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1on1とは
1on1とは、上司と部下が一対一で行う定期的な対話の場です。短いサイクルで定期的に行うことが理想とされており、「週1回」「隔週1回」などのペースで実施します。対話の頻度を増やす分、1回の所要時間は短く設定する傾向にあり、15分~30分程度の場を持つことが多いようです。
1on1は、もともとアメリカのTech系企業が集まるシリコンバレーで生まれたといわれており、近年躍進した産業・企業を象徴する文化の一つとして注目されるようになりました。日本でもIT企業大手が導入したことで存在が広まり、ほかの企業でも採用するケースが増えています。
面談との違い
1on1は部下のための時間です。したがって面談とは扱う「課題」が異なります。
面談における課題とは、解決することが目的であり、解決すべき対象についてどうするか具体的な策を練り、行動することが求められると考えられます。たとえば、部下の評価や戦略や戦術の伝達と共有、具体的な問題解決などです。このことから解決策を多く知っている上司が中心となって指示を出したり、話したりすることが中心となります。
一方、1on1における課題とは、どのようにしたら部下が自ら学び、考えて乗り越えていける「自律型人材」に成長できるのかを、メンバーと対話を繰り返して考えを深め、サポートしていくことが中心となるといえます。その過程で成功したことや成功しなかったことが共有され、その結果(フィードバック)について、独りよがりになることなく、また皆で知恵を出し合いながら解決する方向へ向かっていく好循環が生まれます。
1on1ミーティングが注目される背景
感染症の流行をはじめとする予期せぬ社会情勢の変化は、IT技術の発展をベースとした世界規模の経済活動の連鎖を促進させました。社会の複雑さは日々増し続けており、そのなかでイノベーションがさらに加速する時代が訪れました。
このような時代背景から、旧態依然とした考え方や経営方針を守ることよりも、柔軟な考え方や対応力を持ち、自らの価値観で判断し自発的に行動できる「自律型人材」が求められるようになってきました。繰り返し行う機械的な作業はすべて機械やAIに任せ、人が行う作業に付加価値を創り出すといった働き方改革も行われています。
またリモートワークの導入や業務終了後の食事会の減少などによって、上司や同僚、部下どうしで意識を共有する機会も大きく減りました。ジェネレーション・ギャップや、社会の「~ハラスメント」への嫌悪感や警戒心も影響し、上司と部下、あるいは同僚間でも、本音で話せないなど信頼関係の構築が難しくなっています。
こうした働く人々を取り巻く環境の変化によって「1on1ミーティング」は注目されるようになったと考えられます。
1on1ミーティング導入の目的
1on1は、期初の目標設定面談や人事評価面談とは全く異なる性質のものです。また、業務の指示や進捗確認をすることも主たる目的ではありません。1on1は、上司が一方的に何かを伝える場ではなく、「対話」の場です。以下のような目的で対話の機会を増やすことが1on1を導入する意義といえます。
1.離職防止
人は誰しも、少なからず悩みや不安を抱えることがあります。また、現時点では本人がさして気にするほどでもないと感じている内容が、放っておくと深刻な問題に発展することもあります。心身の不調や、組織に対するエンゲージメント、仕事へのモチベーションが著しく低下し、勤務の継続が困難になってしまう場合もあるのです。
こうした事態を未然に防ぐためにも、1on1によって上司が部下一人ひとりと向き合う頻度を増やし、早めに異変を察知して芽が小さなうちに対応・解消することが大切です。
2.成長促進
1on1は、部下に主体的な学びの機会を提供し、成長を加速させることも大きな目的の一つです。上司が一方的に業務の指示をする手法では、なぜそれが必要なのかという「気づき」を部下が得られにくい場合があります。1on1では、対話をしながら一緒に問題解決の糸口を見つけていくアプローチのため、部下に今起きている問題や実現したいことに対して主体的に取り組んでもらうことができるという特徴があります。「答えを出す」のではなく、「気づきやきっかけを与える」というコミュニケーションスタンスが、自発的な成長を促します。
3.成果創出
部下の成長が促進されれば、結果として仕事の業績も向上していきます。加えて、1on1は短いサイクルでミーティングを繰り返すため、環境の変化や予想外の出来事に対して素早くフォローすることが可能です。軌道修正や臨機応変な対応を促し、改善を繰り返しながら目標達成に導くことができます。
1on1ミーティングのメリット・効果
上司と部下の信頼関係構築
1on1は評価の場でも指導の場でもありません。上司が一方的に話すのではなく、お互いが対等に話をする場です。また、業務のことだけを話すのではなく、プライベートの話題や最近気になっているニュースなどの雑談を交えることも効果的とされており、ざっくばらんな対話の中でお互いの理解が促進され、信頼が深まっていきます。こうした信頼関係が土台となって、普段のマネジメントも円滑になる効果があります。
個の多様性を尊重しやすい
たとえ1回が15~30分と短い時間であっても、高い頻度で一対一で話す機会があることで、上司は部下一人ひとりの個性やバックグラウンド、現在置かれている状況などを深く理解することができます。また、一対多数のコミュニケーションではないからこそ、部下それぞれに応じたアドバイス・フォローが可能です。その人の強みを最大限に引き出して業務で成果をあげてもらうための、個別のアプローチがしやすいのも1on1のメリットです。
VUCA時代と相性がよい
現代は、変化が激しく未来予測が困難なVUCA(ブーカ)時代とも呼ばれています。既存の延長線上にはない変化が突然起きたり、これまで常識とされていたものを見直したりするような動きが次々と起こる時代には、変化への柔軟さや臨機応変さが必要不可欠です。
その意味で1on1は、短いサイクルで状況確認の機会を設けることにもなり、変化に素早く対応することに長けたアプローチです。
VUCAについては、以下の記事もご覧ください。
・VUCA(ブーカ)とは?予測困難な時代に必要な4つのスキルと、リーダーの資質
1on1ミーティングで準備すべきこと
そのために必要だと思われる項目をあげていきます。
環境を整える
話に集中できる環境があると、気持ちを落ち着かせることができます。物理的な環境の確保は部下の気持ちをリラックスさせるためにも大切です。
1on1に適した環境
・周りには自分たちの話が聞こえないが、静かすぎない場所、できれば個別の空間
・調度品等が少ない、できればシンプルな内装の部屋
・定期的な時間設定をして優先度を高め、何も話すことがなくても必ず会う時間にする
上司の3つの心構え
上司は、以下の3つについて心構えを持っておくとよいでしょう。
※傾聴について、以下の記事をご参照ください。
・話をさえぎらず、まず聴く
自分のいいたいことが話せる環境が整っているだけで安心できます。
・肯定的に理解して、受容する
「いいなり」ではなく、理解を示すことが大切です。
・部下の話を整理して、要約する
まとまりのない話のように思えても、上司が整理することで部下の気づきにつながります。
1on1ミーティングの進め方
チェックイン
話しやすい雰囲気をつくるという意味で、いきなり本題に入るのではなく雑談から始めるとよいでしょう。最近あった出来事や気になるニュースなど、普段の業務では話題にあがらないものを話すと、相手の人となりを深く理解できたり、今のコンディションを把握することにもつながります。
テーマ・アジェンダについて部下の認識・考えを引き出す
メインで話したいテーマ・相談内容について今の状況を整理します。上司から問いかけるというよりも、部下が主体的に話せるような場をつくることを心掛け、上司は聞き役に徹しましょう。言葉に詰まる場合やもう少し深く状況を知りたいときにのみ質問してサポートするようにし、原則は部下の話をさえぎらないようにしましょう。頷きや相槌を打つことで、相手の話を聞く姿勢を見せることも大切です。
上司・部下で一緒に問題への対応・対策を考える
一通り状況が把握できたら、これからの対応・対策を一緒に考えていきます。重要なのは、部下が主体的に答えや方向性を導き出すことです。上司が正解を教えるのではなく、「なぜそうなったと思うか?」「どうしたらよいか?」と思考を深めるプロセスをサポートすることで、自発的な気づきや学びを促します。
次回の1on1までの具体的なアクションを決める
大筋の方向性が見えたら、次回の1on1までにやるべきことを決めましょう。「来週までに○○を終わらせる」「次の2週間は○○な方法を試してみる」など、限られた期間のなかで現実的にやりきれる行動目標を立てます。
次回の1on1で結果を共有する
2回目以降の1on1では、前回決めた行動目標がどれだけ達成できたのかを必ず確認するようにしましょう。1on1の振り返りを繰り返すことがより大きな成長・成果につながります。
1on1で話す具体的なテーマ例
1on1で扱うテーマに制約はありません。ただ、はじめて1on1に取り組む場合、上司にとっても部下にとっても、いきなり気づきを得るような深いテーマについて話すのは難しいものです。スタート時期にふさわしい1on1の2つのテーマ例を紹介します。
部下の心理的負担が比較的小さいテーマ
今、起こっていることについて話すことは事実を伝えることが主となるため、心理的負担が小さくなる傾向があります。
<テーマの例>
・上司側からの失敗談の自己開示
・最近の健康状態について
・最近感じていることについて
・日頃の業務についての不安や疑問
部下との関係性が深まれば話せるテーマ
部下の内面で起こっていることを話せるかどうかは、上司との信頼関係がどの程度あるかによって変わってきます。上司に対して自由に何でも話せる「心理的安全性」の保たれた環境が存在すれば、部下の成長に役立てることができます。
<テーマの例>
・働くうえで大切にしたいと考えていること
・部下が考える魅力的な働き方
・人生の目標
・どのような働き方で経験を積んでいきたいのか
・自分が出したい成果
・この職場で働く意味
1on1ミーティングで部下の心を開くコツ
部下が心を開こうとしないとき、多くの場合は、上司や組織に対して「心理的安全性」が確保されていないと感じていたり、上司が本音を語らない、心を開こうとしていないと感じていたりする可能性があります。
たとえば、上司と部下のどちらかが以下のように感じていては1on1ミーティングの成果は乏しいものになってしまいます。
<部下側の気持ち>
・本音を話したら、自分は不利な状況に陥るのではないか
・自分の本心を知られたら評価を下げられたり、信用を失ったりするのではないか
・そもそも本心を語ると叱られるのではないか
・こんなことも知らないのかと叱責されるのではないか
・自分で考えるべきだと突き返されるのではないか
・「前例のないことだから判断できない」と取り合ってもらえないのではないか
・プライベートなことは、職場に持ち込んではいけないのではないか
<上司側の気持ち>
・出てくる不満が周りのせいばかりになっている
・日頃の勤務態度に自分が理想とする真剣さややる気が感じられない
・何度いっても同じ間違いを繰り返してしまう
・自分から動こうとしない
・せっかく新しい仕事の機会を与えても意欲が感じられない
・自分の仕事はするが、周りを手伝おうとしない
このような恐れのある状態だと、せっかく1on1ミーティングの機会をつくっても無難でうわべだけをとりつくろう業務の話しか出てこなかったり、表面的な回答しかできなかったりという薄い関係となってしまい、部下の成長が望めません。また、部下からの上司の印象がよくない、冷たい関係性になっている、これまで部下が冷遇されてきたなどのことがあると「どうせ、こんなことをいっても仕方がない」と、ミーティングの前から諦めてしまいます。
部下に心を開いてもらうためには、上司が部下の価値観を理解するよう努力し、協力的に動くという姿勢を示す必要があります。
少子高齢化が進み、特に若年層の人材が不足しています。社員一人ひとりの能力を伸ばし、いきいきと働ける職場づくりを国が支援していることもあり、働き方改革はこれからも進んでいくでしょう。仕事に対する意識も変化しており、「『職場に魅力がない』という理由で離職されてしまった」といった企業の悩みを聞くケースも増えてきました。
そのなかで求められるリーダーのあり方も、変化を迎えています。一方通行のコミュニケーションや命令では、部下のやる気も企業に対するエンゲージメントも引き出せません。1on1ミーティングを通して、部下との信頼関係を強固なものとし、全員で成果をあげていくチーム作りを目指しましょう。