えるところからはじまります。
何名採用するか、採用するまでにどれくらいの期間を確保できるのか、採用に割ける予算はいくらかなどを検討します。経営計画に定められた重点戦略に対して必要な人材を確保できるかなど、経営計画を踏まえた計画になっているかどうかを必ずチェックしましょう。
※採用計画に関しては、以下の記事をご参照ください
失敗しない採用計画の立て方とは?具体的な手順と求める人材を採用するためのコツ
ペルソナを明確にする
「ペルソナ」とは、どのような人材を採用したいのかを、求めるスキル、コンピテンシー、資質、経験などの項目を立て、明確にした人物像のことです。採用したい人材のペルソナを明確にし、採用に関わる担当者および部署で共有しましょう。そうすることで、社内で認識のズレが発生するのを防ぎ、選考基準に関しても適切な議論を進めることができます。
さらにペルソナを明確にすることで、より的確に、求める人材にアプローチすることが可能になります。面接などの際にも、求職者に的をしぼった質問ができるようになります。
※コンピテンシーに関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見!】コンピテンシーとは?意味やスキルとの違い、導入方法を解説
デザイナーのスキルを見極める方法
たとえばWebデザインにおいてはAdobe Photoshopの使用可否やHTMLの理解度など、デザイナーを採用するうえでいくつかのスキルを見極める必要があります。
ここでは、採用側としてデザイナーのスキルを見極める方法について解説します。
職務経歴書を確認する
これまでの経験によってデザイナーとしてのスキルも大きく異なるため、履歴書や職務経歴書をもとに、前職で関わっていた案件の内容や、どこまで携わっていたかなどについて確認してみるとよいでしょう。
また、前職での挫折や失敗談などを聞いてみることも重要です。
厳しい状況をどのように乗り越えたかを聞くことで、対応力、柔軟性、責任感、リスク管理力などが確認できるからです。
ポートフォリオを見せてもらう
ポートフォリオは自身の自己紹介とこれまでの制作物をわかりやすくまとめたものです。
その制作物に対してどこまで関わったのかを確認することが大切です。
たとえば、デザイン制作のみを担当したのか、ディレクションまで担当したのかなどを確認しましょう。作業工程まで詳しく聞くと、デザイナーのスキルがわかってきます。
会話のキャッチボールができるかを確認する
デザイナーであっても、社内外とのコミュニケーションは必須です。
中途採用者でディレクションまで行う立場になれば、さまざまな人とのコミュニケーションが求められます。新卒者であれば、コミュニケーションのよしあしがその後の成長に影響するとも考えられます。
採用面接の段階で、会話がかみ合っているか、論理的に話すことができるかなどを見極めましょう。
スキルレベルを確認する
大学や専門学校で学んできたことや、実際の業務を通じてどのようなスキルを身につけているかを確認しましょう。
HTMLやCSSのプログラミングやAdobe IllustratorやAdobe Photoshopの使い方などにおいても、習熟具合にかなりの差があります。
また、デザインに対する考え方や発想力の差もあります。
過去の実績についてのインタビューを通じて、どの程度のスキルを身につけているのかを見極める必要があります。
日々努力を継続できているかを確認する
デザインの世界には流行があり、日々、情報を取り入れ、学んでいく姿勢が必要不可欠です。
よいアウトプットに、よいインプットは欠かせません。デザインや仕事に対してどのようなことを日々取り組んでいるか、取り入れているかも合わせて確認しましょう。
デザイナーの採用手法
デザイナーの採用手法としては、ほかの職種の人材採用と同様、就職・転職エージェント、ダイレクトリクルーティングサービス、学生の場合は就活イベント出展やインターンシップなど、さまざまなものがあります。
どのような人材を採用したいかによって、どの手法を活用するかは異なります。ここでは、デザイナー採用において検討していただきたい採用手法についていくつか紹介します。
就職・転職エージェント
採用手法として広く利用されているのは、就職・転職エージェントです。
これらのサービスを活用するメリットは、一定の成果が見込める点です。
さまざまな料金体系のある就職・転職エージェントですが、採用ができた時点で費用が発生する成功報酬型のものを選んだ場合、エージェント側も採用が成功するよう積極的に関わってくれるケースが多くなるでしょう。
半面、サービスの費用が高いなど、採用コストが高くなりがちといったデメリットもあります。
オウンドメディアを活用した採用手法
自社の世界観のもと、メッセージを求職者に届けたい場合は、コーポレートサイト、採用サイト、自社ブログといったオウンドメディアの活用も検討していきましょう。
ただしデザイナーの採用が目的であるならば、「この会社でデザイナーとして働きたい」と思ってもらえるよう、デザイン性には一定のクオリティが求められると考えられます。すべてを社内制作しようとせず、状況に応じて外部の専門家に依頼するなども検討するとよいでしょう。
SNSを活用した採用手法
近年、SNSによる採用活動が浸透しています。デザイナー採用においてSNSの活用を積極的に検討したい理由は、デザイナー採用の難易度が上がるなか、一部の知名度の高い企業でない限り、求職者からの応募を待つという採用手法が通用しづらくなっていると考えられるからです。
その意味で、WebコンテンツやSNSに業務上でもなじみの深いデザイナーに対してアプローチするには、SNSは有効なツールになり得るでしょう。
同様に、新卒採用においてもSNSのメリットが生きるといえそうです。学生や若年層はSNSでのやり取りを好む傾向がみられるからです。
SNSは「拡散力がある」「リアルな情報を発信できる」「低コストで運用できる」といったメリットがあります。工夫次第で、有力な採用ツールとなると考えられます。
リファラル採用
「リファラル採用」とは、主に自社の従業員から人材を紹介してもらう手法です。紹介によって採用が決まった場合は、紹介した社員に報奨金が出るなどして、紹介しようというモチベーションを高める工夫をしている企業もあります。
リファラル採用のメリットは、紹介者が自社の社風や企業文化と同時に、求職者のことを知っている点にあります。正しく人材要件を共有することができていれば、マッチングがうまくいく可能性が高まります。
また、自社の従業員の紹介が基本となるため、採用コストが抑えられるのもメリットでしょう。
ただ一方でリファラル採用は時間がかかる、採用がうまくいかなかった場合に自社の従業員である紹介者への心理的負担があるといったデメリットがあります。
このようなデメリットがあるものの、デザイナーの採用についてまだリファラル採用を活用していない企業は、導入を検討してもよいのではないでしょうか。デザイナーはフリーランスが比較的多く、流動性の高い職種でもあることなどから、一緒に学んだ元同級生や、前職のメンバーなど、知り合いに声をかけやすい雰囲気があるといわれています。筆者の経験上でも、知人からの紹介によって、採用につながったケースをみてきました。
※リファラル採用に関しては、以下の記事をご参照ください
リファラル採用が失敗する、ありがちな理由。成功させるポイントを紹介
どのようなペルソナにアプローチするかで、利用する採用手法も変わります。
筆者の関わった企業では、デザイナーの人材採用計画において、中途入社者を採用しつつ新卒入社者を育てていくという両輪で進めているケースもみられます。
デザイナーという職業の特性なども把握しつつ、ペルソナの明確化といった採用の基本を押さえることが、デザイナー採用を成功に導く鍵と考えられます。本記事を採用活動に役立てていただければ幸いです。