採用活動の成功には、採用の候補者によい印象を抱いてもらい、入社動機を高めてもらうことが大切です。そのため、自社の認知から入社までの過程で発生する候補者とのタッチポイント(接点)ごとに、候補者の満足度を高める仕掛けを施す「採用CX」が、近年注目を浴びています。本稿では採用CXとは何か、その進め方やポイントなどについて解説します。

採用CX(Candidate Experience)とは

「採用CX」とは、求職者から自社を選んでもらうために、採用に至るまでの過程(企業の認知、応募、選考、内定、入社など)で、「この企業に応募してよかった」と思ってもらえるような価値を企業側が演出する取り組みを指します。

CX(Candidate Experience)とは「候補者体験」という意味を表す言葉です。自社に価値を感じてもらうような体験をしてもらうことで、採用したい人材に自社のファンになってもらい着実に入社まで導き、入社後の定着や企業イメージの向上にもつなげていこうとする取り組みです。

採用CX(Candidate Experience)が必要な理由

採用CXが必要となった背景には、「求職者を選ぶ時代から、求職者から選ばれる」時代への変化があります。以下にこうした変化を引き起こしている要因について解説します。

少子高齢化により企業間での人材獲得競争が激化している

現在、日本の総人口は減少を続けており、それにともなって労働に適した生産年齢人口(15歳~64歳までの人口)は減少の一途をたどっています。同時にコロナ禍を経て経済活動が再開したことを背景に、2020年9月に0.99倍と1倍を割り込んだ有効求人倍率(新卒・パートタイムを除く)が上昇し続けています。有効求人倍率は一人の求職者に対して何件の求人件数が存在するかを示す数値で、この数値が高ければ高いほど企業にとっては採用難にあることを意味します。したがって現在、企業間での人材獲得競争は2020年と比較して、激しい状況にあるといえます。

出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書」

独立行政法人労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 国内統計:有効求人倍率」

転職率が高まっている

日本型雇用の象徴でもあった終身雇用制度が崩壊し、人材の流動化が加速しています。こうした変化を背景に、労働者の転職に対する抵抗感が弱まり、転職率が増加していると考えられます。

自社の従業員の離職は、「企業が自社の人材から選ばれなかった」と捉えることもできます。
出典:厚生労働省「転職率の推移及び転職者の賃金変動」

求職者が企業情報や採用情報を集めやすくなっている

インターネットやSNSが普及したことで、求職者は、企業の労働環境や採用時の対応などの情報を、口コミや投稿を通じて事前に集めることが容易になりました。

こうした口コミや投稿によって、「好ましくないと感じた企業への応募を控える」など事前に応募する企業を選別することが簡単になったため、企業には、求職者に自社の価値を感じてもらうための取り組みが求められています。

採用CX(Candidate Experience)に注力するメリット

企業が採用CXを行う4つのメリットについて以下に解説します。

1.採用者の口コミによって企業イメージが向上する

求職者が自社への応募に際して満足のいく体験をした場合、SNSなどに良い口コミや投稿をしてもらうことで企業イメージの向上が期待できます。

さらに、企業イメージの向上によって求職者が集まりやすくなれば、採用活動によい影響を与える可能性があります。このような口コミや投稿は、自社の宣伝活動に近い役割を果たすといえるでしょう。

2.他者に自社を紹介するきっかけとなる

自社への応募に際して満足のいく体験をし、特に採用された場合には、知人などにその体験を話したり、自社を転職先として紹介する可能性があります。このような評判の積み重ねは、求職者が集まりやすくなる土台となるでしょう。こうした点からも採用CXへの注力は、採用活動によい影響を生みやすくなります。

3.採用者の定着が期待できる

応募時に企業から満足な対応を得られた人材は、採用された後に自社に愛着を覚える可能性が高まります。また、こうした自社への愛着は、入社後の高いパフォーマンスや、自社での成長と定着が期待できます。

4.企業文化や価値観とのミスマッチを減少させることが期待できる

著者の経験上、企業文化や価値観になじむことができないことが理由で、採用した人材が離職してしまうケースは少なくありません。

こうしたケースに関して、企業が採用CXを行う過程で、求職者に自社の文化や価値観を理解してもらい、そのうえで入社してもらうことで、離職のリスクを減らすことが期待できます。

※採用ミスマッチについては、こちらもご覧ください。

【徹底解説】採用ミスマッチによるリスクと原因・理由や防ぐ方法

採用CX(Candidate Experience)の全体像

採用CXを高めていくには、採用活動における各プロセスにおいてCXを高めるよう取り組んでいくことが求められます。採用活動をどのように分けるかは企業によって異なりますが、一例として、「採用方針の明確化」「認知」「応募」「選考」「内定・入社」の5つのプロセスに分け、それぞれの取り組みのヒントを紹介しましょう。

1.「採用方針の明確化」における取り組み

まず最初に、自社が今後どのような採用を目指すべきなのかを明らかにします。

具体的には、以下のような取り組みを行うとよいでしょう。

・自社の今後の事業戦略を把握する
・事業の成長に必要な人材像を明確化する
・必要な人材を採用するための採用計画を策定する
・採用基準を設定する
・競合他社の採用に関する動向を分析する
・求職者にアピールすべき自社の魅力を言語化する

2.「認知」段階での取り組み

「従業員が働くことに満足していそうだ」「社内に活気がありそうだ」といった自社の良いイメージを、求職者に感じてもらうための取り組みを行います。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

・自社サイトや採用ページに従業員インタビューを掲載する
・従業員のSNSで自社の魅力をアピールしてもらう
・自社の魅力を伝える動画を配信する
・求人情報上で自社の魅力を伝える
・求職者のためのイベントを開催し自社の魅力を伝える
・メディアに自社の魅力を伝えパブリシティの効果を高める

3.「応募」段階での取り組み

「この企業の採用担当者は誠意がありそうだ」「ぜひ面接を受けてみたい」など、求職者の応募意欲を高めるための取り組みを行います。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

・スカウトメールを送信する
・従業員からの紹介を活用するリファラル採用を導入する
・本格的な選考前に、気軽に情報交換を行うカジュアル面談を実施する
・応募手続きが簡単な応募フォームを設ける
・応募書類が届いたあと、迅速に応募者に連絡を取る
・応募に対するお礼のメールや電話をする

※リファラル採用の概要に関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見!】リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説

4.「選考」段階での取り組み

「きちんとした企業だ」「自分に対して高い関心を示してもらえているようだ」など、応募者の入社意欲を高めるための取り組みを行います。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

・来社した応募者に対してきちんと挨拶をする
・オフィスに対する印象をよくするために空調や照度を最適化する
・面接に来てくれたことへの感謝を伝える
・面接時に雑談を取り入れることで場を和ます
・応募者からの質問に対して丁寧に答える
・体験入社(インターンシップ)制度を設ける
・面接官トレーニングを行う
・選考中も状況や今後のスケジュールを伝えるなど、コミュニケーションを取る

5.「内定・入社」段階での取り組み

「この企業に入社したい」「早く入社したい」など、入社に対するモチベーションを高めるための取り組みを行います。

具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

・採用決定後すぐに内定通知を出す
・入社までのスケジュールや手続きを丁寧に説明する
・入社前の内定者研修を実施する
・入社前に従業員との懇親の機会を設ける
・入社前に社内見学の機会を設ける

※内定通知の概要に関しては、以下の記事をご参照ください
「内定通知書とは?すぐに使える文例、送り方、法的効力を解説」

採用CX(Candidate Experience)改善の4ステップ

ここでは、自社の採用CXを改善したい場合の具体的な対応について、4つのステップに分けて解説します。

1.自社が採用したい人材像を明確にする

スキルや経験、価値観など、自社の求める人材像を明確にしたうえで、自社に必要な人材の心に響くような取り組みを検討します。

2.求職者との間で生じる接点を洗い出す

自社の認知から応募、選考、内定・入社に至る過程で、求職者との間で生じる接点を洗い出し、接点ごとに、どのような対応が「求職者が満足のいく体験を得る」ことにつながるのかを検討します。

3.求職者との接点ごとの対応を検証する

自社と求職者の間で生じる接点ごとに、現在の採用CXが「求職者が満足のいく体験を得る」ことにつながっているのか検証し、不十分な点などを今後の課題事項として抽出します。

4.課題への対応策を立案する

抽出した課題の改善方法について、具体的な対応策を立案します。対応策は、自社のリソースの範囲内で確実に実行できる内容である必要があります。効果的な対応策であっても自社のリソースで対応しきれないものがある場合は、外部リソースの活用を検討してもよいでしょう。

※採用基準のつくり方の概要に関しては、以下の記事をご参照ください

「【採用基準のつくり方】最適な人材を見極めるための基準作り・ポイント・注意点を紹介」

採用CX(Candidate Experience)向上に向けた取り組み

採用CX向上に向けた取り組みとして、以下のようなものがあります。

社内で連携して求職者へのレスポンスを早める

求職者とのやり取りにおいて、レスポンスが遅いと求職者に不安を抱かせてしまう場合があります。こうした不安が自社への不信感へ変わり、自社への関心が薄れてしまうことがあります。レスポンスを早め、こうした事態を防止するためには、社内で連携して求職者からの連絡に対応できる体制の構築が求められます。

事前に自社について詳しく説明した資料を送付する

応募と書類選考などを経て面接することが決まった応募者に対しては、面接前に自社についての資料を送付し、面接時に資料の中身について詳しい説明や質疑応答を行いましょう。
資料に記載する内容は、事業概要、社内組織、代表者からのメッセージ、従業員へのインタビュー、福利厚生や教育の内容、人事評価制度、社内のカルチャーや求める人材像などが一般的です。

面接時に飲食を提供し場を和ませる

面接に関する方針にもよりますが、話しやすくリラックスした雰囲気を面接時につくることで、応募者の企業に対する好感度を上げることができます。

その方法の一つとして、面接時に飲み物や菓子類を用意するというものがあります。面接担当者がまず飲み物や菓子類を口にし応募者にも勧めることで場を和ませ、応募者は自分自身の価値観や将来像などを語りやすくなるでしょう。面接担当者も応募者の話を肯定的に傾聴するのがポイントです。

内定通知に従業員からの寄せ書きを同封する

内定通知を送付する際、従業員全員がお祝いしている、喜んでいることを示す寄せ書きを同封するケースがあります。

こうした取り組みは、入社予定者の「この企業から歓迎されている」という気持ちにつながり、不安から来る内定辞退などのリスクの低減が期待できます。

企業の成長と発展には、必要な人材を、必要なタイミングで、必要な人数獲得し、入社後の成長と定着を実現することが必要です。今回解説した「採用CX」という考え方では、採用過程で自社に対する愛着を高めてもらい、入社後の定着や企業イメージの向上を目指します。本記事の内容を参考にしながら、採用CXの導入について検討してみてはいかがでしょうか。

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