目次
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が ⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることのできる制度」です。⽣活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことができる制度で、導入の際には就業規則等への規定と労使協定の締結が必要です。「働き方改革」の一環として、今の時代に適した制度として注目され、フレックスタイム制導入による採用力強化や、労働者の生産性向上などの効果が見込まれています。
フレックスタイム制の目的
フレックスタイム制導入の目的は企業によって異なりますが、厚生労働省では導入を推進する理由を次のように記しています。
「我が国の経済社会は、サービス化や情報化の進展、為替相場の変動に伴う国際競争の激化等大きな変化に直面しており、今後我が国の経済が高い生産性と創造性を追求していくためには、労働者が個性と能力を十分発揮できる働き方が必要となっています。一方、労働者の価値観やライフスタイルの多様化に対応して働き方に関するニーズが多様化し、より柔軟で自律的な働き方への志向が強まっています。このような状況の下で、一律的な時間管理がなじまない状況が徐々に拡大しつつあると考えられ、特にホワイトカラー層を中心として、より自律的かつ効率的な働き方に応じた労働時間管理を進めていく必要があります。」(※)
つまり、時代の変化にあわせて柔軟な働き方を導入することで、労働者の心身の健康を整え、より生産性・創造性を高めていこうという施策なのです。
出典:厚生労働省「効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入」
法改正の内容
2019年4⽉にはフレックスタイム制に関する法改正が⾏われました。法改正のポイントを一言で表すと「フレックスタイム制の総労働時間の清算期間の上限が、1ヶ⽉から3ヶ⽉に延⻑される」というものです。これだけだと分かりにくいと思いますので、一つずつ説明いたします。
まず、フレックスタイム制を導入した場合には、時間外労働に関する取り扱いが通常とは異なり、「一定の期間」において法定労働時間の総枠を超えた実際の労働時間数を時間外労働とします。すなわち、1⽇8時間・週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに時間外労働とはなりません。今日は9時間働き、明日は7時間働くなどで調整ができるわけです。この「一定の期間」を清算期間と呼び、これまでは1ヶ月以内となっていましたが、この法改正で3ヶ月以内に延長されたのです。これにより、月をまたいだ労働時間の調整が可能になり、より一層柔軟な働き方ができるようになりました。清算期間が3か月になった場合の活用例をひとつご紹介します。「共働きで小学生の子育てをしている親が、6⽉には⻑く働き、8⽉は早く帰るといった労働時間調整を行い、夏休み中の⼦どもと過ごす時間を長く設ける」ということも可能です。
出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(2021年3月)
フレキシブルタイムとコアタイムとは
フレックスタイム制を導入する際に「多くの社員が勤務する一定の時間帯がある」という企業は、フレキシブルタイムとコアタイムを設けています。フレキシブルタイムとは社員が自ら働く時間を自由に選択できる時間帯を指し、コアタイムとは必ず働かなければならない時間帯を指します。フレキシブルタイムやコアタイムは必ずしも設けなければならないものではありません。フレキシブルタイムの途中で業務を中断するなどといったことも可能ですので、自社に適した制度設計を行ってください。
出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(2021年3月)
フレックスタイム制のメリット・デメリット
フレックスタイム制の一番のメリットはこれまで説明してきた通り、従業員のワークライフバランスが叶えられることが挙げられますが、企業にとってコストメリットもあります。法改正の内容の段落で説明した通り、フレックスタイム制では、一定の期間において所定の労働時間を超えた分を、残業代として精算します。1日8 時間、週40時間を超えて労働してもすぐには残業代が発生せず、労働者が労働時間を週またぎ、月またぎで繰り越すなどコントロールすることで、効率的な働き方の実現と残業代の圧縮が可能です。
一方でフレックスタイム制のデメリットはどうでしょうか?出社や退社の時間がバラバラになることで「社員間のコミュニケーションが不足する」ことです。また、「自由」がルーズに繋がってしまうことも否定できません。時間配分が難しい職種では、かえって長時間労働になってしまうことも考えられます。しかし、このようなデメリットは解消できるものです。前段で説明したフレキシブルタイムやコアタイムを活用し、多くの人が集まる時間を意図的に作りだす、ルーズにならないようにチームワークを発揮できるマネジメント体制に移行する、時間配分が難しい職種は分業制にしてみるなど、今一度、自社の特徴や部署・職種の特性をしっかり把握してみましょう。デメリットを先回りして予測しておくことで、フレックスタイム制を有効に活用することができます。
フレックスタイム制の導入方法
それでは、フレックスタイム制を導入したいと考えた場合、どのように進めるとよいでしょうか。フレックスタイム制の導⼊にあたっては、労使協定の締結が必要です。さらに、清算期間が1ヶ⽉を超える場合には、所轄の労働基準監督署⻑に届け出る必要があります。また、労使協定を締結する際に注意が必要です。その注意すべきポイントは6つです。
1. 対象となる労働者の範囲を明確にする
2. 清算期間を定める
3. 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)を定める
4. 標準となる1⽇の労働時間を定める
5. コアタイムの設定の有無(※任意)
6. フレキシブルタイムの設定の有無(※任意)
労使協定の例を下記に紹介しおきますので、ぜひ参考にしてください。
出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」12Pより(2021年3月)
フレックスタイム制を導入するときの注意点
フレックスタイム制のメリット、デメリットなどを踏まえた上で、必ず注意しなければいけないのは「労働者に始業・終業時刻の決定を委ねたとしても、企業側は各人の労働時間を把握する義務がある」ということです。気づいたら「働き過ぎだった」とならないように、企業側の管理は欠かせません。一般の労働時間制度とは異なることが原因で未払い賃金の発生を防ぐためにも、タイムカードやPC使用時間履歴での管理など事前のルールやマニュアル化が必須です。企業側(人事)にとっては、慣れるまでは負担となってしまいますが、労使協定をもとにマニュアル化をしておくことが、導入後のスムーズな運用に繋がります。
フレックスタイム制の残業代の計算方法
法定労働時間を超過した場合、フレックスタイム制にも残業代が発生します。これまで説明してきた通り、フレックスタイム制のもとでは、残業時間を日単位で考えることができないため、清算期間における総労働時間に対する実労働時間の超過分でカウントを行います。たとえば清算期間が1ヶ月の場合、総労働時間が160時間の月に合計170時間働いたとすると、10時間分が時間外労働となり、残業代が発生します。清算期間が1ヶ月を超える場には別途定められている注意点もあるのでご注意ください。
詳しくは下記の「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」に詳細がありますので、ぜひ一度ご覧いただき、フレックスタイム制を有効に活用してください。