Google社が取り入れていることでも注目を浴びた「OKR(Objectives and Key Results)」。OKRは目標管理・達成のためのマネジメント手法ですが、MBOやKPIとは何が違うのでしょうか。この記事では、OKRの基本から解説し、目標設定や運用のポイントをご紹介します。

OKRとは

OKRとは、挑戦的な目的を達成するために用いる、目標設定・目標管理のフレームワークです。また、OKRはObjectives and Key Resultsの頭文字を取った言葉であり、Objectives(目的)とKey Results(主要な結果)を設定することで、組織や個人が目指したいゴールや達成度合いの測定を明確にしています。

OKRの基本

OKRは、ひとつのObjectivesに対して3~5つ程度のKey Resultsを設定するという構造をしています。また、企業全体のOKR、部署・チームのOKR、個人のOKR…と同じフレームで組織内のすべての単位の目標を設定・管理しており、企業全体で目指す方向性から個人の目標まで一貫性を持たせやすいのも特徴です。

Objectives

Objectivesには、野心的・挑戦的な目標を掲げます。会社や事業・サービス全体のObjectivesであれば、「○○な世の中を実現する」「○○で人々の暮らしを便利にする」といったミッション・ビジョンに近い目標でも良いでしょう。後述するKey Resultsが補ってくれるため、Objectivesは抽象度の高い言葉で表現された目標でも問題ありません。シンプル・明確かつ高い目標を設定することは、組織で働く人たちの共感性を高めモチベーションを向上させる効果もあります。

Key Results

Key Resultsは、Objectivesを達成するための計測指標と捉えると分かりやすいです。たとえば「商品のファンを拡大する」というObjectivesを設定した場合、「新規ユーザー数を○○○人獲得する」、「リピート数を○倍にする」、「ブランド認知度を○○ポイント上げる」といったKey Resultsを設け、この達成度合いを計測することでObjectivesが実現できたかどうかを評価することができます。従って、Key Resultsは数値で測れる定量的なものに落とし込む必要があります。

KPIやMBOとの違い

OKRは目標の設定・管理・運用に用いられるフレームワークであり、同じように活用されているKPIやMBOと混同されることも多いです。しかし、それぞれには明確な違いがあり、目的・用途に応じて導入するのが適切でしょう。

KPIは、目標達成のための中間指標

KPIとは、Key Performance Indicatorの略語です。たとえばある営業組織が売上を上げたいとき、顧客の訪問件数や商談件数を増やすことが売上に直結するとすれば、メンバーの訪問件数や商談件数に注目してマネジメントすることが効果的です。このように、KPIはある最終目標(KGI)を実現させるために追いかける中間指標です。KPIを達成することはあくまでもプロセスでありゴールではありません。

※KPI・KGIについては、下記記事をご参照ください。

採用成功にはKPIが重要!立て方・目標設定・運用方法を紹介

クローズドになりやすいMBOと、オープンに共有されるOKR

MBO(Management By Objectives)は経営学者として有名なピーター・ドラッカーによって提唱されたマネジメントの手法であり、OKRよりも歴史があります。MBOの目的は、業務管理や生産性向上。そして、人事評価のフレームとして長く用いられてきました。そのため、特にMBOが個人の目標設定・管理に活用される場合、設定される中身は人事情報として扱われる場合が多く、本人と上司および人事にしか共有されないことがほとんどでした。

こうしたMBOの特徴を踏まえて誕生したのがOKRです。OKRの主目的は業務管理や生産性向上よりも、会社と従業員が同じ目標を共有しモチベーション高くチャレンジしていくことにあり、人事評価とは切り離して運用することが推奨されています。そのため、企業全体で設定しているOKRの内容に社内の誰もがアクセスできることはもちろん、オープンに共有しやすいことがMBOとの大きな違いです。

OKRのメリット・効果

個人の仕事と企業が目指す目標との連動性を持たせやすい

企業全体のOKRを実現するために部門のOKRがあり、部門のOKRに連動する形で個人のOKRが設定される、というのがOKRの運用の特徴です。そのように設定された全体像が社内でオープンにされるため、自分が日々取り組んでいる仕事が、組織や企業全体にとってどのような意味があるのかを理解しやすくなります。従業員のエンゲージメントが向上し、モチベーション高く仕事に向き合える効果があります。

社内コミュニケーションが濃密になる

会社全体でそれぞれのOKRがオープンになることで、どの部署・どのプロジェクト・誰がどのような仕事をしているのか、どれくらい成果が出ているか・頑張っているかが見えやすくなります。それぞれの動きが分かるからこそお互い刺激し合うことにも繋がり、従業員同士で連携するようなコミュニケーションも活発になりやすいといわれています。

挑戦的な目標を掲げやすい

OKRは人事評価を主な目的とはしていません。人事評価と切り離して運用することを前提に誕生した手法であり、失敗して評価が下がることを恐れることなく野心的な目標にチャレンジしやすいという特徴があります。また、OKRの達成基準は100%ではなく60~70%で達成とみなすのも特徴です。そのため、掲げる目標には「簡単には達成できないけれど、頑張れば実現も夢ではない」ものを設定することになり、この絶妙なバランスが従業員の意欲を高めてくれます。

OKRが向いている組織とは

変化のスピードが早い業界・組織

MBOの場合は1年もしくは半年程度の評価サイクルで実施しますが、OKRはそれよりも早いサイクルでおこなうのが特徴です。3ヶ月に1回、頻度の高い企業では毎月のフィードバックをおこないます。スピード感が異なるのは、OKRがマーケットや社会の変化に合わせて臨機応変に対応していくのが前提の目標管理手法だからです。したがって、IT企業など変化の早いマーケットに身を置く企業に向いているとされており、シリコンバレー発の企業を中心に広まっているのも、こうした特徴ゆえだといわれています。

マネジメント層には高いレベルのフィードバックスキルが求められる

OKRの特徴は頻度の高いフィードバックサイクルにあります。だからこそ、マネジメント層にも相応の動きが求められます。毎週メンバー全員と1on1面談をおこなうなど、メンバー一人ひとりに向き合う時間も自ずと増加しますし、個人の仕事を評価するには組織全体のOKRと連動させて伝えていくことが必須です。絶えず目標の見直し・軌道修正をおこなうため、マネジメントする側の難易度は従来の目標管理よりも高い傾向にあります。

※フィードバックについては、以下の記事を参照ください。

フィードバックとフィードアップの違いは?ビジネスでの使い方を事例付きで紹介

OKRの導入方法

トップダウンだけでなく、ボトムアップの意見も取り入れる

OKRは企業全体の目標から個人目標までを連動させるものですが、トップダウンで決められた目標を降ろしていくだけでは、本来の目的である「意欲・モチベーションの向上」が実現しづらくなってしまいます。

そのため、従業員個人の意思やアイデアを取り入れつつ設定をしていくことが効果的です。たとえば企業全体のOKRは経営層が設定したとしても、各組織・個人のOKR設定はそれぞれに委ね、企業全体のOKRが実現するために自分(自組織)は何をすべきかと考えてもらうようにしましょう。

Objectivesはシンプルに。Key Resultsは優先順位をつけて数を絞る

OKRの内容は社内のみんなに理解・共感されるものでなければ意味がありません。そのため、掲げる目標は分かりやすく端的な表現に削ぎ落すように努め、目指すべきゴールや方向性を明確に示しましょう。

また、本気で目標を実現しようとすると、達成に必要なことがあれもこれもと思い浮かびがちですが、Key Resultsは数多く設定するものではありません。3~5つ程度になるように優先順位をつけ、この期間に取り組むべきことを絞り込むこともOKRを導入する効果の一つ。「限られた期間・リソースで最大限の効果を出すためには?」という発想を持つことも大切です。

目標設定に不可欠な要素「SMART」

達成基準を測るためのKey Resultsを設定する基準は、「SMART」と呼ばれる目標設定の原則に則りましょう。SMARTとは、下記5つの単語を合わせた用語です。

  • Specific(詳細・具体的)
  • Measurable(計測可能)
  • Attainable(達成可能
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-bound(期限が明確)

これらの基準で設定することで、公平・客観的で納得感のある挑戦を促すことができます。

OKRの運用方法

進捗状況の迅速な共有&フィードバック

OKRを実際に運用する上では、それぞれがタイムリーに状況を共有するとともに、評価する側も素早くフィードバックしていくことが欠かせません。OKRは1~3ヶ月と非常に短いサイクルで繰り返すため、情報共有やフィードバックに時間がかかるとメリットが十分に活かしきれないからです。OKRの運用は半年~1年サイクルのMBOと比較するとサイクルが短い分だけ運用負荷がかかります。スピードとボリュームを担保できるように、進捗共有やフィードバックを簡易化するITツールを用いるなど、効率的な運用を検討すると良いでしょう。

Key Resultsがいつの間にかObjectives化していないか

運用上注意をしなければならないのは、いわゆる「手段が目的化する」状態です。Key ResultsはあくまでもObjectivesの実現度合いを測るための指標であり、目標を実現しようと動いた結果として積み上げられた実績です。定量的な数値を追いかけるあまり進むべき方向を見失わないように、定期的な振り返りの中でObjectivesとのズレがないかを確認するようにしましょう。

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