人材確保競争が激化する中、採用活動において、自社の認知度や志望度の向上を目的とする「採用広報」に力を入れる企業が増えています。 採用広報の概要と近年注目されるようになった背景を紹介するとともに、採用広報に取り組むことのメリットや、導入するための手順、戦略の立て方や効果的な実施のポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

採用広報とは、企業が求める人材を採用するために、求職者に対して自社の魅力や文化を伝える広報活動

「採用広報」とは、企業が求める人材を採用するために、求職者に向けて行う広報活動のことです。
採用に関する具体的な求人情報や「働き方」「文化」「ビジョン」「キャリアパス」など、自社の魅力を幅広く発信し、認知度アップや応募数の増加を狙う取り組みです。
一般的に「広報」の役割と言うと、企業のさまざまな情報を社内外に発信することですが、採用広報はその中でも特に、求職者を対象とした広報活動になります。

採用広報を行うには、発信内容の精査や訴求の方向性、メディアの選定などが重要となるため、企業内では人事(採用担当)と広報が連携して進めることが多いようです。広報部門がない企業や、少人数でリソースがない企業の場合は、人事とマーケティング部門や経営企画、事業企画部門などが協働するケースもあります。

採用広報と採用ブランディングの違い

採用広報と似ている取り組みに、「採用ブランディング」があります。

採用広報とは、企業が採用活動をするに当たって、求める人材を確保するために求職者へ行う情報発信などの施策そのものを指し、短期〜中期の効果を目指す取り組みであることが一般的です。

それに対して採用ブランディングとは、採用市場における「働く場」としての自社のブランド力を高める活動を指します。「この企業で働くと○○な魅力がある」と求職者に認識してもらえるよう、自社の理念やビジョン、社風、働きやすさなどの情報を発信し、長期にわたって戦略的にブランドを構築していくことが一般的です。

採用ブランディングについては、以下の記事をご覧ください。

採用広報が注目されている背景


近年、採用広報が注目されている背景には、主に二つの要因が考えられます。

一つは、企業の採用活動を取り巻く状況が厳しさを増していることです。リクルートエージェントにおける求人数の推移を見ると、2024年度の求人数は、多くの職種で2020年度1-3月期の約2倍に達しています(※1)。人口減少による構造的な人手不足を背景に、企業は意欲的な採用活動を行っており、今後も人材獲得競争は激化していくでしょう。

もう一つは求職者の意識の変化です。株式会社リクルートが転職活動者に「企業に提示して欲しいこと」を聞いたところ、「募集している職場の具体的な仕事内容やミッション」が21.5%、「勤務時間や休日休暇、リモートワーク実施率等の働き方に関する詳しい情報」が14.1%と上位を占めました(※2)。

このように近年の求職者は、「より具体的な情報で企業を選別したい」と考えていることから、情報開示が少ない企業は不利となる可能性があります。そのため、自社の魅力を積極的に伝える採用広報の重要性は増していると言えるでしょう。

※1 (出典) 2024年度下半期「転職市場動向レポート」/株式会社リクルート(2025年) https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20250310_work_02.pdf

※2(出典) 転職活動者調査 第 2 弾 /株式会社リクルート(2022年) https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230606_hr_01.pdf

採用広報に取り組むメリット

企業が採用広報に取り組むことで、以下のようなメリットが得られるでしょう。

企業認知度が高まることで、転職時に想起されやすくなる

採用広報を広く行うことで、自社の認知度を上げることが期待できます。転職潜在層へもリーチできれば、実際に転職活動を開始してからその存在が想起され、転職先候補にあがる可能性が高まります。さらに、多くの募集企業を比較検討する中でも、知っている企業であることが優先順位を押し上げ、応募につながる可能性があるでしょう。

志望度が高い候補者が集まりやすく、選考プロセスが効率的になる

採用広報により、志望度の高い応募者が多く集まる可能性があります。採用広報によって発信される情報を通じて企業理解を深め、共感を覚えた求職者は、より興味関心を持って応募してくると考えられるからです。

応募者に一定以上の企業理解があれば、選考初期から相互理解が進みやすく、他社との比較で優位に検討してもらえ、選考や内定の辞退も減らせる可能性があります。

採用のミスマッチを減らせる

自社の情報をオープンにすることで、採用のミスマッチを低減できる可能性があります。各選考プロセスにおいて、企業理念や社風、働き方、将来のビジョンなどを積極的に示していけば、応募段階でのミスマッチだけでなく、入社後の理由による早期離職を招くことも少なくできるでしょう。

採用コストを抑えられる

採用コストを抑えられる可能性もあります。例えば、オウンドメディアやSNSなどによる採用広報で認知度を高めれば、複数の採用媒体や採用手法にお金をかけなくても、十分な応募者が集まるかもしれません。また自社サイトへの直接応募の増加も見込めるでしょう。

また、採用広報によって自社の認知度が高まったり、応募が増加したりすれば、副次的に採用担当者の負荷軽減につながる可能性もあります。

採用広報戦略の立て方・進め方

採用広報には具体的にどのように取り組んで行けば良いのでしょうか。大まかな手順を6つのステップでご紹介します。

STEP1. 採用広報の目的を明確にする

まず、採用広報の目的を明らかにしましょう。最も解決したい採用課題を曖昧にしたまま、闇雲に情報発信をしても、求職者の心に響きにくく、期待通りの効果が得られない可能性があります。例えば「応募者が少ない」ことが課題なら、母集団を形成するための方策が必要ですし、「短期離職に悩んでいる」なら、採用のミスマッチを減らすことなどが採用広報の目的として挙げられるでしょう。

STEP2. 誰に向けて採用広報を行うか決める

目的を明確にしたら、「誰に向けて」採用広報を行うかを検討しましょう。応募者数の低迷が課題であれば、自社のことを知らない求職者が主なターゲットとなります。ミスマッチ低減が目的であれば、自社を知っている求職者に理解を深めてもらうことも必要でしょう。

自社が求める人材モデルを明確にすることも必要です。経験・スキルだけではなく、具体的な人物像まで想定することで、一定の判断基準を持ってコンテンツ設計を進めることができます。

STEP3. どのようなコンセプトで採用広報を行うか決める

採用広報のコンセプトを定めましょう。コンセプトとは、求める人物像の心に響く自社の「魅力」や「強み」を言語化したものです。コンセプトが明確でないと、採用広報で発信するメッセージに一貫性がなくなり、求職者の印象に残りにくかったり、信頼度の低下につながったりする可能性があります。

「企業理念」「商品の競争力」「成長性」「従業員サポート」といったカテゴリーの中から、ターゲットのニーズと合致する、自社独自の価値や強みを見つけて言語化していきましょう。

STEP4. コンセプトに基づいたコンテンツを企画する

STEP1〜4の内容をもとに、「誰に対して」「どのような魅力を伝えるか」を意識して、具体的なコンテンツを考えましょう。

例えば、自社の知名度や志望度を上げるのが目的であれば、ミッションやビジョンの紹介、商品やサービスに込めた想い、事業の成長性が分かるデータ、代表メッセージなどが挙げられます。採用におけるミスマッチを減らしたいのであれば、社員インタビュー、1日の仕事の流れ、福利厚生やキャリアパスの紹介など、働くイメージが伝わる内容を盛り込むのも一案です。

STEP5. コンテンツを発信する媒体を選定する

企画したコンテンツを何で発信していくか、媒体を選定しましょう。採用広報の方法としては、自社のホームページやSNS、有料広告などあらゆる選択肢がありますが、次項で詳しくお伝えするように、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。そのため、効果的な採用広報を行うには、自社の目的を達成でき、最もターゲットに響く媒体はどれかをよく検討することが大切です。

STEP6. KPIを設定し継続的な効果検証を行う

発信を始める前に、採用広報のKPIを設定しましょう。採用広報は短期的に効果が出るとは限らず、人材を安定的に採用できるまでには時間がかかることがあります。そのため、モチベーションを維持しながら継続的に取り組むには、定量的で明確な目標となるKPIの設定が重要です。

採用広報全体の中長期の目標としては、応募者数、選考通過率、内定承諾率、入社後の定着率などが考えられます。短期の目標としては、自社採用サイト・ホームページにおける採用広報記事のPV(ページビュー)数、動画施策があれば動画の視聴数(再生回数)、企業SNSの場合は、インプレッション数(表示回数)、フォロワー数、プロフィールアクセス数などがあげられます。

達成度を客観的に判断し、改善に繋げられるよう、具体的な目標と評価方法を設定しておきましょう。

採用広報の方法とポイント

採用広報でよく用いられる手法に、3つのメディアを軸とした「トリプルメディア戦略」があります。
トリプルメディア戦略では、企業自身が運営する「オウンドメディア」、第三者が運営する「アーンドメディア」、有料広告媒体である「ペイドメディア」を目的に合わせて活用することで、効果的な採用広報を行うことができます。ここでは、それぞれの方法の特徴と活用法について解説しましょう。

オウンドメディア(企業自身が運営するメディア)の場合

オウンドメディアとは、企業自身が運営するメディアのことで、コーポレートサイトや自社採用サイト、ブログ、自社が所有するSNSアカウントなどがあります。

オウンドメディアは、自社の知名度を高め、魅力を広く発信することで、採用力を向上させたい企業に適しています。内容を自由にカスタマイズできるので、自社のビジョンや働き方、社員インタビューなどを活用して、求職者に魅力を伝えるコンテンツを作成できます。半面、導入や運用、メンテナンスに工数がかかります。また、短期的な効果を期待するというよりは、中長期的な継続を必要とするでしょう。

アーンドメディア(第三者が運営するメディア)の場合

アーンドメディアとは、ユーザーやメディア関係者などの第三者が情報を発信するメディアのことです。例えば口コミやSNS、ブログ、マスメディアによる報道や求人サイトの取材記事などがあります。

アーンドメディアは有料広告と違い、第三者の目線から自社の魅力をより客観的に、信頼性の高い形で発信できます。認知まで時間がかかるため、中長期的な採用力の強化に効果的でしょう。
SNSは、拡散されることで不特定多数にアプローチできると同時に、求職者と直接やり取りをして信頼関係を構築できる可能性もあります。興味を持った求職者をオウンドメディアに誘導する方法も有効でしょう。ただ、情報のコントロールが難しいため、必ずしも伝えたい相手へ情報が届かない可能性も考えられます。

ペイドメディア(費用を払って発信するメディア)の場合

ペイドメディアとは、企業が広告コストを負担して掲載するメディアを指します。例えば、求人メディア、Web広告、SNS広告、雑誌広告、駅の広告、採用イベントなどさまざまなものがあります。

ペイドメディアのメリットは即効性が期待できることであり、短期的に応募数を拡大したい場合に適した方法です。媒体によっては転職潜在層を含めた幅広いターゲットに訴求できる一方で、求職者の設定を詳細に行い、効率良く情報を伝えることもできます。数値分析などでPDCAを回せば、採用広報の改善もできるでしょう。ただ、他メディアよりもコストが高い傾向があり、お金をかけても競合に埋もれてしまったり、限られた情報量から判断されてミスマッチな応募が増える可能性があります。

【目的別】採用広報に取り組む時のポイント

採用広報のプロセスには、求職者に自社を知ってもらう「認知フェーズ」、自社で働くことに興味を持ってもらう「興味〜応募フェーズ」、面接などを通じて入社意欲を高めてもらう「選考〜内定・入社フェーズ」があります。採用広報において、該当するフェーズを強化したい場合の、取り組み方のポイントについて解説しましょう。

採用広報によって「認知」を強化したい場合のポイント

業界や企業を研究中の求職者に向けて、広く自社を知ってもらう場合は、事業概要や競争優位性など他社との差別化について伝えるとよいでしょう。潜在層にアプローチするために、求人メディアや転職フェア(イベント)など外部のリソースを活用する方法も有効です。

同時に、求める人材への認知度を高めるためにどういったメディアを選定し、どのようなコンテンツが適しているかを検討することも必要です。例えば、特定の専門技術を持つエンジニア人材を採用したい場合は、特定の専門誌や学会、業界のイベントなどで広報するという方法もあります。

この段階では媒体によってはコストが高すぎたり、認知度は上がってもミスマッチも増えて、対応に負荷がかかったりする可能性もあります。自社の採用ブランド力や予算なども含めてよく検討しましょう。

採用広報によって「興味・応募」を強化したい場合のポイント

自社で働くことに興味を持ってもらい、応募先として考えてもらったり、志望度を高めたりする段階です。ここでは、より具体的で詳細、かつカスタマイズされた多様な情報を届けることがポイントです。

例えば、職場の雰囲気、社員の人たちの実態・働き方・インタビュー、経営者のメッセージなどのコンテンツが挙げられます。自社で運営するメディアなどをフルに活用し、動画や採用ピッチ資料、カジュアル面談用説明資料、採用ブログ、SNSなどで発信すると良いでしょう。

また、自社採用説明会などで求職者に直接働きかけをすることや、転職エージェントへの説明会を開いて自社への理解を深めてもらうとともに、転職エージェントが求職者へ応募喚起できる詳細な情報を提供するのも一つの方法です。

採用広報によって「選考〜内定」「入社」を強化したい場合のポイント

面接などの場を通じて入社意欲を高め、最終的に自社への入社を促す段階です。自社を選んでもらい、入社したいという動機づけを高めるためには、より一層リアルな生の情報を伝えることがポイントになります。例えばオフィス見学、社員面談、内定者交流会、食事会などを開催したりする方法があります。

ただ一方で、近年は企業の「囲い込み」的な働きかけを敬遠する応募者も増えていることが予想されます。そこで、必要な情報が十分伝わっているかを確認したり、オウンドメディアの情報や資料を、当該求職者向けに整理し、改めて提供したりするのも一案です。「考えてもらう機会を設け、疑問や質問があれば対応する」といった対応は信頼関係につながり、入社意欲を高めてもらうのに有効な場合もあるでしょう。

アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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