異業種転職の実態調査
商社、メーカー、金融・保険、IT企業、サービス業…。あらゆる業種において、異業種からの転職者を多く受け入れているのはどのような業種なのでしょうか。また、異業種への転職を遂げたのはどのような人たちなのでしょうか。直近1年以内に転職した329人(調査概要 調査1)に対して、転職先の業種や転職先での職種、職種内容の変化、実際に異業種に転職してみて困ったことなどを聞いてみました。
全体的に異業種転職した人の割合は、約48%でした。業種別に見ると、最も異業種転職者が多いのは「商社」(80.0%)。次いで「人材業界」(77.8%)、「小売・卸売・サービス業界」(75.0%)、「機械・電気業界」(64.1%)、「旅行・エンタメ業界」(63.6%)、「物流・運輸業界」(62.5%)は60%を超えており、異業種転職者が多いという結果が出ました。
異業種に転職した人の職種別では、最も多かったのは「営業・販売・カスタマーサービス」(62.1%)、次いで「SE・ITエンジニア」(61.9%)でした。さらに、「エンジニア(設計・生産技術・品質管理)」(58.3%)、「金融専門職」(57.1%)が55%を超える多さとなりました。
転職者前の業種と転職後の業種変化では、最も多い異業種転職先は「インフラ・官公庁・その他」(19.0)、次いで「医療・福祉業界」(18.0%)、「機械・電気業界」(11.6%)、「小売・卸売・サービス業界」(11.0%)となりました。
最も異業種転職者を受け入れていた業種は「インフラ・官公庁・その他」(14.4%)、次いで「機械・電気業界」(13.0%)、「小売・卸売・サービス業界」(11.6%)、「銀行・証券業界/信金・組合業界/クレジット・信販・リース/保険・損保業界」「医療・医薬業界」(10.6%)でした。
また、「医療・福祉業界」と「金融・保険業界」では、他業種と比較して異業種転職者が少ないという結果が出ており、専門スキルを活かした同業種転職をしている人が多いということもわかりました。
また、異業種転職をする際の困りごとは、転職前は「自分に合った仕事がわからなかった」(14.8%)、「自分のアピールポイントがわからなかった」(12.4%)「自分のやりたいことがわからなかった」(11.8%)がトップ3を占めました。転職後では「業務に慣れるまでに時間がかかった」(19.5%)、次いで「必要な知識の習得が大変だった」(16.6%)といったことに困る人が多いようです。
Table of Contents
1. 異業種転職とは
異業種転職とは、転職前の仕事で積み重ねてきた経験やスキルを活かして、これまでとは異なる業種に転職することを意味します。業種とは事業や営業の種類、それぞれの企業が携わっている分野であり、一般的には、総務省統計局が定めた日本標準産業分類の「産業」に準拠しています。今回は、一部業界と表記している箇所も業種として捉え調査を行っております。
リクルートの転職支援サービス『リクルートエージェント』が2013年度~2022年度の転職決定者を分析した「転職決定者分析」調査によると、「異業種×異職種」への転職が年々増加しています。2022年度には「異業種×異職種」の転職が39.3%と、近年は同業種にこだわらない転職を実現している人が多くなってきました。
●出典:株式会社リクルート「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/1129_12773.html
異業種転職は同業種への転職より難易度が高い可能性があるため、これまでの経験・スキルが目指す業種の企業でどのように貢献できるか、しっかりリサーチして検討・準備した上で転職活動を行うようにしましょう。
異業種転職者の割合
まずは今回の調査対象者(調査概要 調査1)において、異業種に転職した人の割合や異業種転職が多い職種などについてご紹介します。
転職者のうち、異業種転職した人の割合は51.4%、同業種への転職をした人の割合は48.6%という結果となりました。ほぼ半数ずつではありますが、近年の傾向から異業種転職者が増加している傾向があるようです。
どこからどこへ異業種転職?
転職者の転職者前の業種と転職後の業種を見てみると、転職先業種は「インフラ・官公庁・その他」(19.0%)と最も多く、次いで「医療・福祉業界」(18.0%)、「機械・電気業界」(11.6%)、「小売・卸売・サービス業界」(11.0%)が上位を占めました。どの業種でも「インフラ・官公庁・その他」に転職しているが多いようです。
異業種転職が多い業種の転職先業種を見てみると、「人材業界」から「インフラ・官公庁・その他」が33.0%とやはりインフラ・官公庁が最も多いようです。「商社」は「IT・通信業界」「小売・卸売・サービス業界」「インフラ・官公庁・その他」(25.0%)、「機械・電気業界」(16.7%)と、多様な業界からこれまでの知見を活かしてインフラ・官公庁に転職していることがうかがえます。
商社以外にも「マスコミ・広告業界」から「IT・通信業界」「機械・電気業界」「商社」「小売・卸売・サービス業界」「不動産・建設業界」(それぞれ16.7%)と多種多様な業種に転職しているという特徴が見られました。
逆に「インフラ・官公庁・その他」からは、「機械・電気業界」「不動産・建設業界」(10.5%)といった業種に転職している人が多いという結果となりました。
2. 異業種転職が多い職種
続いて、異業種転職が多かった職種を見てみましょう。
最も多かったのは、「営業・販売・カスタマーサービス」(62.1%)、次いで「SE・ITエンジニア」(61.9%)と、60%以上が異業種転職を果たしています。
「エンジニア(設計・生産技術・品質管理)」(58.3%)、「金融専門職」(57.1%)、「建築・土木・設備」(54.5%)、「その他(講師・調理師・介護など)」(52.2%)、「管理・事務」(51.2%)も50%を超える多さで異業種転職をしています。
また、職種で見ても「医療・医薬・化粧品」の異業種転職者は25.6%と30%を切っており、やはり専門スキルを活かした同業種転職をしている人が多い結果となりました。
3. 異業種転職の採用意向が多い業種
今回の調査(調査概要 調査2)では以下の12業種に対し、それぞれ異業種からの転職をどのくらい受け入れているか、その割合を集計しました。
その結果、最も異業種からの転職者を受け入れていた業界は「商社」「インフラ・官公庁・その他」「化学・素材業界」100.0%)、次いで「機械・電気業界」(97.4%)、「物流・運輸業界」(96.0%)、「金融・保険業界」「医療・福祉業界」(93.8%)、「小売・卸売・サービス業界」「人材業界/教育業界」(91.7%)でした。受け入れる企業側も出身業種にこだわらず、様々な業界から採用を行っているようです。
4. 採用担当が異業種転職者に求めるポイントとは
では、企業の採用担当者は異業種から応募者を採用する際に、選考で何を重視しているのでしょうか。採用担当者に聞いた「異業種からの転職者の選考で最も重視すること」(調査概要 調査2)によると、最も多かったのは「コミュニケーション能力」(32.1%)、次いで「協調性・チームワーク」(19.3%)と、人間関係についての能力が上位を占めました。
続いて「社風とのマッチ度」「志望理由」「前職での成果・実績」といった、業務内容に関することよりも人間関係に関する能力が優先されており、ヒューマンスキルが重視されていることがうかがえます。
5. 異業種転職で困ったことは?(転職前と転職後)
異業種転職をする際は、不安になることや困ったことなどもあるでしょう。ここでは、異業種転職を実現した人たちに、どのようなことに困ったのかを聞いてみました。(調査概要 調査1)
転職前
異業種転職者が転職前に困ったことで最も多かったのは、「自分に合った仕事がわからなかった」(14.8%)でした。次いで、「自分のアピールポイントがわからなかった」(12.4%)、「自分のやりたいことがわからなかった」(11.8%)、「職場環境や文化が自分に適しているかわからなかった」(11.2%)、「何から始めたらよいかわからなかった」(10.1%)と、転職先で自分がどうしたらいいかわからず、悩んだことが多かったようです。
また、「経験やスキル・資格が不足していた」(10.4%)と、求められる経験・スキルに自身が達していないのではないかと悩んだ人も少なくないようです。
最も高い困りごとのスコアが14.8%であり、ほとんどの項目が10~5%くらいとなっていることから、人によって異業種転職の困りごとは異なっていることがわかります。
転職後
異業種転職者が転職後に困ったことで最も多かったのは、「業務に慣れるまでに時間がかかった」(19.5%)、次いで「必要な知識の習得が大変だった」(16.6%)、「教育制度やサポート体制が不十分だった」(12.4%)、「業務の負担やプレッシャーが予想以上だった」(11.8%)、「業務やプロセスが理解しにくかった」(11.2%)、「新しい技術やツールの習得が大変だった」(10.1%)と、仕事内容についての困りごとが上位を占めました。異業種の仕事を習得し、慣れていくまではやはり時間がかかることも多いことがうかがえます。
また、「社風や職場の雰囲気が合わなかった」(11.8%)、「同僚のフォローが不十分だった」(11.2%)、「職場に馴染めなかった」(10.1%)と、転職先の職場における人間関係でうまくいっていないという困りごとも多いようです。
このように転職後の困りごとも分散しており、人によって異なってことがわかります。自分に合った仕事のやり方などを考えながら、焦らず慣れていくことも必要だと考えられます。
6. 異業種への転職を成功させるコツ
異業種転職を成功させるためには、なぜその業種に転職したいのか、その理由を明確にすることが重要です。ここでは転職理由の整理の仕方について紹介します。
なぜ異業種に転職したいのかを整理する
まず、そもそもなぜ「異業種・異業界に転職したいのか」を考え、転職理由として伝えられるように整理することが大切です。その業界で働きたいと考えるようになったきっかけや想い、そのために情報収集や学習していることなどを伝えられるように準備しましょう。
自身の経験・スキルが異業種で活かせるか
現在の仕事で培ってきた経験・スキルを異業種でどう活かせるのかといった根拠や、希望する業種で求められている経験・スキルが何かといったことをリサーチしてみましょう。
希望する業種の企業が抱えている課題解決に向けて、どのような貢献ができるのか、具体的にイメージできる提案やこれまで達成してきた成果などを挙げながら、わかりやすく伝えることも効果的です。
キャリアアドバイザーの声
初めに求職者とお話しする際、異業種へ転職をしたいと伝えてくる求職者は非常に多いです。「成長業種に転職したい」「ワークライフバランスのために土日休みである業種に転職したい」といったお話はよく聞きます。ただし転職動機を深ぼってみたり転職活動を進めたりしていく中で、結果的として本当に異業種へ転職する方や自分の経験・スキルを活かせる同業種を選んで転職する方は、様々存在しています。
私たちが求職者の方々にお伝えしているのは、「自分が絶対にこの仕事がやりたいというど真ん中の希望軸を決めること」「自身の経験・スキルが活かせること」「未経験業種に転職したい場合は、まず経験・スキルが身につけること」の3つです。自分が本当にやりたい仕事で、経験・スキルを活かせること、さらにそれを企業が求めていることが重要です。
異業種への転職というキャリアチェンジで一番肝なのは、面接官側が聞きたいと考えていること、すなわち「候補者を採用することでどんなメリットがあるのか」を伝えることです。従って面接では、企業に役立つ強みを伝えるようにしましょう。
また求職者の悩みでよく聞くのは、「自分のやりたいことがわからなかった」ということ。この「自分のやりたいことがわからなかった」という概念は、ここ10年ぐらいに出てきた概念なので、「やりたいことをやらなきゃいけない」という呪縛にとらわれすぎることはありません。自分の強みを活かして生き生きと働けることを考えて、転職先を探すといいでしょう。
解説
異業種や異職種への転職、いわゆる越境転職が増加しています。背景にあるのは転職市場の構造的な変化で、特徴は大きく2点あります。
一つは、全ての産業・企業がビジネスの在り方を変革するIX、CX、GX、DX(*)の動きです。全ての産業が、自らの事業を再定義する時代。それに呼応して、社内には居ない異業種・異職種の人材を積極的に中途採用しているのです。そして、もう一つの背景は、個人のキャリア観の変容です。人生100年時代を生きる働き手は、企業寿命と個人寿命の逆転で、一社で働き続ける「終身雇用」よりも、自分の望む働き方に合わせて自由自在に会社を移動する傾向を望み出しています。この傾向を私は「終身自在」と呼んでいます。これまでの業種や職種にとらわれず、自らの成長機会を提供してくれる成長産業や企業に越境し出しているのです。
今後、企業は、即戦力人材の定義を見直すと同時に、業種・職種経験の有無に左右されていた採用基準も、より粒度の細かい、適応スキルや汎用スキルの評価へと再定義を余儀なくされるでしょう。
個人も、前職の業種・職種にとらわれず、より広い選択肢で才能開花の機会を求めるためにも、自らのスキルの棚卸しをし、業種・職種を越えて持ち運べるポータブルスキルを整理することが重要になります。
転職市場の変化の時代こそ、企業も個人も、新たな採用戦略、新たなキャリア戦略が求められています。
調査概要
調査1
【調査方法】インターネットによるアンケート調査
【調査対象】20歳〜59歳の男女のうち、過去1年以内に転職経験がある正社員
【調査期間】2024年1月30日〜2024年2月2日
【有効回答数】329名
調査2
【調査方法】インターネットによるアンケート調査
【調査対象】20歳〜69歳の男女のうち、過去1年以内に中途採用関与経験がある正社員
【調査期間】2024年1月31日〜2024年2月5日
【有効回答数】305名
※ ランキングは、調査結果でサンプル数が一定の数を満たしている業種・職種のみ算出対象としております
※一般的に、業種は事業や営業の種類、それぞれの企業が携わっている分野であり、総務省統計局が定めた日本標準産業分類の「産業」に準拠しています。ただし今回は、一部業界と表記している箇所も業種として捉え調査を行っております。