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採用条件とは、企業が人材を採用する際の基準や要件を示すもの
採用条件は人材を採用する際の基本となるものです。事前に採用条件をしっかり定めておけば、応募者の採否を判断する基準が明確になるため、自社のニーズにマッチする人材を採用しやすくなると考えられます。また、採否を判断するスピードが速まり採用活動の効率化につながる可能性も期待できます。
本章では、より具体的に採用条件を決めることで得られるメリットについて解説します。
採用条件を決めることで、求める人材の判断・採否基準が統一できる
多くの場合、求める人材であるか否かを判断するための基準は、企業のビジョンや目標、そして募集するポジションの業務内容に基づいて設定されます。具体的には、スキルや経験のほか、仕事に対するスタンスやキャリアに対する価値観なども、採否を判断する際の基準の主要な項目になることもあるでしょう。
採否基準の対象となる各項目における採用条件を定めることで、面接担当者によって評価がブレることなく採否を判断できるようになることが期待できます。
採用条件を決めることで、採用の効率化につながる
採用の効率化につながる点も、採用条件を決めることで得られる利点の1つです。
採用条件が明確になることで、採否を判断するのに迷いや評価のばらつきが減り、採否の判断を迅速に行えるようになるでしょう。
採用活動が効率化すると、採用担当者の業務負担が軽減し、採用戦略の設計などコア業務に注力できるようになる、採用にかかる費用を抑えられる、などの副次的なメリットを得られる可能性もあります。
採用条件を決定するまでの流れ
採用条件は、採用の根幹にかかわる基準だからこそ、丁寧に設計することが大切です。
ここでは、採用条件を決定するまでの流れの一例として、次の4つのSTEPに沿って解説します。
STEP1. 社内にヒアリング
まずは社内に現状のヒアリングを実施し、どの職種やポジションで人材が不足しているのか明確にしましょう。その上で人材が不足している部署の担当者にヒアリングを行い、ツールの導入や業務プロセスの改善なども視野に入れながら、人材の採用の要否について検討します。
STEP2. ターゲットの明確化
人材の採用が必要だと決定したら、再びその部署の担当者にヒアリングを行い、採用ターゲットを明確にします。業務を遂行するにあたって必要なスキルや経験、人柄、入社後に求める成果などを確認しながら採用ターゲットを具体化していきましょう。
STEP3. 市場のトレンド・採用競合を分析
採用を実現させるためには、市場のトレンドや採用競合を分析することが不可欠です。業種・職種・エリア等によって、市場トレンドは日々変化します。そうしたトレンド変化のチェックに加え、採用競合の求人状況を分析することも大切でしょう。自社の採用目標の達成に向けて、さまざまな取り組みを進めたり、定期的に見直したりして進捗させる必要があるでしょう。
STEP4. コンピテンシーモデルを作成
採用条件を設定するにあたっては、求める人材の特性や能力を具体的に明確化する「コンピテンシーモデル」の作成が有効でしょう。コンピテンシーモデルとは、企業が求める人材の行動特性や思考パターンをモデル化したもので、これをもとに採用活動を進めることで、より適切な人材の採用が期待できます。
コンピテンシーモデル作成のステップとしては、最初に、採用したい人物像を明確にすることが大切です。これには実在型モデル、理想型モデル、ハイブリッド型モデルの3つの方法が考えられます。
実在型モデルは、社内で既に活躍している優秀な社員をもとに、その人材が持つ特性や能力を分析する方法です。
理想型モデルは、企業の理念や目標をもとに、理想的な人材像を設定する方法です。
ハイブリッド型モデルは、これら2つのモデルを組み合わせ、より総合的な人材像を設定する方法です。
次に、コンピテンシーモデルの具体的な項目を設定します。この際、「コンピテンシー・ディクショナリー」というツール(※)を活用することで、より具体的かつ客観的な項目の設定が可能となります。
最後に、このモデルを自社のビジョンや価値観と照らし合わせ、必要に応じて調整を行います。
コンピテンシー、ならびにコンピテーションディクショナリーに関しては、以下の記事をご参照ください。
採用条件を決める際に重視すべき項目
ここでは、採用条件を決める際に重視すべき項目例として、次の3つの項目について解説します。
項目1. 能力や経験
採用条件を決める際に重視すべき項目として、能力や経験が挙げられます。
能力や経験とは、主に応募者がこれまでに培ったビジネス現場で必要とされるスキルのことを指し、採用条件に能力や経験の基準を盛り込むことで、職務に必要な能力や経験を有しているか判断できるようになります。
能力や経験に関する評価項目には、次のような例が挙げられます。
- 職務経験
- スキル
- 資格
- 業界知見
- 過去の業務実績 など
項目2. コンピテンシー
コンピテンシーも採用条件を決める際に重視したい項目の1つです。
コンピテンシーとは、職務や役割など仕事で期待される成果を安定的に創出する人材に共通している行動特性を指します。例えば、仕事で優れた成果を上げる人に共通する行動特性を採用条件の評価項目として盛り込むことで、求める成果を創出できる可能性の高い人材を採用できるかもしれません。
コンピテンシーに関する評価項目には、次のような例が挙げられます。
- 問題解決能力
- 主体性・行動力
- ストレス耐性
- リーダーシップ力
- 仕事に対する倫理観や価値観の一致 など
項目3. 労働条件
労働条件とは、給与や待遇、勤務地、勤務形態などの雇用に関する詳細な条件を指します。企業が提示する労働条件と応募者が望む労働条件がマッチしない場合、応募者が集まらなかったり、採用後の選考辞退、入社後の早期退職などの事態に至る恐れがあります。
採用競合や市場の相場を調査し、募集するポジションに適切な労働条件を設定しましょう。
なお、労働条件に関する項目には、次のような例が挙げられます。
- 給与
- 勤務地
- 勤務時間
- 福利厚生
- 雇用形態 など
採用対象別の重視される傾向にある採用条件
本章では、次の採用対象ごとに重視される傾向にある採用条件例について解説します。
なお、これらの採用条件はあくまでも採用対象別に考えた場合の一例です。実際の採用条件は、採用企業の規模や業界などにより大きく変わる場合もあります。
中途採用
中途採用で重視される傾向にある採用条件例は、次の通りです。
- 実務経験と年数
- 職務内容に関連するスキル
- 過去の成果や実績
- マネジメント経験(管理職採用の場合)
- 実務適応力
- 過去の勤務先での勤務年数や離職理由
- キャリアビジョン
- 仕事に対する価値観 など
中途採用では、即戦力を求める場合、職務経歴やこれまで培ってきた経験・スキルを重視する傾向があります。しかし、経験や実績が豊富であったとしても、社風やチームとの相性に不一致が生じる場合、力を十分に発揮できなくなる懸念もあります。
そのため、経験やスキルなど実務に直結する項目のほかにも、仕事に対する価値観についてもある程度どのような価値観を持つ人材を求めているのか明確にしておくと採用ミスマッチの発生を防げるでしょう。
新卒採用
新卒採用で重視される傾向にある採用条件例は、次の通りです。
- コミュニケーション能力
- 課外活動やアルバイト経験での実績
- 履修分野(ポジションによる)
- 志望動機
- 仕事への価値観、長期的なキャリア志向 など
新卒採用では、経験やスキルなど入社後にすぐ活躍するために必要な能力よりも意欲的に自己成長に取り組む姿勢や会社とのマッチ度などが重視される傾向があります。
企業の文化や価値観に共感しているか、長期的に成長・活躍する素養はあるかなどを見極めるため、志望動機や仕事への価値観、長期的なキャリア志向などを重視することがあります。また、課外活動やアルバイト経験は、頑張った経験や注力したことを知れる項目になるため、採用選考ではどのようなことに取り組んだのかヒアリングする企業もあります。
専門性の高いポジションによっては、履修分野が重視されることもあるでしょう。
パート・アルバイト
パート・アルバイト採用で重視される傾向にある採用条件例は、次の通りです。
- 勤務可能な時間帯や曜日
- コミュニケーション能力
- 募集職種に関連する経験の有無 など
パート・アルバイト採用では、企業が提示する勤務条件とのマッチ度や基本的な業務遂行能力の有無などが重視される傾向があります。最低限出勤して欲しい日数や時間、業務遂行にあたって必要なスキルを条件として定めておくと、求職者も応募前に自分にマッチした求人か判断できるでしょう。
採用条件を決める際の注意点
採用条件を決める際に留意したい各注意点について解説します。
注意点1. 業務遂行に直接関係がないことは尋ねない
採用選考は、応募者が職務遂行上必要な適性・能力を持っているか否かを基準に採否を判断することが採否を判断することが必要です
そのため、例えば本籍や出身、家族に関すること、住居状況、家庭環境などの「本人に責任のない事項」や、宗教、支持政党、思想や信条など「本来自由であるべき項目」について、採用条件の項目に含まれることのないよう、注意しましょう。
注意点2. 社内で採用に関しての意見や方向性のズレを作らない
社内で採用に関しての意見や方向性のズレを作らないことも大切です。採用条件や基準に対する意見が異なる場合、採用基準にばらつきが生じてしまい、採用ミスマッチを誘発してしまう懸念があります。
採用条件を明文化する、採用の方向性をすり合わせるなどして、採用活動にかかわる関係者全員が同じ基準・条件・方向性で採用活動に取り組める体制を整えましょう。
h3 注意点3. 時代や業界の変化に合わせて採用条件を定期的に見直す
採用条件は、外部環境や企業状況の変化に合わせて柔軟に見直す必要があります。時代や技術が移り変わる中で古い条件に固執すると、現行の事業活動にマッチしない人材を採用してしまうかもしれません。
業界動向や自社の変化に応じて定期的に採用条件を見直し、現状に合った採用条件を定めるようにしましょう。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。