採用活動は求める人材によって、進め方が異なります。初めて社会人になる学卒者を採用する「新卒採用」、就業経験者を採用する「中途採用」に加えて、近年では「キャリア採用」もよく聞かれます。本記事では、キャリア採用が活用されている職種や、中途採用との違い、メリット・デメリット、実施する際のポイントなどについて解説します。

キャリア採用とは

キャリア採用とは、一般的に即戦力人材を雇い入れるための採用活動を指す言葉として使われています。企業の事業やサービスの特性に即した人材や、専門的知識や経験の豊富な人材を確保することを主眼に置きます。著者の印象では、特に専門知識や経験が求められるIT企業やベンチャー企業などにおいて相性がよいようです。ただ最近では大企業でも導入事例が見られます。

キャリア採用と似た言葉に「中途採用」があります。キャリア採用は中途採用に含まれる概念です。ただし、中途採用が就業経験のある人材を対象とした採用活動全体を指すのに対し、キャリア採用では即戦力を求め、専門知識や経験豊富な人材を優先した採用を指すと考えられ、両者は区別して用いられます。キャリア採用の特徴は「即戦力」「専門的知識や経験」であり、採用現場では採用基準を明確にするために使用されています。

※中途採用に関しては、以下の記事をご参照ください

【人事必見】中途採用とは?採用計画の作成方法、選考・入社までを徹底解説

中途採用との違い

キャリア採用と中途採用の違いについて、著者の経験等をもとに解説します。
両者の違いは、簡単にいえば求める人材の違いです。キャリア採用の場合は、即戦力となる人材を求め、明確かつ譲れない要件があり、条件に合致する人材を探すために採用に関する期間は長くなりがちです。候補者が少なく、想定期間内に1人も採用できないケースもあります。

中途採用はキャリア採用に比べて候補者は多くなる傾向にあります。ただ候補者が増えたからといって条件に合致する人材が増えるわけではなく、時間がかかってしまう結果となった、といったケースもあります。

募集要項の違いを例示するならば、キャリア採用は「〇〇ができる人」「経験が○年以上」といった要件が「必須要件」となり、中途採用の場合は同じ要件が「歓迎要件」となるイメージです。

キャリア採用では、該当者がいないからといって要件を緩くして中途採用に変えるのではなく、該当する候補者の発見とその応募を気長に待つ必要があります。

キャリア採用のメリット・デメリット

ここでは、キャリア採用のメリット・デメリットについて解説します。

キャリア採用のメリット

キャリア採用のメリットの例として、4つのポイントが考えられます。

「即戦力」となる人材が採用できる

これまでにも述べた通り、キャリア採用は高いスキルと豊富な経験を持つ人材を採用することを主眼に置いています。このような人材が採用できれば、自社にとっては「即戦力人材」となり得るでしょう。

※即戦力採用に関しては、以下の記事をご参照ください

中途採用で即戦力人材を見極める方法!面接でのポイントなどを紹介

教育育成にかかるコストが抑えられる

未経験の人材であれば、自社の業務について指導教育する必要があり、相応の教育コストがかかります。反面、キャリア採用によって獲得した人材であれば、少なくとも自社と同様の業界において経験を積んできたことが想定され、未経験の人材と比較すると教育コストを抑えられるでしょう。

マルチタスクが期待でき、事業の生産性向上が期待できる

キャリア採用によって採用された人材は、これまでに本人が培ってきた豊富な業界経験を駆使して、早期にさまざまな業務を任せることが可能になります。採用基準を上手に設定することにより、将来のマネジメント登用が可能な人材の獲得も可能です。

新たな風が入ることで、自社の作業工程を見直すことができる

キャリア採用によって入社した人材が前職までに培ってきた経験は、自社の問題点の発見や改善につながる可能性が考えられます。このように自社にはない「新しい風」が入ることで、既存の作業工程に関する課題を見つけ、改善するきっかけが生まれることが期待できます。

キャリア採用のデメリット

キャリア採用のデメリットとしては3つのポイントが考えられます。

「マイルール」に固執しすぎると社内の輪が乱れる

キャリア採用によって入社した人材は、基本的に同じ業界で仕事を経験し、スキルを高めてきた人材です。その反面、その能力の高さゆえに、自分のやり方に固執してしまうケースもあります。企業にも業務上のルールが存在し、いくらその人材がこれまでに培ってきたやり方があるとはいえ、業務上のルールから逸脱しすぎてしまうと問題が生じます。個人のマイルールも許容できる範囲内であれば問題ありませんが、それが強すぎると組織の輪を乱してしまう可能性があります。

キャリアアップを目的とした離職リスクがある

キャリア採用によって入社した人材は、これまで積み上げてきたスキルや経験を活かそうと考えていることが多いのが特徴です。入社後もさらなる高みを求めて努力する人もおり、キャリアアップを図るために離職してしまう可能性も否定できません。

長く働いてもらうためには企業側の配慮が求められます。また、キャリアアップのための離職についても、今後の対策を講じる必要もあるでしょう。

キャリアに相応した報酬を準備する必要がある

キャリアのある人材を採用するとなれば、相応の待遇を用意することになります。キャリア採用の人材であれば即戦力となり得るため、未経験の人材にかかる教育コストを考慮すれば、当然の対応だといえます。人件費やそのほかのコストを勘案しつつ、キャリア採用の人材に対する報酬を決定する必要があります。

「キャリア採用」か「新卒採用」か、選ぶ際の基準

「キャリア採用」か「新卒採用」を選ぶ基準は、その企業の事業計画や目標によります。事業計画は長期、中期、短期と分かれ、また、組織全体、部門ごとなどそれぞれ目標が設定されています。そのため採用においても、長期的に考えるか短期的に考えるか、あるいは部門単位のニーズを満たそうとするか、より大きなビジョン達成に向けての採用となるかによって、求める人材が異なってきます。

たとえば短期の目標を達成するためには、既に持っているスキルや経験を重視した即戦力となる「キャリア採用」を選び、長期的な視点で見て、将来性を期待して「新卒採用」を選ぶケースもあるでしょう。あるいは長期計画における事業戦略の観点から、事業部門を率いて経営の一員となるようなハイキャリア人材を迎え入れるケースもあるでしょう。

一般に、その場その場で欲しい人材を選んでいると、どうしても「キャリア採用」となりがちですが、その反面、人件費が高いといった問題や将来の人材不足が課題となる可能性があります。このような違いを踏まえ、企業や部門のニーズに応じてキャリア採用か新卒採用かを決める必要があります。

キャリア採用のポイント

次にキャリア採用を行う際のポイントについて解説します。

募集時に自社の情報をこまめに発信し続ける

求職者に自社を広く知ってもらうためにSNSなど、さまざまなチャネルを駆使して発信することが必要になります。ここで重要になるのは、ただ「キャリア採用をしている」ことを発信するのではなく、先に述べた「求める人材像や採用基準」を求職者に具体的にイメージできるような発信をすることです。人材に関する情報のなかには「求める知識やスキル」「どのように選考するのか」「従業員の雰囲気」「企業のイメージ」などが挙げられます。こうした要件について、可能な限り言語化し、発信を行うことで、求職者に対して適切なアプローチをすることができるでしょう。

選考時に求める人材像に基づいたヒアリングを心がける

選考に入った段階で留意すべき点としては、事前に構築している「求める人材像」や「採用基準」に基づいた求職者へのヒアリングがあります。

面接は人が行うため、どうしても個人の主観が入ってしまいがちです。そのため、面接評価に客観性を持たせる必要があります。面接評価に客観性を持たせるためには、求職者へのヒアリングを「求める人材像」や「採用基準」に基づいたものにする必要があるでしょう。具体的には、選考フローや評価の基準を明確にすることで、実際の面接でも求職者にしっかりヒアリングすることができます。

企業側が求める人材と求職者のキャリアの志向について双方が共有することで、ミスマッチを未然に防ぐことが期待できます。

内定を早めに通知して手続きなどを明確にする

採用内定と判断した場合は、なるべく早く求職者に通知するようにしましょう。

キャリア採用に限らず、求職者は複数の企業で選考を受けているケースが多く、在職中の場合には現職から慰留を求められるケースもあります。通知が遅れたために、せっかく採用内定としても求職者から辞退されてしまうことのないようにしましょう。

採用内定を通知し求職者も受諾した場合には、入社までの手続きや入社日の決定までの流れなどを明確にしておく必要があります。キャリア採用に限らず、こうした流れが不明確だと、求職者に不信感を持たれてしまいます。

入社後もフォローする

早めの採用通知に加えて、入社後のフォローも重要です。入社後のギャップや不安感を解消するためにも、入社前・入社後問わず教育や面談などのフォローを忘れないようにしましょう。

※フォローに関しては、以下の記事をご参照ください

フォローアップとは?具体的なやり方、タイミング、ポイントを解説

キャリア採用を取り入れる際の注意点

ここではキャリア採用を取り入れる際に注意すべき点について、2つ紹介します。

即戦力だからといって「過度な期待」をしない

同一業界において高いスキルや経験を持った人材であっても、過度な期待はかけないようにしましょう。「即戦力なのだからこれくらいできて当然だ」といった姿勢は、人材に不必要なプレッシャーを与えてしまう可能性があります。入社後に自社が丁寧に研修を行い、フォローを適切に行うことで、人材の定着率の向上が期待できます。

入社から戦力になるためのプロセスを明確にする

入社した人材が自身の力を存分に発揮できるようにするためには、人材が入社してから実際に活躍するための一連のプロセスを明確にすることが重要です。

こうしたプロセスの明確化は、キャリア採用に限った話ではなく、すべての人材採用施策において重要な要素だといえます。

キャリア採用は、高いスキルや経験を持つ人材を即戦力として獲得する際に有効な手段です。キャリア採用は中途採用に似た言葉ではありますが、あえて「即戦力(キャリア)採用」として区別することで、求職者側と企業側の双方のミスマッチを防いでいます。

求職者側は、自身の高いスキルとキャリアを存分に活かして仕事ができますし、企業側も事業の生産性を高めることができるでしょう。キャリア採用にはメリットだけでなくデメリットもありますが、今回解説したポイントや注意点を踏まえ、今後の人材採用に活用してみてはいかがでしょうか。

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