目次
採用マーケティングとは
「マーケティング」はもともと、カスタマーが真に求める商品・サービスを提供するために、企業がカスタマーの志向・動向などを把握・理解し、商品価値に反映して売り上げを上げていくことを指します。
その概念を採用活動に適用したのが「採用マーケティング」。求職者を「カスタマー」として考え、カスタマーを獲得するために、これまでマーケティングの世界で取り入れられてきた手法を、採用活動に活かすことをいいます。
採用Webマーケティングとの違い
採用活動にマーケティングの考え・手法を取り入れ、それをWeb上で展開して人材採用を行うことが、採用Webマーケティングです。採用活動にはハローワークや求人媒体、人材紹介、社員の紹介などさまざまな手法がありますが、現状、多くの企業がWebを使った求人媒体やサービス、自社の採用ページなどを活用しているため、Web上に限定した活動だけを指すことが多いです。
中途採用においてマーケティングが重要な理由
新卒採用と中途採用を比較すると、中途採用においてマーケティングが重要な理由が2点あります
新卒採用と中途採用の違い
理由の1点目は、中途採用と新卒採用の違いにあります。中途採用では、新卒採用よりも欠員補充など比較的短期間で予算も多くなく、「総務経験5年・リーダークラス・コミュニケーションスキルが高め」といったスペシャリスト採用を行う傾向があります。その分、給与額や待遇面など募集要件に幅を持たせるケースも。中途採用を行うときは、新卒採用と違って各部署・職種ごとにさまざまなニーズによって発生します。その都度、適した人材を採用成功に導くには、求める人材を探し出してアプローチしたり、興味喚起を行ったりすることが求められるため、採用マーケティングが重要になってきています。
働き方の多様化
2点目の理由として、働き方の多様化が進んだことです。その背景には、少子高齢化による労働人口の減少があります。企業は、それまでの新卒の一括採用や、終身雇用、待遇、福利厚生、キャリアパスといった制度を維持しながら、企業活動を行うことが難しくなりました。変化を求められた企業は、人材の採用シーンにおいて、新卒採用のみならず、中途採用を積極的に行うようになりました。また、仕事と育児・介護などのライフイベントを両立する人など、これまでよりも多様な人材を採用するようになりました。
人材の多様化(ダイバーシティ)には、キャリア・スキルが異なる人材同士の関わりから新たなビジネスチャンスが生まれる、などのメリットがあります。近年、多くの企業が、多様な人材が長期的に活躍できる環境を目指して、時短勤務や育児休暇の制度を整えています。また、世の中の状況の変化から、テレワークの導入が進み、通勤距離や通勤時間の制約が無くなりつつあります。
このような働き方の多様化に合わせて、求職者のニーズも多様化しています。優秀な人材を採用するために、「求職者のニーズに応じた採用活動を行う」というマーケティングの考え方は、ますます重要になってきています。
採用活動に応用できるマーケティングの4つの手法とは
採用に限らず、商品づくりやサービス提供などのマーケティング戦略において、欠かせない4つの手法があります。これらは何らかのマーケティングを実施するとき、必ずといっていいほど話題にのぼる手法であり、採用マーケティングにも応用することができます。以下にその概要を簡潔に述べます。
1.カスタマージャーニー
カスタマージャーニーとは、「カスタマーが商品購入に至るまでのプロセス」です。カスタマーがその商品を認知し、購買、再購入する段階で、店舗(企業)とどんな接点を行き来するか、その行動を旅に例えて考えていく一連のプロセスをいいます。
通常、カスタマーの動きを系列的に可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」といい、そのマップを使って洗い出していきます。
上記はあくまで一般的なマーケティングのカスタマージャーニーマップですが、同じような考えで、採用マーケティングにも採り入れることができます。採用マーケティングにおいては、消費行動を入社までのプロセスに置き換えて考えます。
この考えを採用導入に導入することで得られる効果は…
採用における視野が広がる
採用活動時において、企業は通常ハローワークやWebサイトなど、さまざまな求人施策を考えていくと思います。その中で、このマップでカスタマー(求職者)の行動や思考を明確化できれば、広い視野で施策などの選択もできるようになるのではないでしょうか。情報を整理することで、通常では思いつかなかったような手段が見つかることがあります。
複雑なデータを把握できる
採用活動ではカスタマーの動向は、転職活動を思い立つことから始まり、「なんのための転職か」「転職で何を叶えたいのか」「求人企業とどう出会うか」「どんなメディアを使うのか」「口コミがほしい」「1日も早く転職したい」「企業をじっくり研究したい」など、さまざまな考えや感情、行動が発生します。それら全てのデータを把握することは通常はとても困難です。その点、このマップを使えば全体を広い視野でまとめて見渡せることに役立ちます。
次の施策立案が容易に
カスタマージャーニーマップは、カスタマーの「行動と思考」をメインに考えていきます。行動を数種類のパターンに分け、その行動と接触ポイントがどのように関係しているかをシンプルに可視化。これによって、カスタマーの接触ポイントとしてのテレビや新聞を別のメディアに置き換えるなどの発想ができるようになり、施策立案が容易になります。
2.3C分析
3C分析とは、Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)という3つの「C」について分析することです。
通常のマーケティングはビジネスを行っていく上で、「市場の関係性」を理解するために使われるフレームワークです。採用マーケティングでは、カスタマーは求職者であり、競合は自社と競合する同業他社などになります。
分析内容は…
自社(Company)
- 自社の強みと弱み
- 業界内や世の中からの評価など
顧客(Customer)
- どのような人がカスタマーなのか(採用では求める人材要件)
- カスタマーのニーズはどのようなものか?(採用では待遇面や仕事内容、風土など)
競合(Competitor)
- 競合他社の現在の状況(採用活動の有無)
- 競合他社の評価
- 競合他社の強みと弱み
この考えを導入することで得られる効果は…
自社と競合を第三者的な視線から見直すことで、自社の強みや弱みが抽出できます。そして、カスタマージャーニーマップ同様、カスタマーの考えも理解できます。そこで得られた情報が効率的な採用活動につながります。
3.5A理論
5A理論とは、フィリップ・コトラー教授が著書「マーケティング4.0」(朝日新聞社出版・2017年発行)において打ち出した、インターネットやSNS時代を反映させた、カスタマーの購買プロセス論で、以下の5つのAを示しました。
認知(Aware)→訴求(Appeal)→調査(Ask)→行動(Act)→奨励(Advocate)
広告や口コミにより商品を「認知し」、商品を識別、記憶し(「訴求」)、友人の評価やネットの検索を通じて「調査」し、購買し(「行動」)、他者に「奨励」する――という5段階のプロセスに沿って、マーケティング・アプローチをするのが重要であるというのが5A理論です。多くの産業や領域で展開できる理論で、採用活動においても、どのように自社を知り、どのような気持ちで応募して、入社後周りにすすめてくれるのかといった幅広いプロセスを分析することができます。
4. SWOT分析
SWOT分析とは、マーケティング手法の一つです。まずは企業を「内部環境」「外部環境」という2つのカテゴリーに分けます。そして、それぞれのプラス要因とマイナス要因を明確化します。
- 「内部環境」→『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』
- 「外部環境」→『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』
これらの4項目(SWOT)を分析し、次の施策を考えていきます。
内部環境で考えられる主な要素として
- 経営資源
- 商品・サービス
- 技術・ノウハウ
- 価格
- コスト
- 知名度
- 人材・組織
- システム
- インフラ
- 立地
など
外部環境で考えられる主な要素として
- 政治・法令
- 市場トレンド
- 経済状況
- 株主
- 技術
- 競合他社
などになります。
SWOT分析で得られる大きなメリットは、市場の脅威・機会(外部環境)に対し、自社の強みをどう活かし、弱みをどのように克服するか整理できる点です。
それらを整理できたら、次に精度の高い分析を行うため、「クロス分析」を実施します。クロス分析とは、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」を互いにクロスさせ対応すべき課題を抽出する手法です。検討するポイントを考えていきます。この時、課題には必ず「優先順位」をつけるようにします。
強み×リスク
- 良好な経営状態から、新製品の開発にチャレンジする
- 既存製品から派生する製品やサービスを考えていく
弱み×チャンス
- オンリーワンに近い技術の継承者を採用して育成する
強み×チャンス
- 自社のファンともいえる顧客との関係性をさらに深める施策を考える
弱み×リスク
- 自社製品をアピールするための施策を考える
このように、まとめた項目を上下やクロスさせて考えることで、自社の強みを活かした組織づくり、売れる商品づくりを検討するヒントとなります。
こういった考えを採用マーケティングとして取り入れて、自社の求人に関する強みや弱みを把握し、チャンスやリスクと組み合わせることで、効果的な採用戦略を導き出しましょう。
中途採用におけるマーケティングの具体的な手順
これまで、カスタマージャーニーや3C分析など、一般的なマーケティング戦略で用いられる数々の手法を上げてきました。それでは、これらの手法を採用活動に応用して、中途採用のWebマーケティングを行う方法・ポイントを考えていきましょう。
求職者の活動プロセスを把握する
まずは求職者の活動プロセスですが、カスタマージャーニーマップなどでわかるように、求職者は<認知→興味・関心→比較・検討→行動>という一連の活動の中で、どんな動きが想定できるのでしょうか。
採用活動に当てはめると、求職者が「求人サイトに会員登録した」「ウェブサイトで先輩社員のインタビューを見た」「ダイレクトメールを開封した」「会社説明会に参加した」「求人を行っている自社採用サイトを確認した」「Webよりエントリーをした」「面接をした」といったものが行動情報にあたります。
こういった行動をオンラインで把握でき、データで管理できることが採用Webマーケティングの最大のメリットになります。これらの情報を蓄積し、一元管理していくことにより、求職者がどういった内容に興味を持っているのか、どれくらい活発に活動しているのかを把握できます。
採用したい人物像を明確化する
次に、これまでカスタマーと定義してきた、いわゆる一般的なマーケティングに当たる「顧客」とは、採用活動では、「採用したい人材」になります。
よく採用したい人材を「ターゲット」と表現することがありますが、この場合ターゲットとは例えば、
<●ターゲット例/30代~40代 経理経験3年以上> といった内容になりますが、それをさらに、一層採用したい人物像をはっきりと想定していく「ペルソナ」として考えると、採用マーケティングの精度は上がっていきます。例を述べると先ほどのターゲット像に加え、
<●ペルソナ例>
37歳 既婚 現在は専業主婦・主夫
転職意欲/2人目の子どもが小学校へ入学し、時間ができたので復職したい。
フルタイムの仕事を希望し、出産前に経験してきた経理の経験を活かしたい。
経験内容/従業員50名の企業で経理業務を7年経験。課長の次のポジションとして実質実務責任者的立場で、PL作成から決算書をまとめ、税理士対応まで担当。簿記2級。
学童保育に子供を預けるので、フルタイムで働けるが残業はあまり多くはできない。
といった1人の人物像を想定できます。ペルソナを設定することで、カスタマージャーニーマップで考えた行動や感情がわかり、3C理論でのカスタマーが明確化できます。
自社のアピールポイントを分析する
カスタマージャーニーマップや3C分析で明らかになったペルソナに対して、次にSWOT分析などを用いて、自社のPR分析を行います。前述ではあくまで、一般的なマーケティング戦略でのSWOT理論をご紹介しました。そこに採用マーケティングでは、さらに以下のような要素が加わります。
内部環境として
- 待遇面
- 風土
- 評価制度
- 教育制度
- 研修制度
- 女性比率
- 産休育休取得率
- 離職率 など。
外部環境では
- 採用市場動向
- 同業界の採用傾向
- 同業界との給与・待遇面などの比較 など。
これらの項目を加えることができます。採用のSWOT分析をリスト化することによって、自社のアピールポイントが明確になり、同時に採用活動で自社の弱みがわかれば、社内で是正を行うことができ、よりよい人材確保につながります。
魅力的なコンテンツを作る
SWOT分析で得られた結果から、Webにおける採用活動で魅力的なコンテンツを作ります。
求める人材からペルソナを設定する(カスタマージャーニー、3Cの考え)
▼
ペルソナの考え・行動を想定する(カスタマージャーニー、5A理論)
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採用メディアに何を反映していくのか(SWOT分析)
▼
待遇面など採用活動にあたり考慮すべき点があるのか(3C、SWOT分析)
といった思考の流れで、採用活動を行います。これらから得られた情報を、Webの求人媒体の訴求ポイントにしたり、自社の採用サイトのリニューアル化にも活かせたりします。採用活動にマーケティングの手法を取り入る企業が増えてきていますので、ぜひ今後の採用活動の参考にしてみてください。また、求人検索エンジンIndeedでは、自社の求人ページに採用サイトを埋め込み、リンクを貼ることができます。このような機能もぜひ効果的にご活用ください。