アサーションとは自分と相手の意見の相違や対立を適切に調整しつつ、自己表現するスキルであり、そのようなコミュニケーションをアサーティブなコミュニケーションといいます。不確実な要素の多い今日、ビジネスパーソンの必須スキルとして求められているアサーションについて、その意味や効果、具体的なトレーニング方法などを解説します。

アサーションとは

「アサーション(assertion)」とは、相手の立場や考え方、価値観などに配慮しながら、自分の意見や主張も適切な言葉にして表現するコミュニケーションスキルです。「お互いを尊重しながら意図を伝え合う」ことを目指すスキルともいえるでしょう。

相手と自分の両者を尊重するアサーションを実践することによって、お互いが率直な意見を出し合うことができ、双方が納得できる結論を得やすいといった効果があります。さらに、円滑な人間関係の構築や信頼関係を深めようとする際にも効果が期待できます。

アサーションの歴史

アサーションの発祥は、1940年代後期に出版された書籍のなかで述べられたのが始まりとされています。そこではアサーションを自己主張と捉え、さまざまな制約や抑制を感じている人が自尊心を回復し、本来の活動的な状態へ戻っていくうえでアサーションが助けになるとされていました。

それから20年ほどが経過した1970年前後のアメリカにおいて、人権運動が活発になるなか、相手のことを傷つけず、適切な自己主張を行うコミュニケーション方法としてさらに発展していきました。

現在では、アサーションは相手と対等な立場で自己主張をするためのコミュニケーションスキルとして、さまざまな場面で活用されるようになっています。

アサーションの意味

アサーションは直訳すると「主張」や「断言」という意味の単語ですが、自分か相手に偏った一方的なコミュニケーションを意図したものではありません。自分の意見を主張するだけでも相手の意見に迎合するだけでもなく、お互いが対等な立場に立って行われる「適切な自己主張」を意味しています。そのためアサーションにおいては、お互いを尊重し合うような人間関係が望ましいと考えられます。

アサーションのメリット・効果

アサーションを取り入れることによるメリット、効果としては以下のようなものを挙げることができます。

ビジネスにおけるアサーション

ビジネスにおいては、上司や部下、さらに顧客や取り引き企業など、さまざまな立場の人とコミュニケーションを取ることが必要です。そのため、相手の要望を断らなければならないケースや、意見調整を要する事項も数多く発生します。

その際に、顧客から無理な要望がある、上司が部下の意見を聞こうとしない、部下から上司に意見が言いづらいなど、不適切な関係性が構築されていると、適切な意見交換ができず、好ましい関係を保つことができなくなってしまう懸念があります。

ここでアサーションを取り入れたコミュニケーションを行うことによって、上司と部下がお互いの立場を尊重したスムーズな意見交換ができるようになったり、顧客に対しても相手の立場を理解しながら無理なものは無理として代替案を提示するなど、折り合いをつけた円滑な関係を築くことができます。

このようにアサーションは、ビジネスにおいても重要なスキルと考えることができます。

日常生活におけるアサーション

日常生活においても、意見や価値観が異なる相手とコミュニケーションを取る場面は、数多くあります。

自分の意見が言えずに不満を抱えている場合や反対に自分の意見ばかりを強く主張して相手を振り回している場合には、円滑な人間関係を築くことができず、不満が爆発してしまうようなこともあり得ます。

ここでアサーションを意識したコミュニケーションを取り入れることで、相手に不満や不快感を持たせることがなく、適切に自分の意見を伝えることができるようになり、お互いの人間関係を円滑にする効果が期待できます。相手を尊重しつつ、対等な立場で意見を言い合えることは、日常生活の中でも重要なことと考えられます。

アサーションの3つのコミュニケーションタイプ

アサーションにおいては、コミュニケーションのタイプを以下の3つに分類しています。

ノンアサーティブ(非主張的)

自分の意見や主張を抑えて表現せず、自分よりも相手を優先して合わせようとするコミュニケーションのことを指します。

自分の意見に自信がない場合や自己主張が苦手な場合、相手との関係を悪くしたくない嫌われたくないといった意識から自己主張を避けている場合など、さまざまな理由が考えられます。

自分なりの意見を持っていても、それを伝えずに抑えていることが多いため、人間関係に関するストレスを抱えやすい傾向があると考えられます。

アグレッシブ(攻撃的)

相手の意見を聞かずに無視したり、相手に対する配慮をしなかったりするなど、自分の意見や価値観ばかりを強く主張して、それを相手に押し付けるコミュニケーションをいいます。 相手より優位に立とうとする意識が強く、自分の意見を押し通して相手をコントロールしようとする傾向があり、威圧するような言葉を使ったり、怒鳴ったりするようなこともあります。

全体の状況を考えずに自分の主張を展開することで、組織やチームの成果につながらず、場合によっては損失を生み出してしまう可能性もあり得ます。

また、自分の意見をはっきり主張できる反面、ほかのメンバーとの間では軋轢を生んでしまう懸念があります。

アサーティブ(適切な主張)

相手の立場を尊重してその意見に配慮しながら、自分の意見を状況に応じた方法でしっかりと表現するコミュニケーションです。

自分が一方的に意見を言うことはなく、相手に合わせることばかりを考えるのでもなく、お互いが適切に意見を交わします。相手との間で軋轢が生じたり、一方的にストレスを抱えたりすることが少なく、適切な人間関係をつくることができます。

自己主張と他者尊重のバランスがとれた、理想的なタイプと考えられます。

アサーションの診断チェックテスト

以下は自分自身のアサーション度を診断するためのテストです(「改訂版 アサーション・トレーニング さわやかな<自己表現>のために」より引用)。日常の行動や言動を振り返りながら、各設問をはい(○)、いいえ(×)でチェックしてみてください。

アサーション度チェックリスト

Ⅰ:自分から働きかける言動

1.あなたは、誰かにいい感じを持ったときその気持ちを表現できますか。

2.あなたは、自分の長所やなしとげたことを人に言うことができますか。

3.あなたは、自分が神経質になっていたり、緊張しているとき、それを受け入れることができますか。

4.あなたは、見知らぬ人たちの会話の中に、気楽に入っていくことができますか。

5.あなたは、会話の場から立ち去ったり、別れを言ったりすることができますか。

6.あなたは、自分が知らないことや分からないことがあったとき、そのことについて説明を求めることができますか。

7.あなたは、人に援助を求めることができますか。

8.あなたが人と異なった意見や感じをもっているとき、それを表現することができますか。

9.あなたは、自分が間違っているとき、それを認めることができますか。

10.あなたは、適切な批判を述べることができますか。

Ⅱ:人に対応する言動

11.人から誉められたとき、素直に対応できますか。

12.あなたの行為を批判されたとき、受け応えができますか。

13.あなたに対する不当な要求を拒むことができますか。

14.長電話や長話のとき、あなたは自分から切る提案をすることができますか。

15.あなたの話を中断して話し出した人に、そのことを言えますか。

16.あなたはパーティや催しものへの招待を、受けたり、断ったりできますか。

17.押し売りを断れますか。

18.あなたが注文した通りのもの(料理とか洋服など) が来なかったとき、そのことを言って交渉できますか。

19.あなたに対する人の好意がわずらわしいとき、断ることができますか。

20.あなたが援助や助言を求められたとき、必要であれば断ることができますか。

引用: 『三訂版 アサーション・トレーニング さわやかな<自己表現>のために』平木典子著|日本・精神技術研究所|金子書房 (2021)

すべてをチェックして、いいえ(×)が10個以上ある場合は、自己主張が苦手な「ノンアサーティブ」の可能性があります。

はい(○)の回答の中で、相手への否定的な感情や攻撃的な表現、無視する意図が含まれているものは別にチェックして、残った項目が10個以上ある場合は、適切な主張である「アサーティブ」が普通以上ということができます。別にチェックした項目がある場合は、攻撃的な「アグレッシブ」となっている可能性があるとされます。

【事例つき】アサーティブなコミュニケーション方法

アサーティブなコミュニケーションは、どのような場面でどのように使えばよいのかを、以下の事例に合わせて3つのコミュニケーションタイプで比較しながら考えてみましょう。

大事な予定がある日の残業依頼

今日は家族の誕生日でパーティーをする予定です。家族はみんな楽しみにしています。仕事を終えて帰ろうとしていたところ、上司に呼び止められて残業を依頼されました。しかし、すぐに職場を出なければ。約束の時間に間に合いません。

ノンアサーティブ

「わかりました。(予定があるのに・・・)」など、自分の状況を伝えることなく残業を引き受ける。また家族を「残業だから仕方がない」などと言って説得する。

アグレッシブ

「今日は予定があるので無理です」などと門前払いで断る。

アサーティブ

「今日は家族の誕生日で予定があるのですが」など自分の事情をきちんと伝えたうえで、「その仕事はいつまでにやる必要がありますか」「明日の午前までには対応できますが」など、残業依頼された仕事の内容を上司に確認しながら対応方法を提案する。

自分が少数意見と思われる会議での発言

ある会議で、ほぼ結論が決まりそうですが、自分としてはもう一つの対案の方が良いと考えています。ただ、ほかの参加者のほとんどが今の結論を支持しているようで、意見を言い出せる雰囲気ではありません。

ノンアサーティブ

「そうですね。それで良いです。(あまり納得できないけど…)など、あえて意見を言わずに結論を受け入れる。

アグレッシブ

「いや、対案の方がいいと思います。その理由は・・・だからです」とはっきり主張する。 ただし、ほかの参加者が今の結論を支持している理由にはあまり配慮していない。

アサーティブ

「今の結論になった理由はよく理解できますが、○○の観点から考えると対案にもメリットがあるように思いますが、皆さんの意見はどうでしょうか」など、ほかの参加者の意見を受け入れたうえで、さらに対案のメリットなど自分の意見を述べて提案してみる。

上司のチェック待ち資料の催促

顧客への提案書を作成し、上司に確認を依頼していましたが、なかなか戻ってきません。提出期限が迫っているので催促をしようと思いますが、上司も忙しそうで声をかけづらい雰囲気です。

ノンアサーティブ

「(何もアクションせずに、ただ待ち続ける)」

アグレッシブ

「あの資料の確認はまだですか」「もう期限が過ぎています」など、とにかく急ぎの対応を強く求める。

アサーティブ

「お忙しいと思いますが、チェックをお願いした資料の提出期限が迫っていまして、修正期間なども考慮しておきたいので、いつまでに対応が可能でしょうか」など、上司の予定や業務業況と、自分のスケジュールのすり合わせを意識して調整する。

電車の優先席に座っていてお年寄りに気づかない乗客

電車に乗ると、目の前の優先席に座った乗客がスマホに釘付けで、途中駅で乗車してきた杖をついたお年寄りに気づきません。お年寄りは少しつらそうに見えますが、黙って立っています。

ノンアサーティブ

「(特に何も言わず見て見ぬふりをする)」

アグレッシブ

「お年寄りが立っているじゃないか」「席を譲りなさい」など、乗客を一方的に責めて従わせようとする。

アサーティブ

「体調が悪かったりしなければ、お年寄りに席を譲ってあげてもらえませんか」など、相手の事情にも配慮したうえで対応をお願いする。

これらの例ではいずれも、「ノンアサーティブ」では自分の意思表示をしないままで受け入れているため、相手はそれを納得して受け入れたものととらえますが、本人としては相手に合わせた、自分が我慢したという意識や不満が残ります。

「アグレッシブ」では、自分の意思表示はしているものの、相手の考え方に対する配慮が不足していたり、言葉遣いがきつい印象を与えたりするものがあります。結果として、周囲から自分勝手、強引といった目で見られる可能性があります。

「アサーティブ」では、この両方のバランスを取って、相手に配慮する姿勢を見せながら、適切な言葉遣いや表現方法によって自分の考えを示して、相手にとっても受け入れやすいコミュニケーションを取ろうとしています。

相手の立場や言っていることの理由を考えながら、自分の意見が一方的にならないように、強い言葉遣いにならないように意識して伝えていくことが必要と考えられます。

アサーショントレーニングの研修

アサーティブなコミュニケーションを取れるようにするためには、日々の業務の中で自分が意識して行動や言動を変えていくことや、書籍などを使って学んでいくことが必要になります。しかし、個人的な取り組みだけでは難しい場合もあるため、その際にはアサーショントレーニングの研修などを利用することで、スキルを効率的に身につける方法もあります。

リクルートマネジメントソリューションズでは、以下のような研修を行っていますので、活用を検討してみてください。

【オンライン研修】アサーティブ・コミュニケーション(相手を尊重しながら自分の意見を率直に伝えるマインドとスキル)【1日】

アサーションは自分の意見の主張を我慢することや一方的に意見を押し通そうとせずに、相手を尊重しながら適切に自己主張をするコミュニケーションです。お互いの信頼関係が深まり、より深い意見交換や話し合いができるようになる効果を期待することができます。

自分の意見を相手に適切に理解してもらうことは、ビジネスの場面において特に重要です。適切なコミュニケーションを行っていくためにはアサーションを積極的に活用していく必要があると考えられます。今回の記事を参考に、アサーションの習得を検討してみてはいかがでしょうか。

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