目次
採用コストの考え方と計算方法
採用コスト=人材紹介サービスの料金ではない
企業にとって採用が難しい売り手市場が続いていますが、そのなかで気になってくるのが「採用コスト」です。採用活動を担う人事部門には、採用コストのコントロールが求められますが、そもそも採用コストはどのように定義すべきなのでしょうか。
コスト計算にあたっては、人材紹介サービスなどを利用するために発生する外部コスト(見えるコスト)ばかりが注目されがちですが、実際には採用活動に関わる社員の人件費など、内部コストも発生しています。こうした「見えにくいコスト」も含めて自社の採用コストを把握しておくことが重要です。
エンジニア採用における外部コスト(見えるコスト)の代表例
- 求人媒体などへの掲載費用
- 人材紹介サービスを介して採用に成功した際に人材紹介業者に支払う成果報酬
- ダイレクトリクルーティング(スカウトサービス)の利用料金
- 自社採用サイトやパンフレットなど、採用ツールの制作費用
エンジニア採用における内部コスト(見えにくいコスト)の代表例
- 採用担当者が採用活動全般に割く時間
- 現場責任者や役員が面接に充てる時間
- そのほか、採用に関わる現場社員とのやり取りを行う時間
- リファラル採用において社員へ支給するインセンティブ
- 採用を視野にいれた広報活動(IT人材向けのカンファレンス参加など)の費用
採用コストを計算するポイント
上記のような外部コストと内部コストの合計が採用コストとなりますが、実際の採用コストが高いか安いかを評価するには、採用人数が大きく影響します。そのため、コストが適正かどうかを検証する場合には、1名あたりの採用コスト=「採用単価」で比較することが基本となります。
また、内部コストの大部分は人件費が占めているため、採用活動が長期化するほど増えていくことにも注意しましょう。つまり「採用スピード」もコストを左右する重要な要素といえます。
エンジニアを採用するときの相場・平均費
冒頭で述べたように、採用市場においてIT人材を中心としたエンジニア採用における競争が激化しています。そのためエンジニア採用を行う企業は、求人媒体への掲載をはじめ、人材紹介やダイレクトリクルーティング(スカウトサービス)も利用するなど、複数の採用手法を取ることが一般的となりました。これらのサービスの採用コストは、採用者の年収が基準になります。
以下に、それぞれの求人方法における採用コストを計算するときの考え方を解説します。
転職賃金相場をもとにしたITエンジニアの年収
ITエンジニアの採用ポディションごとの年収相場は、以下の通りとなっています。
出典:「転職賃金相場2022」(一般社団法人 人材サービス産業協議会)を基に筆者が作表
人材紹介サービスを利用した場合の採用コスト
人材紹介サービスを介して採用活動を行う場合、一般的には人材紹介業者に支払う紹介手数料が外部コストとなります。また関係者との調整や求職者との面談といった活動に関わる人件費が内部コストとなることが一般的です。
人材紹介業者に支払う紹介手数料は、採用するITエンジニアの年収の30%~35%が相場となっています。
たとえば、プロジェクトの統括を任せるための候補者人材や高スキル人材(ともに転職賃金相場において年収800万円~999万円)を1名採用する場合、紹介手数料は240万円~350万円となります。
それに対して、月収が32万円(月の所定労働時間160時間)の人事担当者が人材紹介業者や配属先部門の人間との調整、求職者との面談に15時間を費やし、月収が48万円(月の所定労働時間160時間)の配属先部門の責任者が求職者との面談や人事部門との調整に5時間を費やした場合の採用コストの計算は、以下の通りになります。
参考:一般社団法人 人材サービス産業協議会「転職賃金相場2022」
ダイレクトリクルーティングを利用した場合の採用コスト
ダイレクトリクルーティングで求人を行う場合、一般的にスカウトシステムの利用料金と採用決定時の成功報酬が外部コストとなります。また求職者へのスカウト対応や関係者との調整、求職者との面談といった活動に関わる人件費が内部コストに該当します。
リクルートダイレクトスカウトの場合、データベース利用料が150万円(1年間※ただし以下のいずれかに当てはまる企業はデータベース利用料が無料になります。初回申込企業、過去1年間に本サービスの契約『ID発行』がない企業、過去1年間に本サービスの契約『ID発行』があり、その期間で1名以上の決定およびその入社時課金が支払われている企業)、入社時課金が年収の15%となっています。
たとえば初回申し込みの企業がリクルートダイレクトスカウトを利用してプロジェクトの統括を任せるための候補者人材や高スキル人材を一名採用する場合を考えます。
初回申し込みの企業はデータベース利用料が無料になるため、外部コストとしては入社時課金の120万円~150万円となります。
それに対して、人事担当者(人件費の条件は同じ)が求職者へのスカウト対応、事業者や配属先部門の人間との調整、求職者との面談に40時間を費やし、配属先部門の責任者(人件費の条件は同じ)が求職者との面談や人事部門との調整に5時間を費やした場合の採用コストの計算は、以下の通りになります。
求人媒体への掲載の場合の採用コスト
求人媒体への掲載で求人を行う場合、一般的には、求人媒体への掲載料が外部コストとなり、求職者の応募対応や関係者との調整、求職者との面談などに関わる人件費が内部コストとなります。
たとえばリクナビNEXTの場合、地域を限定せず、300文字以内のメッセージと800文字以内の募集原稿、従業員1名のインタビュー記事の掲載と画像を3枚まで使用できる二番目に安いコースで4週間掲載する場合、35万円の掲載料が発生します。
これに関して、リクナビNEXTの前述したコースを利用してプロジェクトの統括を任せるための候補者人材や高スキル人材を一名採用する場合、人事担当者(人件費の条件は同じ)が求職者からの応募対応、人材紹介業者や配属先部門の人間との調整、求職者との面談に30時間の時間を費やし、配属先部門の責任者(人件費の条件は同じ)が求職者との面談や人事部門との調整に5時間を費やした場合の採用コストの計算は、以下の通りになります。
求人方法を選択する場合は、採用したい人材がどの程度登録しているのか、採用したい人材の採用実績がどの程度あるのかなどを充分に精査したうえで、予算の範囲内で最適な方法を決定する必要があります。
エンジニアの採用コストが高い理由
IT系を中心としたエンジニアの採用コストが高くなる理由は、企業間でのIT人材の奪い合いが生じているからです。
IT人材への需要の高まりとIT人材不足
IoTやAI、ビッグデータに代表されるように、世の中のIT技術の進展が加速しています。IT技術の進展によって最新のIT技術に対応できる人材を確保しようとする企業の数も増加しています。
しかし労働生産人口減少や社会全体の高齢化を背景に、IT人材の数が伸び悩み、高齢化が進んでいます。そのため構造的なIT人材不足が生じている状況です。
経済産業省の試算では、2030年に、最大79万人のIT人材不足が見込まれるという結果が生じています。
出典:経済産業省「IT人材受給に関する調査(概要)」2019年
IT技術関連職の有効求人倍率は高い
企業間でのIT人材の奪い合いが生じていることは、有効求人倍率にも表れています。東京ハローワークが2017年4月以降毎月公表している「職業別有効求人・求職状況」の2023年5月度の調査結果を見ますと、全職種の有効求人倍率は1.43となっています。これは、求職者1名につき1.43件の求人案件があるということを表しています。一方、IT技術関連職の有効求人倍率は3.01であり、全職種の倍以上の数値となっています。
IT技術関連職の雇用市場に関しては完全な売り手市場となってしまっていることが、採用コストが高くなる最大の原因です。
出典:東京ハローワーク「職種別有効求人・求職状況/2023年5月度結果)」
エンジニアの採用コストを抑える方法
エンジニアの採用コストを抑えるための方法として、以下のようなことが考えられます。
採用活動の内容や工程を合理化する
人事担当者や配属先部門の人間が採用のために行動する時間、採用活動を行うためのツールや資料などを製作する費用も採用コストに含まれます。
そのため、現在の採用活動の内容や各工程について検証し、費用対効果の低い点に関しては見直しを行う必要があります。こうした見直しを繰り返すことで、採用コストを合理的に抑えることができます。
採用者に求める基準を見直す
優秀な人材を採用したいあまりに採用者に求める基準を高く設定してしまうことは、採用活動期間が長期にわたる場合があり、結果的に採用コストが高くなるリスクがあります。採用活動期間を短縮し、採用コストを合理的に抑えるためには、スキルや経験にとらわれ過ぎず、自社の社風や価値観に合った人材を採用し、いち早く社内で活躍してもらうことが大切です。
経験の浅い若手エンジニアを採用する
経験の浅い若手エンジニアは、経験の豊富な中堅・ベテランエンジニアよりも採用しやすい傾向にあります。もちろん経験が浅い分、学習する機会を提供する必要があります。しかし、入社後に業務を通じて経験を深めてもらう環境を整備することで、採用活動期間が短くなり、採用コストを合理的に抑えることができます。
派遣従業員やフリーランスを活用する
プロジェクトの作業工程を見直すことで、自社が直接雇用するエンジニア以外のリソースを使った作業が可能になる場合があります。派遣従業員を活用する場合、企業が一から採用活動を行う必要はないため、採用コストを抑えることができます。また、フリーランスもクラウドソーシングサイトなどを利用して募集を行うことができるため、採用コストを抑えることができます。
既存のエンジニアの定着性を高める
既存のエンジニアの離職を防止することで、新たな採用コストの発生を抑えることができます。そのためには、人事評価制度の見直し、資格取得の支援、ハラスメント対策の徹底、福利厚生の充実化などを行うことが効果的です。
無料・低コストでエンジニアを採用できる3つの手法
無料もしくは低コストでエンジニアを採用することに関して、以下のような方法が考えられます。
リファラル採用
外部コストが発生しない採用方法として、リファラル採用があります。リファラル採用とは、従業員に友人や知人を紹介してもらう形で採用する方法です。出身校が同じ場合や、同じ職場での就業経験がある場合などに、紹介してもらえるケースがあります。
※リファラル採用に関しては、以下の記事をご参照ください
リファラル採用が失敗する、ありがちな理由。成功させるポイントを紹介
SNS採用
SNS採用も、低コストで採用できる方法です。自社のアカウントを通じて業務内容や働き方、労働条件、求める人材要件などを発信します。直接アクセスしてきた人材を採用する場合、外部コストは発生しません。SNSに関しては、広告を利用した募集を行う方法もあります。SNS広告は、広告のクリック回数に応じた課金や一定回数表示されるごとに発生する課金などがありますが、総額数万円から十数万円程度に収まることが一般的です。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、求職者に対して直接スカウトメールを送付して、合意した人材を採用する方法です。スカウトを行うために外部の媒体を利用する必要がありますが、ダイレクトソーシングといったような数十万円程度の月額料金のみで利用できる媒体もあるため、早期に採用が実現した場合は外部コストを安く抑えることができます。なお、スカウト人材とやり取りをするための内部コストが発生することに注意する必要があります。
世の中全体のIT化の進展や現役で活躍できるIT人材の不足などから需要と供給のバランスを考えた場合、今後もエンジニアの採用コストが高い状況が続いていくことが想定されます。そのため、IT人材を中心としたエンジニアを採用する企業は、費用対効果の高い採用方法を常に考えながら採用活動を行う必要があります。こうした変化に対応していくためにも、自社の採用活動の見直しを繰り返し、活動内容をアップデートしていくよう心がけましょう。