従業員向けに「タレントマネジメント」を行うことが注目されています。海外にはじまり、グローバル企業を中心に日本でも活用するケースが増えつつあるタレントマネジメントは、人材育成にどのような効果があるのでしょうか。タレントマネジメントがもたらす具体的な効果とメリット、導入方法、導入する際に気を付けるポイントなどをご紹介します。

タレントマネジメントとは

タレントマネジメントの定義・意味

タレントマネジメントとは、直訳すると「才能をマネジメントする」という意味になります。個々の従業員が持つタレント(資質・能力・才能)やスキルなどを会社が一元的に管理することで、行き当たりばったりではない「戦略的な」人材管理を目指します。

従業員は、適材適所に配置されることで自身の力を遺憾なく発揮する可能性が広がり、キャリア形成の重要な一助ともなり得ます。
会社側も、従業員の能力を最大化することでスピーディーな事業展開が図られ、ひいては全体的な業績の底上げも期待できます。

タレントマネジメントが注目される背景

日本においてタレントマネジメントが注目された背景として、主に以下の2つがあると考えられます。

1つは「少子高齢化による人口減少」です。
2021年10月1日現在、15歳から64歳のいわゆる「生産年齢人口」は7450万4000人。これは比較可能な1950年以降、過去最低です。
出典:総務省統計局「人口推計(2021年10月1日現在)」
就業者の絶対数が不足していることに加え、人々の働き方も多様化しています。新型コロナウイルス感染症の拡大も相まって、日本でもテレワークやジョブ型雇用などが進みつつあります。

これまで一般的に行われてきた「終身雇用制」「大量採用」が難しくなる中、られた経営資源で生産性を向上させるための手段の一つとして、タレントマネジメントが注目されるの然な流れであると思われます。

そしてもう1つに「ビジネス社会の急速な変化への対応」が考えられます

AIやICTといったテクノロジーの進化により、ビジネス展開はよりスピーディーになりつつあります。ビジネス環境の変化に対応するために、企業は自社の戦力(人材)を見つめ直す必要性が生じてきています。

従業員の持つスキルや能力をしっかり管理し、適材適所に配置していくというタレントマネジメントの考え方が注目されるのも、これまた自然な流れなのかもしません。

タレントマネジメントを行う3つの目的

では、企業がタレントマネジメントを行う目的には、どのようなことが考えられるのでしょうか。3つの例を挙げてご説明します。

1.経営目標の達成

企業が立てた経営目標を実現するための手段の一つとして、人・モノ・カネ・情報といった経営資源がありますが、タレントマネジメントはそのうちの「人」に着目した考え方です。
経営目標の達成を人事面から支える。これはタレントマネジメントの真骨頂といってもよいと思われます。

2.次世代リーダーの育成

タレントマネジメントを実施する目的として、次世代リーダーの育成も重要です。
ダイバーシティの取り組みが進み、企業には多様な価値観・バックグラウンドを持つ従業員が集結するようになってきています。多様化した組織を取りまとめる優秀な次世代リーダー候補を発掘し、育成することにも、タレントマネジメントは役立つでしょう。

3.効果的な人材採用と離職の防止

人材採用形式の一つとして、新卒一括大量採用というものがあります。しかし、企業を取り巻く環境が急速に変化する中、企業にとって必要な能力や経験をすでに持っている人材を中途採用することも重要になってきています。

タレントマネジメントを運用することにより、企業が求める人材を採用し、適所配置することが期待できます。
従業員側も、自身の能力にあった環境で仕事ができればやりがいも生まれやすくなるため、人材の定着にも役立ちます。

タレントマネジメントの効果・メリット

タレントマネジメントを実行することにより、どのような効果が期待できるでしょうか。ここでは例として3つの効果・メリットをご紹介します。

戦略人事の実現

戦略人事の「戦略」は、2つの意味を持つと考えられます。
1つは、従業員や求職者が「ここで働きたい」と思える環境を作る、という意味です。
激しい人材獲得競争に勝つために、タレントマネジメントを駆使して人材の獲得・定着を目指すことになります。

もう1つは、企業の経営戦略につなげる、という意味です。
「人」は、経営資源の中でも最も重要な資源になります。スキルや経験、能力などによって評価・選定された貴重な人材であれば、良いパフォーマンスが発揮され、ひいては経営成績の向上に結び付くでしょう。

※戦略人事については、以下の記事を参照ください。
戦略人事 とは?必要な条件、実現方法を徹底解説

適材適所の人材配置

タレントマネジメントの最大の特長の一つに、適材適所の人材配置が挙げられます。
従業員を履歴書や職務経歴書、学歴だけで判断するのではなく、タレントマネジメントによって個々の従業員のスキルが可視化されれば、その人のどこを伸ばしていくべきか、ギャップを埋めていくにはどうすればよいかが見つけやすくなります。

従業員のスキルや能力をしっかり把握することにより、その人にあった部署配置や業務割り当てが可能になり得ます。

優秀な人材の流出リスクの低減

情実評価や社内政治による人事ではなく、従業員の個々の能力やスキル、経験などを細かく分析し、必要なタスクを割り当てていければ、従業員のモチベーションは高まるでしょう。
さらにその人のキャリアを高めるための環境が用意されていれば、優秀な社員はそこを目指しやすくなるため、結果的に人材流出リスクを低減させることにつながる可能性があります。

タレントマネジメントの導入方法

経営戦略・人事戦略を確認し、接続する

タレントマネジメントに限らず、すべての人事施策は人事戦略を実現するためにあり、人事戦略は経営戦略を実現するための手段です。まずは自社が何のためにタレントマネジメントを実施したいのか、その目的を経営戦略・人事戦略に紐づけて言語化し、ステークホルダーと合意形成を行いましょう。

全従業員の情報を可視化・データベース化する

タレント人材の対象者を決めるには、従業員一人ひとりの職務経歴・能力・志向・過去の実績や評価などを可視化しておくことが重要です。最近では「タレントマネジメントシステム」と呼ばれる人事データベースやプラットフォームサービスも登場しており、これらを活用しながら人事情報を一元管理・蓄積していくことで、タレントを選抜する判断材料にすることができます。

タレント人材候補を選抜する

タレント人材候補の選抜にあたり留意すべき点は、客観性にもとづかない評価をできる限り回避するということです。

たとえば「各部署から1名ずつ選抜する」という方法を採るとしましょう。一見すると合理的な選抜方法にも思えますが、このように相対的な評価で選抜すると、上司の主観が入ったり選抜人材のレベルにばらつきが生じたりすることがあります。そのため、上述の人事データベースのように客観的なデータを用いた絶対評価を行うのが良いでしょう。可視化された人事情報をもとに、一定の基準を満たす社員をタレント人材候補として選抜していきます。
詳しくは「タレントマネジメントの人材を決める方法」で後述します。

本人との対話を踏まえ、挑戦的な仕事へアサインする

タレントマネジメントの肝は、彼らの持つ能力を開花・発揮させるような仕事・プロジェクトへのアサインメント、配置転換にあります。特別な研修・教育プログラムを整備する以上に、彼らの持ち味を最大限活かすための実践的な機会提供が重要です。

そのため、アサインメントをする際も、組織や人事の意向だけで判断すると本人のキャリア観とズレが生じ、かえってモチベーションを下げたり離職を招いたりするリスクがあります。機会提供を行うときは、タレント人材と今後のキャリアに関する対話を繰り返しながら本人の意向にあった仕事に挑戦させたり、本人が納得・共感できる動機付けを行ったりすることが求められるでしょう。

タレントマネジメントの人材を決める方法

全従業員が選抜対象

企業は常に、変化の激しい競争環境に晒されています。

不確実性が高いといわれる現代社会において、新卒入社者の育成や階層別研修のように特定の属性の社員を対象とするだけでは、なかなか成長は期待しにくくなってきています。
自社の人的リソースである全従業員をフラットに評価し、優秀な能力を持つ人材に活躍のチャンスを与えていくことが肝要です。年次や役職・役割に関係なく評価の対象とするのが、タレントマネジメントのポイントといえるでしょう。

スキル・能力だけでなく、本人の意思も重要

人選するときには、本人が発揮している(またはポテンシャルがあると思われる)スキル・能力を基準にするだけでなく、本人の志向性や価値観も重視される必要があります。本人の意思に反したアサインメントをしてしまうと、彼らの持ち味を十分に活用することが難しくなりかねません。
だからこそ、人事データベースには、人事や上司が本人とキャリア面談をした内容や、本人が思い描いているキャリアプランなどを蓄積し、タレント人材としての適性を多角的に評価することも大切です。

一度選抜して終わりではなく、健全に入れ替える

選抜された人材には、本人の能力や志向性を考慮しながら、挑戦的なミッションやプロジェクトを任せていきます。このときに欠かせないのは、仕事のプロセスや成果にもとづいて、評価・振り返りを繰り返すことです。その上で、このまま挑戦を続けるのが本人のキャリアのためにならないのであればタレント人材から外し、新たな人材を選抜することもあるでしょう。
本人と自社双方において健全な形になるならば、躊躇なく入れ替えをすることも場合によっては必要かもしれません。
こうすることで、全従業員に対して機会の平等性を担保するだけでなく、一部の優秀な従業員に向けた「特別な」機会提供の両立が実現しうると思われます。

タレントマネジメントを導入する際に気を付けること

弱点の克服ではなく、強みを伸ばすことに目を向ける

タレントマネジメントは、いかにして個人の能力を最大限発揮させるかに軸足が置かれています。そのため、タレント人材の成長を促すアプローチとしては、不足している能力を身に付けさせること以上に、自身が秀でた能力をさらに伸ばしていくことを優先することが重要です。本人が意欲的にチャレンジできるアサインメントを行う意味でも、強みに着目することは大切です。

マネジメントのPDCAを機能させる

前述したように、タレントマネジメントは本人が挑戦した結果を適切に評価しなければあまり意味のないものになってしまいかねません。

従業員には、結果の良し悪しを率直に評価するという緊張感の中、自身の可能性を広げ得る仕事にも果敢に挑戦してもらい、評価をフラットにフィードバックし、課題を改善しながら次のチャレンジにつなげていく。このようなPDCAのプロセスを組み込んで運用しましょう。

従業員との信頼関係がないと成り立たない

タレントマネジメントを実現する上で、従業員の能力や志向、コンディションを正確に把握することは重要です。しかし、たとえば個人のキャリアビジョンを把握しようとすると、本人の人生観や家庭の事情といったプライベートの事柄も密接に関わってきがちです。

そのためには、会社や上司との信頼関係を構築することが大切です。これが前提になければ、従業員からの正しい申告は望めなくなるでしょう。従業員も、会社や上司を信頼できれば本音で話がしやすくなり、ネガティブな相談もしやすくなります。

そのような「心理的安全性」を担保することこそ、タレントの選抜や特別な機会提供の大前提ともいえます。

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