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採用稟議書とは
採用稟議書とは、採用活動を進めていく上で必要な社内決裁を得るための書類のことです。そもそも、採用にとどまらず企業活動における「稟議」とは、担当者(起案者)の権限だけでは決定ができない事柄に対して、決裁権を持つ上長や関係部門の承認を得ることです。稟議書は会社によって起案書や提案書とも呼ばれています。
採用稟議書の役割も、本質的には稟議書と同様です。社内ルール上、正しい確認・検討プロセスを行うための手続きという意味も大きいため、原則的には会社で定められたフォーマットに則って作成していきます。
社内に定型の採用稟議書があれば良いのですが、汎用的な稟議書しかない場合は注意が必要です。なぜなら、採用活動の承認を得るために共有すべき情報は、採用人数やコストといった定量的な情報にとどまらず、関係者も経営者から配属予定部門まで多岐に渡るため、物品購入や経費使用と同様の感覚で稟議書を提出しても決裁者は十分に判断できず、否決されてしまいかねません。
採用稟議書フォーマットがない場合は、後述する必要事項などを参考に新しくフォーマットを作成して運用すると良いでしょう。システム改修などのハードルがある場合は、採用稟議を上げる際の必須項目を設けるなど社内ルールでカバーしたり、会社で定められたフォーマットに別紙をつける形で運用したりするのも良い方法です。
採用稟議書が必要なケース
採用稟議書が必要なケースは企業によって異なりますが、概ね以下の2点で求められる場合が多いようです。
1.募集開始時(採用コストに対する稟議)
人材の募集を始めるに当たって承認が必要なのは、多くの場合その採用にかかる「コスト」の妥当性です。採用方法によっては、求人媒体(求人メディア)の掲載費用や、ダイレクトリクルーティングのサービス利用料が発生するため、契約前に承認を得る必要があります。
ただし、採用コストの妥当性は、単に金銭的な高さ・安さで判断されるべきものではありません。職種・ポジションや採用マーケットの環境によっても変動するものですし、採用コストには金銭的なコストだけでなく、採用にかかる工数=人的なコストも含まれます。決裁者には総合的に判断してもらう必要があるため、採用稟議書では後述するような複数の観点で採用計画の妥当性を記載することが必要です。
2.採用決定時(人材受け入れに対する稟議)
稟議を求められるもう一つのケースは、採用決定時。最終選考後、内定を出すための承認です。「対象者は採用要件をクリアしているか」、「給与・待遇・配属先は妥当か」、「入社時期はいつ頃か」など、新しく人材を受け入れるにあたって必要な事項を確認する手続きだと捉えると良いでしょう。
ちなみに、面接官などの選考担当者のチェックを経ているのに、改めて承認を求められるのは、もし誤って内定通知を出すと、企業にも求職者にも相当の損害が発生する可能性が高いからです。正当な事由がない限り、企業から内定を一方的に取り消すこと(内定取り消し)は法的に認められていません。求職者も内定を承諾する時点で他社の選考を辞退したり、現職企業の退職交渉を始めたりしています。万が一にも誤りがあってはいけないからこそ、社内稟議が必要なのです。
稟議書に必要な項目と書き方-募集開始時【例文つき】
募集開始時の採用稟議書に必要な項目
決裁担当者から採用コストの決裁を得るためには、採用稟議書において、採用計画の全体像を分かりやすく提示し、納得してもらうことが重要です。
<主な項目>
- 採用目標(いつまでに、どの部署に、何名入社させたいか)
- 採用の背景
- 人材要件
- 募集手段および選定理由
- 採用コストの概算および詳細
これらを踏まえ、実際に採用稟議書を作成すると下図のようになります。
稟議書に必要な項目と書き方-採用決定時【例文つき】
採用決定時の採用稟議書に必要な項目
採用決定時の採用稟議書は、最終選考を通過した人物の情報を示すだけでなく、給与や待遇などの勤務条件、入社時期なども合わせて示す必要があります。選考中に求職者から届いた要望なども踏まえながら、総合的な判断を仰ぐようにしましょう。
<主な項目>
- 採用予定者情報(職務経歴、資格など)
- 合格の理由
- 雇用条件(雇用形態、給与・待遇、勤務地など)
- 入社時期
これらを踏まえ、実際に採用稟議書を作成すると下図のようになります。
採用稟議書の提出から承認されるまでの注意点
決裁者の視点・視座を踏まえて、必要性・妥当性を書く
「稟議が否決される」「稟議書の差し戻しが多い」。そういったケースに悩んでいる人は、決裁者の立場で稟議書を見直してみましょう。採用稟議の決裁者は、採用を管轄する直属の上司だけではありません。経営者や配属予定先の責任者と合意を得なければ予算は承認されませんし、同時期に入社する人数や入社者のスキルレベルは社員教育を預かる部門の業務に影響することもあるでしょう。
そのため、採用担当者の視点だけで稟議書を作成すると、経営者や配属部門の立場では「そもそも採用の必要性が分からない」「経営陣や配属部門にとってメリットが感じられない」と思われかねません。決裁者の視点で情報をまとめることが重要ですし、稟議書を作成する以前に、採用計画を立てる段階で関係各所とディスカッションをして内容を擦り合わせておくことが大切です。
承認ルートを確認し、スケジュールに余裕を持って提出する
企業規模や社内ルールにもよりますが、稟議にはそれなりに時間がかかります。なぜなら、稟議は企業にとって正式な手続きを踏むという意味合いがあるため、決裁者の承認印が必要だからです。近年ではワークフローシステムを導入してWeb上で承認ができるケースも増えていますが、紙の稟議書を運用している場合は、物理的な書類の受け渡しに時間を要します。
事前に自社の標準的な稟議スケジュールや、その採用における承認ルートを確認し、余裕を持って提出しましょう。決裁者に出張や長期休暇が発生すると、そこで承認が止まってしまうことも考えられます。必要に応じて決裁者に承認をもらいたい案件があることを伝え、早めに検討してもらうようにしましょう。
特に、採用決定時の稟議にはスピード感を持って対応することが望ましいです。なぜなら、求職者は併願企業と比較検討しながら結果を待っている場合が多く、内定通知を出すまでに時間がかかるほど、他社への入社を決めてしまう(辞退される)確率が高まるからです。できるだけ短縮することを前提に活動し、もし長引く場合は「いつまでに連絡できるか」を求職者に伝えておきましょう。万が一期限を過ぎてしまう場合も、求職者を放置せず事情を説明して真摯に対応することが鉄則です。
稟議のメリット・デメリットを踏まえて、稟議が必要な条件を確認・検討しておく
ここまでお伝えしたように、採用活動における稟議には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
<採用稟議の主なメリット>
- 複数の視点で採用活動の妥当性を検討できる
- 企業として適切な検討プロセスを担保できる
- 採用関係者(部署)に書面で情報共有できる
<採用稟議の主なデメリット>
- 時間がかかる(採用のスピード感が損なわれる)
- 担当者の主体性が失われやすい(責任の所在が曖昧になる恐れ)
そこで企業によっては、採用担当者や採用部門の裁量を越えて判断が必要な場合に限って稟議に上げることを求め、一つひとつの採用全てに稟議を求めない場合もあります。例えば、「エージェント利用で100万円を超える決裁が必要な場合は部長承認を得る」「メンバーポジションの採用者は配属部門の部長と人事の間で合意を得ればOKだが、課長以上の採用の場合は役員の承認が必要」など、メリット・デメリットを踏まえて稟議のルールを整備しておくと、採用業務の効果的な運用にも繋がります。