近年、新卒採用に関して学生が内定を辞退するケースが増加しています。内定辞退は企業が必要な人材を確保できないことにつながるため、新卒担当者は学生に適切に対応し、辞退をできるだけ防ぐ必要があります。本記事では、近年の内定辞退の傾向に触れたうえで、内定辞退防止のための対応と内定辞退が発生した場合の対処方法について解説します。

内定辞退の傾向

株式会社リクルートが運営する就職みらい研究所が2023年卒業予定の大学生・大学院生7,626人を対象に実施したインターネット調査で、内定を獲得した学生のうち、内定辞退をしたことのある学生の割合を示す「就職内定辞退率」が、2022年12月1日時点で64.6%に上るという結果が出ました。就職活動を行う学生の3人に2人が内定辞退をしていることになり、前年、前々年の調査においてもほぼ同様の結果が出ています。

また、一人の学生が何社以上内定辞退をしたかについて聞くと、平均1.45社、2社以上辞退した学生の割合は36.7%という結果が出ました。一人あたりの内定辞退件数についても、前年、前々年でも同様の結果になっています。

これらの調査結果からは、昨今の新卒社員にとっては、内定を辞退することは珍しいことではなく、多くの新卒社員が経験していることがわかります。

出典:株式会社リクルート 就職みらい研究所「就職プロセス調査(2023年卒) 『2022年12月1日時点 内定状況』」2022年12月15日

内定辞退が発生する5つの要因

では、求職者はどのような理由から内定を辞退するのでしょうか。その主な要因は、以下の5つに整理できます。

自社が他の企業よりも志望度が低かった

求職者は、志望順位の高い企業から採用されなかった場合に備えて、複数の企業に応募するのが一般的です。そのため、より志望順位の高い企業から内定を得られた場合には、志望順位の低い企業の内定を辞退するのは自然な行為といえます。そのため、自社が他の企業よりも志望度が低かった場合には、内定辞退をされてしまう可能性が高まります。

希望する労働条件と合っていないと感じた

求職者が重視する労働条件はさまざまです。自身の成長余地があるかどうか、キャリアアップへの支援があるかどうかを重視する場合もあれば、給料や休日、福利厚生について重視する場合もあります。こうした求職者自らの希望と実態が乖離していると感じた際に、内定を辞退することがあります。

社風が合っていないと感じた

働く人にとって、社風も重要な要素です。社風とは組織文化ともいわれ、社内の人間が共有している価値観や働き方のスタイル、社内の雰囲気などのことを指します。社風が合わないと感じた場合、長く勤め続けるイメージが湧かないことで入社意欲が低下してしまいます。そうした場合に、求職者が自社の内定を辞退することがあります。

応募企業の印象が悪く感じた

求職者にとって、応募時に接した企業の担当者の印象が悪かった場合、企業自体への印象も悪く感じてしまいます。印象の悪い出来事とは、面接時の態度が悪い(横柄である)、連絡が遅い、選考期間中のフォローが不十分といったことです。こうした場合に、求職者が内定を辞退する可能性が高くなります。

内定から入社まで時間がかかる

就職は人生の中の重要なステージであるため、内定から入社まで時間がかかると、「本当にこの企業でよいのだろうか」「ほかにもっと自分に適した企業があるのではないだろうか」などと内定者が疑心暗鬼に陥ることが考えられます。こうした場合に、内定者が内定を辞退することがあります。

内定辞退を防止するためにできること

内定辞退を防止するためには、内定通知送付後に求職者の入社意欲を高めるフォローを行うことが大切です。具体的には、「求職者へのレスポンスを早める」「入社までの具体的なイメージを持ってもらう」「自社に対して親しみを感じてもらう」「j求職者の不安を速やかに解消する」といった取り組みが考えられます。ここでは、それぞれの取り組みについて解説します。

求職者へのレスポンスを早める

求職者は複数の企業に同時に応募しているケースが多いため、通知や連絡が遅くなればなるほど、ほかの企業を選んでしまう可能性が高まる傾向があります。自身の経験を踏まえてみても、レスポンスが早い相手に対して誠実さや自分に対する関心の高さを感じるものではないでしょうか。そのため採用決定後は、速やかに内定通知を出し、その後のやり取りについても迅速に進めることが大切です。

※内定通知に関しては、以下の記事をご参照ください

内定通知書とは?すぐに使える文例、送り方、法的効力を解説

入社までの具体的なイメージを持ってもらう

採用が決定したら、求職者に入社までのスケジュールや手続きを詳しく説明し、一つ一つのプロセスに対して丁寧なやり取りを重ねることが大切です。その結果、入社までの具体的なイメージを持ってもらうことができ、「この企業でよいのだろうか」といった迷いを生じさせることなく、入社に至る可能性が高まります。

自社に対して親しみを感じてもらう

求職者の「入社したい」といった気持ちを高めることも、内定辞退を防ぐうえで大切です。そのためには、自社に対して親しみを感じてもらうよう働きかけることがポイントになります。たとえば、経営者の思いや従業員のメッセージを伝える機会を設けたり、従業員が生き生きと働いている姿や、アットホームな社内の雰囲気などを伝える機会を設けてもよいでしょう。従業員が求職者の入社を歓迎している、心待ちにしているといった気持ちを表すことが大切です。

求職者の不安を速やかに解消する

内定通知を受け取った人は企業から内定が出たとしても、「うまく組織に馴染めるのか」「自分の能力が通用するのか」「企業のルールについていけるのか」といったことに対して不安を抱いているものではないでしょうか。その不安が大きくなり過ぎると、内定辞退につながりかねません。そのため、内定通知への受諾連絡が遅れている求職者には、小まめに連絡を取り、不安に感じていることを聞き出したうえで、不安を解消するための説明やアドバイスを行うことが大切です。また内定を受諾した内定者に対しても同様に、不安や疑問を解消するためのフォローを続ける必要があります。

内定辞退を防止するための有効な施策

前述の通り、より希望する企業から内定が出たといった理由から、内定受諾後にも内定辞退が起こる可能性もあります。内定受諾後の辞退を防止するには、内定者に迷いや不安を感じさせないための「内定通知後のフォロー」を積極的に実施することが大切です。ここでは、内定通知後のフォローにおける有効な施策について解説します。

入社前研修を実施する

内定者は入社に際して多かれ少なかれ、入社後に担当する業務を円滑に遂行することができるかどうか不安を抱えているものです。特に就業経験の少ない学生や若年者の場合、このような不安は大きく、内定辞退につながるケースもあります。

こうした不安を原因とした内定辞退を防止する有効な方法の一つに、入社前研修があります。入社前に業務に必要な知識やルールを修得し、必要なスキルの予習を行う機会を提供することで、内定者が入社後、業務を円滑に遂行できるイメージを持つことができ、内定辞退の防止につなげることができます。

内定者インターンシップを実施する

就業体験の機会を提供する内定者インターンシップも、内定辞退を防止する有効な方法の一つです。前述した入社前研修の後に実施することで、習得した知識やスキルを駆使して実務に携わることを通じて自信がつくほか、実際に仕事をすると実施前に比べて仕事に対する興味も強くなることから、入社意欲が高まることが考えられます。

社内見学会の実施

前述した通り、内定者は入社する企業の社風に馴染めるだろうかといった不安を感じている場合があります。社内見学会の実施は、こうした不安を原因とした内定辞退の防止に有効な可能性が考えられます。従業員が働いている姿を直接見学してもらい、内定者が職場のよい雰囲気を感じ取る機会となれば内定辞退の防止につなげることも可能です。

経営トップとの交流会の実施

内定者は「この企業は将来性があるのだろうか?」「従業員を大事にする企業だろうか?」など、企業案内を見ただけではわからない点に関して不安を感じることも少なくありません。こうした不安は、経営トップと直接話す機会を設けることで軽減できる可能性があります。経営トップ自ら、事業展開についてのビジョンや従業員への思いなどを伝えることで、内定者の不安を解消し、入社に対する動機を高めることにつながります。

同期との懇親会の実施

新卒採用の場合、内定者は社会人経験のない状態で入社します。そのため、社会人としての活動を行うことに対して不安を覚えることがあります。同期との懇親会の実施はこうした不安解消に有効な方法の一つです。同期と不安を共有したり、励まし合ったりすることで、「自分一人ではない」といった心強さを得たり、新たな生活に踏み出すことへの意欲が高まります。

従業員との懇親会の実施

新卒採用の場合、内定者は学生時代の人間関係から離れ、新たな人間関係を一から築いていくケースも多くなるでしょう。そのため、新しい人間関係にうまく溶け込めるか不安を覚えることがあります。従業員との懇親会の実施は、こうした不安を原因とした内定辞退の防止に有効な方法の一つです。同じ職場で働く先輩従業員と直接話をすることで、入社後の人間関係に対する不安が解消され、内定辞退の防止につなげることができます。

内定辞退が起きた後の対処方法

内定辞退が発生し、急遽追加の採用を行わなければならない場合の対処法として、人材紹介サービスの利用と送客サービスの利用が挙げられます。ここでは、それぞれの詳細について解説します。

人材紹介サービスを利用

筆者の経験上、近年人材紹介サービスを介して就職活動を行う学生が増えています。人材紹介サービスに登録することで詳細な求人企業情報を収集することができ、人材紹介サービスのカウンセラーからアドバイスを受けることで的確な自己分析や自己表現を行えるといったメリットがあります。学生を採用する企業にとっても、人材紹介サービスを活用することは、自社の求める要件に合った新卒人材を納得のいくまで探すことができる(人材紹介会社は基本的に成功報酬型)、学生との接触に割く時間や工数を削減できるといったメリットがあります。内定辞退の発生により採用計画に欠員が生じた場合の対処方法として、人材紹介サービスの利用を検討してもよいでしょう。

※人材紹介サービスに関しては、以下の記事をご参照ください
人材紹介・転職エージェントの料金・手数料は?契約の前に知っておくべきこと

母集団形成・送客サービスを利用

採用を行うためには、自社の採用に応募する可能性のある求職者を囲い込むための母集団形成をしなければなりません。

こうした母集団形成に際して、人材紹介業者が求人企業の要件やニーズに合った新卒人材を求人企業の就職説明会や選考へ動員するサービスがあります。これは、採用に関する母集団を再度形成するための手段として効果的です。

今後少子化にともない、学生数の減少に歯止めが掛からなくなることが予想されます。
こうした動向を背景に、新卒採用の売り手市場化が定着することで、内定辞退はどの企業も直面する課題となると考えられます。そのため、新卒人材を採用する企業は、内定辞退を防止するための体制を整え、対策を通じて他社との差別化を図ることが重要です。

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